朝食時。私は唐突に話を切り出した。
「なんで聖杯の器って金を使ったのかしらね?」
そう言って、私は虚数空間にしまって置いた昨日作製した器を出す。
「金が使い易いんじゃないか?僕はその辺余り詳しく無いんだ。所でそれは何だい?」
切嗣が少し引き攣った顔をして私の持つ金の器に目を向けた。今の話題で何となく察しがついても良いと思うのだけれど。
「これ?アイリから摘出した聖杯よ?全く、せめて何処かに固めなさいよ。全身から一片、一片取り出して私の人造細胞と置換した苦労を知って欲しいわ」
二人が静止し、食器を床に落とした。まぁその反応分からないことも無い。別れを決意していたのに急に「その話無しで」と言われたのだ。
「ついでに言えば、アイリ多分外的要因以外で死なないわよ?ホムンクルスですもの」
切嗣が完全に思考停止したのか目が空を仰ぎだした。
「あとついでに聖杯戦争で攻撃を受けても良い様に自立防御を刻印に刻みこんでおいたわ」
二人が退室した。少し情報量が多すぎたかもしれない。せめて、二分割して話すべきだった。因みにイリヤちゃんも二人が居なくなって混乱しているが「すぐに戻って来るから大丈夫じゃないと思うわ」と言うと収まった。混乱してるイリヤちゃん可愛いなあ。
「話を整理しよう。昨日、僕とアイリが寝ている所に入り込んで、アイリから小聖杯を摘出した。そして、戦闘に巻き込まれたら不安と対ロードレベルの自立防御と対災害用の自立防御を魔術刻印で施した」
「ええ。まぁ、そうなるわね」
衛宮夫婦とセイバーと私の四人は私と私以外が対面する形で食堂の長机に座っていた。
「それを一人で行った」
「ええ。アイリが使える術の系統に合わせて作った分少し時間が掛かったわ」
私みたいに何でも使用可能なら良いが、錬金術に特化していた分かなり面倒臭かった。うちの子達なら属性や分野に合わせて色々組んでいたが錬金術一辺倒と言うのは存外面倒な物だ。
「僕の存在意義が無くなって来た気がする」
切嗣が頭を机に付けた。楽でいい事だと私は思うのだけど。一応、魔術師殺しとして雇われた以上、他の人間に活躍されるのは沽券に関わるのだろうか?
「存在意義ならあるわよ?切嗣が居なければきっと私はここに来ないわ。切嗣が私を呼び寄せた様な物だし」
正直、切嗣が海の家とかやっていたらそっちに行っていた。私に取っての優先事項は切嗣とナタリアであり、それ以外はあくまでも優先事項がどれ程高くても、二人の一個前。
「多分、今まで最大級の戦力で今回は挑むことになりそうね」
まぁ、その通りだろう。私が知る限り、私と同等のホムンクルスを鋳造した形跡も無ければ、呼び出されたサーヴァントは向こうで抑止力が嗾けた者には及ばない。
「私も色々と小道具を作るから工房に籠るわ。昨日までとは比にならない程危険だから入らない様にしてね?正直あの工房私以外に扱える自信無いし」
私はそのまま置換魔術による入れ替えの空間転移で部屋に帰った。
白い箱に惨めな羽蟲が1匹。その羽蟲に赤い聖痕は未だ見受けられない。
「蟲、何故令呪が宿らないのかしら?」
「……分からぬ。恐らく、今回間桐の家に令呪は宿らない」
「何故かしら?御三家は優先的に令呪を貰えるのでしょう?アインツベルンにだけ令呪が宿っているのはおかしいわ」
「……何分わしは今回聖杯戦争に参加する気は無い。その上、今間桐の家にマスターになることが出来る奴が居らん。恐らく外様に取られるだろう」
これは誤算ね。これで排除するマスターの数が増えてしまった。所詮、魔術師。私にとっての天敵と成り得ることは無い。可能性はほぼ零に近いがキャスタークラスだけが不安だ。向こうではジル・ド・レェと言う取るに足らないサーヴァントだったが、万が一抑止力がソロモン王を誘発し召喚されれば勝つのはかなり難しい。
「……そうなら。もう用済みね」
私は白い箱を地面に置いた。その白い箱の内側に黒い極小の球体が発生した。その球体は光さえ吸い込んでいた。
「小娘貴様何をする」
その球体は徐々に巨大化する。その球体は蟲に詰め寄る。
「バイバイ。五百年を生きた魔術師さん」
黒い球は白い壁にぶつかる寸前に消滅した。
後は待つだけね。戦いが始まる時を。
今回はかなり短めとなります。これにて前日編は終了となります。次回より本編です。少し投稿ペースは遅くなるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします