ごめんなさい。皆
ごめんなさい。先生
ごめんなさい。切嗣
罪の償い方
ついにこの日はやって来た。私は切嗣に別行動を取りたいと言う旨を伝え、和風の屋敷に来て思った。
「汚い」
埃が余りにも多過ぎる。いくら予備の家とは言え、場合によってはこれにアイリを住ませるのか?流石に理解出来ない。
と思い半袖短パンに着替えて屋敷を掃除したのは良いものの疲れた。今は居間で寝ているが、正直もう眠い。一応、感知されて警戒されても面倒なので、魔術は大方落としている。このあと夜はサーヴァントが大量にコンテナに集まるのよね……。個人的には三体位落としたいかしら。
と言うか
「そろそろね」
そう言って私は居間の畳から立ち上がり、明るく銀色に光る万能包丁を投影した。勿論、今から料理をする為に出したと言う訳では無い。魔術に耐えられる様に少し改造はしてある。そして、深呼吸してとある一軒家と自分の空間を置換した。
目の前には大柄の男とチャラめの白のシャツに紫の上着を着た男。私は剣を、大男の心臓に差し込んだ。
「
万能包丁を手から離した。悲鳴を挙げる間も無く、大柄の男は倒れた。一応本来この錬金術はこんなことが出来る訳では無いのだが、霊核と密接に繋がりのある部分を破壊されたこともあって呆気なく死んだ。敢えて彼に縁のある物で殺したみたが、彼は気付いただろうか?
「旦那?」
呆気に取られている男に向かって私は目を向けた。すると男は虚空を向き何かをボヤき始めた。幻術を見せている間に私は男に落ちていたナイフを握らせて肝臓を自分の手で刺すように命じた。心此処に非ずの男はその命令に従い、自らの肝臓に包丁を刺して倒れた。死ぬ前に私は男の右手から令呪を魔術回路ごと抜き取った。そして、令呪を私の右手に移植した。
『もしもし、切嗣?』
『なんだヌル?』
『切嗣私少しやりたいことがあるの?』
『なんだい?』
切嗣が嫌な予感を感じたのか半ば引き攣る声でこちらに問いを投げる。
『私がキャスターを演じても良いかしら?』
『それなら、先ずはキャスターを始末して───』
『おいたわ』
『……分かった。アイリに連絡を入れておく』
『セイバーには、私は間桐で召喚されたはぐれのキャスターだったとでも言っておいて。多分、騙し討ちとかは賛成しないでしょうし』
私は再び置換魔術による空間転移で居間に戻った。冷静に考えると失敗だったかも知れない。マスター役を探さなければいけないのでは無いか……。
私は自分の発言に後悔しながら、居間に置いてあった黒のジャージスカートとキャスケット帽子に白いTシャツの上黒のジャージに着替えてから廊下を左に二回曲がった所にある玄関で靴を履き出掛けた。
人がこちらによく目を向ける。魔眼は一応、普段は封印してあるから作用することは無い筈だ。私の両目にはそれぞれ異なる魔眼がある。右目が魅了の魔眼で発動条件が「私又は相手のどちらかがどちらかを視認すること」とかなり広範囲。
それ抜きにしても人が寄って来るのが少し面倒ではあるが、子供なら大歓迎。ただしロリコン、お前らは駄目だ。
アレンとかも来ていたらマスター役を任せていたのに……。今からマスター探しは面倒臭いが、万が一令呪を手に付けたままにして戦いになって隠蔽魔術が剥がれてしまっては困る。
『ヌル。嬉しいお知らせだよ』
頭に響く大人しいが何処かに悲しさを漂わす優しい穏やかな大体二十代半ば位であろう男の声。
『何かしら?』
『例の言っていたシャーレイと言う少女らしき存在を確認したよ』
『分かったわ。精神は?場所は?』
『まだ心は生きているね。死徒の実験場の檻の中だね』
その言葉を聞くと同時に大量の情報が頭に流れ込む。空の色、知らない人間の悲鳴、知らない街の雑音、森の木々が揺れる音、実験具の数々。あとは研究員と見られる魔術師。他にも正確には分からない情報が圧縮され私に流れ込む。
一瞬酷い頭痛がしたが、私はその頭痛が止むと同時にその情報から想定される場所と空間を置換した。
目の前には檻に入れられた褐色の過ぎ去った夏の夢のままの姿をした少女。
「元気かしら?」
特に返事は無い。まるでただの屍の様だ。
『おっとすまない。シャーレイは今体をその状態で固定されている。実験していた死徒が事故で死ぬ前に固定したらしい。何でも動くと普通の死徒に戻るかららしい』
と言うことはそれからずっとこのまま一人でここに居たのか。死の救いを受けることも無く、一人誰も居ないこの暗い地下の実験室に。残酷な話だ。私は余りの怒りにさえ腸が煮えくり返ってしまった。
私は檻を理導/開通で檻を破壊し、虚数空間から毛布を取り出した毛布を被せ、その少女に触れた。
もう苦しむことは無いわ。もう直、貴方はこの呪縛から解放される。
体に記憶が流れ込む。それは残酷と形容しざるおえない日々、毎日実験され、生きた人間を檻に入れられた。その人間に化け物と罵られた。それでも実験は止まらない。肉を裂かれ、薬を打たれ、ただただ
そしてようやく見つけた。彼女が人間だった時の記憶。
私はその感覚を保ち、記憶の遡行を停止する。
「我望み給う。外の在るべきを在らずとし、内の在るべきとし、世を塗り替え給う」
少女の体は光包まれる。僅かに溢れる光の粉は天へと舞った。私に時間遡行の様な魔法は使えない。だからこれは、
この魔術の欠点は三つある。
一つ目は膨大な魔力を消費すること。そこら辺の魔術師なら千人集めてようやくといった所だろう。だが、これは私にとっては問題になり得ない。その為実質無いと考えて構わないだろう。
二つ目はこれは私の起源が干渉していること。その為、継承は不可能に近い。勿論、全く同じ起源、それに近い起源を持つ者には再現は可能かもしれない。
三つ目はこれはあくまでも塗り替えの魔術であると言うこと。今回はシャーレイが生きていた。だからこそ人に戻せたが、この魔術は結局の所“そこにあるモノを塗り替える”魔術。故に、魂が既にこの世に存在しないナタリアを蘇生することどちらの世界でも叶わなかった。
大量の光が空へと昇った頃、少女の体は光から解き放たれていた。
「人間に戻った感想はどう?」
「……もう引き返せないよ」
少女は嗚咽を漏らし泣いていた。その目は悲しみと言うよりは後悔の色をしていた。心の優しい彼女の事だ。恐らく、故郷の島民の死や、実験中に噛み殺した人間達に関しての責任を感じているのだろう。
「それは貴方が殺した人についてかしら?」
彼女は嗚咽こそあるが無言で首を縦に振り肯定した。やはりそうらしい。きっと、この少女はその十字架を死ぬまで背負おうとするのだろう。裁きを求め続けるだろう。きっと死を選ぶだろう。
「私はね。殺した人間は生きた人間の分苦しんで罪を償うべきだと思うの」
これは綺麗事かもしれない。いや、これは綺麗事だ。私が嫌いな綺麗事だ。シャーレイと言う一人の少女を騙し、酔わせこの世に留まらせる為の綺麗事だ。でも、私ももう引き返せない。綺麗事を言うのならせめてその人の人生を死ぬまで背負う責任を負うべきだ。
「きっと皆私の事を恨んでる」
「そうね。確かに居ないとは言わないわ。恐らく一人二人は居るでしょうね」
「だったら、ここで死──」
私は全力でシャーレイの頬を叩いた。魔術の補助は無い私の手の平は音を立てた。手が痛い。きっと赤くなっているだろう。だが、ここで止めてはならない。
「自殺なんてその責任から逃れるだけの愚行でただの自己満足で償いなんかにはなりはしないわ」
「じゃあ!」
シャーレイは起き上がり、大声を挙げた。まだ人に戻って体は動きに筈だ。それでも彼女は大声を挙げた。
「私の罪はどうすればいいの?!私は人を殺したの皆を殺したの!私が皆を───」
私は再びシャーレイの頬を叩いた。今度は左手で。
「勝手に罪を増やさないで!良い?貴方が殺したのはここで貴方が食べた子供達と、貴方が噛んだ人間だけ。その後に噛んだ人間が殺した人間はその人の罪よ!勝手に人の罪を奪わないで!そんなのはただの傲慢よ」
私とシャーレイは肩で息をする。他人の罪を奪い取るなんて言うのはあまりにも傲慢な事だ。罪というのはその者に付く枷であり、決して他人に背負うことは出来ない。他人の罪を背負うと言うのはただの傲慢な自己満足だ。
「貴方に少しでも罪を償う意識があるなら生きなさい!生きて明日を見て、一生殺した人の顔を、その罪を忘れずに生きなさい。それが私が知る償いよ」
少女は沈黙した。もう私に言えることは何も無い。これでも彼女が死を選ぶと言うのなら、私はそれを受け入れよう。決して許すことは無く、ただの傲慢な一人の少女として記憶し続けよう。
「……本当に私は生きて良いの?」
シャーレイはさっきの勢いは何処へやら、消えそうな声で呟いた。
「当たり前よ。誰だって生きる権利位あるわよ?」
私は手をシャーレイに差し伸ばす。
「生きるのなら私の手を取りなさい」
シャーレイは震えながらその手を取った。
「じゃあ、早速で悪いのだけど?」
「服を着てくれないかしら?」
そうすると彼女はどうやら自らの状況を再認識したらしく、涙に濡れた顔を赤くしていた。
まぁ、毛布を被せたのに思い切り起き上がった為に、今は何も無いのだ。死徒からしたら実験動物である彼女に服など与える訳が無い。さっき記憶を見た時に知ったが、服は風化して無くなったらしい。二十年もあれば充分な期間ではあっただろう。
私は投影であの日の白い服と適当な上下の下着を投影した。そして、それをシャーレイに投げ渡した。
「これでどう?」
私は敢えてこの服にした。シャーレイと言う少女は罪に穢れても、その心は穢れることは無い。あの日のままの少女であると言う意味も込めて。
シャーレイは着替えを始めた。
「何処か行きたい所はあるかしら?」
「多分、私が殺しちゃった子達の死体が何処かに有るの。せめて、その子達にだけでも謝りたい」
「分かったわ」
私は魔力をこの研究所全体に流した。案外近くで隣の部屋に白骨死体が見つかった。
「この隣の部屋ね。服を着てから行きましょう?」
シャーレイが着替えたから私は鉄の扉を理導/開通でドアを破壊した。
「所で、何で私暗いのに見えてるの?」
「あぁ、それは多分死徒の時の力をある程度残して置いたのよ。完全に戻すと貴方が抑止力にずっと目を付けられることになるし」
「抑止力?」
「まぁ、この場合に絞って言うなら分かり易く言えば魔術を否定する存在かしら。完全に戻すと異常としてそれを抹消しに来るの」
私からすればそよ風程度だが、シャーレイが抑止力に勝てるとは思えない。なので、完全には戻さず少し死徒としての能力を残しておいた。
大体割合としては七:三と言った所だろうか。ほぼ人間だから吸血衝動に悩まされることは無いだろう。あと大体の弱点も激痛なり少しキツい程度に済む筈だ。
「消されたいと思う?」
「まさか、ちゃんと生きて罪を償うよ」
「いい答えよ」
そして、私達は隣の部屋に向かった。扉は幸い開いていた。
「私はここで待っているわ」
私はその部屋に入らなかった。
「何で?」
「これは貴方の問題でしょう?そこに部外者が入るのはおかしな話でしょう?」
そういうと「ここまで掻き乱したのに」と少し文句らしき何かを言い、部屋に入っていた。
そこから大体二時間位してからだろうか。彼女が出てきたのは。
彼女の瞳はさっきより鮮明に未来を捉えていて、美しく輝いていた。
そして、私は再び空間を置換した。
「どうしようかな?私多分死んだことになってるよね?」
「えぇ。表向きにはアリマゴ島の大火災と言う事件で死んだことになっているわね」
魔術協会と聖堂教会が完全に抹消した分、その隠蔽工作は完璧で完全に死んだことになっている。
「この先、私どうしようかな」
「そうね。一先ずは、───私のマスターにでもならない?」
「何それ?」
シャーレイが訝しげな目でこちらを見る。知らなくて当然だろう。
「この後、いや今、聖杯戦争って言うのがあるのだけど、私サーヴァントのフリして出たいからマスター役を探していたの」
「分かった。それを受けるよ」
「良いの?戦争ってことは人殺しよ?」
「出来れば殺したくないけど、だって君に助けて貰った恩があるし」
「ありがとう。じゃあ、これを受け取って」
私は右手の甲をシャーレイの左手の甲に当て令呪を移植した。
「貴方はまぁ、私のマスターと思っていてくれたら良いから。任せたわよ?お姉ちゃん?」
「えっ?!お姉ちゃん?!」
「だって年上だし、誤魔化し易いでしょう?」
シャーレイは少しそっぽを向いて何か独り言を呟いている。
「私……妹に励まされたの?」
「そうなるわね」
その後シャーレイは「うー」やら「あー」呻いていたが、立て直してこちらに質問を投げて来た。
「所で名前は?私、君の名前聞いてない」
「私?確かに名乗って無かったわね。私はヌル・ハルモニア。宜しくね?シャーレイお姉ちゃん?」
そう言って私は笑い掛けた。どうかこの少女に幸せな未来が待っています様に。
お久しぶりです。リアルが立て込み執筆時間が取れずかなり間が空いてしまいました。どうも柚原です。今後も中々投稿出来ない日々が続くかもしれませんが、どうか楽しんで頂けると幸いです。
※因みに劇中のスカーレットは某人形師とは関係無いです
シャーレイお姉ちゃんの懺悔シーン見たいですか?個人的には少し重すぎて書ける気がしなかったので今回はカットしました
-
必要
-
不要