「あら?起きたかしらバーサーカー」
そこには黄色がかった白色に、深海の様な深い青い目と対比的な日光を押し固めた様な黄色の目をしたオッドアイをした黒いバスローブを着た少女がそこに居た。私は床の上で布を被せられていた。
「狂化は邪魔だし取っ払ったわ。ああ、凛なら大丈夫よ?貴方のマスターは彼女には無理だったから私が継いだわ」
確かに、先程から思考が余りにも明瞭だった。それはそういう理由だったのか。
「少女よ。質問だ」
「何?バーサーカー?」
私は少女を凝視する。
「その言葉は誠か?」
「えぇ。誠よ。あと忠誠とか敬語とか堅苦しいのは私には禁止よ?」
特に嘘をついている様には見えない。良かった、私は罪の無い少女を殺さずに済んだのだ。
「しかし、それでは───」
「令呪を以て───」
彼女の右手の甲が赤く光り始めた。これは令呪を使用する兆候!
「分かりました。分かったから令呪を止めて」
赤い光りは止まった。そして、少女は何処か陽気にに笑った。
「早速、仕事よ。嘘つきを狩りましょう?」
そう言って、少女は私の手を取った。
時臣は絶望していた。自らのサーヴァントが討たれたのだ。彼に残されたサーヴァントはもはや言峰の持つハサンのみとなった。正直勝ち目は絶望的に低い。今分かっているだけでもセイバーのアルトリア・ペンドラゴン、ランサーのディルムッド・オディナ、ライダーのイスカンダル、この内二つが絶望的と言える要因だろう。
セイバーの持つ宝具は恐らく知名度等もある点から対軍宝具の様な物と考えても何一つ可笑しく無い。それ無しにしてもアヴァロンの鞘。アレがある限りセイバーは不死身の可能性も考えられる。
英霊は生前に持っていた武具や逸話を昇華して宝具へと至らしめる。彼の王に不死身の肉体を与えた鞘。宝具として持っていても何の不思議は無い。
予定では王の持つ無数の宝具を持ってすれば鞘の破壊も叶うだろうと考えていた。他にも、彼の王の宝具には対城宝具位なら易々と防ぐ盾もあっただろう。
彼女の持つエクスカリバー。宝具と言う以上何かしらの能力を持つ筈だ。サクソン人四百七十人を一人で討ったことから対軍宝具か、それとも鉄を木の様に切った逸話から絶対切断の概念が付与された剣か。とも考えたがランサーの槍で受け止めていた辺りその可能性は無い。勿論、彼のランサーが持つ槍が何ら絶対切断の概念に対抗し得る力を持つ槍ならば話は別だが。
そして、あれの後ろには衛宮切嗣が居る可能性がある。あの愚か者がやることは容易く魔術師の予想を超える。先に私が衛宮切嗣に殺される。その可能性が無いとも言えない。
とにかく、アインツベルンを警戒するに越したことは無い。
そして、ライダー。あれはセイバーと違いマスターは卑小の魔術師、マスターで警戒する必要は低いだろう。彼は三代しか続いていない魔術師の家系。彼自身に警戒するよりはライダーに警戒するべきだろう。彼のライダーは征服王イスカンダル。かつてこの世界を征服しかけた正真正銘征服者の王。
英霊の宝具は一つとは限らない。複数の宝具を持つ英霊自体が居るには居る。今までの聖杯戦争にも居たと記録されている。彼ほどの英霊となれば複数の宝具を持っていても何の不思議は無い。
「綺礼。英雄王を討った英霊について分かることは無いか?」
「残念ながら偵察に置いていたアサシンが正体不明の投擲により撃退された以降、情報はありません。あと、アサシンが二十八体バーサーカーとそのマスターと思わしき女児によって討たれました」
「何だと?!」
何故バーサーカーがアサシンを?バーサーカーにアサシンの存在が把握出来る訳が無い。となると、バーサーカーのマスターがそれなりに優秀と見た。アサシンを捕捉出来たと言うことは気配遮断を無視する何らかの手がある筈だ。ん?待てよ。今女児と言わなかったか?綺礼にも間違いがあるだろう。それか私の聞き間違いだ。全く娘への愛が深いのも考え物だな。
「あと、例の空の個体との接続が切れました」
「……撃退されたのではなく?」
「突然現れた黒いパーカーを着た小学生程度の女が触れると同時に接続が切れました。その後、好機と思い令呪でそのバーサーカーのマスターを殺す様に命じましたが、令呪は発動しませんでした」
全く理解出来ない。どういうことだ?私は何を聞かされているのだ。小学生程度の女がアサシンを撃退?パスを切った?相手は時計塔のロードかキャスターなのか?
いや、キャスターがサーヴァントを取るなんてことは有り得ない。サーヴァントがサーヴァントを従えるのは不可能の筈だ。それにメリットが無い。あのハサンは何の取り柄も無い空の人格の筈だ。それに余分な魔力を割く必要が無い。となると考えられるのは人質か?なら失敗したな。私達にアレを助けるメリットは無い。
否、魔術を用いてサーヴァントの本体を討つ気か?だとしたら不味い。一刻も早くマスターを撃退、又は抜け道を探さなければ。
「バーサーカーのマスターはどうやってハサンを撃退していた」
「撃退されたハサンの内の一人によると剣を持っていたとのことです」
「分かった。そのバーサーカーのマスターをどうにかしなければならない。綺礼何か策はあるか?」
「残念ながら未熟な私には特にありません」
「そうか。恐らく、まだアサシンの存在にはバーサーカーのマスター以外に───」
「話し合いをしている所申し訳無いが、契約することは可能か?」
後ろから聞こえる第三者の声。聞こえたのは蓄音機からでは無く私の後ろから。振り返るとそこには赤い外套を着た長身の褐色の男。髪は疲弊しきった様な白色をしていた。
「誰だ!」
「師よ!」
「何、私はアーチャーのサーヴァントだ。強いて言うなら本来のアーチャーの残骸から召喚された物とでも思って欲しい」
「英雄王とは随分と姿が違って見えるが、説明して貰えないか?あと綺礼。暫く黙っていてくれ」
相手はサーヴァント。私の様な魔術師が勝てる相手では無い。このサーヴァントに対しての令呪の拘束も無い以上、彼を刺激してはいけない。刺激と同時に死と直結する可能性も充分にある。
「何、私は彼と違う英霊だ。ならば姿が違った所で何の不思議もあるまい。寧ろ当然のことだろう」
「君の能力を知りたい。君はどの様な宝具を持っている?」
「私の宝具は投影魔術による他者の宝具を投影する事と、大量の投影魔術によって作成された剣を内包する世界、君達で言う固有結界だ。何方も多くの英霊の宝具だ。英雄王の様に盾や防具までとはいかないが、彼と同じ様に数多の宝具と言う点は同じだ」
英雄王の残骸から召喚されたと言うのもあってか似通った性質だ。防御と補助の宝具は無いが、剣はあると言うことか。確かに強力なサーヴァントだろう。
「分かった契約しよう」
「話が早くて助かる。素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。───」
私は赤の弓兵と契約した。
「綺礼。この戦い私達の勝利だ」
「師よ。少しそれは早計かと」
「そうだな。確かに真名を聞いていなかった。アーチャー真名は何だ?」
「そうだな。エミヤだ」
「衛宮だと?!」
私は驚愕した。あの愚か者と同じ苗字では無いか。否、偶然と言うことも有り得る。
「どうかしたかね?」
「いや何でもない」
何故だろう。勝てるのか不安になってきた。
「そんなにも愉悦だったのか?セイバーとの競い合いは。みすみす決着を先送りにしたくなる程に」
私は目の前に膝を着き自らに従う
「申し訳ありません。主よ。何れ必ずやあのセイバーの首級はお約束いたします。どうか、今暫くの───」
「改めて誓われるまでも無い!それは当然の成果であろう!」
私は大声で
「貴様は私と契約した!貴様はこのケイネス・エルメロイに聖杯をもたらすと!それは即ち残る六人のサーヴァント全ても切り伏せる事と同義だ!この戦いの大前提だ!それを今更……。高々セイバー一人について必勝を誓うだと?それが価値ある約定だとでも抜かすのか?一体何を履き違えている!?」
「履き違えているのは貴方では無くて?ロード・エルメロイ」
横から入る制止の声。そこには我が許嫁、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが何処か怒りと呆れを孕んだ顔をしてこちらを見ていた。
「戦いの顛末は私の使い魔を通じて一部始終見せて貰ったわ。ランサーは良くやった。間違いは貴方の状況判断では無くて?」
「ソラウ何を言うんだ……」
私は理解出来なかった。セイバーは最優のクラス。即座に仕留めて然るべきだ。更に此度のセイバーは取り分け強力なサーヴァントだ。恐怖は早く摘み取るべきだ。
「ランサーの
確かにセイバーと組めばあの場でバーサーカーを撃退出来た。だが、セイバーは余りにも危険過ぎる早急に仕留めておかねばならない。
「……君はセイバーの脅威を知らない。あれは取り分け強力なサーヴァントだ。総合力ではディルムッドを凌いで余りある。あの場で着実に倒せる好機を逃す訳にはいかなかった!」
セイバーを生かしていれば必ずや、今居る他の英霊を切り伏せ、私達に迫る。その前に対処出来なかったのは痛手なのだ。
ソラウは机の上のワインを取り、更にこちらに強く睨み付ける様な視線を向けた。
「貴方って人は……自分のサーヴァントの特性を本当に理解しているのかしら?何の為の
そうだ。確かにランサーはセイバーに致命傷では無いが治癒不可能の手傷を負わせた。本来両手持ちの剣を片手で持つように仕向けたのだ。セイバーは今剣士としての本来の力を振るうことは出来ない。
「第一、そこまでセイバーを危険視していたのならどうしてセイバーのマスターを放っておいたの?ランサーがセイバーを引きつけている隙に貴方は無防備に立っていたアインツベルンの女を攻撃出来たんじゃなくて?なのに貴方がした事と言えば最後まで隠れて見ていただけ。情け無いったらありゃしない」
確かに、アインツベルンの女は無防備に立っていた。私には遠くからの攻撃手段もあった。あの場でアインツベルンの女に攻撃も出来ていた。認めよう、これに関しては私の驕りだ。
「ケイネス、貴方は自分が他のマスターに対してどういうアドバンテージを持っているのか理解していない訳じゃ無いでしょう?他でも無い貴方自身が工夫したことじゃない」
確かに私は特殊な契約を行った。
「それは無論、サーヴァントとマスターの本来なら単一しか無い因果線を二つに分割して配分する変則契約」
「サーヴァントへの魔力供給を私が肩代わり出来る様にパスを繋ぐなんて荒業。流石
私は一瞬寒気を感じたが今のは気の所為だろうか?
「貴方は自分の魔力を総動員出来ると言う点で他のマスターに対し圧倒的に優位に立っているのよ」
「だが……戦いはまだ序盤なんだ。緒戦の内は慎重に……」
返す言葉も無く私はソラウから目を逸らした。
「あらそう?なのにランサーにだけは結果を急がせるわけ?ランサーを責める前に先ずは自分を省みるべきよね。ケイネス今夜の貴方は───」
ランサーはソラウに殺意に似た何かを向けていた。それはまるで主君に対しての侮辱に対する怒りの様だった。
「ソラウ様そこまでにして頂きたい。それより先は我が主への侮辱だ。騎士として───」
「失礼するわよ?」
その時、ドアが開かれた。そこにはさっきとは違い丈の合わない草臥れた黒いコートを着た凹凸の少ない少女が居た。
「キャスター?!何でここに」
「御二方私の後ろに───」
咄嗟にランサーがソラウの前に出る。何故バレたのだ?!そんなに容易くバレるとは。戦闘の度にホテルを変えるべきだった。
「何の用だ!キャスター」
「あぁ、そこのソラウさんだったかしら?少し呪いらしき何かが見えたから。ついでに取ってしまおうかと」
「───
その時、ソラウから何かの魔術的な物が破壊されるのを感じた。
「全く、戦場に来るのなら防具も整える事ね。そんな丸腰で居たら貴方殺されるわよ?」
「えっえぇ、ありがとう。じゃなくて何で私の呪いを解いたの?!」
「そうね。強いて言うなら私はその手の呪いが少し嫌いでね。見るだけで解呪したくなるの」
「忝い。キャスター、一体ソラウ様にどの様な呪いが掛けられていたのだ?」
そうだ。それを聞かなかければ。ソラウに呪いを掛けた犯人にも用がある。私が気付けないとなるとかなりの使い手だ。
「ソラウさん?貴方少し前に骨董品とか見たかしら?」
「少しケイネスの家で宝石の類は見たわ」
「なら、原因はそれね。貴方には認識を操作する呪術が掛けられていたの。結構精巧な物がね」
「一体誰がそんな事をしたのだ?」
「さぁ?見た感じ術者に繋がりが見えなかったから術者が死んでるんじゃ無いの?きっといつかの報復何かに使われた物が使われずに紛れ混んだのよ」
確かに、我が家の宝石には古くからある物もある。その中に呪術を仕込んだ物があっても何ら不思議は無い。それも本当にかなり精巧な物なら見抜けない可能性もある。
「所で、どうやって私の魔術を……」
「あ?あれなら作動しなかったわよ?当然よね。私転移で来た訳だし。あっ、挑戦?なら受けて立つわよ。勿論、先に人払いもあるけど」
「止めておくわ。正直な話今貴方に勝てる気がしないわ」
「……ソラウ!」
ソラウは一見冷静で依然としているが確かに汗が垂れていた。
「事実よ?あのキャスターは正体不明。それにあのアーチャーを一人で仕留めたのよ。流石に勝てないのでは無くて?」
「そうね。多分、本気を出せばそこのランサーなら最悪でも三手で始末出来るわ」
キャスターは輝かしい笑顔で剣を持ちながらこちらを見ている。あの剣はアーチャーを仕留めた剣。あれがキャスターの宝具か?
「ね?勝てないでしょう?それに相手はキャスターなのに敵地で余裕を持っていられる。それ程に魔術に精通していると見て良いんじゃない?」
そうだ。キャスターは陣地作成のスキルがある。本来キャスターは魔術師と同じ様に籠城を決め込む。なのにこのキャスターはここまで来た。敵地に入って来た。
これは一見愚かに見えるが暗に陣地作成が無くともランサーと渡り合えると言っているのだ。
「あら、貴方の奥さん優秀なのね。良かったじゃない。失礼だけど貴方戦略的には下手だし」
……返す言葉が無い。今後はソラウに戦略を聞かなければならないかもしれない。
「さて、夜も遅いし帰るわ。ではまたお会いしましょ?神童と女軍師さん」
そう言って彼女は何処かへと消えていった。
三手後に死ぬランサー。はい、私です。少し時間が出来ましたので書きました。……紅茶君のお墓立てなきゃですね。如何せん相手が相手ですので……。
時臣君、ヌルさん相手なら子ギル出した方が勝てますよ?今回からは各マスターの視点を一周します。
あと皆さんお気付きですよね?ヌル様の服が変わっている事に……。