「へえ、GBNってこういうところもあるんだ。」
「空腹を満たすことはできないけど、かなり味も感覚も再現されているんだ」
ヒナタの問にヒロトが答える。
ビルドダイバーズの彼らは、GBN初心者であるヒナタにGBNの繁華街を案内していた。
周りからは食欲を誘う匂いが漂い、ここが電脳空間だということを忘れそうになる。
「も、もしかして、いくら食べても太らない!?」
「ぁあ、そういう事になるな。」
ぱぁ、と目を輝かせ気になるスイーツを探し始める
その時だった、後ろから声が聞こえたのは
「すいませーん!!BUILD DiVERSの皆さーん!」
「ん?なんか呼ばれてませんか?」
「呼ばれ方がちょっとデジャブだなぁ……」
ピクリとパルの獣の耳が跳ねる。
カザミも気づいて、振り返るとBUILD D
「どうしたんです?二人ともそんな急いで。」
「た、大変なんです!」
「リクが!!リクがぁ!!!」
ユッキ―は必死の形相で問いかけたヒロトに掴みかかり、サラは涙さえ浮かべている。
どうやらただ事ではないようだ。
「リクさんが!?」
◇
「リク!!しっかりしてリク!!」
「コーイチさんもしっかり!!」
連れられてきた中華料理店で、机に突っ伏してダメージアウト寸前の二人を見ることになった。
リクに関しては泡をすら吹いており、その状況の深刻さを理解する。
「だ、大丈夫ですか!?」
ヒロトが声と共に駆け出すと同時に、BUILD DiVERSの全員が駆けつける。
だが、既に意識はなく連れて帰るくらいしか処置のしようがない。
机の上にあるのは、麻婆豆腐__
「な、なんだこの嗅ぐだけで鼻が痛くなる麻婆豆腐はぁっ!!!」
カザミが吹っ飛ぶように麻婆豆腐から距離を置く。
さながらファンネルと化したイージスナイトの如くである。
そう_つまり犯人はこの麻婆豆腐とこれを作った人間である。
「おや……お口に合わなかったかな?少年。」
店の奥から、中年の大男が出てくる。
瞳に生気が薄く、厳格な顔つきだ。声もそれに似あう重さがある。
「おまえ…お前か!!リクさんたちをこんな目に遭わせたのは!!」
店主に食って掛かるカザミ。
状況証拠からして、リク達を撃墜したのはこの店主だ。
「なに、この麻婆豆腐が彼の舌に合わなかったに過ぎない。私はこれを至高の料理だと、全力を尽くした結果だ。」
「な、なに…?」
こともなげに言う店主。その言葉の内容に誰もがたじろいだ。
しかも、本心から言ってるようにしか見えない。
「たしかに、完食者が少ないというのは事実。だが、それは私と同じ好みでなかっただけだ。」
「ほ、本気で言ってるのか⁉」
「ああ、当然だ。辛さこそ至高、辛さこそ究極の味覚だ。それが私の持論だが?」
破綻しているのではと一瞬疑うような理論だが、誰かの嗜好をわざわざ否定するなど、ガンプラに関わる者として失格だ。
つまり___
「激辛専門かぁ。とんでもねぇミスというか、運がなかったな二人とも……」
今度は同情の目で二人を見直すカザミ。
激辛料理店で激辛メニューを引いただけという事実が、無慈悲に二人に襲い掛かったという悲しい結末だけであった……
二人を背負い、店を出ていくその瞬間。
「……食っていかぬのかね?この店に入っておいて。」
殺気。
__だめだ、これに乗ってはいけない
乗れば最後二人と同じ結末に陥るに違いない。
誰もがそう思った。
「…そこのコーイチとやらは一口でダウン。だが、そこの少年は[誰かの好きをあきらめたくない!!]などと言って5口食べ、倒れた」
「……何が言いたい。」
ヒロトは僅かに顔を店主に向けると、冷たい声で言い放つ。
店主は気にせず続ける。
「_それ以上食べることが出来たなら、お前はそいつに勝ったということにならんかね。」
「しょ、正気か!?ヒロト、乗るんじゃねぇ!!」
「何しろ、名前がほぼ同じと来たからには、対抗心の一つや二つはあると睨んだんだが。」
冷え込む空気に誰もが口を閉じる。
誰もが敵意をむき出しにする中、唯一、その店主だけが口角を上げていた。
「いいだろう。」
「何言ってやがるヒロトォ!!5口以上食べたら確実に死ぬぞ!!」
「そうですよ!命を大事にしてください!」
ヒロトは、乗った。
カザミが急いで静止し、パルはパニックで少しずれた発言をしてしまう。
「リクさんはこの店主さんの好きを否定したくないから、頑張った。なら、俺もそれに殉じてみたい。」
「死ぬ前提じゃねぇかぁあ!!!」
スパーン!!と効果音が出そうなまでのツッコミが炸裂する。
だが、止まらない。
何故ならヒロトは誰かのため頑張れる人なのだから。
◇
「出来たぞ、特製麻婆豆腐だ。」
赤い。シャアなんて目じゃないくらい赤い。
なにしろ、俺に激辛料理の経験などない。辛さを追い求めた料理なんて始めてだ。
「喜べ少年、君の願いはようやく叶う。」
だが、引けない。
リクさんが守ろうとした思いを俺まで否定したくない。
「いいから戻れヒロト!!まだ間に合う!!」
戻るものか
ここまで来てしまったのなら、ただ一つ食すのみ。
レンゲで掬い、口元に寄せる。
___強烈な唐辛子の匂いが、鼻を蹂躙する。
気づかないふりをした。
___この時点で、明らかに尋常ではない汗が体中に溢れている気がする。
気づかないふりをした。
後は頬張るだけだ。
「ぁん…………
………!!!?!?!!!????」
痛い
辛いじゃなく痛い
エルドラの衛星砲のような辛さが、ゼルドザームの意味の分からない軌道のビームのように口内を焼き払う。
痛い
至高の味覚?
これは痛覚だ
間違っても味覚なんかじゃない。
これは呑み込んではいけない____!!
「ぅっ!!?!」
「ヒロトォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
「ヒロトさぁああああああああああん!!」
結果、催したのは吐き気。
俺は、一口目で撃墜されたのだった。
Winer BUILD DIVERS !!!!
そんなアナウンスが聞こえた気がした。
◇
「しっかりしてくださいヒロトさん!!!」
「ああ…イヴ……迎えに来てくれたのか……」
「やべえ!あの世見えてねぇか!?そっちに行くなぁああああ!!!!」
阿鼻叫喚の様相を呈している店内。
恐らく、彼らに勝ち目などなかったのだろう。
意識が僅かとは言え残っていたのが不幸中の幸いか。
「……それほどなのか?あむ」
「おい待てメイ!?」
メイが好奇心に負けて、口に含む。
感情が出やすくなってから、メイは好奇心に似たものを持ち始めていた。
だが、こんな言葉もある。
好奇心は猫をも殺す。
バタン、と体勢をそのままにして、メイは倒れた
「メィイイイイイイイ!!!」
まるで魂が入る前のガンプラに戻ってしまったかのように、そのポーズを維持したまま微動だにしなかった____