NOUMINの刃   作:シーボーギウム

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第弐話

 天地が引っ繰り返るようだった。鎹鴉から伝えられたのは、「花柱 胡蝶カナエが上弦の弐と交戦した」という内容。頭が真っ白になり、それでもどうにか身体を動かして姉さんの元に走った。

 

 走って、走って、走って、そうして姉さんの元に辿り着いた時目に映ったのは、倒れて呆然とする姉さんと、鬼と思わしき肉塊を刻み続ける青年の姿だった。

 

「姉さん!無事!?」

「しのぶ……?」

 

 一先ずは姉さんの容態を確認した。聞く限りでは肺がやられてしまったらしい。呼吸の剣士にとって、肺は命だ。下手すれば姉さんはもう戦えないかもしれない。

 それを、どこかで望んでしまっている自分を嫌悪しながら、私は出来る限りの治療を施し、目の前で繰り広げられる冗談みたいな光景に目を向けた。

 

「彼は……」

「分からないわ……でも……」

 

 強い(・・)。恐ろしく。元々弱い私だけど、それにしたって剣の軌跡すら一切目で追えないというのは異常でしかない。鬼の身体には彼が斬ったという結果だけが残り続けている。あの鬼は上弦の弐な筈だ。それをああも一方的に叩きのめせる存在が、果たして今の柱にいるだろうか。

 

「あれ?」

 

 そこで、奇妙なことに気が付いた。青年の持つ刀の輝きが妙に鈍いのだ。今日は満月。刃は月の光を良く反射する。日輪刀ではないのは予想していた。まず汎用服装が鬼殺隊のものではないのだから当然だ。だがあの刀は一体なんなのだろう。血が光を反射しているにしても、鈍すぎる。その疑問に、姉さんが答えてくれた。

 

「木刀よ」

「え?」

木刀よ(・・・)

 

 姉さん自身、信じられないのだろう。呆然とした表情のままうわ言のように呟くその姿はとても普段の姉さんからは思い付かないものだった。

 

「ま、待って姉さん!私は見えないけれど、流石に有り得ない!ただの木刀で、鬼の、それも上弦の弐の身体を斬るなんて……!」

「出来てるのよ、彼。間違いなく木刀しか持ってなかった。今も、辛うじてしか見えないけど、

木刀を振ってる」

 

 青年を見る。相変わらず、私では何をしているのか分からない。柱である姉さんですら辛うじて把握出来る位なのだから当然かもしれないけれど、その様は異様極まりない。

 でも同時に奇妙な、根拠の無い確信を私は抱いた。

 

(殺せる……)

 

 長く、鬼殺隊は戦い続けてきた。鬼の祖、鬼舞辻無惨を殺すために、無数の命を散らしてきた。だが、この人なら────

 

(鬼舞辻無惨を殺せる…………!!)

 

 そんな確信が、私に飛来した。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 あの後、青年達は胡蝶姉妹の屋敷、蝶屋敷に向かった。

 月明かりが照らす時間でありながら、屋敷の中は随分と慌ただしい。屋敷の主人である胡蝶カナエが負傷した、となれば当たり前なのかもしれないが。

 

 そんな蝶屋敷の面々とは正反対に、穏やかな様子で青年は庭に立っていた。彼は木刀を構え、瞑想している。初めは何か手伝おうかとも考えたようだが、彼は素人、医療のいの字も知らない自分ではかえって邪魔になるだろうと手伝いを申し出ることはなかった。蝶屋敷の面々も客人にあたる彼に手伝いをさせるつもりはなかった為、不必要なやり取りが一つ消えていた。

 木刀を構えた彼は微動だにしない。やがてその木刀の鋒に、一羽の蝶が止まった。

 

(俺に出来ることが、いくつあるだろう)

 

 実際に話す時とは違う一人称で自分を言う彼は、()を知らない。その時代、その現実に生きる一人の人間としてではなく、この世界を作品(・・)としての意味だ。

 前世、そんな他人に伝えれば笑われてしまいそうなものの記憶を、彼は持っていた。だからこそ彼は自身の肉体がとある英雄のものであることを知り、その英雄の秘剣に到達することが出来たのだ。そして彼は再び、その記憶によってこの世界がある作品を元にした世界、或いはそれに酷似した世界である事を知った。

 結末までは知らない。だが彼はその物語が温かくも、無数の悲劇の上に成り立ったものだということを知っていた。既に起きた悲劇は覆しようが無い。だからこそ、彼はこれから起こりうる悲劇を覆すことを目標として定めている。

 

 だが、丁度今は分からないのだ。誰が、何故死ぬのか、それが明確に分かるのはもう数年先、より具体的に言えば、原作開始時期になってからだ。

 

(いや、いくつあるかなんて関係ない。救える限りを救う。それだけだ)

 

 そう結論付けた彼は木刀を下ろし、縁側に置いてあった竹刀袋に仕舞った。すると、やはり慌ただしい足音が近付いてきた。足音の正体は、胡蝶しのぶだった。彼女は僅かながら額に汗を流していた。

 

「す、すいません!お茶もお出し出来ず……」

「気にするな。実の姉なのであろう?先程出会ったばかりの、それも素性も知れん男より優先するのも当然よ」

 

 淡く微笑みつつ言う整った彼の表情にしのぶは僅かに頬を染める。しかし直ぐに気を取り直して彼に着いてくるよう告げた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 無数の襖や階段、柱や廊下が乱雑に組み合わされてできた異空間。そこに、首だけになった十二鬼月が一角、上弦の弐たる鬼、童磨が空中に現れた襖から転がり落ちた。

 

「いや〜助かっ「黙れ」」

 

 軽口を叩こうとした童磨の頭の上半分が、異空間の中心に存在する、異様な空気を纏った男によって潰された。不機嫌さを少しも隠そうとしない男に対して、童磨の様子は一切変わらない。しかもそれは、その男が自身より遥かに格上の存在と理解した上でのことだ。

 そのことに更に不機嫌になった男が、言葉を続ける。

 

「何だ?あの無様な有様は。上弦の弐でありながらあの程度の人間にも勝てないというのか?貴様は?」

「しかし無ざっ」

「誰が喋って良いと言った」

 

 グシャリ。再び童磨の頭が潰れる。なおも、童磨は調子を崩さない。

 

「貴様の言い訳などどうでもいい。とうの昔にお前には期待していない」

「またそのような悲しいことをおっしゃいなさる!俺が貴方様の期待に応えなかった時があったでしょうか?」

「黙れ。貴様は私の期待に一度たりとも応えてなどいない。いつになったら産屋敷を葬れる?どれだけ待てば貴様は青い彼岸花を見つけられる?それだけでも不快だ。それだけでも不快だと言うのに、貴様は一体何をしている?何故鬼殺隊ですらない、日輪刀すら持たぬ人間にやられている?」

 

 男は不快の絶頂だった。こめかみに青筋を立て、童磨へとその怒りをぶつける。

 

「あの男を殺せ。次は無い」

 

 ただそれだけ告げ、男は童磨の頭を乱雑に投げ捨てる。

 べん、と琵琶が一度鳴り、童磨の頭はその場から消え去った。

 

「うーむ、どうしたものか……」

 

 自身が教祖を務める『万世極楽教』にある自室に戻った童磨は、己の身体を再生させながら頭を捻る。やがて全身を再生させた彼は替えの服を身に付けながら、部屋の外にいる己の信者を呼び付けた。

 

「少し探してほしい人がいるんだ」

 

 救済を騙る悪魔の鉄扇が、狙いを定める。再会の時はゆっくり、しかし着実に近付いていた。

 





これ口調合ってるんだろうか……


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