幸せの絶頂は絶望への近道でもある。

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幸せの絶頂は絶望への近道でもある。


柊 奈央はアイドルだった

柊 奈央(ひいらぎ なお)はアイドルだ。

 

いや、アイドルだった。

 

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「まったく、あなたは何度言ったらわかるの?」

 

「……ごめんなさい」

 

わたしの家庭は母子家庭で、母は些細なことでいつも怒っていた。

 

端的に言うとヒステリーというやつだ。

 

顔の知らない父と色々あったらしい。

 

そんなこんなでわたしは、いつも怒られ、ビクビクしていた。

 

わたしも人間だ。

そして、なにより、子供だった。

 

だから、いつも怒られるたび思った。

「愛されたい」「必要とされたい」と

 

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いつものように怒られ、家に居づらくなった私は外をぶらぶら歩いていた。

 

こうして、あてもなく歩いていると悪いことを考えずに済む。

 

道の看板がなくなっているなとか、あそこにあった花がなくなっているなとか、

そうした発見がなぜだか私の心を癒した。

 

そうして今日も私は新しい発見をした。

 

「~~♪」

 

路上アイドルとかいう奴だろうか。

女の子の数人が歌って踊っていた。

 

眩しい…。

集まって人は決して多いわけじゃない。

だけど、女の子のたちの顔はとてもなんというか…とても楽しそうだった。

 

今できることを精一杯やって、最高に充実している。

 

わたしも…。

 

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帰って、路上アイドル、地下アイドルのことについて調べてみた。

 

「こんなにいるもんなんだ…」

 

自分が知らなかっただけで世界は広かった。

 

「あ、この人」

 

偶然にも今日みた路上アイドルの人を見つけた。

 

名前は蘭 鈴蘭(らん すずね)。

なんと、この道7年で近場ではかなり有名のようだ。

 

「ん…?」

 

ホームページをよく見ると、新メンバー募集中と書いてあった。

 

ごくり、と唾を飲む。

 

わたしでも、できるだろうか。

 

…いや、ここで自分を変えるんだ。

 

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「柊 奈央さんね…ふむふむ」

 

「………」

 

がっちがちだ。なんだっけ緊張したとき何かいて飲むんだっけ。

 

「あはは、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。…むむ。君」

 

「あっ…」

 

「やっぱり!君眼鏡外すとかわいいね!!!」

 

か、かわいい!?!?!?!?

そんなの親にも言われたことなかった。

 

緊張と照れで死にそうだ。

だが、まだ想定外は続く。

 

「んん??誰その子?かわいいい!!!!!!!」

 

新たに部屋に入ってきた子に抱きしめられた!?

あああ、もう何が何だか…。

 

「ちょいと、湯奈(ゆな)。今は面接してるっていったでしょ?…」

 

「ごめんなさい~!いや、どんな子か気になっちゃって…ねえねえ君?」

 

「な、なんでしょう…?」

 

「結婚しよう」

 

とうとう痺れをきらしたのか、すずねさんがその子に拳を下した。

 

「あああああ、痛いいいいいい!!!!」

 

「ごめんねなおさん。こいつはこういうやつなんだ…。」

「い、いえダイジョウブデス」

 

この後なんだかんだで面接は終わった…。

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「は、はじめましてなおといいます…。よろしくお願いします!」

 

なんとか無事に受かることができ、私のアイドル生活が始まった。

 

 

特にすずねさんには本当にお世話になった。

踊りも歌もなにも分かっていない私に対して、いちから丁寧に教えてくれた。

本当に頭が上がらない。

 

数々の課題をこなして、誰かに見せるために努力していくことがこんなに楽しいなんて知らなかった。

 

そうして活動を続けていくうちに、私の名前も覚えてくれる人もできて本当に毎日が楽しかった。

 

なかでも…

 

「おつかれ、なお!!かわいかったよ~!!!!」

いつもいつも褒めてくれるゆな。(いまは下に名前で呼ぶようになった)

 

なにより嬉しかった。

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「…ゆなってモテるんですか?」

 

「んん~?ゆなのこと気になってるのかい~?」

ニヤニヤしながらすずねさんが聞いてくる。

 

「……すこし」

 

「あはは!青春だね~!」

 

「変じゃ…ないですかね…?その…女の子同士なのに…」

 

「いやぁ?人によって愛のカタチなんて違うと思うし。誰かがとやかく言う方が間違ってるよ」

 

「……」

 

「まあ、ゆっくり考えな」

 

かなり時間をかけて割り切った私はゆなに思い切って告白をした。

ゆなは「もう付き合ってるのかとおもってたよ~!」といってくれた。

 

勇気を出してよかった。

こうして私たちは密かに付き合い始めた。

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想いというものは、膨らんでいくものだ。

 

優しくされるたび、魅力を感じていくたび大きくなっていく。

 

当然のように相手のことがもっともっと知りたくなって、相手のために尽くしたくなっていく。

 

ゆなのSNSを教えてもらった。

ゆなの大好きな食べ物をしった。

ゆなの地元を教えてもらった。

ゆなの____

ゆな__

ゆ__

 

 

そうして私は知らず知らずのうちに、

多くのひとのためより1人のための私になっていた。

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「ん?」

ある日のことだ。

 

タイムラインに私がしっていないアカウントでゆなの写真を投稿しているアカウントを見つけた。

 

当然のごとく気になる。

 

気になるものを見つけた。

 

「え!?」

 

某俳優とコラボ配信をしていた。

 

そんなつながりがあったなんてしらなかった…。

 

…わたしなんてこの人と比べたらなんてちっぽけなのか。

 

まだあった。

一般男性とのやり取りだ。

すごい下品なやり取り、すれすれな愛情表現。

 

「……」

 

そこにいたのはまったくわたしの知らない面のゆなだった。

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ゆなに直接聞いて見た。

 

某俳優さんとの関わりは古い付き合いだそうだ。

 

一般男性の方も昔からの付き合いだそう。

 

「え?これが男友達との普通の接し方だと思ってた」

 

ゆな曰くそうらしい。

 

ゆながそういうんならそうなんだろう。

 

きっとゆなはわたしのことを愛してくれているんだから何の問題もない。

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ゆなとデートをすることになった。

 

ゆなは忙しいらしく、今まで通話ばかりだったからとても嬉しい。

 

2人で楽しむためにいろいろ遊べるとこ調べなきゃ。

 

 

 

そうして準備万端で臨んだデート当日。

 

気合いをいれたファッションにメイク。ドキドキが止まらなかった。

 

まずは、カラオケ。

 

ゆなほんと歌うまいなぁ。

 

しばらく歌っていると

「疲れたから、ちょっとゲームする~」

 

といってゲームをし始めてしまった。

 

あ…わたしそのゲーム持ってないや…。

 

でも、それがゆなのしたいことならいっか…。

 

幸い、ゲーム自体はしっていたので、そこから話題を拾っておはなしをした。

 

 

 

そうして、カラオケ屋を出た後。

 

「あっ。そういえば、ここ先輩の近所なんだって。先輩も呼んで遊ぼうよ」

 

…えっ。

今日はデートのつもりで2人きりでいたかったんだけど…。

 

でも、それがゆなのしたいことならいっか…。

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アイドルグループの先輩とご飯を食べに行ったあと、先輩とは別れた。

 

「ゆな、いってみたいところとかある?」

 

「うーん、あ、ちょっとバーみたいなとこなんだけど…」

 

かくして私たちはその店にいった。

 

 

 

「おお~、ゆなじゃんひさしぶり~」

 

そういって迎え入れてくれた男。

 

が次の瞬間。

 

「ゆ~な、ほれ」

 

「ちょ//やめてよ//」

男がキスをゆなにせがんできた。

 

それに対してまんざらでもなさそうなゆな。

 

…………なにかがひび割れた気がした。

 

 

 

そうして入った店内は酒とたばこの臭いが充満していた。

 

飛び交う卑猥な言葉。店員と抱き着く人。

 

私の知らない世界だった。

そして同時に受け入れがたかった。

 

帰ったあとは結局一睡もできなかった。

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ゆなに根掘り葉掘り聞いてみることにした。

 

ああいった店にはよくいったことがあるとのこと。

ああいう店ではキスはよくあるとのこと。

 

そして分かった。

ゆなと私は決定的に価値観、倫理観が違うと。

 

 

 

そこからはもう思い出したくもない。

 

付き合ったばかりのころ、ゆながお酒に酔っていた時「最近まで好きな人いたんだけど、なおと付き合ってよかったわ~」とぽろっといっていたことを思い出したり。

 

SNSで一般男性と「私の胸さわってもいいよ」と会話していたり。

 

 

結局別れることにした。

 

通話で別れ話をしたんだけど、そのときにデートの時にも聞いたゲームのボタン音が聞こえてきて、

ああ。結局わたしってその程度だったんだなって。

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けれどアイドル活動で顔を結局合わせたりする。

気まずくて、身に入らない日々が続いた。

 

SNSで、死にた。とか死まで何日とかゆなは書いていた。

 

そのときは負い目を感じたが、後に裏の意味を知ることになる。

 

私はアイドル活動を休みがちになった。

 

そうして数日が流れた後、ゆなはアイドルグループをやめた。

 

きっと気まずかったのだろう。

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またしばらく経ったある日、後輩と話をしていた時、ゆなが別の名前でまたアイドルをやり始めたことを知った。

 

しかもうちのグループと姉妹グループだった。うちのグループと関わりが密にある。

違った。全然気まずいとかじゃなかった。

 

SNSをみてみた。

 

「……」

 

であった頃のようにゆな…今はゆなじゃないか、

彼女はグループの女の子を口説いていた。

(結婚しよ!?可愛い。可愛すぎて…)もう携帯を見るのをやめた。

 

……本当に本当に。

わたしはただの繋ぎで、代わり替えの利く女だったんだなって…。

 

あと、SNSには(構って♡)とも書いてあった。

(死にた。とか死まで何日)と書いてあったのは結局、構って欲しかっただけなんだとようやく私は理解した。

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すずねさんとゆなは仲が良かった。だから、姉妹グループの交流は頻繁に行われた。

 

さらに私の休みは増えていく。

 

すずねさんにはゆなと私が冷え切っていた時に、話し合いの場を設けてもらったりしていた。

 

そのお世話になっていた人に呼び出された。

 

アイドルリーダーとして業務を兼任して忙殺されていたのもあるのだろう。

「これ以上ゆなとなおがなにかあっても面倒みないからね」

といわれた。

 

「……はい、すみません」

 

「あと、なおがあいつのこと嫌いでも私は姉妹グループ切るつもりはないから。あいつとも友達だしね」

 

「…」

 

「まあ、あれだ。あいつの家は規則厳しかったからさ。人間抑圧すると爆発するじゃん?だから、遊びも必要なわけ」

 

「……そうですね」

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それから、わたしは努めて彼女を気にしないようにがんばった。

 

振り付けや歌にのめりこんだ。

 

だけど…。

 

どうしても目に入る。

新しい女の子とイチャイチャしているのが。

 

幸せだったときを思い出して胸が痛む。

 

踊る。

ファンの人を喜ばせる。

 

歌う。

 

ファンの人を癒す。

 

…あれ?いつから当たり前だったこと考えなくなっちゃたんだっけ-----------------------

 

 

 

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ゆなが姉妹グループの女の子と付き合うことになったらしい。

 

それを聞いた私はああ、やっぱりか。と思った。

 

もう私はアイドル活動をしていない。

 

耐えられなくなった。ただそれだけだ。

 

誰かに必要としてほしかった。愛されたかった。

 

それを1人に求めたときからわたしはおわっていたのだろう。

 

 

 

「まったく、あなたは何度言ったらわかるの?」

 

「…じゃあ、次からは書いといてね」

 

母がおこっている。

 

いつもの日常にもどってきた。

 

もう誰からも必要とされることはない。

 

だけど---------

 

 

もう少しだけ、きっと未来にはいいことあるって思ってがんばってみよう。

 

 

「あっ…テーマパークのチケットあたってる」

 

 



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