ガストレア大戦。それは人類が大敗を期した戦い。その生き残りである青年は数年ぶりに眼を覚ます。彼が生死の狭間で得たのは、死を見る目だった

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ブラブレ短編杯用だった作品。


ガストレアが俺の前に立つな!

ある男が無機質なベッドで目を覚ました。それは数年ぶりの目覚めであった。

 

彼が目を覚まして気づいたのは自身に起こった異常であった。それは眠る前の自分が自分であると確信できないことなど些細になるほどのことであった。

 

「線が…見える。これはなんだ?」

 

瞳に映る『線』。しかし、それは実在しない、否、彼以外認知することはできなかった。

 

試しに入院服のような質素な服に絡みつく線をなぞってみた。すると、服は簡単に切断され彼の生まれたままの姿が露わになる。

 

次にベッドの柱の線をなぞってみた。先程同様、柱は切られた。ベッドは支える柱を一つ無くし、バランスを崩し床へ大きな音を立て崩れ落ちた。

 

その音につられ女性の医師が部屋にやってきた。彼の復活を医師が驚いている最中、彼はあることに気づいた、医師にも『線』が絡みついていることを。

 

(ああ、この『線』は…『死』そのものか)

 

彼は完全に理解した、自分に与えられた能力の概要を。それは『死』を映し出す、命の価値をくそったれにする能力であるということであった。

 

◇◆◇◆

 

「君、復隊しないのかい?」

 

目覚めてから少し経った後、彼を担当する医師?である室戸 菫は唐突にそう問いかけた。普段の高いテンションとは違いどこか厳かな雰囲気であった。

 

彼は床に伏す前は自衛官であった。正義の信念と国防という大義を胸に職務を全うしていた。

しかし、寝ている間に自分を構成する要素を溢れ落としてしまった彼には、現在そんな高潔な精神なんて存在しない。さらに

 

「俺はもう殉職扱いになってんでしょ」

 

数年前の戦い、通称、『ガストレア大戦』で全治不可能と太鼓判を押された怪我を負った彼は殉職が受理されていて、データベースには二階級特進となっている。

 

「それは君じゃないだろう」

 

それもそうか、と彼は思う。いくら自分の中の記録通りに動き喋ることができても本質が違ってしまえば、それはただの別人となってしまう。となれば、復隊という言葉はおかしくなる。それを指摘すると

 

「はあ、君は面倒くさいやつだね。じゃあ、わかった。君に新しい戸籍をくれてやる。それで自衛隊に入隊してガストレアを殺してくれたまえ。そのために君の四肢を直したのだから」

 

うんざりしたような表情の室戸菫の手から溢れ落ちた黒魔術用の羊皮紙みたいな紙には自衛隊入隊届けと彼の写真と受理したことを示す印が押されていた。

 

つまるところ、はじめから戦闘兵器として治療された彼に自由意思などなかったというわけだ。

 

◇◆◇◆

 

自衛隊に入隊して彼の初の仕事は、人類の仇敵、『ガストレア』との争いであった。

ここ、東京エリアとガストレアの大規模な戦いはこれで3度目となる。

 

1度目のガストレア大戦では人類はモノリスに追い込まれることを余儀なくされた。

 

2度目の第一次関東会戦ではさらに居住可能エリアを縮小することになり、日本は5つに分断された。

 

今回の戦いは第二次関東会戦というべきだろう。

いずれの戦いもガストレアが仕掛けてき人類は大敗しているが、今回は違う。

ガストレアへの対抗手段、バラニウムを手にしている。ガストレアが嫌う磁場をさせることに加え、その再生能力を抑え込むというまさに人類にとって希望のような鉱石だ。

このバラニウムは室戸菫が発見したものだという。思わず別人かと勘ぐるが、彼の担当女医と同一人物で確からしい。天才と変人は紙一重というが、なるほど、死体の胃の中にある食べ物を患者に出すほどの変人だ、相当な天才なのであろう。

バラニウムを加工して作られた銃弾や砲弾が自衛隊に支給されている以上、人類の大敗ということはないだろう。まあ、彼が手にしているのはただの鉄製のナイフだが。

これは彼の目の能力を見込んで、のことであった。バラニウムが見つかったといえ、有限の資源だ。無駄遣いはできない。

 

「陸上自衛隊東部方面隊、第七八七機械化特殊部隊隊長、『新人類創造計画』浅上 識」

 

彼はガストレアの大群を前に自分の所属部隊、名前を静かに口に出す。それは一種の儀式であった。自己の存在の確立、それは未だ精神が不安定な彼には必要なことであった。

口上の通り、彼は隊長となっているが、隊員とは面識がない。名ばかりの、というやつだ。

 

「直死ーーーガストレア()が俺の前に立つな!」

 

世界に突如現れた赤い目と醜悪な外見のガストレアは高い再生能力を持つため、通常兵器での殺傷は不可能である、まして鉄製のナイフなど持ってのほかだ。だが、彼の目、『直死の魔眼』はそれを可能とする。

人類の天敵、ガストレアといえど生命体だ。生命を刈り取る目からは逃れようがない。

さらに、機械化された彼の四肢は常人を遥かに越す身体能力を発揮した。そのため、彼は()()()()()という手間を省き、効率よくガストレアを殺すことができた。

 

この日、バラニウム以外の新たな希望を、否、ガストレア以上の化け物を人類は目にする。

この戦いで人類は初めてガストレアに快勝し、自衛隊は英雄と称された。

そんな英雄たちから、彼は畏怖を込められ『死神』と呼ばれた。




ステージVと戦わせたかったけどさすがにやめてとこうと思った。
ブラブレの続巻きたら続き書く


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