犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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5月6日 後日談

 GW最後の休日、振替休日。

 今年は土日と被ってしまっているので損した気分だと、道行く学生が文句を言っていた連休初日は、都内全域を巻き込んだ爆弾事件で幕を開けた。

 当初は爆破テロではないかと報道で騒がれていたが、蓋を開けてみれば芸術家の独りよがりな美意識と自尊心(エゴ)が暴走した結果であった。連休前から起きていた放火まで計画の一端だったのだから、罪状は次々と積み重なるだろう。

 かつて創造してしまった不完全な作品を恥じての処理、処分。そのために、現状の住人も利用者も無視して犠牲にしてぶっ壊そうとした。常軌を逸した動機が大々的に報道されているため、その裏側に高校生探偵との因縁……という名の逆恨みがあるのはあまり知られていない。

 やはり、工藤新一はあまり表舞台には出て来ない。替わりなのか勝手に勘違いされているのか、毛利小五郎が解決したし、事件は彼への挑戦となっている……何故だ。

 

『こちら、警視庁前です。先日発生しました、東都環状線爆破脅迫事件、米花シティビル爆破事件、及び都内四軒の放火事件の犯人として、森谷帝二容疑者が逮捕されて3日が経過しました。なお、警察の発表によりますと、4月に発生した東洋火薬の火薬強奪事件にも関与しており、東洋火薬から強奪した爆薬を使用して爆弾を作製したと……』

 

 ニュースが流れっ放しだったテレビを消した。これからカルデアとの通信報告の時間だ。

 今回の報告内容は、米花シティビル爆破事件で真名を取り戻した米花のライダーこと清水慶――徳川家茂のことであるが、カルデアからの通信モニターが開くと坂本龍馬が映っていた。

 帽子を脱いで平身低頭した姿がモニターに映っていたのだ。

 

「何があった!?」

『上様! 阻害があったとは言え、上様のご尊顔を認知できずにいたご無礼をお許しください……!』

「ええと、頭を上げてください。貴方は……勝の弟子の」

『はっ! 土佐藩が郷士、坂本龍馬にございます!』

「精神が文久の頃に戻っている?!」

『こいつが、勝がよく言っていた「ウエサマ」か。ゴリッパゴリッパと嬉しそうにしつこく繰り返していたが、ただの童だぞ』

『お竜さん! やめて!』

「さっきから話題に出ている勝、って……っ! 思い出した! 宝具発動時に出て来た着物のあの人、勝海舟?!」

『彼の宝具が順動丸なら、幻影として出現した艦長はその者だろうね』

 

 徳川家茂が宝具、『出航せよ、順動丸』

 家茂が乗船した蒸気船は、勝海舟の指揮で運航されていた。家茂は蒸気船の機動力に感心し、これからの時代における軍艦の重要性を理解し、軍艦を操れる人材育成機関の設置をその場で指示したという。

 その逸話が昇華されたのが、この宝具だ。家茂が勝にGOサインを出したことにより、日本海軍の礎ができたとも言えるだろう。

 これにより、勝海舟は日本海軍の創始者とも呼ばれている。教科書にも生前の写真が載る幕末の大物だ。

 神戸海軍操練所の創設に江戸城無血開城。そして、平身低頭を続ける幕末の英雄、坂本龍馬の師であった。

 

『勝海舟は、坂本さんの師であり、唯一従臣した方です。最初は勝さんを斬ろうとした坂本さんですが、その思想に感銘を受けて逆に弟子になったのです。また、以蔵さんも一時期、坂本さんの紹介で勝さんの護衛をしていたとか。その勝さんは、自分に海軍操練所の設置を許可して信頼してくださった家茂さんに感激し、生涯忠誠を誓ったとされています』

『家茂が死亡した頃の勝の日記には、「徳川家、今日滅ぶ」と書いたほどだ。勝の中では、彼――家茂が徳川最後の将軍だったのだろう』

「師匠の君主だもんね。坂本さんがこうなるのも……仕方ないか」

 

 いつものフリーダムさはどこへやら。まだ何者にもなっていなかった若造の頃に戻ってしまっている。

 真名を取り戻してステータスも開示され、認識阻害も解けてその姿を()った幕末組も、坂本ほどではないが動揺していたらしい。あと、ぐだぐだ戦国組もちょっと荒れた。主に茶々が。

 満を持して登場した「徳川」により、バーサーカーからアヴェンジャーにクラスチェンジしそうになったが、信長が止めてくれたことにより事なきを得た。

「何じゃ、家康(タヌキ)の血縁か? 似とらんの~」との談である。

 そりゃ、血縁でも200年以上経てば薄まるという話だ。

 

「さて、清水慶改め、徳川家茂」

「慶君……じゃなくて、上様」

「お止めください、マスター。今は私……いいえ、()は貴方のサーヴァントです。「慶君」のままで十分です。元の名は「慶福(よしとみ)」でしたし。「家茂」でも構いません」

「でも、将軍様だし。うーん、そうだな……なら、家茂君で。家茂君、この特異点を修正するためには君の宝具()が必要なんだ」

「世界を開く能力ですね。僕はそのために召喚されたのでしょう。しかし、僕()()では、今すぐに世界を開くことはできないのです」

兆し(ヒント)を受け取る者がいないと駄目か」

「そうか。おまえの宝具は、自身が舵を切るのではなく、操舵手に舵を()()()()宝具か」

「申し訳ございません」

 

 エドモンの言う通りである。家茂の宝具は、世界を開く兆しを与えるだけ。与えられたそれを受け取り、実現できる者がいなければ真価を発揮できないのだ。

 先日の発動の際には、兆しを受け取った安室透――もとい、降谷零という探偵がいたことにより、見事に昇華されたのである。

 今、この瞬間に突破口を開くことはできない。彼の兆しを受け取る者が出現するまで、待機していなければならなかった。

 

「それでも、僕が選ばれたのですからお役に立てるはずです。思い出しました……僕が召喚された経緯を。そもそも、全15人の徳川将軍は、江戸(東京)、ひいては日本全体に重篤な危機が迫った際に、防衛装置の如く召喚されるシステムになっています。現状の異変に際しては、十四代目()が適任だと他の将軍様から判断されたのでしょう」

『んんん~? もしかして、戦闘の逸話がないはずの君にしてはステータスが安定しているのは、他の将軍たちからのバックアップがあるのかな』

「はい。他の将軍様からの援護により、僕の能力は底上げされています。お恥ずかしながら、ライダークラスで召喚されるにおいて、騎乗スキルは八代目様からの恩恵を受けております。使い魔の金魚たちも、十代目様の能力の一部を使用させていただいています。お陰様で、生前よりも健康体です」

「エジソンと同じような召喚方法になっているんだ」

「ああ、でも……十五代目(慶喜公)だけは協力を得られませんでした」

「後輩!」

「嫌だったのね。良い子ちゃんな年下の先輩に協力するの」

「分るわ~後から生まれた奴の方が出来がイイって重宝されるの、なんかモヤるよな~」

「ましてや、十五代目は徳川幕府を終わらせた最後の将軍だ。思うところもあっただろうに……」

「人間のプライドって、面倒臭いですね」

 

 江戸(東京)、ひいては日本全土に重篤な危機が迫っている状況ということか、この『犯罪多重現象』は。

 武功における能力も逸話もないタイプのサーヴァントが召喚されるというのは、それ相応の絡め手が必要ということだ。その絡め手が、順動丸だ。

 米花での旅路には、船が必要ということだ。

 

「こうして英霊として召喚はされましたが、僕は与えられた将軍(システム)としての役目に準じていただけです。自分からは、何も行動したことはありませんでした……こんな僕では、与えられた役目に徹することしかできませんが、改めてどうぞよろしくお願いいたします」

「そんなことないよ」

 

 後世の創作の範疇でしかないが、立香は知っている。

 望まぬ政略結婚で一緒になった妻を慈しみ、手を取って共に幕末の混乱を生き抜こうとした若き将軍の姿を。利権と欲望と恐怖と保身と、変わりゆく時代の動揺の中で築いた美しい絆。彼の生涯を知る者たちは、それを知っている。

 

「本契約だ。よろしく、徳川家茂」

「はい。葵の御紋と妻の加護に誓い、藤丸立香に従います」

「……ん? 妻、って……アンタ、既婚?!」

「はい。この姿の頃に、妻と婚姻しましたので」

 

 幼い後輩然とした姿に見合わぬ大らかで穏やかな、それでいて父性をも感じさせる空気を纏うようになったのは……真名を取り戻し、かけがえのない女性の名を思い出したからである。

 

 

 

***

 

 

 

 充電中の携帯電話が鳴った。

 スマートフォンが主流となった中で、未だに二つ折りの携帯電話――所謂、ガラケーを使い続けるのは、これは彼から贈られた物であるからだ。

 同じく、彼に買ってもらったストラップを下げたそれを充電器から外して着信者の名前を目にすると、ちょっとの不安と高鳴る期待を胸に通話ボタンを押した。

 

「もしもし、新一?」

『よ、よう……蘭』

「阿笠博士に預けた誕生日プレゼントは届いた? どう?」

『ああ。今、着ているよ。真っ赤で派手なポロシャツだな……すげー着心地が良い。気に入ったよ』

「でしょ! 素材も肌触りも良かったから、それを選んだのよ。良かった~」

『……蘭』

「どうしたの?」

 

 誕生日プレゼントの感想にしては随分と神妙な声色に蘭は訝しんだ。どうしたんだ、またしばらく帰れないとか、今度は約束できないとか言い出すのか。

 

『……悪かったな。怖い思いをさせちまって』

「怖い思いって、この間の爆弾のこと?」

『オレがお前を巻き込んじまったみてーなもんだし。最後には、おめーに選ばせちまったし……』

「それが何だって言うのよ!」

『ええ?!』

「新一に振り回されるのは今更でしょ! 確かに、怖かったけど……来てくれたじゃない」

『へ?』

「待ち合わせの時間には遅れたけど、新一はちゃんと来てくれたでしょ。それで十分よ。もう! 誕生日プレゼントをもらった時ぐらい、素直に喜びなさいよ!」

 

 きっと、電話の向こうではまた難しい顔をしている。

 確かに、米花シティビルは大きな被害が出た。だが、蘭はこうして生きている。映画は観られなかったし、新一へのサプライズも失敗したが、大きな怪我もなく平穏な日々が戻って来た。

 誕生日プレゼントを受け取った報告のために電話をしてきたのなら、率直に感謝の言葉を述べよ。まるで現国の試験のような蘭の物言いに、新一が呆気に取られているのは言うまでもない。

 

『あ、ありがとうな。誕生日プレゼント……すっげー嬉しい』

「それでいいの! 今回は駄目だったけど、今度は絶対、映画に付き合ってよ!」

『了解。まだしばらく帰れそうにないけど、おめーとの約束は必ず守るからよ。じゃあな、蘭』

 

 微かな声だけの逢瀬を終えて、新一は――コナンは、新しく買い換えた新一名義のスマートフォンの通話を切った。

 場所は阿笠邸。結局渡せなかった赤いポロシャツは、阿笠を経由して新一に渡され、今、着ている。身体の三分の二が赤いポロシャツに包まれたコナンは、自身の右手の小指を凝視しながら溜息を吐いていた。

 

「どうしたのよ。小指を見つめて」

「……ない。蘭と繋がった赤い糸」

「コナンのままじゃ、駄目なんじゃないの?」

 

 赤いポロシャツがぶかぶかのままじゃ、赤い糸も出るに出られないのではないか。哀がそう指摘すると、コナンはがっくりと項垂れた。




何が凄いって、公開当時の新一と蘭は付き合っていなかったのです。
付き合っていないのです!!
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