犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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隙間の物語01

 少年探偵団の依頼窓口は元太の下駄箱である。何度も教師に注意をされているが、難事件の依頼募集中の張り紙を剥がす気はない。

 そこに依頼の手紙を入れるシステム(?)になっているが、今日も今日とて下駄箱は空っぽだ。元太の外履きしか入っていなかった。

 

「今日も依頼来ねーな」

「最近、少年探偵団の活躍の場が全然ないですね」

「依頼がねえってことは、事件がねえってことだろ。探偵が暇ってことは平和ってことだ」

「いや、違う……誰かがオレたちの事件を横取りしてんだ」

「はぁ?」

 

 この下駄箱に事件の依頼が来ないのは今に始まったことではない。来る時は来るが、来ない時の方が圧倒的に多いのだ。

 なので、元太が神妙な顔をして横取りなんて言い出してしまったため、コナンは呆れた声を出してしまった。

 

「横取りって、誰がそんなことするんだよ」

「そりゃ、オレたち以外の探偵団だよ。ライバルがオレたちに来るはずの事件を横取りしてんだ!」

「はっ、ライバル……もしかして、カルデア探偵局ですか?」

「それだ! そのカステラの奴らがオレたちから事件を横取りしてんだ!」

「カステラじゃなくて、カルデアよ」

「あのなー! 子供のごっこ遊びとプロの探偵を同列にするんじゃねーよ」

 

 いくらこの街に探偵が増えたと言っても、小学校に(勝手に)窓口を設置している子供のごっこ遊びとプロの探偵事務所の商売が競合することはない。言いがかりも甚だしい。

 が、どういう訳か、彼らは藤丸立香率いる『カルデア探偵局』を自分たち『少年探偵団』のライバルだと認定しているのだ。自分たちが暇なのを彼らのせいにするな。冤罪だ。

 

「金平糖のおっちゃんはお菓子くれる良い人だけど、他の奴らは怪しいぜ。特に、あの探偵。笑い声なんて仮面ヤイバーの怪人みてぇだ」

「確かに……突然、この米花市に現れて、あっと言う間に有名な探偵になりました。怪しい外国人ばかりの探偵事務所……怪しいです!」

「でも、横取りなんて悪いことしないよ。サリエリ先生は良い人だもん」

「歩美ちゃん。サリエリさんは良い人かもしれませんが、他のメンバーが悪人ではない可能性はゼロじゃないんですよ」

「よーっし! 今日の少年探偵団の任務は、怪しいカステラ探偵局を調査するぞー! おー!」

 

 だから、カルデアだって。

 妙に張り切る元太に乗せられて、光彦と歩美は走って下校して行った。行き先は恐らく、調査対象となってしまった『カルデア探偵局』の事務所だろう。

 ご迷惑をおかけしてしまう。

 

「別に、良いんじゃないの。あの子たちに危害を加えるような人たちじゃないし。また、金平糖をもらって帰って来るでしょ」

「それならいいんだけどな」

 

 こっ酷く怒られなければいいが……まあ、そこまで子供に厳しい人もいなかったから、邪険に追い返されるということはないだろう。

 哀と共に子供たちを見送ったコナンは、特に深入りせずに静観することに決めた。あの子たちが勝手に暴走することは、今に始まったことではない。

 と、いうことで。元太、光彦、歩美の3人は(彼ら曰く)怪しい『カルデア探偵局』へと突撃して行った。

 そして、事務所の床に並んで正座していた……彼らを見下ろすように、クハハ怪人ことエドモン・ダンテスが鋭い視線を降らせている。

『カルデア探偵局』があるのは米花町の住宅街にあるマンションだ。宣伝のチラシに住所が載っていたと、歩美の案内でマンションへ忍び込み、簡素な看板に掛けられている探偵局の扉の隙間から中を覗き込むと……逆に彼らを覗き込んでいたロボと視線が合い、悲鳴を上げた。

 で、バレた。捕まった。現状、これである。

 

「少年探偵団、だったか。何が目的で我らが探偵局を覗き込んでいた。よもや、事件解決という救済を求めた訳ではなかろう」

「そ、そんな風に脅されても、絶対に喋らねぇからな!」

「そうです! ボクたちは少年探偵団! 絶対に、貴方たちの正体を暴いてみせますからね!」

「正体……」

「わ、悪い人じゃないなら、正体を言えるでしょ」

「つまり、おまえらは俺たちが悪人とでも思ったのか。仮面ヤイバーの怪人のように」

「や、やべぇ……クハハ怪人にバレてんぞ!」

「ま、まだです。まだ全部推理されていません。流石、ボクたちのライバルです」

「正直に話しちゃおうよ。今なら、怒られないよ」

 

 コソコソ内緒話を始めたが筒抜けである。

 子供らしい好奇心と行動力で事を起こしたのだろう。クハハ怪人とかいうあだ名を付けられてしまったエドモンは、彼らにとっては怪しい人認定だったようだ。

 それか、敵情視察か……子供でも一人前に探偵気取りなのである。

 怪しい集団、好敵手認定している探偵、突如街に現れた異邦人――つまり、カルデア。

『カルデア探偵局』を調べに来たのだろう。お前らは怪しい!と、突き付けてあわよくばその正体を暴いて蹴落とそうともしているのかもしれない。

 逆に目的をエドモンに暴かれているが、彼らは気付かれていないと思っている。まだ隠し通せていると思っている。

 ならば、児戯に付き合おうか。無駄に怖がらせて探偵局の評判に響くのはよろしくない。

 

()()で口を開かないのなら……尋問、否! 拷問をするしかあるまい」

「ご、拷問!?」

「そ、そんな風に怖がらせたって、ボクたちは絶対に話しませんよ!」

「そうだそうだ! 何だってオレたちは……」

「少年探偵団!」×3

「……傭兵、あれを」

「……(スっ)」

 

 正座のままポーズを決めた3人を尻目に、エドモンはヘシアンにナニかを要求した。

 取り出したるは謎の四角い物体。目にした子供たちがゴクリと息を飲み、膝の上で握る拳に更に力を入れたのが見えた。

 さあ、拷問を始めよう。

 

 

 

 ジュワ~~―――

 

 

 

 ヘシアンは取り出した謎の四角い物体にサラダ油を並々と注ぎ、熱々に熱する。適温は160~170度。

 熱々の油の中にそっと円い生地を入れる。一気に数を入れてしまったら油の温度が下がってしまうので、一回に二、三個を目安にするといい。と、付属のメモに書いてある。

 3分ほどで生地がふっくらと狐色になる。ゆっくりと引っくり返して反対側にもしっかりと火を通す。

 謎の四角い物体はフライヤー。外はサックリ、中はふわふわに揚げた生地はリング状……油の中から引き上げたドーナツに粉砂糖を振りかければ、揚げたての極上ドーナツが出来上がったのだ。

 

「……(第一弾、揚がった)」

「ド、ドーナツだ! 美味そ~!」

「知人から譲り受けた絶品のドーナツ生地だ。付属のメモの通りに揚げれば、このように完璧な仕上がりに……さて、揚げ菓子は揚げたてが最高に美味いだろう。さあ、口を開け」

 

 ヘシアンがドーナツを揚げている間に、エドモンはコーヒー豆を挽いていた。

 子供でも分かるコーヒーの良い匂い。美味しい揚げたてドーナツと、香り高いコーヒーの組み合わせ……元太の腹が盛大な音を立てて空腹を訴え、口からは涎が垂れた。

 

「げ、元太君!」

「はっ! あ、あっぶねー! 探偵団団長が、そんなドーナツで口を開くと思うなよ! うな重持って来い、うな重!」

「シュガードーナツでは足りないか。では、これはどうだ」

「……(取り出すハチミツとチョコレートソース」

「更に……」

 

 揚げたてのドーナツにハチミツやらチョコレートソースをかけてトッピングを施していく。素朴な狐色のドーナツがもっと甘く華麗にドレスアップされる様子に、元太だけではなく歩美と光彦も生唾を飲み込んだ。

 更に、更に……!華麗にめかし込んだドーナツの隣に、バニラアイスを添える。ドーナツの熱に触れたバニラアイスが溶け、ドレスアップしたドーナツを冒涜的に白く染めた。

 

「さあ、そろそろ午後3時……口を開け」

「~~~! い……いっただきまーーす!」

 

 元太、陥落。

 

「元太君が!」

「でも、ボクと歩美ちゃんがいます。ボクたちは絶対に屈しませんよ!」

「そうか。では、今なら……猫も付いて来る」

「ミャァ~~ン」

 

 どこから取り出したのか、エドモンの腕には黒猫が乗っていた。

 毛並みの良さそうな隻眼の猫は、空気を読んでいつもの1.5倍増しの猫撫で声を出して子供たちを誘惑した。

 

「猫ちゃん! 可愛い~」

「ドーナツを食し、この黒猫を存分に撫でるが良い。写真も許可しよう」

「ニャァ~~オ」

「わぁぁぁ……!」

 

 歩美、陥落。

 

「歩美ちゃんまで……! 残るはボクだけ。絶対に、ボクは話しませんからね!」

「ほう、粘るか」

「はい! それに、このコーヒー……苦くて飲めませんからね!」

「では、こうするか」

 

 淹れ立てのコーヒーを大きめのマグに移し、コーヒーの香りを損なわない程度にたっぷりの砂糖を入れる。決して沸騰させず、人肌ほどに温めた牛乳を注いで混ぜると、真っ黒いコーヒーがまろやかな茶色になった。

 

「コーヒー牛乳だ」

「……!」

 

 光彦、陥落。

 こうして、『少年探偵団』の3人は、おやつのドーナツとコーヒー牛乳をご馳走になり、プルートーを思う存分撫でて帰った。

 この一部始終を、ロボは茶番を見る目で眺めていたという。

 

「伯爵、伯爵……ボクを利用しましたね。そして、マスターが楽しみにしていたドーナツを全て与えましたね」

「……」

「新発売のささみチーズ味のちゅーるで肉球……手を打ちましょう」

「口止め料か」

いっぱい可愛がられました(散々身体を張りました)からね。それぐらいの報酬があっても良いでしょう」

 

 子供の相手って大変なんですよ。と、プルートーは接待モードを終えてニャアと鳴いた。




黒猫プルートー:接待モード
人懐っこくて甘えん坊な媚び媚び猫ちゃんムーブを無差別に乱射して人間を接待するモード。猫カフェのエースも習得しているらしい。
主に情報を聞き出したり、初見の人間におやつをもらったりする際に使用する。
いつもよりも1.5倍増しの猫撫で声を出しながら人間に擦り寄り、じゃらしにはいつも以上に反応し、無防備にお腹を見せる仕草は猫派ではなくとも思わず破顔する。
文字通りの猫被りである。お前には人としての尊厳はないのか。
「まあ猫ですから」
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