犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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実はですね、この回で全部解決するつもりだったんですけど、文字数の配分を誤りました。
なのでちょっと長くなりました。
長くてごめんよ!


死者の食卓05

 食堂の一角にあるマリー・アントワネット主催のお茶会、サロン・ド・マリー。生前の彼女に関わりのあるサーヴァントや、カルデアに召喚されてからの知己が招待され、可憐で穏やかな時間を過ごす癒しのお茶会だ。

 

「犯人は、やっぱり婚約者の女じゃないかな。よくある話さ、年の離れた若妻が遺産欲しさにお盛んな愛人と共謀して年老いた夫を殺すってね」

「下品な発言を慎め、アマデウス」

「それじゃあ、君は推理とかできるのかい。サンソン医師」

「うむ……でも確かに、テーブルに並んでいた大量の料理はどれも高脂質・高カロリーの物。健康上の理由で酒を止められた方にそんな料理を振舞えば、早死にする可能性は高い。あの料理は婚約者の女性が作ったのだとしたら、やはり彼女が」

 

『カルデア探偵局』の依頼内容は、こちらのノウム・カルデア内でも情報共有されている。中には、立香たちが手に入れた情報を基に独自の推理に興じている者たちもいた。

 お茶会の話題としては少々物騒だったが、サロン・ド・マリーでも本日の話題は奇妙な死者の食卓だ。アマデウスとサンソンは、参道ひとみ犯人説を支持するようである。

 

「私は、婚約者の女性は犯人ではないと思うわ。彼女は彫刻家の男性を深く愛していたの、勿論男性も彼女を愛していた……だって、ワインを全て処分してしまったのでしょう。お酒を止めたのはきっと、若い婚約者と一緒に1日でも長生きしたかったからよ」

「それが真実なら、とても素敵なお話ですね王妃」

 

 柔らかく微笑むマリーと、彼女に釣られて麗しい顔を綻ばせるデオン。

 物語を穿って見るならば、どうしても那須野とひとみの年齢差に目が行ってしまう。だが、年齢差の結婚=遺産目当てなどありふれすぎてマンネリだ。

 それに、遺産目当てだと推理するならば決定的なミスがある。ひとみは那須野の遺産を相続できないのだ。

 

「はい! わたしも参道ひとみさんの遺産目当て説は違うと思います。かの特異点の法律では、那須野氏の遺産は全て肉親である淑子さんが相続し、婚約者の立場であるひとみさんに相続権はないのです。なので、本当に遺産目当てで那須野さんを殺害したのなら、籍を入れてから実行に移すと思います。遺言状の類があれば少し変わってきますが」

 

 流石ミステリーを嗜むだけはある。サロン・ド・マリーに横から失礼したマシュの推理は理に適っていた。

 ところで、立香のオペレートをしているはずのマシュが、何故食事時でもないのに食堂にいるのか?

 それは、彼女の隣にいる名探偵に連れられてきたからだ。

 

「確かに、ドクター・サンソンの言う通りこの食卓のメニューに偏りがある。マスターたちの意見の中では、ミスター・サリエリの発言が最も的を射ていた」

「まあ!」

「え、何? 正解しちゃったの、あの砂糖大好きおじさん」

「マスターたちへ材料(ヒント)を提供するために、その道のプロに意見を訊きに来た」

 

 ホームズが言うその道のプロというのは、厨房内で夕食の仕込みをしているキッチン組。及び、子供サーヴァントたちにせがまれて幸せのふわふわパンケーキを焼いているゴルドルフ新所長のことだ。

 厨房に立つ者たちへ那須野尊史の死亡現場にあった料理の写真を見てもらえば、三者三様におかしな点を指摘した。

 

「これは……バランスが悪いな! 全てにおいて!」

「野菜が少ないね。もっと、葉物野菜のサラダとか作らないと」

「このローストチキンの焼き具合、随分と適当だ! これでは焼きすぎだ! 折角のジューシーな鶏の肉汁が全て流れてパッサパサになっている!」

「果物はなかったの? カットすればデザートになるのに」

「それに、全て加熱した料理だ。このアヒージョのホタテを、マリネやカルパッチョにする技量はなかったのか」

「海老のカクテルや冷製テリーヌが欲しいところだな」

 

 エミヤ、ブーディカ、ゴルドルフの意見をまとめると以下の通りである。

・メニューには野菜類が少なくサラダがない、デザートになる果物類もない

・全て加熱されている料理である

・料理は随分と適当に作られている

 

「さて、彼らの意見と容疑者3名から聞き取った情報を照らし合わせれば、おのずと真実は見えて来る。この事件は、非常に初歩的なものだ。私が推理せず(チートがなく)とも、マスターたちだけで解決できる」

「サラダがない食卓……っ! 分かりました。マシュ・キリエライト、犯人が分かりました! 先輩!」

 

 マシュも推理が構築したように、エミヤたちの意見を推理の材料とした立香たちも答えが出ていた。

 

「立香、石橋を叩く意味で尋ねよう。誰から()の声がした?」

「……編集者の、根岸浩樹」

 

 やはり、聞こえたのは立香だけだった。

 根岸と対面した瞬間、猫の鳴き声に似たか細く甲高い音が聞こえたのだ。

 それは、先日の杯戸町のショッピングモールで聞いたものと全く同じ。立香の中に、この人が犯人であると根拠のない確信をもたらす猫の声は、やはり今回も推理の過程をすっ飛ばして答えだけ教えてくれたのだ。

 

「ああ、犯人は根岸だ」

『こちらには猫の鳴き声の記録はありません。やはり、先輩にだけ聞こえる声のようですね』

「犯人が分ったなら警察を呼ばないと」

「待て。少し時間が要る。先ほど傭兵と狼王に使いを頼んだ、その連絡がまだ来ていない。「探偵」を演じているのだ、それらしい演出を用意してやらねばならぬ」

「……そこに、希望は?」

「ある」

 

 エドモンがヘシアン・ロボに何を頼んだかは分からないが、彼がそう言うならばこの事件は希望あるラストで幕が下りるのだろう。だが、そろそろ偲ぶ会がお開きになる時間だ。

 

「楽長、時間を稼いでくれ」

「良かろう。故人への鎮魂歌を贈ると家主に伝える」

「お願いします、サリエリ先生」

「魔女よ」

「あの3人を集めるのでしょう。推理の披露が始まるのね」

 

 サリエリとジャンヌが紺野の元へ走り、立香とエドモンはお互いの答えを確認する。

 彼らから少し離れた場所では、小五郎が頭を悩ませている。どうやら、彼の推理の進行は芳しくないようだ。

 

「うーむ……まさか、根岸さんが見た那須野氏さんは犯人の偽物で、根岸さんが帰った後で料理を……」

「だから、何であんなにたくさんの料理をする必要があった訳?」

「そ、それは……」

「たくさんの料理って言えばさ。この間の夕ご飯も、テーブルに料理がたくさん並んだよね。餃子とか、お好み焼きとか」

「おや、何でそんなに料理が?」

「それはですね。誰かさんがアイスを探した時に、冷蔵庫から出した冷凍食品を入れ忘れたせいで解凍されちゃったんです」

「あ、スイマセン」

 

 先日の毛利家の食卓は、事故で解凍されてしまった冷凍餃子や冷凍お好み焼きなどの冷凍食品の処分パーティだったのだ。アイスを探していた犯人は蘭に睨まれた小五郎である。

 

「でも、冷凍食品でよかったね。これが生物(なまもの)だったら、もっと大変なことになってたもんね」

「……ん、生物…っ! 分かった! 何故、犯人は大量の料理を作ったのか。そして、犯人の正体が分かったぞ!」

「流石! 名探偵毛利小五郎だね!」

 

 今、コナンの何気ない発言が事件解決のヒントになっていなかったか?

 彼の発言が名探偵の中で答えを導き出した……その答えを知っている者たちなら気付くだろう、無邪気に発せられた()()()()()()()()()ヒントに。

 

「クハハハハハ! 聞いたか立香。あの少年、やはり相当な切れ者だ」

「あいつがオッサンを操っているんじゃね?」

「いやそれは流石に……」

 

 子供の姿をしたサーヴァントじゃああるまいし。アンリマユの発言を否定した立香だったが、勘繰ってしまう気持ちは分かる。

 先日の事件で証拠を見つけたことといい、年齢の割には博識で熱心なシャーロキアンといい、江戸川コナンという少年は見た目に不相応な知能を持っているのかもしれない。

 サリエリが屋敷のオルガンで即興の演奏会を開催したお陰で、容疑者3人を足止めできた。ジャンヌに連れられてきた紺野、別府、根岸と、双方の依頼人である淑子とひとみもやってくると、役者は揃った。探偵のための舞台は整った。

 

「那須野尊史さんの死の真相が分かりました。やはり、彼は他殺だったのです。那須野さんを殺害し、テーブルの上に大量の料理を並べた犯人は……根岸浩樹さん、貴方だ!」

「ええ?!」

 

 小五郎の人差し指が真っ直ぐに根岸に突き付けられた。

 そうだ、彼がこの事件の犯人だ。

 




・那須野尊史:被害者で有名な彫刻家。「茄子」

・的場淑子:那須野の姉。弟の死に疑問を感じている。「トマト」

・参道ひとみ:那須野の婚約者。歳の差婚で淑子に怪しがられている。「人参」

・紺野大策:那須野の幼馴染の実業家。月曜日の午後に那須野を訪ねている。「大根」

・別府時哉:レストランオーナー。火曜日の午後に那須野を訪ねている。「キャベツ」

・根岸浩樹:美術雑誌の編集者。水曜日の朝に那須野を訪ねている。「ネギ」

・井本:美術雑誌の編集長で根岸の上司。「芋」
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