霊基に異常が出てからしばらく経つ。突如、異能が出現した。
何だこれは?
闇夜に溶け込みそうなほどに黒い異形。指一つ動かせば奴らが湧いて出て来るが制御が効かない。
私が、この能力の使い方を知らないからか。否、違う。この能力の正体を
『人理継続保障機関フィニス・カルデア』――今は『ノウム・カルデア』か。
そうか、そうか……コレは、そういう存在か、こういう名前か。
ならば、私は、ワタシは、僕は、ボクは……ああ、そうか。ボクは既にキャスターではない。
ボクは―――
■■■■■■■■■■■の手記より
『少女は預かった。無事に帰して欲しければ10億円を支払え。拒否した場合、少女の父親をマスコミに公表する。支払い方法は追って連絡をする』
『身代金10億円を電子マネーとして、以下の口座に振り込め。本日の午後7時までに振込が確認されない場合は、少女の父親をマスコミに公表し、亡骸を捨ておこう。紋代直桜を無事に返して欲しければ10億円を速やかに支払え』
先の脅迫状と同じく、蛇浦のグループウェアアカウントから身代金の支払い方法を指示するメールが届いた。口座は海外のスイス銀行、現金をいくつかの電子マネーに変換することによって入金手段を分散させている。
紋代のスキャンダルだけではなく、直桜の身の安全までをも人質にとられてしまっている状況であるが、紋代家の人間は身代金を素直に支払う気はなかった。あろうことか、身代金を値切ろうとしたのである。
「し、しかし、犯人を刺激して直桜さんが殺されでもしたら……」
「蛇浦……あの女にそんな度胸があると思うか? ハッタリに決まっている!」
「でも、あの子に共犯者がいる可能性はゼロではないでしょう。共犯者が直桜を殺して、遺体をどこかにでも捨てたら、保護責任を問われるのはこっちなのよ!」
「じゃあ、どこから10億もの金を出すんですか! 枡山自動車エンジンの成果もまだ出ていないし、母さんの個人資産も頼れないんだ。おい柏木、親父の隠し財産とかないのか? お前のことだ、隠し口座の一つや二つ知っているんじゃないか?」
「そ、そんなものありませんよ!」
探偵たちを締め出して身内のみの話し合いを始めた『紋代造船』であるが、直桜を心配して一刻も早く身代金を用意しなければ……なんて発言、一言も出て来なかった。
別室へと移動する彼らを追って、『カルデア式探偵七つ道具』の盗聴&発信機式神が室内へと忍び込む。外部の者には聞かれたくないデリケートな話を、こっそりと盗聴させていただいていた。
『こうなれば、先に蛇浦を始末するか。柏木、お前もトロピカルランドへ行け。毛利探偵たちに気付かれるなよ……先に蛇浦を見付けて直桜を取り戻せ。そうすりゃ、身代金を支払う必要もない』
『……承知しました』
『任せたよ。わたくしは、部屋で休んでいるわ』
「まずいな。こっちが先に直桜ちゃんを見付けないと」
「マスター、こっちは終わったぜ」
「うん。俺たちも行こう……トロピカルランド」
蛇浦が直桜をトロピカルランドで連れ回している可能性は高い。目的なく捜すよりは、可能性の高い場所をしらみつぶしに捜索した方がいい。
アンリマユが一仕事終えてから、『カルデア探偵局』は小五郎の推理に従ってトロピカルランドへと向かうことになる。立香たちだけではなく、コナンたちも……彼もまた、眼鏡からツル型の盗聴器をドアの隙間から部屋の中へと滑り込ませて、立香と同じ会話を聞いていた。
「まずいな……こっちが先に
「コナン君、行くわよ!」
「うん、今行く!」
「トロピカルランドか……久しぶりだな」
蘭がトロピカルランドを訪れたのは、事件に巻き込まれて記憶喪失になった時。そしてその前は、空手の都大会優勝のお祝いとして、新一と。
あれから、新一は姿を消してしまった。あの時感じた、新一と二度と会えなくなるかもしれないという嫌な予感はまだ残っている。新一は蘭の前から姿を消したままなのだ。
小五郎がレンタカーを、ヘシアンがワゴン車を走らせて1時間ほど。米花市郊外にある巨大遊園地トロピカルランドに到着した。
休日のためか園内の駐車場は混み合っており、賑やかな音楽と楽しそうな声が園内から聞こえて来る。
「入園チケットはオンラインで購入済みよ。すぐに
「ありがとう、ジャンヌ」
「行きましょう! ……っ」
立香に続いて麟も直桜を捜しに行くためにワゴン車を降りようとしたが、隣に乗っていたサリエリに腕を引かれて降り損ねてしまう。その隙に、ワゴン車のドアが閉められ鍵がかけられてしまった。
勿論、麟はそれを許さずに窓を開けて立香とエドモンに抗議をした。
「何で?! わたしも直桜を助けに行く!」
「駄目だ。楽長、彼女を三谷家まで送り届けてくれ」
「でも……」
「麟さんが直桜ちゃんを心配する気持ちはよく分るよ。でも、犯人がいる危険な場所に君を連れて行けない。依頼人の身の安全を守るためにも、君はここで帰宅してもらう」
「……」
「約束するから。必ず直桜ちゃんを君の元に送り届けるから」
「……絶対に、約束ね! 守れなかったらポンコツ探偵だって訴えてやるから!」
「あはは」
「楽長、例の件も」
「承知した」
麟の小指と立香の小指が絡み合い、指切りをして約束をした。契約のように厳格に、お願いのように戯れに……破ったら針千本飲むだけではなく、今後の探偵家業の信頼も危うくなる約束をした。
麟を送り届ける役目をサリエリとヘシアン・ロボに任せ、立香はコナンたちと共にトロピカルランドへと入園した。
入園のために、手荷物検査だけではなく金属探知ゲートを潜らなければならないほど厳重な警備が敷かれているのは、凶器やら武器やらを持ち込んだ犯人が園内で事件を起こしたからだろう。殺人事件は起きているが、人気は一向に衰える気配を見せていない。
しかし、この広い遊園地の中から2人の人間を探し出すのは骨が折れそうだ。
トロピカルランドは五つの島となるエリアに分かれており、正面ゲートから入園するとシンボルであるトロピカル城がある『夢とおとぎの島』に入る。キャラクターやキャストたちがゲストを出迎え、夜になるとパレードも行われるメインストリートがある島だ。
「仕事じゃなきゃ夜まで遊び倒したい場所ね」
「どうする? 呼び出しの放送でもしてもらう?」
「駄目だ! 犯人を刺激すれば、直桜ちゃんの身に危険が及ぶ可能性がある」
「ならば……あそこから探すか」
エドモンが見上げたのはトロピカル城だ。パンフレットによると、城の塔には双眼鏡が設置されており、園内全体を見渡すことのできる展望台になっていた。
「トロピカル城! あそこから、全部の島を見渡せるそうです」
「……な、何手かに別れましょう! 私は地上から直桜ちゃんを捜すので、『カルデア探偵局』のみなさんは展望台からお願いします!」
と、紋代家から預かった蛇浦明紗と直桜の写真を取り出した小五郎は、若干顔を青白くして隣にある『幻想と怪奇の島』へと走って行った。蘭によると、小五郎は高所恐怖症らしい。あの高さの展望台は駄目だったようだ。
トロピカル城の展望台へと向かい、各々が蛇浦と直桜の写真を片手に双眼鏡を覗き込んだ。ただでさえ人が多い中で、たった2人の人間を探し出すのは困難だ。だが、麟の言っていたトロッピーのぬいぐるみとポップコーンバスケットを頼りに捜索していると、コナンが声を上げた。
「いた!」
「どこ?!」
「隣! 科学と宇宙の島の噴水広場!」
コナンに続いて立香も双眼鏡を覗き、『夢とおとぎの島』に隣接する『科学の宇宙の島』へと視線を合わせる。島と島を繋ぐ橋を渡った先にある噴水広場で風船を配っているトロッピーの着ぐるみに手を振る子供の中に、ぬいぐるみを抱いた女の子がいる。
リボン付きのカチューシャを身に着けたその子は細川直桜に間違いない。とすると、彼女が手を繋いだサングラスの女性が蛇浦だ。写真と見比べる……間違いない。
「行っちゃう、急がないと!」
展望台を下りて『科学と宇宙の島』へと急ぎ走る。が、彼らが噴水広場に到着した頃には、既にトロッピーの姿はなく直桜を連れた蛇浦もどこかに行ってしまっていた。
「見失ったわね」
「ここから別れよう。俺と清水はあちらの冒険と開拓の島へ、立香と魔女はここ、科学と宇宙の島を捜索だ」
「わたしとコナン君は、夢とおとぎの島に戻って捜してみます」
「分った!」
エドモンの提案で三手に別れたところで、時間を知らせるチャイムが鳴った。近未来的な電子音のチャイムで時計を確認すると、午後3時になっている。
身代金振込みのタイムリミットは午後7時。あと4時間だ。
三手に別れて三方向に散った。が、家茂だけが噴水広場の中央で立ち竦み……何か困惑したように、周囲を見回していたのだ。
「……あれ?」
何か納得がいかないかのような、何かがおかしいと言わんばかりの表情をしていた。
「どうした?」
「いえ……今は、直桜ちゃん優先です」
「金魚を敷地内全域に。捜してくれ」
「はい」
家茂は金魚たちを水路や周囲の海へ潜らせた。使い魔のため、淡水生物の姿でも自在に海を泳ぐことができる。
湧き出た微かな違和感……彼に与えられた役目が、探偵へヒントを与える「目撃者」もしくは「証言者」だとしたら、役目に殉ずる性質を持つ家茂は、またナニかを見てしまったのかもしれない。
全ての始まりの場所、名探偵が消えた始まりの点となるこの地――『始発点遊園地トロピカルランド』には、ナニかがある。
『グラカニ』OPの踊る邪ンヌちゃんやぐだ子ちゃん可愛かったですね~。
……え、巌窟王?ミテマセンネー。