犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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今までは『Fate』側のキャラクターが『コナン』世界へ侵入していましたが、このエピソードからはコナンが『Fate』世界へ迷い込んだ世界観になっております。


犯罪多重奇頁 米花~積み重なる頁からの脱出~
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 例えば、コノ世に魔法があったとしよう。その魔法を使って、犯罪に手を染めたとしよう。

 鍵のかかった部屋に魔法を使って侵入し、密室の中で犯行を起こす。不可能犯罪だと、実現することさえあり得ない現場となってしまうだろう。

 魔法を使って人を呪い殺す。当然、証拠も何も残らない。凶器すら発見されず、下手をすれば被害者を操って自ら死を選んだかのように偽装することだってできるだろう。

 歴史に刻まれた事件の中にも、呪いや祟りなどと呼ばれた、一見すると非現実的なものもあっただろう。しかし、それらは全て科学によって成立した種も仕掛けもあるトリックだった。

「探偵」と「犯人」の間に、魔法などという非現実的で非科学的なモノは存在してはならない。それは、別の世界の話であるからだ。

 現実に、虚構(フィクション)を持ち込んではならない。魔法使いたちと探偵は、相容れない存在であるというのは、魔法使い気取りの怪盗との対決で実感を抱いている。まあ、似たようなものだろう。

 もし、もし本当に、コノ世に魔法があったとしたら……まあ、実際に対面してみないとどう行動するかは分からないものだが、その魔法すらも暴いてみせよう。

「探偵」として。

 

 後に、「探偵」がその目で非現実的で非科学的な存在に対面した時、それは魔法ではなく「魔術」と呼ばれるモノだと知るのは……乱雑に積み重なった、(ページ)の中での出来事である。

 

 

 

***

 

 

 

 目を開けていられない閃光の中で、誰かの手が細腕を掴むのを感じ取った。だが、掴んだその手の主さえも巻き込んで、大きな力に引き寄せられてしまうのも感じ取った。

 引っ張られるというよりは、吸い込まれるという感覚。プールの水を抜く排水溝が開けられ、排水される水流に巻き込まれているようなそんな感覚……コナンの軽い身体は、彼の腕を取った立香と共にどこかへと吸い込まれていったのだ。

 水流ではないものに揉まれて、目もやられて、やっと視界が正常になったと思ったら周囲は闇だった。そして今度は浮遊感、空中に放り出されて下へ下へと落ちていく。

 暗闇の中で高所に放り出され、重力に逆らえずにコナンと立香は落下していったのだ。

 

「え……えぇぇぇ!? 何だこりゃーー!?」

「誰か! 誰でもいいから着地任せたーー!!」

 

 コナンの身体を強く抱き締めて、立香は叫んだ。すると、巨大な鳥の羽ばたきにも似た音が聞こえて来た。

 黒い闇を抱きながら燃える青い炎と伴って飛翔するソレは、鳥ではない。黒い外套をなびかせて縦横無尽に駆ける彼は、立香ごとコナンを抱えて彼らを浮遊感から掬い上げると闇しか見えない奈落の底へと足を着ける。

 途中でナニかを蹴って落下の勢いを殺し、被るポークパイハットが飛ばされないように片手で押さえながら彼らを下ろした。

 

「ありがとう、エドモン」

「エドモン……ダン、テス」

「おまえも引き寄せられたか。江戸川コナン」

 

 探偵エドモン・ダンテス――否、違う。彼はいつも着けている丸眼鏡をかけておらず、季節外れの黒い外套を羽織っている。しかも、その外套は青黒い炎を纏っているではないか。

 違う。彼は、コナンの知る「探偵エドモン・ダンテス」ではない。微かな既視感(デジャヴ)がある彼の姿を見て、コナンは直感的にそう思ったのだ。

 

「マスター!」

「みんな! よかった、すぐ合流できた」

「彼も紛れ込んでしまったか」

「……アンタたち、一体何者だ?」

「探偵の目には、我らは何者に見える?」

「コスプレ集団、ってところかな」

「あ、やっぱり」

「ガチガチの鎧騎士連中よりはライトなコスプレですけどねぇ」

「うわっ! また出た! あの黒いの!」

「違う!」

 

 立香の背後からひょこっと現れた全身真っ黒な人型。トロピカルランドに出現したあの異形かと身構えたが、何やら違う種類(?)らしい。同一視されるのは嫌なようである。

 外套を羽織ったエドモン・ダンテス。

 鉢金のような飾りを着けて黒衣を纏うジャンヌ・エリス・オルタ。

 派手めのストライプのスーツに大きな十字架を剣のように刺すグリジオ・サリエリ。

 各々がゲームか何かのキャラクターのコスプレでもしているような光景である。

 

「あの(仮称)全身黒タイツとは、モテたいって動機から学園祭でコピーバンドやるウェイ系の奴らと、ロックスターぐらいの差がありますから。あ、オレは後者なんでそこんとこよろしく」

「本当に、何者なんだよ。探偵ではない、訳あって探偵として活動する貴方たちの真の姿が、ソレってことか……話してもらおうか。隠しているんでしょう、色々と。例えば、実はプルートーを()()()()()()とか」

「……どういうことかな」

「歩美ちゃんが撮った写真だよ。以前、『カルデア探偵局』の事務所で撮られたプルートーの写真。キャットタワーに餌皿、玩具、猫を飼育するために必要な物がただ一つを除いて揃っていた。歩美ちゃんの写真には、()()が写っていなかった。それは、どうしてかな」

「あ、そっか!」

「サーヴァントは排泄しないので、猫砂は必要なかったんですよ」

 

 少年か少女か判断のつかない声が、どこからか聞こえた。エドモンの外套がもぞもぞ蠢いてひょっこり顔を出したのは、話題の渦中にある黒猫……だったのだが。

 この黒猫、今、喋らなかったか?

 プルートーから声が聞こえた気がした。ひょっこり顔を出した黒猫は、ひらりと立香の足元に飛び降りると身の丈に合わない縄のような長い首輪を揺らしていた。

 

「その節はどうも。お友達を接待させていただきました」

「……!? しゃ、喋った!?」

「はい、喋ります。猫ですが、サーヴァントでもありますの、で……」

「ど、どこかにスピーカーが付いていて、誰かが喋っているのか?!」

「違います! ボクが、ボクの言葉で喋っているんですよ~! もみくちゃしないでくださいー!」

「ところで、ここどこ?」

「家茂の船よ。覚えていないのですね、マスター。みんな、あの噴水広場から立ち上った光に吸い込まれたのよ」

 

 ジャンヌの言葉を聞いたコナンは、一旦落ち着いて周囲を見渡した。プルートーをいくら引っくり返しても首輪を調べても、声の出るスピーカーらしき機械は見当たらないのだ。

 暗闇の中で目が慣れて来た。上を見上げると空が見えない、闇が広がっている。

 その闇を貫くように、帆が張られたマストが伸びていた。足元は木造りの甲板、蒸気の音。自分たちは、船の上にいるのだ。

 

「マスターからいただいた令呪のリソースで、順動丸はこうして顕現できています。下を見てください、ここは海の上です。海と言っても、ただの海ではありません……実際に見ていただければ、分ると思いますが」

 

 清水慶――先ほどから「家茂」と呼ばれている彼までもが、和装に陣羽織というコスプレめいた格好になっていた。背中には葵の御紋。「家茂」というのはまさか、徳川家茂ということだろうか。

 彼、家茂の言葉を聞いたコナンは、もみくちゃしていたプルートーをリリースし、この船が浮いている“海”を覗き込む。腕時計のライトを点灯させ、暗い水面へ光を当てると本日何度目か分からない瞠目をした。

 

「何だこれは。紙? 水……海の下に、無数の紙が浮いている?」

「と、言うよりは、この海は紙でできている。いや、紙というより……」

「小説の原稿か、本からバラバラになったページみたいだ」

 

 エドモンと立香の言葉は的を射ていた。海という概念を付属するためだけの水面の下には、黒いインクで何やら文章が書かれた白い紙が敷き詰められている。それらは船が揺れる度に波打ち、揉まれ、されど破れることはない。

 頁の海に船が浮いている。実に非現実的、まるで夢の中に迷い込んだかのような光景に、コナンの脳内は落ち着かなかった。

 

「コナン君。君が信頼できる探偵と見込んで、俺たちの目的と正体を話そう」

「オレも答え合わせがしたいと思っていた。あるモノを回収するために「探偵」を手段としている貴方たちは、一体何者か。そして、あるモノとは一体なんなのか?」

 

 コナンの中では、彼らは危険な物質を回収するための捜査機関ではないかと踏んでいる。物語の登場人物、それも、冤罪被害者などの負の一面を持つ者たちの名をコードネームに持つ組織……。

 なので、立香の口から「魔術」の「ま」の字が出て来て、英霊やら聖杯やら、ゲームや漫画でしかお目にかかれない単語が次々と押し寄せて来ると……流石の探偵も、目を点にするしかできなかったのである。

 曰く、『巌窟王』のモデルとなった青年が、作品の知名度によって永遠の復讐者と位置づけられた存在。

 曰く、己を処刑した者たちへの憎悪を抱くジャンヌ・ダルクとして望まれ、創られた贋作の魔女。

 曰く、モーツァルト殺害伝説と、醜聞が広まったアントニオ・サリエリが混ざり合った灰色の男。

 曰く、狼王ロボとスリーピィ・ホロウの伝説(と+α)が、何故か合体してしまった一組の幻霊。

 曰く、ゾロアスター教にある「この世の全ての悪」として望まれ、悪その者とされてしまった平凡な青年。

 

「……って、信じられるか! そんな話!」

「まあそうだよね」

「喋る猫や巨大な狼、首から上のない人間を見ても信じないか」

 

 例え、目の前に喋る猫と身の丈3mもの狼と頭のない人間がいたとしても、そう簡単に信じられない話が押し寄せてきているのだった。




幕間の物語を野次馬しに行ったら見事に延焼しました。

ヘシアン!おまっ!めっちゃ喋るやんけ!!
もっと愉快なことさせときゃ良かった!
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