犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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 結果的に巻き込んでしまったコナンに、かくかくしかじかで全てを曝け出した。が、やっぱりそう簡単に信じてはもらえなかった。

 そりゃそうだ。立香だって、半ば拉致同然でカルデアへ連れて来られた頃は、魔術やらサーヴァントやら説明されてもそう簡単に信じられなかった。魔術の「ま」の字にも関わらない、平凡で一般的な生活を送って来たのだから。

 むしろ、コナンが組み立てていたという推理の方がまだ現実的だ。

 彼が零した、予想していた『捜査解明機関カルデア探偵局』の正体。物語の登場人物のコードネームを持つ、私設調査機関の構成員……魔術に関係のない人間からしてみれば、そっちの方がまだ信じられる内容である。

 

「つまり、彼らは歴史上の偉人や創作物の登場人物の概念を使い魔とした存在で、藤丸立香は使い魔……サーヴァントを使役する魔術師。清水慶もそのサーヴァントであり、正体は徳川幕府十四代将軍である徳川家茂である。で、この船は彼の能力で召喚した蒸気船である、と」

「その通り」

「さっき、トロピカルランドに出現した黒い奴らを攻撃したのも、魔術ってことかな」

「元は一般人だったけど、今は少しだけなら魔術も使えるよ」

 

 緊急治療の回復魔術、護身用のガンドや緊急時のオーダーチェンジなど。カルデアのマスターとなってからの立香は、訓練により最低限の魔術を習得している。専用礼装のサポートなしの状態では出力は劣るが、それでも(仮称)全身黒タイツを射抜くぐらいにはガンドの威力もある。

 魔術師の世界という、コナンにとっては並行世界……否、最早異世界にも近い話を飲み込み、時には思案しながら理解する様子は、やはりただの子供には見えない。

 さあ、ここからが本番だ。江戸川コナンを信頼できる「探偵」と見込んで……名探偵、工藤新一と見込んで真実を話した。

 きっと、彼もこの特異点の異変に関わっているはずなのだ。

 

「江戸川コナン君……いや、工藤新一。君は、何らかの理由で身体が縮んで子供になってしまった、そうだろう」

「……」

「そして、君は自分を幼児化させた犯人を追っている。その犯人とは……俺たちが追っている、聖杯の所有者!」

「……いや、それは違う」

「え……」

「そもそも、貴方たちは組織の存在を知らなかった」

「先ほども、眠りの小五郎の声で語っていたな。組織とは何だ……いや、まさか。おまえが縮んだのは、聖杯も、魔術すらも関係ないというのか」

 

 探偵とカルデアの間に、何か大きな、根本的なすれ違いがある気がする。

 

「待ちなさい、ちょっと整理させて頂戴! 工藤新一は何らかの理由で身体が縮んで子供になった。その()()は、若返りの妙薬のような謎の薬の影響じゃないの!?」

「まあ、そういうゲームに登場しそうな薬ではあるんだけど……」

「待って、マジで待って。一旦! 一旦、もう一度話を整理しよう!」

「情報が錯綜していますね」

 

 周囲の警戒や停船する順動丸はヘシアン・ロボと家茂に任せ、もう一度話を整理する。

 そもそも何故、カルデアは工藤新一を江戸川コナンたらしめた要員が若返りの妙薬だと思ったのか?

 実物を知っているからだ。魔術師が作る真作を知っている、この目で見ている。存在を認知している。だからこそ、幼児化と魔術がイコールで結びついたのだ。

 逆説的に言うと、魔術関連でなければ人間の幼児化などあり得ないという前提で捜査を進めて来た。が、その前提こそが間違っていたのである。

 

「……蘭ちゃんとトロピカルランドに遊びに来たら、黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃して」

「取引を見るのに夢中になり、背後から近付くもう1人に気付かず毒薬を飲まされた」

「その毒薬が何らかの作用を引き起こし、目が覚めた時には身体が縮んでいた……黒ずくめの男たちの正体が、“組織”の構成員ということか」

「え、つまり……消えた名探偵と特異点の異常は関係なかった!?」

 

 ジャンヌ、サリエリ、エドモンが復唱し立香が締めくくった。

 平成のシャーロック・ホームズ失踪の真実。他にも色々と、時々目撃される工藤新一のからくりも問い詰めたいところであるが、またまた場が混乱しそうなので触れないでおこう。

 彼は、工藤新一幼児化事件の犯人を知っていた。毒薬を所持する“組織”とは、此度の事件で柏木が言っていた“組織”と同一の存在だろう……その“組織”、魔術には全く関係ない。当然、聖杯を所有している訳ではない。

 何だろう。凄く深刻な雰囲気で切り出した話題を外した。滅茶苦茶恥ずかしい!

 

『話が落ち着いたところで、私たちも混ざってもいいかな? やあ初めまして。見た目は子供、頭脳は大人な名探偵! こちら、人理継続保障機関ノウム・カルデア。そして私は、レオナルド・ダ・ヴィンチだよ』

「女性でしかも子供っていう状態が混乱を招くからちょっと待って」

『ダ・ヴィンチちゃんを一から説明するのには、かくかくしかじかでは足りませんからね。あ、ちなみに私はサーヴァントではありません。魔術師です』

 

 カルデアからの通信が展開され、宙に浮かぶモニターの向こうからダ・ヴィンチちゃんとシオンがコナンを覗き込む。コナンの認識でもレオナルド・ダ・ヴィンチは男性であるため、万能の天才を名乗る幼女を目にしても訝しんだ視線しか送られなかった。

 で、本題に戻ろう。まずは、カルデア側からの情報である。

 

『まずは、今、立香君たちがいる場所ですね。その空間はトロピカルランドの下です』

「下?」

「地下ってことかしら?」

『位置的には地下に当たります。トロピカルランドの下に魔術的な空間が形成されていますね。光の柱が立った噴水広場、あそこが入り口だったのでしょう。徳川家茂の宝具の効果で、隠匿されていた入り口をこじ開けて侵入できたと思われます。そして、その場所。極上の龍脈です。ただ、その空間で堰き止められているのか、搾り尽くされているのか、地上にまで到達していませんが』

「じゃあ、ここは」

『黒幕の工房で間違いありませんね』

 

 家茂の宝具がもたらした兆しを、コナンが受け取って入り口が開かれた。世界を開く兆しを秘めた宝具によって航路は拓かれた。

 トロピカルランドこそが黒幕の工房――拠点であり、米花市を中心に広がる異変の起点であったのだ。

 それと同時に、気付かれないように予防線を張ったのか、入り口である噴水広場にも認識齟齬の魔術がかけられていたのだろう。場所だけではなく、噴水広場に関わる想い出でさえも操作されていたのである。

 

「入り口となった噴水広場は、奇数時刻になると水が壁のように噴き出す仕掛けになっている……パンフレットに載っていました。しかし、午後3時に僕たちが噴水広場にいた時、水は噴き出しませんでした。故障中というアナウンスもなければ、周囲の人々もそれを()()とは思っていなかった」

「おかしい事象を()()()()と感じない。現状の異変と同一だ」

「そうだよ……噴水広場に蘭を連れて来た想い出も。蘭の記憶を取り戻したあの記憶も、何で忘れてたんだよ。これも全部、魔術のせいってことなのか?」

「……さっきの推理ショーで君が焦っていたのも、その影響かもしれない」

「え」

「自覚はないか。おまえは組織に関わりのある犯人を前にして、あまりにも性急であった。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

 

 立香とエドモンの指摘に、コナンは甲板に座り込んで考え込んだ。

 小五郎の声で犯人を追い詰めるコナンの声が、いつも以上に焦っているように感じられた……追い求める犯人の手がかりを見付けたからの焦りかもしれないが、あの場は、それを追求する場面ではなかったはずだ。

 傍目から見れば、眠りの小五郎が組織の追及をしていた場面。その頁は、江戸川コナンを名探偵とする物語には相応しくない。編集者の「ボツ」を言い渡される原稿が顕れていたように見えた。

 

「そうだ。何で、オレはあんなに焦っていたんだ? 組織の名を聞き出すために? 違う。組織に関わりのある人間を見付けたから? いや、違う……これも全部、黒幕って奴のせいだっていうのか?」

「黒幕……名探偵の()()を蒐集して、犯罪を何重にも積み重ねた聖杯の所有者!」

 

 立香には、黒幕の正体に――この米花市に召喚されているだろうキャスターの真名に検討がついていた。

 紙の海の上でそう声を張り上げると、明かす者の追及に興味を示したかのように空間が揺れた。荒ぶる海面、蠢く頁。暗闇に仄かな光が灯ると、その空間がどんな役割を果たしているか理解できた。

 本棚が壁を形成している空間。その本棚に無数に収められた本、本、本の山……本棚だけでは足りず、ハードカバーの本が積まれて柱のように聳え立っている。

 そう、ここは書斎。もしくは、執筆部屋。

 

「そうか、気付いていたか。ボクが誰だか知っている程度の教養はあるようだな、カルデアのマスター」

 

 空間の一層高いところ。オイルランプに火が灯り、煮詰めた飴色のデスクが見えた。デスクの上に行儀悪く座り込み、積み上げた数多の原稿をぺらぺらと捲りながら手にした羽ペンでガリガリと書き加える。

 彼の者の正体は作家。

 物語の創造主。

 

「聖杯の所有者はお前だ。エドガー・アラン・ポー」

 

「探偵」という概念を。「犯人」は「探偵」に暴かれるという概念を生み出した者。

「探偵小説」、ひいては「推理小説」を根付かせた世界最古の探偵の作者。

 立香に名を突き付けられた作者は、手にした原稿を頭上に放り投げた。バサバサと音を立てて散り落ちる紙は海面に落ち、海を形成する1頁となる。原稿に齧りついていた作者は頭を上げて立香を視界に捉えると、よく通る高い声で真名を名乗ったのだ。

 

「そうさ。ボクこそが“名探偵”の生みの親、エドガー・アラン・ポーだ」

 

 そこにいたのは、6、7歳ぐらいのブルネットの少年だった。




子供の姿が全盛期として召喚される芸術家系サーヴァントは、成長したら節度のある正しい大人になった。
逆に、大人の姿で召喚された場合は死ぬまでクズだった変人。
キャスター:エドガー・アラン・ポーは本来、大人の姿で召喚されるはずであるが……?
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