地獄から湧き出た憎悪の炎。作者ならこの炎が何を意味するか熟知しているだろう。殺害された黒猫が犯人の家を全焼させた憎悪であり、復讐のために悪魔へと生まれ変わった産声だ。
毛玉を吐くように気軽に吐かれた火球は、頁でできた巨大な手を炎上させる。更には縄の一本で縛って雁字搦めにした。もう一本の縄は順動丸のメインマストへと伸びていた。
「ボク分の憎悪まで、マシマシでお願いします」
「言ってくれるじゃない、黒猫。ええ、ええ! 復讐者の名の下に! これは憎悪によって磨かれた魂の咆哮! 『
メインマストへ縛り付けたプルートーの縄を渡り、ジャンヌがポーの正面で旗を振る。プルートーの憎悪を焚き付けて宝具を発動した……煉獄の業火によってポーを机と椅子ごと焼き尽くし、海に沈む頁さえも焼き尽くさんとばかりに海から炎の槍が顕現する。
念入りに焼かれ、ポーの霊核を串刺しにせんとする苛烈な攻撃によって、幼い少年の魔力反応は脆弱な数値に陥った。これにて最終戦は終了、あとは聖杯を回収するだけ……には、ならなかったのだ。
『油断するな立香君! ポーの魔力数値が回復している!』
「ジャンヌの炎が効いていない?」
「手応えはあったわよ!」
『違う! 回復しているんだ!』
ダ・ヴィンチの言う通り、一度は骨の髄まで燃やされたはずのポーが復活している。回復している、再生している……焼死とも言える死因が
「焼死、火刑……その
死亡からの蘇生、霊基の回復。つまり、ポーの宝具は己を蘇生させることができる。
その名は、彼が執筆した物語のタイトルだ。医学が未発達の時代、仮死状態の人間を死亡したと誤診し、生きたまま埋葬される恐怖を描いたホラー小説である。
その小説そのものだけではなく、ポーが度々題材に取り上げていた「生者の埋葬」というテーマそのものが昇華した宝具だ。死んでいるが、実は生きている。生きているなら、まだ埋葬されない……つまり、埋葬するには早すぎる。
宝具がある限り、ポーを
「蘇生宝具と聖杯からのリソースって、何だよそのチート!?」
「そうだ、この世界の創造主はボクだからな! チート万歳!
「……!」
家茂が微かに眉を潜める。直接的な攻撃手段を持たない彼を蔑むような物言いは、立香にもカチンときた。
完全回復したポーは、更に夜鬼を追加した。包帯男を始めとした、怪人系の殺人鬼の姿を取ったネームドに、大怪獣ゴメラの姿を取った巨大な竜種型の登場にコナンが声を上げた。
「包帯男に、真夜中の騎士に赤女?! しかもゴメラまで。そんなのアリかよ!」
「今まで登場した犯人大集合、ってところかな」
「犯人が相手なら、プルートー!」
「承知しました!」
「……!」
ロボの背に着地したプルートーの身体は、ヘシアンによって剛速球で投げられる。犯人を括って、刑に処す。
「『
括られた縄で拘束された犯人たち。包帯男は首を斬られ、真夜中の騎士は剣によって心臓を一突きにされ、赤女は包丁で滅多刺しにされる。ゴメラまで包丁で刺されているのは、元となった事件が刺殺事件だったからである。
被害者の怨念を晴らすかのように、プルートーの宝具で犯人たちは一掃された。その光景を目にしたポーは、仕掛けた悪戯が成功した悪餓鬼のように、無邪気な笑みを浮かべたのだ。
「かかったな!」
「あ……」
「黒猫!」
海面から浮上したのは、巨大なハードカバーの本だった。
プルートーは勿論、ゴメラ型の夜鬼でさえ飲み込んでしまいそうな巨大な本が海から出現し、巨大な二枚貝のように口を開いたのだ。
ポーの狙いはプルートーだった。目論見を察したエドモンが外套の中にプルートーを匿ったが、巨大な本は消滅しかけた周囲の犯人ごと、エドモンごとプルートーを飲み込んだ。生き物のようにもぐもぐと頁が動き、「いらん」と言わんばかりにエドモンだけをペっと吐き出した。
「エドモン! プルートー!!」
「すまん、マスター……黒猫が奴に奪われた」
ペっと吐き出されたエドモンの身体は、サリエリによって回収され順動丸の甲板に降ろされる。プルートー以外のサーヴァントたちが一旦、立香の元に戻ったその時、ポーに変化が現れた。
そう、ポーはプルートーを奪ったのだ。プルートーを吸収し、ポーの魔力は大きく膨れ上がった。
「この黒猫はボクが創り出したものだ。返してもらうよ、カルデアのマスター!」
ポーのブルネットの髪が白くなった。黒い羽ペンを持つ右腕には縄のような紋様の青白い光が迸る。否、ポーの腕だけではない。夜鬼を形成する黒いインクがボコボコと沸騰しながら、同じ青白い紋様が浮かび上がった。
机と書斎椅子は最早不要。本が積み重なり、黒いインクで出来たイソギンチャクのような触手が絡みつく輿の上が、ポーの椅子だ。戦車のように自在に動き回り、夜鬼たちが駒の如く必死に奉仕する外宇宙の存在と触れし者――フォーリナー、エドガー・アラン・ポー。
プルートーを吸収し、その霊基と魔力を自身の薪と鞴としたポーは、異邦人としての本性を現したのだ。
「魔力、上昇……そんな、プルートー……!」
「ウォォォォォォォ!!」
「っ! ロボ」
プルートーを吸収された。蘇生宝具によって倒すことができないのに、更に膨大な魔力を滾らせるポーの姿に、立香の表情が陰りを見せるが、刹那に現実に引き戻される。
ロボが吼えた。心臓を一突きにされたかのような、鋭い刺激が立香の背筋を伸ばした。
こんなところで俯くのは許さない、膝を着くのは許さない。マスターを鼓舞するなんて、そんな甘っちょろいものではない。現実から目を反らして俯くならば今から噛み殺すという、狼王の咆哮だった。
「蘇生するからって何だ。埋葬するにはまだ早いからって、何になる! ヘラクレスのストックだって十二だった。いくら聖杯のリソースがあるからと言って、ポーだって無限じゃない! プルートーは返してもらう!」
「返すって、元からこの猫はボクの物だ」
「違う! アヴェンジャー、黒猫プルートーは俺と契約したサーヴァントだ。プルートーのマスターは俺だ!」
立香は俯かない。真っ直ぐにポーを見据え、両脚はしっかりと甲板を踏み締めた。
そんな彼の姿を見て、ポーは珍しい玩具を見付けた子供のように喉を鳴らした。こいつも、もしかしたら……もしかしたら?
「もしかしたら、お前も『究極の謎』を解き明かす資格に至れる人間だったのかもな。カルデアのマスターではなく、このまま「探偵」として活動してくれていたなら」
「……さっきから言っている、その『究極の謎』。それって一体、何なんだ」
立香を押しのけるかのように、コナンがポーの前に出た。
ポーが聖杯を使って米花市を
だが、ポーは『究極の謎』が何なのかを口にしていない。『究極の謎』とは、一体何なのか?
「誰も解けない、
「だったら、オレがその謎を解いてやる!」
「コナン君!?」
「探偵が欲しいんだろ。殺人事件を解決する探偵が。予選とか篩とか、面倒臭い選抜を経ないで最初からオレを巻き込め。エドガー・アラン・ポー」
「……良いだろう。本選出場おめでとう、工藤新一」
海の中から、プルートーを飲み込んだ巨大な本が出現する。「飛び込め」と、コナンに指示するかのように再び口を開いた。
「それじゃ、ちょっくら解決して来るわ」
「……解けるのか。名探偵の創造主が用意した、究極の謎を」
「解くしかねーよ。オレの憧れる名探偵だって、きっとすぐに解いちまうはずだからな。それに……あいつを止めて、蘭との想い出とあの子たちの再会を取り戻さなきゃならねぇ」
「……今なら、君は答えてくれるよね」
エドモンの言葉を小さな背に受けて、コナンは順動丸の船首に歩みを進めた。
愛する女性がいる1人の男として、やらなければならないことがある。探偵として、良しとしない結末がある。名探偵を目指す者として、立ち止まってはいけない
「……ねえ、コナン君。君は、何者なんだい?」
「……工藤新一、探偵さ」
振り返ってそう返した少年の横顔は確かに、写真でしか知らない高校生探偵の姿だった。
コナンは本の中に向かって飛び降りる。バクン!と、二枚貝に食べられるかの如くコナンの姿は消えた。名探偵は『究極の謎』を解きに、事件を解決するために飛び込んだのだ。
「果たして、あいつは解けるかな。他に候補者はいたんだ。西の高校生探偵、緋色の捜査官、トリプル・フェイス……工藤新一が
「解くよ。ポー、お前の言う『究極の謎』は、
「なら、あいつが解決するか、それとも迷宮入りになるか……それまで、また遊ぼうか!」
戦闘、再開―――
一旦切ります!
前後編になるか、もしかしたら前中後編になるか未定!
『
ポーの小説から昇華された常時発動型の宝具。
医学が未発達の時代では、死因の特定はおろか死体が確実に死んでいるかどうかの判断も曖昧であった。そのため、仮死状態の人間を埋葬し、後に墓の下で蘇生したという事件も存在する。死人が怪物となって蘇ったという怪異の元にもなった。
ポーは様々な死因を蒐集し、それを自身の死因として創作することで“想定”する。もし致死性の攻撃を受けても想定内の死因であったならば、何度でも蘇生し霊基を回復することができる。
ポーは犯罪を積み重ねることにより、様々な死因を蒐集した。刺殺、銃殺、毒殺、殴殺、轢殺、絞殺、凍死、溺死、憤死、病死、焼死、失血死、窒息死etc…。死因だけではなく、どんなシチュエーションで死亡したかも、数多無限の理由すらも“想定”しているため、ポーを正攻法で倒す可能性は無に等しい。
【夜鬼、もとい全身黒タイツの作り方】
『夜鬼』という概念に、蒐集した犯人と犯罪と悪意とその他諸々をレッツ☆混ぜ混ぜする
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ただ混ぜるだけならノーマル全身黒タイツができるので、各々に蒐集元に沿った凶器を持たせる
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ちょっと大きなものを作りたい場合は、竜種や鳥やゴメラなどの器を用意する
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自作の鳥をイメージして作ったら、その鳥と同じく「テケリ・リ」と鳴くようになった
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他、怪人系犯人や、犯人の概念を持つサーヴァントの姿を模して中ボスタイプも作った
多分、ポーが接触したモノが語った物語に「テケリ・リ」と鳴く生物が登場して、それを自作に流用したのでしょう。その作品を読んだ某作家も流用したら、結果的には当たっていたんですよ……。