嫌だ……。
嫌だ、嫌だ、嫌だ……!
本編単行本99巻、特別編単行本45巻、本編スピンオフ、アニメオリジナルエピソードを含め放送回数1,000回越え、映画劇場版24作、その他学習漫画等の派生作品etc,etc……。
具体的に数にすると、これほどの量に値する事件を蒐集した。「探偵」と「犯人」の物語を書いた、
なのに……ボクが犯人だって?
このボクが、作者が、作家が、創造主が?!
恩を仇で返すようなものじゃないか!
生み育てた親が子供に裏切られるようなものじゃないか!!
「ボクのものなのに! 名探偵は、ボクが考えたんだ……嫌だ、ボクからとらないでよ。そばにいてよ……!」
こうなったら、もう『究極の謎』も米花市もいらない。聖杯のリソースでかろうじて均衡が保たれていた特異点。浸食してきた並行世界のテクスチャを、崩壊させる。
蒐集してきたそれらを乱雑に元に戻せば、基板となった米花市が存在する世界も、米花市が存在しない世界もただじゃすまない。何もかも、壊れてしまえばいい……!
「やめるんだ、私……いや、エドガー」
「っ!
「
霊核を砕かれ、蒐集していない死因による消滅のカウントダウンの渦中にいるポーの思念に現れたのは、大人のポーだった。フォーリナーにクラスチェンジする前の、聖杯を手にした自分自身。ポーの中に残る、微かな残留思念。
彼は、
「認めてしまいなさい。誇らしい現実を見なさい。私たちが創造した「名探偵」の概念は、人類の歴史に深く深く刻み込まれている。そりゃあ、自分の知らないところで超進化や魔改造されているのは、正直悔しいさ。大切にしていたソレが掌から旅立ってしまうのは寂しいさ」
「そうさ、そうだ! 大切な存在は、いつもボクの元から去ってしまう! 父も母も、養母もエルマイラもヴァージニアも!
「エドガー……
二度とないんだよ。とっくに死んでしまった作家が、新しい作品を残すなんて。
「書きたいならサバフェスで書けばいい。英霊相手に、サークル活動をすればいい。だけど、結局私たちは、エドガー・アラン・ポーの影法師でしかない……私はようやく自分の死に納得できたが、「名探偵」は死んじゃいない。私たちが創造した彼らはの血脈は、未来へ向かって続いている」
「でも、ボクのデュパンが一番だ」
「そう、一番だ。ただし、私の作品だけで完結していたら、A・デュパンはここまで歴史に名を残さなかっただろう」
デュパンから始まってホームズへ。
金田一耕助
明智小五郎
エルキュール・ポアロ
エラリー・クイーン
ジュール・メグレ
フィリップ・マーロウ
コロンボ
ミス・マープル
三毛猫ホームズ
まだ足りない。歴史を彩る探偵たちの物語はすべて、ポーから始まっている。ポーの遺伝子を受け継いだ子供たちが次世代へと種を撒き、芽吹いて新たなる物語を紡いでいく。
彼のように、また新たな名探偵が誕生するのだ。
「子供はいつか巣立つものだ。ま、私たちは子供を持たなかったけど……なら、我が子である名探偵の、そして黒猫の旅立ちを祝福しよう。彼らが旅立った未来には、私も想像がつかない大輪の花が待っているはずだ。去り行く影法師は、座に招かれし英霊は、彼らの旅路に喝采を送る義務がある」
「……」
「見た目は子供、頭脳は大人なんだろう。それとも、子供だと主張するのかな? わがままも癇癪も子供だけの特権だが」
「……何でお前は、そんなに達観しているんだ。同じボクなのに」
「私は大人だからね。酒も飲めるしギャンブルも合法だ」
「よく言うよ。かつて遭遇した彼にまた会いたくて、酒を手段にした癖に。最後までその手段に飲まれて酒に溺れた癖に」
「それは言うな! お前のことでもあるんだからな!」
頭に昇った血が引いた子供のポーは、大人の自分に対して名探偵が語った推理を噛み締める。頭の中で反芻して、噛み締めて、細い喉を鳴らして飲み込んだ。
そうだ、そうだよ……。
「見事だったよ、
かくして、本は閉じられた。
エドガー・アラン・ポーに、本当の死が訪れた。
***
「フォーリナー、エドガー・アラン・ポーの霊基消滅を確認しました」
バイザーを外したマシュが、ポツリとそう呟いた。
ポーはジャンヌの旗によって霊核を貫かれ、エドモンの宝具によって塵一つ残さずに燃えた。彼が蒐集していない、蒐集しようとも思いつくことがない、創造主自らが「犯人」として告発されるという経緯がもたらす死因によって、蘇生は叶わなかった。
ポーが乗っていた積み上げられた本が焦げて崩壊する。ポーがいた位置から薄暗い書斎を照らす光源が、ゆっくりと下降してくる。立香の手に収まった光源の正体は黄金の杯――ポーが所有していた聖杯の回収が完了したのだ。
「これが、聖杯?」
「うん。これが、ポーの願いを叶えようとしていたんだ」
人々の望みを叶える「万能の願望器」。膨大な魔力が湧き出るアートグラフ。犯罪多重現象の中心点となった米花市を特異点へ変貌させた元凶。
立香たちがこの地にレイシフトしてきたのは、聖杯を回収するためだ。ポーは消滅し、聖杯は立香の手の中にある。これにて任務は果たされた。だが、こちらが犠牲を払うことになってしまった。
この場にいない1騎……否、1匹に立香もコナンも顔を曇らせる。すると、高所からナニかが落下して、海にドボンとダイブした音が聞こえた。
「ミャー! ミャー!」
「っ! プルートー?!」
「生きていたのか」
「プルートー! 掴まれ!」
海面をじゃぶじゃぶ漕ぐ黒猫に手を伸ばすと、首の縄を伸ばして立香の腕に掴まった。濡れ鼠……ならぬ、濡れ猫がいつもよりほっそりとした姿で戻ってきたのだ。
「プルートー! こんなにやつれて……!」
「いえ、濡れてシュっとしているだけです。喉が、喉が……鳴きすぎてもう「ゴロ」の一言も出ません」
「アンタもしぶといわね」
「だって、マスター。信じてくれたでしょう」
「信じる?」
「ボクが生きているって、マスターは信じてくれたんでしょう」
黒猫プルートーの持つスキル『シュレーディンガーの猫』
彼の生死確率は常に重なり合っている状態であり、生死が曖昧な状況下においては、プルートーの生存を信じている者がいる限り絶対的に生存している。
立香はプルートーがポーの中で消えていないと信じていた。繋がったままの魔力パスから令呪を与えてくれた。か細く鳴くプルートーの声に託してくれた。
だから、プルートーは帰ってきたのだ。垂れ下がった尻尾を引きずり、おぼつかない足取りでよたよたと足下にやって来た黒猫を、立香は優しく抱き上げた。
「ありがとう、プルートー。回復しよう」
「おーい、オレも回復して。最古参のアヴェンジャーも治療して……瀕死なんですけど」
プルートーとアンリマユの応急手当をして回復させる。後は撤退だけ……という場面で、順動丸が大きく揺れた。
違う。ポーの書斎が、魔術によって形成されていたこの空間が消滅しようとしているのだ。
普段なら、この場面でカルデアに帰還すればいい。しかし、この場にいるのはカルデアのマスターとサーヴァントだけではない。コナンがいるのだ。
『急げ立香君! 地下空間の崩壊まで時間がない。コナン君を地上へ!』
「みなさん、しっかり掴まっていてください。地上へ、トロピカルランドへ浮上します!」
「清水さん……いや、家茂さん。一体どうやって?」
「少々手荒になりますが、コレで!」
沈んだ
巨大な金魚は順動丸を背に乗せて海から浮上する。その巨大さ故にスピードは遅いが、別途出現した小さな金魚たちが背中を押すように下から押し上げる。
しかし、いくら令呪のリソースを得たとはいえ、順動丸を顕現させたままの状態でこの巨大な金魚と数多くの使い魔を使役するには家茂自身の負担が大きすぎる。しかも、先の戦闘ではずっと宝具を発動させて西陣織柄の防御を張り続けていた。
「家茂さん、魔力が枯渇しているのでは?」
「これぐらい、何ともありません。僕は直接の戦闘に参加していませんから。お願いします、やらせてください! 僕が、
やはり疲弊している。船と使い魔、両方を維持し続ける家茂の魔力が底を尽きかけているのだ。
だが、止めても彼は譲らないだろう。この状況、金魚たちに持ち上げられた順動丸に乗船しているこの状況においては、トロピカルランドへ帰還するための唯一の手段が家茂しかいないのだ。
足元が揺れるのは金魚の動きが不安定だからではない。創造主を失った空間は歪み、崩壊が進んでいた。
「僕は、徳川幕府を治める将軍ではありました。しかし、分かっていました。理解していました! 本当は、都合のいい傀儡だったということを! 将軍だって国を動かす歯車でしかない。だから、歯車なりに役目を全うしようとしました! 収められた位置で回って、回って、回り続けて……息絶えた。悔しかった。心ではまだ回れたはずだったのに。サーヴァントとして召喚された、此度の異変。今ならまだ回れます! まだ回りたい! この身が消滅するその寸前まで! マスター、わがままをお許しください」
やっとだ。遅すぎたぐらいだ……自らが行動を起こした。役目も使命も何も関係ない。
ただ、家茂の心が「やりたい」と叫んでいるから、やるしかない。今度こそ、悔いのないように物語から退場するのだ。
「……『
「回復した……はい! ありがとうございます!」
エドモンが持つ第三の宝具――戦闘不能寸前からも完全回復することができる回復宝具によって、家茂の魔力は完全回復した。これで、金魚の速度を上げられる。数も増やせる。
自動車サイズの金魚が多数出現し、巨大な金魚を押し上げる。このまま真っすぐ、地上へ、元の世界へ、始まりの事件が起きた遊園地へ。
「気合い入れなさい、後輩! 私たちのマスターと名探偵を、無事に地上へ!」
「急げ! 歪みが酷くなっているぞ」
「見ろよ、地上の光が……見えねーわ。外は夜ですね、コレ。パレードと花火に間に合わないぜ!」
「……!」
復讐者が各々家茂へと活を入れ、ヘシアンはバン!と、気合を注入するように家茂の肩を叩いた。
ロボは彼を一瞥しただけだった。だが、その視線は地上へと向いている。アンリマユの言う通り、地上から降り注ぐ白い光は見えない。見えるのは人工的な彩りのネオンの光だ。
ロボにとっては、人間たちの営みの象徴でもある憎むべき光だ。家茂だって、本来ならば憎悪を向ける人類だ。だけれども、今この瞬間だけは、彼が抱く意志だけは尊重しよう。視線は決して交わさないが、今だけは人類への牙を収めよう。
「ああ、そうだ。そうだったんだ。和子……貴女は最高の伴侶であった。貴女は違ったかもしれない、僕の独りよがりだったかもしれない。だけど確かに、貴女は僕の支えだった。怒りたかっただろう、逃げ出したかっただろう、泣きもしたかっただろう。時代を、運命を呪ったこともあっただろう。それでも、貴女は僕の隣にいてくれた。嬉しかった、貴女がいたから動乱の孤独の中でも立っていられた。だけどね、和子」
縁あって伴侶となった皇女は、家茂にとっての最愛であり同胞でもあった。
混乱の時代を共に生き抜くために、2人で手を繋いだ……その手は、家茂が先に放してしまったけれど。
だけど、もし2人じゃなかったら、2人ぼっちじゃなかったら。もっと、ずっと一緒に……。
「2人ぼっちじゃなくて、もっと、もっとたくさんの仲間が、友がいてくれたら。きっと僕たちは、もっと高く羽ばたけたんだ。僕は、仲間が欲しかったんだ。マスター、立香さん……ありがとう。僕を、「清水慶」を見付けてくれて!」
立香たちを乗せた順道丸は、積み上げられた
カルデアの、立香たちの旅路がまだ続くように、コナンたち探偵の物語もまだ続く。繰り返されるのではなく、前に進むために。
『……え! 君、起き上がっても平気なのかい? 無理をしちゃ駄目だぞ!』
「っ、大丈夫ですかミスター!?」
「……分かった。コナン君、うちの経営顧問が君と話したいって」
「経営顧問?」
カルデアからの通信モニターから聞こえたのは、コナンが初めて聞く声。のはずなのに、昔から知っていたような、どこか懐かしい声が語りかけてきたのだ。
「見事な推理だった。
『犯罪多重奇頁 米花』
事件解決
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