慌ただしくトロピカルランドを後にした直桜は、車に揺られている内にいつの間にか眠ってしまった。やはり、朝早く起きてトロピカルランドを楽しんでいたのが疲れたのだろう。
眠ってしまった直桜を背負った蛇浦は、彼女から預かっていたトロッピーのぬいぐるみとポップコーンバスケットを持って三谷家の呼び鈴を鳴らした。真っ先に玄関を開けた直桜の姉――麟は非常に驚いた顔をしてから、安堵と歓喜が混ざり合った泣き顔で妹を迎え入れたのだ。
「う~ん……?」
「直桜! 起きた……おはよう」
「お姉ちゃん? お姉ちゃんだ!」
「直桜!」
三谷家の寝室で寝かされていた直桜が目を覚ますと、ずっと会いたかった姉がいたのだ。
直桜に抱き着いた麟は、これからはずっと一緒に暮らせると言ってくれた。これからは、三谷家の祖父母の家で姉妹一緒に暮らせると、直桜を連れて来たお姉さんがそう言っていたのだ。
「明紗ちゃんが言っていたこと、本当だった! トロピカルランドよりもずっと素敵なところに連れて行ってくれるって、言っていたの。お姉ちゃんがいるところに、連れて来てくれたんだ……!」
「良かった。直桜が誘拐されたからって、探偵さんに依頼したんだよ……あれ、探偵? 何て名前の、探偵さんだったっけ?」
離ればなれになっていた姉妹は再会した。いつの間にか、直桜の引っ越しやら転校の手続きも済んでおり、後日、紋代家にあった彼女の私物が配送されてきた。
そして、翌朝になると『紋代造船』のスキャンダルが世間を騒がせることになる。
紋代藤絵は、紋代立郎殺しの犯人として自首をした。動機は、結婚当初から積み重なった不満と恨みが爆発した結果と、自ら通報して駆け付けた警察にそう自供した。蛇浦のことも、天木や直桜を始めとした隠し子たちのことも伏せ、自分1人でやったことだと大人しく連行されたのだ。
夜のパレードで賑わうトロピカルランドの駐車場に、赤いランプを点灯させたパトカーが駆け付ける。それと同時に、紋代家に残っていた暢と充も駆け付け、大人しくパトカーに乗り込む母へ駆け寄り、小さな手を握っていた。
さて、細見直桜誘拐事件……を、でっち上げようとした柏木はどうなったかというと。
今回の事件において、奴は法に触れることはしていない。
万が一のことを考えた充が、直桜の身代金のための金を工面しようと『紋代造船』の会計を調べたところ、用途不明の資金が流出しているのに気付いた。調べてみると、それらは柏木による横領であることが発覚。どうやら、個人的に黒の組織への献金用として会社の金を貯め込んでいたようである。
柏木は業務上横領罪の「犯人」として、警察に逮捕されるに至ったのだった。
だが、柏木と黒の組織との繋がりは、紋代氏が殺された時点で既に途切れていた。柏木から黒の組織に通じる情報も何も得られることができなかったのだ。
「コナンくーん」
「蘭姉ちゃん。おじさんならあっちだよ」
蘭が誰かを捜している素振りを見せたので、てっきり小五郎を捜しているのかと思って目暮警部と話す彼を指さした。小五郎が紋代立郎殺害の真実を推理し、藤絵に自首を促した……と、いうことになっている。
起きたばかりの頃は、何が何やら状況を理解できていなかったが、目暮との会話に何とか誤魔化しを加えつつ対応できている。また、眠りの小五郎の名前が新聞に載ることだろう。
だが、蘭が捜していたのは小五郎ではなかった。
「ねえ、コナン君。わたしたちの他に、一緒にトロピカルランドに来た人がいなかったかな?」
「他に?」
「うん。誰か、一緒にいたような気がして……」
「蘭、姉ちゃん」
「どうしたんだろう。新一がいなくなった日のことを、思い出しちゃったのかな。何だか、悲しくて……」
蘭の瞳から涙が一粒零れた。
あの日、新一とトロピカルランドに遊びに来た日。彼がいなくなってしまったあの日のことを思い出したかのように、誰かと悲しい別れをしてしまったかのように、そっと涙を拭ったのだ。
「だ、大丈夫だよ。新一兄ちゃんのことだから、きっとその内に……絶対に帰って来るよ!」
「そうよね。今度会ったら、絶対に逃がさないんだから!」
『……ごめんな、蘭』
絶対に、工藤新一に戻って帰って来るからよ―――
「……かくして、名探偵の物語は次へと進むこととなる。積み重なる、繰り返される物語は閉じられた。世界は開かれ、新たな事件が名探偵を待っている」
特異点が修復される。浸食してきた並行世界が、引き潮のように優しく繊細に、元に戻って行く。
米花市とそれに連なる世界の者たちの記憶から、『捜査解明機関カルデア探偵局』の記憶も消えて行くだろう。
「あの会話も、彼の中からは消えてしまうのでしょうか」
「たとえ消えてしまっても、彼は何も変わらないのではないですか? ずっと変わらず、いいえ……それ以上に、名探偵として謎を解き続けるでしょう」
パレードを盛り上げる花火が打ち上げられた。
夜空に咲く満開の花火がよく見える位置、トロピカルランドのシンボルであるトロピカル城の屋根の上で、3騎のサーヴァントは空を見上げていた。
カルデアの経営顧問と言葉を交わしたコナンは、最初は驚き、戸惑い、憧れの人と対面してしまった少年の反応を見せた。だけども、実際に言葉を交わしたその瞬間は、世界最高の名探偵と肩を並べて
彼は、ただ憧れて夢想するだけの探偵ではない。
追い付いて、追い越して。世界最高の探偵よりも凄い名探偵に……いつか必ず、「名探偵」の代名詞を譲られる存在になるだろう。
「ところで伯爵、貴方はカルデアへは行かないのですか? そもそも、貴方、その気になればいつでもカルデアへ召喚、もとい顕現できたのでは?」
「おや、推理の根拠は?」
「こほん。僭越ながら、猫の推理を披露させていただきます」
エドモンの肩からひらりと飛び降りたプルートーは、家茂の足元に腰を下ろし、白い毛の生える胸を張りながら推理を披露した。
「ボクたち3騎は、この特異点に召喚されました。ボクは聖杯に、将軍は徳川将軍システムを使用した東京そのものに。本来ならば、伯爵……巌窟王も、座から召喚されたのでしょう。しかし、貴方は何故か、マスターのことを
「そうか。座から召喚されたサーヴァントは、基本的に別固体。記録として知っていても、それはあくまで別人の
「伯爵、伯爵。貴方は、聖杯によって座から召喚された巌窟王の上に、マスターの中にいる
「……さて、どうだろうか? 俺は、オレだ」
エドモンは一本の煙草に火を点けた。トロピカルランド敷地内は全面禁煙であるが、もう消え行くのだから、少しぐらい大目に見てもらいたい。
サーヴァントたちが座へ還る。3騎の身体からは光る粒子が散り、綻び、花火に彩られる夜空へと消えて行く。
カルデア――地域も時間も、歴史も物語も、果ては世界も銀河さえも異なる数多の英雄たちが集う不思議な場所。
彼らは皆、人理焼却・人理漂白の……否、藤丸立香のために彼の手を取った。彼の帰る場所を、取り戻すために。
「いつかまた、みなさんとお会いできるとしたら……カルデアで、マスターと再会できるでしょうか。時々、あるみたいですよ。かつての召喚の記憶を覚えていることが」
「いいですね。次はカルデアでお会いしましょう! マスターに
「クハハハハハ! ああ、あの男なら
米花市から、異邦の存在が退去した。
またどこかで、新たな物語を紡げる日を待ちながら。
***
聖杯回収完了。
特異点の修復を確認。
マスターの存在証明、オールグリーン。
ノウム・カルデアにて、コフィンが開いた。
「お帰り、立香君! マシュも途中参戦お疲れ様」
「ただいま、ダ・ヴィンチちゃん」
立香は、カルデアから共にレイシフトしたアヴェンジャーたちやマシュと共にカルデアへと帰還した。体感時間にして1年ぶり。本当はもう少し短いが、途中で日付が飛んでしまったために、色々と乱れてしまっている。
「何だか疲れたわ。自室に戻るわね」
「……」
「……!」
「サリエリセンセ、クッソ甘いメイプルシロップをドバドバかけたワッフルでも食いに行く?」
「我はサリエリではない」
ジャンヌは自室へ、ロボはシミュレーター内の洞窟へと戻る。ロボの後を、ヘシアンが追いかけていった。
サリエリは、結局アンリマユと共に食堂に行くようである。
立香は医務室へ行って、ホームズとモリアーティのお見舞いに行く。それから、食堂へ。用意してもらいたいものがあった。
「ダ・ヴィンチちゃん、新しいサーヴァントの召喚はできる?」
「リソースの結晶化が済んだら、いつでもできるよ」
立香は、特異点内の物質を持ち帰るための袋の中から、ソレを取り出した。
筒状の袋でパッケージされた猫用のおやつ。所謂、ちゅーるである。彼が好きだったフレーバーだ。
「後は、エミヤに和風トッピングのワッフルを作ってもらおう」
これから先の旅路は、彼らも共に。
END
【あとがき】
初めてのコンタクトはアニメ『Fate/ZERO』でした。
その他のアニメやコミックは履修し、公式やら二次小説の小説は楽しく拝読しながら、ゲーム本編の動画は見ているというニワカ野郎が手を出した小説を、最後まで読んでいただきどうもありがとうございます。
ありがとうございます!!
事の発端は、FGO×コナンや、他のクロスオーバーやらの二次創作が面白かったが故に手を出してしまったこと。アヴェンジャー鯖が好きだけど、登場している作品をあまり見かけないので「せや、自分が読みたいのは自分で書いたろ」と、くっそ失礼な動機でした。まあどっちみち、書きたくなってしまったのです。
昔々は、クロスオーバーを中心にポケモンのオリジナルトレーナーなどの二次創作小説書きとして活動をしていたのですが、久しぶりの二次創作は見切り発車で徐々に思い出しながらと一筋縄ではいきませんでした。設定好きなのはこのせいです。オリキャラの設定練るの大好きです。
1年近く書かせていただきましたが、終わってみて思ったのは、たくさんの方に読んでもらえたし、書くのはやっぱり楽しかったな。というのでした。
幼い頃からコナンアニメで育ち、いつだかのタイミングでコミックスを買ってもらい、後からは自分で買い揃え。週刊誌だけではなく、『小学〇年生』で毎月特別編を読むという幼少期だったため、何の疑いもなく推理小説にも手を出しました。中学時代の朝読時間は『三毛猫ホームズ』シリーズ他、推理小説ばっかり。
何の疑いもなく色々な推理小説を読んでいましたが、私が知らないだけで名探偵はまだまだいる。これからも登場する。
たくさんの探偵たちのルーツとなった、世界最古の探偵を創造したエドガー・アラン・ポー。彼が創造した推理小説・探偵小説、そして名探偵の概念を歴史に残してくれた元祖を乗り越え、また次の事件へと。
果たして『名探偵コナン』の物語の完結はいつなのか。そして、工藤新一へ戻れる日はいつなのか?
これからも、次の事件を楽しみにしていきたいと思います。勿論、『FGO』本編もこそっと野次馬させていただいています!
シナリオブック欲しいです。ガチャ運が壊滅的&ゲームがクッソド下手だけど、シナリオを本として読みたいです。
あと、ポーがフォーリナーになった経緯については、本当に偶然の一致でした。某SF作家が尊敬していたとか、そういう情報を目にして、死因とか使えそうやんと思っていたけどまさか、ね……。
その内、もしも本家で実装されたら叫びます。
と、途中からあとがき関係なくなってしまいました。
実は、まだまだネタがある。このサーヴァントがいたら、事件はどう動くかな~とか。特異点の解決には直接関係のない事件とか。ネタはある。組み立てには少々時間がかかる。
時間はかかるかもしれませんが、『コナン』の特別編に因んで、ほぼ何でもアリの特別編を書きたいな~と思っています。
他、それからの物語として、二作ほど『幕間の物語』を投稿予定です。こっちは書くことが決めています。
予定は未定ですが、もし『特別編』を書き始めましたら、読んでくださる方はどうぞよろしくお願いします!
では、再度最後に。
『犯罪多重奇頁 米花』を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
ゴマ助@中村 繚