米花市にある都立帝丹高校は、近年の国際化に順応できる人材の育成のため、また生徒たちに豊かな国際交流のために新たな編入・留学制度を設けた。
簡単に言うと、帰国子女や他国からの留学生の受け入れ口の増設と専用の制度を作った。世良真純の編入から色々と整備したらしい。
その制度の初の利用者は、フランスからの留学生。
シルバーブロンドに琥珀色の瞳をした可愛い少女の登場には、クラス全体が沸いた。昼休みになれば机の周りに人だかりができ、他のクラスの生徒も彼女を一目見るためにB組の教室を覗き込む。
お友達になって一緒に下校したい!と考える者も初日から現れたが、下心に満ちた勢が声をかける前に知人と思わしきクラスメイトと下校してしまった。下心に満ちた男子高校生、項垂れる。
「え、オルタさん帝丹高校に編入したの?」
「そう、びっくりしちゃった。まさか同い年だったなんて。大人っぽいから、てっきり年上かと」
下校途中の蘭と園子、世良の3人娘と出会ったコナンは驚いた。
日本に遊びに来たというフランス人。『カルデア探偵局』に所属する探偵助手こと、ジャンヌ・エリス・オルタが帝丹高校の制服を着て彼女たちとともにいたのである。
「やっぱり日本で学びたくなっちゃって。両親やおじ様に無理を言って留学させてもらったの。家賃の代わりとして、探偵局の手伝いをしているのよ」
「フランス人の現役女子高生で探偵助手とは、属性てんこ盛りね」
「そのおじ様が探偵なのかい?」
「いいえ、サリエリおじ様は事務所のオーナーよ。日本語では大家と言うのかしら。余っている部屋と使わないオフィスを、ダンテスと立香に貸しているの」
「良いな~立派なオフィスがある探偵は。コナン君もそう思うだろ」
「そ、そうだね」
ホテル暮らしで探偵業を営む世良は、マンションのワンフロアにある事務所が羨ましそうだった。
探偵助手のジャンヌに、女子高生探偵の世良。推理女王の園子は……まあ、置いておいて。休学している工藤新一も含めれば、高校生の身分で「探偵」に関わる者が3人もいることになる。
クラスでも「工藤の同業者じゃん」という声がいくつか上がっていた。
「オルタさんって、フランスから来たの?」
「そうよ」
「おじさんのサリエリさんはイタリア人だよね。じゃあ、オルタさんはフランスとイタリアのハーフ?」
「私の両親はどちらもフランス人よ。便宜上、おじと姪って名乗っているだけで私とおじ様はもうちょっと遠い親戚なの。昔から交流はあったんだけど」
「そうなんだ~」
「はーい、ガキンチョの質問タイムは終わりよ。オルタちゃんの編入記念に、日本のJK文化をとことん体験させてあげるわ!」
「本当! 私、行きたいお店があるの!」
「行きましょう!」
「コナン君も一緒に行く?」
「ボク、観たいテレビがあるから帰るね。それじゃあ」
3人娘改め4人娘と別れたコナンは、駆け足で毛利探偵事務所へと帰る。観たいテレビがあるというのは真っ赤な嘘。駆け足は探偵所事務所への階段を上らずに、その下にある『喫茶ポアロ』へと入っていった。
微妙な時間帯のため他に客はおらず店内は閑散としており、カウンターに安室が1人立っているだけだ。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。梓さんは?」
「梓さんは店長と買い出しに出かけているよ、僕は店番」
「そっか。それじゃあ、安室さんとお話できるよね……『捜査解明機関カルデア探偵局』のこと、調べているんでしょ」
店内の空気が一瞬で変わった。
探り屋にして公安警察の潜入捜査官である安室が、突如現れた探偵組織に探りを入れない訳がない。しかも所属している探偵は、物語の主人公と同姓同名と偽名の気配がぷんぷんする。他のメンバーも、完全同名とはいかないが歴史上に名を残す者ばかりだ。
今、『ポアロ』の店内にいるのは店員と常連客ではない。探り屋と探偵だ。
「彼らの情報が欲しいのかい?」
「エドモン・ダンテス、アントニオ・サリエリ、そしてジャンヌ・ダルク……歴史上の偉人。いや、物語の登場人物の名前をコードネームにする組織が存在している可能性もあるでしょう」
「『巌窟王』に『ヘンリー六世』、それに『アマデウス』かな。確かにカルデアのことは調べた。最初に言っておくと、完全に白だ……書類上はね。
不審な点はないが、平坦で平凡で平常な経歴という訳でもなかった。
「エドモン・ダンテス(27)、フランス国籍。元は旅客船の航海士だったが、婚約者殺害の罪で有罪判決を受けて服役している……冤罪でね」
「冤罪?」
「ああ。彼は塀の向こうで独自に事件を捜査し、婚約者を殺害した真犯人と金で虚偽の証言をした証人、冤罪と知りながら有罪を求刑した検事を告発して、自身で冤罪を晴らしている。それ以降は探偵として活動しているようだ」
「何だよそれ、本当に『巌窟王』みてーじゃねーか」
「グリジオ・サリエリ(41)、イタリア国籍。学生時代にオーストリアのウィーン音楽大学へ推薦入学。卒業後は同校の講師としてウィーンに留まり、現在の地位は准教授。有能な教育者で、彼の教え子の多くは音楽業界で大成している。現在は妻子をウィーンに残し、日本の伝統音楽を学ぶために来日。大学の授業はリモートで行っている。探偵局のあるマンションは彼の持ち物だ」
「こっちも本物のサリエリみたいな経歴だな」
「だが、彼の周辺にモーツァルトのような天才の気配はないよ。ジャンヌ・エリス・オルタ(17)、フランス国籍。フランスの片田舎の出身で、家族構成は両親と双子の姉、妹。一家は敬虔なカトリック信者。今日から帝丹高校へ編入、日本での保護者は遠縁のサリエリだ。彼女は一般人故に、あまり情報は得られなかった」
「最後の1人……彼、藤丸立香は?」
「……いや、実はもう1人いる。ヘシアン・ウォーケン(32)、アメリカ国籍だが出身はドイツだ。元アメリカ軍所属、退役後は傭兵として世界各国を渡り歩いていたが、頭と顔に重傷を負って足を洗っている。探偵局の用心棒といったところかな。パスポートの写真が酷い物だったけれど、見るかい」
「いや、遠慮しておく」
「そして、藤丸立香(19)、日本国籍だ。地方都市出身、高校の夏休みの間に参加した海外ボランティア活動中にスカウトを受け、イギリスの大学へ入学。高校は中退している。両親共に一般人だが、何故かこの米花市に住所を置いている」
「そして、カルデア探偵局の局長をしている」
他の4人の経歴も、普通ではないが特段怪しいところはない。だが、やはり最も目を引くのは立香だ。
平凡故に異質な気配がする。例えるならば、絢爛たる名作家たちが紡いだ極上のミステリー小説の合同誌に、一篇だけなんの変哲のない凡作が収録されている。
穿って物を見る者ならば、凡作に意味を見出そうとするだろう。実は暗号になっているだとか、ペンネームを変えた著名作家のお遊びの一作だとか。
なんの変哲のない現象にも意味を見出そうとしてしまう。それが、探偵という生き物の性でもあった。
「君は、カルデア探偵局をどう見るんだい?」
「……まだはっきりと答えは出ていないけれど。エドモン・ダンテス、アントニオ・サリエリ、ジャンヌ・ダルク。この3人に共通するのは、冤罪被害者ということ」
「冤罪被害者……っ、そういうことか」
エドモン・ダンテスは、罪を着せられて婚約者も家族も名誉も富も、全てを奪われ復讐のために地獄から蘇った男。
アントニオ・サリエリは、病死であるはずのモーツァルトを殺害したと吹聴され、現代までその風評被害が根強く残っている。
ジャンヌ・ダルクは、今でこそ聖女として復権はされているが、イギリスの敵として処刑するために悪しき魔女であると不当な判決を出されて火刑に処された。
三者三様にありもしない罪を被せられた冤罪被害者だ。
「探偵が彼らの隣にいたならば、冤罪を晴らして真実を解き明かすことができたであろう人たち……民衆の悪意に曝されて犯人とされた人たちが、藤丸立香に率いられて探偵として活動しているって、面白い偶然じゃない」
「君は、彼らをそう見るのか」
「まだ、推理の途中だけどね」
さあ、もう話はおしまいだ。
もうすぐ買い出しに行った梓たちも帰ってくるし、安室目当ての女子高生たちが押し寄せてくる時間だ。
謎の組織『カルデア探偵局』……彼らの真実を暴くには、まだピースが足りない。
だが、コナンの中では一つの結論が出たようだ。
冤罪被害者たちの名を持つ彼ら、と。
とまあ、『ポアロ』で不穏な探偵たちの会合が行われていたが、彼らは気付いていない。
更に
「マスター。先週のサンデー読みたいんだけど、持ってる?」
「あ、部屋だ。後で持って来るよ」
「さんきゅー。最新号はこっちな、オレはもう読んだから。今週の『YAIBA』がさ~」
「うわー! ネタバレ禁止! 言わないで、先週の展開からどう逆転するか頭脳をフルに回転させて推理していたんだから!」
「なら、答え合わせといこうかい探偵クン。鬼丸がなぁ……」
「わー! わー!」
『……立香く~ん、話を続けて良いかい?』
「ごめん! ダ・ヴィンチちゃん!」
アンリマユと一緒にサンデー談義に花を咲かせようとしたが、現在進行形でダ・ヴィンチちゃんと連絡調整中であることをうっかり忘失していた。今、結構大切な話をしていたんだぞ。
『毛利小五郎の弟子と名乗った安室透という探偵だけど、観測の結果そんな人物は存在しないことが分かった。でも、全く同じ顔の人物はいたよ。名前は降谷零、警察庁公安警察に所属する警察官だ』
「公安警察……って、正義のためには手段を選ばないって感じでドラマに登場する、あの公安警察?」
『そう、その公安警察』
『何かの目的のために、毛利探偵の元に潜入しているのかもしれません』
『怪しまれたら最後、君たちのことも丸裸にされるだろうね』
「そこはぬかりない。既に偽の情報をばら撒いている」
『
探偵局を開業すると決定してから、エドモンの宝具によりありもしないバックボーンをでっちあげ済みだ。根掘り葉掘り情報を漁っても、出て来るのは嘘だけど大体は合っている真実なので全てを偽った訳ではない。
元ネタがあるとでっちあげるのも楽なのだ。
マシュとの話題が本日転校初日であるジャンヌに移ったタイミングで、件の彼女が帰って来た。
同じクラスになった蘭と園子、そして彼女たちの友人と遊びに行って来ると連絡があったが、帰って来た彼女の手にはショップの紙袋にタピオカミルクティーと、女子高生の放課後を満喫していた。
「スカートは膝上、ニーハイソックス。放課後は友達とプリクラを撮って、お小遣いと相談しながら夏の新作を買って、飲み物はタピオカ! どう、どこからどう見てもイマドキの女子高生でしょ! 完璧な変装ね」
「凄く楽しそうだね~」
「違います。これは潜入捜査なのよ」
新しくできた友達との放課後はとても楽しかったようである。お土産にと、コンビニスイーツを買って来てくれた。美味しい。
2週間前に急遽決まったジャンヌの高校入試。読み書きは漫画で覚え、一般常識は聖杯からの知識でカバーできたが、問題は理数系だった。数学は入試制度の必須科目だ。
そのため、バベッジを始めとした数学者サーヴァントたちによるリモート授業が行われた。
途中でエジソンとテスラが小競り合いを始めたり、リモートできないけど練習問題は作ってくれたモリアーティのプリントが難しすぎたり。理数系ということで志願したレオニダスのレッツ・スパルタ授業が始まったり、ジャンヌ(姉)が応援のメッセージを送ったらシャーペンがへし折られたりと、リモート授業は荒れに荒れた。
荒れはしたが、根が真面目で努力家なのでコツコツと勉強を積み重ねたジャンヌは見事に入試試験に合格。
捜査ターゲットである工藤新一と同じクラスへと編入したのだ。
「工藤新一。父は世界的推理作家である工藤優作、母は人気絶頂の中で電撃引退をした元女優の工藤有希子。日本警察の救世主、平成のシャーロック・ホームズと呼ばれた高校生探偵だ。新聞を賑わせぬ日はなかったが、今年の4月に消息を絶っている。12月の事件で名は出たが、それ以外は頑なに名を隠している」
「高校は休学中になっていたわ。文化祭や修学旅行には顔を出した……らしいけど、ループ上の出来事ね。そして、毛利蘭の幼馴染で彼氏」
「付き合っているの!?」
「マジかー。あの姉ちゃん結構な隠れ巨乳だろ、裏山」
園子が嬉々としながら訊いていないけど教えてくれた。
イギリス旅行中に告白され、修学旅行で返事をして付き合うことになったとのこと……その修学旅行が秋に控えているのは、この際突っ込まないでおく。
犯罪多重が繰り返された事件の報道により分厚くなった新聞のうち、1日だけ薄っぺらい新聞がある。薄っぺらいというか本来の厚さの新聞の日付は、工藤新一がトロピカルランドで発生した殺人事件を解決した日だった。
この日だけ、ループをしていないのが明らかだ。
「また、毛利小五郎が名探偵として頭角を現したのは、工藤新一が民衆の前から姿を消した時期と重なる」
『まるで、名探偵の役割が入れ替わるかのようですね』
「姿を消した平成のシャーロック・ホームズ……この特異点修復の鍵になるかもしれないね。ジャンヌ、引き続き帝丹高校をお願い」
「ええ、お任せくださいな。マスター」
“探偵”を求める特異点で、“
引き続き、『カルデア探偵局』は「探偵」の役割を演じながら謎を解いていかなければならない。
さあ、次はどんな事件が彼らを待っているのだろうか。
蒸気王
「では、指数関数、高次方程式、微分積分、授業を始める。モリアーティのプリントの、10~32ページを用意」
電気王
「交流!」
発明王
「直流!」
∧_∧ ∧_∧
( ・ω・)=つ≡つ ⊂≡⊂=(・ω・ )
(っ ≡つ=つ ⊂=⊂≡ ⊂)
./ )ババババババババ( \
( / ̄∪ ∪ ̄\)
スパルタ王
「入試まで、残り1週間! 時間がありません。数字を詰め込むのです! 目の前の
犯罪界の帝王
「一応本職なのに暇だねぇ。立香君と文通でも始めようかナ」
年齢は趣味です。