犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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徳川吉宗の関連映画の中にある『劇場版 仮面ライダーオーズ WONDERFUL 将軍と21のコアメダル』の字面の強さよ。


カルデア愛妻家倶楽部02

 微小特異点が発生した。

 地域は日本の関東、時代は18世紀中ごろ。江戸幕府が開かれて百年余り。

 比較的江戸に近く、当時の統治者は先に召喚されたサーヴァントの血縁者。縁のある者としてライダー、徳川家茂が館内放送で呼び出された。

 

『サーヴァント、ライダー徳川家茂。中央管制室においでください。繰り返します……』

「ダ・ヴィンチちゃん、特異点の原因は?」

「まだ分からない。揺らぎはそれほど大きくはないから、この時代に存在しない敵性エネミーが紛れ込んだのかな?」

 

 ダ・ヴィンチからの招集により、立香とマシュは既に中央管制室へ参陣していた。

 観測された特異点内部の様子を映すモニターには、鈍く重い色をした水面が見える。お世辞にも清らかとは言えない沼だ。どうやら、この沼を中心に歪みが起きているようである。

 

「同行するサーヴァントは、家茂君の他にマシュと、それと……」

「ライダー徳川家茂、参陣いたしました」

「あ、家茂君……」

「特異点かマスター! 余らも同行しようではないか!」

「クラスが偏っている&過剰戦力!」

 

 家茂だけを呼び出したはずなのに、オジマンディアスを筆頭に何だか偏ったメンバーが集まってしまった。セイバー1騎にライダー3騎、バーサーカー2騎というごちゃ混ぜ感が凄い。

 

「偶然、みなさんと集っていまして。同伴していただけると」

「そこまで賑やかなイベント系微小特異点じゃないと思うけどなー」

「いや……私の演算によると、この編成が最適解である」

「本当、項羽さん?! それじゃあ、この6騎で微小特異点にレイシフトしよう」

「了解です、先輩。ところで……みなさんは、一体どのような集いだったのでしょうか?」

 

 カルデア愛妻家俱楽部の活動内容は極秘なのである。

 何はともあれ、立香やマシュにとっては関係性がよく分からないメンバーで微小特異点へとレイシフトをした。

 時代は1737年の日本。徳川幕府第八代将軍・徳川吉宗による治世が行われていた時代である。

 

『場所は、現代の栃木県の山中だ。問題の沼は、干上がったのか埋め立てられたか、現在の地図には残っていないね』

「1737年。日本の元号では、元文2年ですね。時の将軍は八代吉宗公。後の十代将軍である、家治公のご生誕の年です」

「徳川吉宗なら俺も知っているよ。暴れん坊将軍のモデルになった人だ」

「汝の五代前の祖先であるな」

「はい。血筋的に言えば、吉宗公は僕の祖父の曽祖父となります」

 

 正確に言えば、家茂は吉宗の四男であり一橋徳川家の初代当主である徳川宗尹の系譜である。宗尹の孫にあたる家斉が十一代将軍に就任して十三代まで血縁は続くが、その後に断絶してしまい紀州徳川家から家茂が招かれたのだ。

 

「あれ、一橋って……徳川慶喜じゃなかったっけ?」

「はい。慶喜公は水戸家から一橋家へ養子に入られました。かくいう僕も、清水家から紀州家に養子に入り、十三代家定様と、ご正室の天璋院様の養子になったのです」

「マスターには分家と説けば馴染みあろう。本家の系譜が断絶した場合は血筋を遡り、近しい者を次の王とする。人間の寿命が瞬く間に過ぎ去る時代では、多くの血を残すのも王の役目であった」

 

 まだ十代前半であった家茂が十四代将軍に就任したのもこの血筋にある。

 家定亡き後、養子になっていた家茂が次の将軍となるはずだったが、年少を理由に反対する声も多かった。そこで、家康の再来とも囁かれた慶喜が推されて対立構造が出来上がってしまったが、結局は家定と血筋が近い父方のいとこである家茂が将軍となったのである。

 水戸徳川家の出身である慶喜と家定では、初代家康まで遡らないと血が交差しない。実は家定とはいとこなのだが、母方のいとこだった。

 本題に戻ろう。

 立香たちは問題の沼から少し距離の離れた場所にレイシフトした。岩肌の目立つ山道だ。麓には集落があるようだが、足元は完全な獣道である。人間が往来する道ではない。斥候として、家茂の使い魔の金魚を沼に向けて放つ。

 彼らの周囲には敵性反応は出ていなかった。だが、背後からは男女の悲鳴が上がった。

 

「きゃあぁぁぁ!!?」

「うわぁぁ! およね!」

「悲鳴?」

「待てマスター。俺が行こう」

 

 神体結界(アイギス)の仮面を展開したオデュッセウスが飛び出した。身元偽装の礼装は完備している。

 足場の悪い山道の急斜面を、男性が女性を庇いながらゴロゴロと転がり落ちている。あわや大きな岩盤に頭を強打する寸前でオデュッセウスに掬い上げられた。

 何があったのかよく分からないと言いたそうな表情をした2人は、着の身着のままと言わんばかりの姿をした、まだ若い男女だった。

 

「大丈夫ですか?」

「は、はい……ありがとうごぜえます。およね、怪我はないか?」

「うん。アタシは平気。危ないところを、ありがとうごぜえます」

 

 見たところ大きな怪我はないようだ。2人は文吉(ぶんきち)、およねと名乗った。

 

「何故、このような山道を?」

「アタシら、生まれ故郷の集落から逃げて来たんです。2人で江戸に出て、2人で暮らして行こうって」

「だけど、江戸へ向かう道に恐ろしい化け物が出るって聞いて」

「その道を迂回するために、そのような軽装備で山を越えようとしたのか」

 

 聞けば、2人は共に育った幼馴染であり、将来を誓い合った恋人同士であった。

 が、およねが金持ちの庄屋の後妻として嫁に出されることになり、2人で意を決して生まれ故郷を飛び出した。江戸に出て、仕事を探して、慎ましくも幸せな家庭を築こうと山を越えようとしたのである。

 

「つまり、駆け落ち?」

「駆け落ちだな」

「彼奴らの言う化け物とは、微小特異点の原因である敵性エネミーか」

 

 恐らくそうだろう。カルデアからの通信によると、彼らが住んでいた集落から江戸へ向かう街道へと出るには、例の沼の付近を通過しなければならない。

 文吉とおよねは本気だった。本気で、駆け落ちをしているのだ。

 先ほどのような危険を承知の上で、もしかしたら化け物に遭遇するかもしれない恐怖を抱えて故郷と家族を捨てたのだ。

 その証拠(?)に、およねは仮面を解除したオデュッセウスに見向きもしなかった。文吉しか見えていない。

 そんな彼らに、家茂は問いかけた。外見だけ見れば、家茂は2人よりも年少に見える。だが、その問いかけはどこか厳しく、彼らの覚悟を図っているかのようなものであった。

 

「……本当に、故郷を捨てますか? もし、家族がお2人の結婚を認めて帰って来いと言われても。もし、家族が危篤だと知らせが来ても、およねさんはそう簡単に江戸から出ることは許されませんよ。江戸から出る女性は、関所で厳しく見分されます。一度江戸に入れば、もう二度と故郷の土を踏めませんよ」

「……どういうこと?」

『当時、江戸周辺に設けられていた関所では「入り鉄砲に出女」といって、江戸に入る鉄砲と江戸を出る女性を厳しく取り締まっていたんだ』

「江戸に入る武器は分かるけど、何で女性を?」

「……人質か」

 

 オジマンディアスの言う通りである。

 当時の地方各地の諸大名の妻子は江戸で暮らしていた。人質である。妻子を江戸に置き、更には参勤交代で資産を消費させることにより、幕府への謀反の意志を削いだのだ。そのため、大名の妻が地方へと逃げ帰らぬように、女性全般を関所で厳しく取り締まっていた。

 江戸の女性は、江戸で一生を終える。およねが江戸へ入れば、この先故郷に帰ることは不可能だろう……その覚悟を図るかのような家茂の問いかけに、およねは文吉の手を強く握った。

 

「覚悟、できてます。これから先、文吉と一緒なら何も怖くないです」

「おらも、およねと一緒なら家族を捨てられます!」

「良かった。それなら……っ! 失礼! マスター! 斥候の金魚が捕食されました!」

「来タゾ……血ダァァァ!」

 

 話の途中だがエネミーだ。

 家茂の使い魔を捕食し、沼から這い出て来た敵性エネミーがあちらからやって来た。炎の如き鬣を揺らす東洋竜は、一見すると神に見える……だが、アレは彼らの言う通り化け物だ。

 第四異聞帯(インド)で散々見た竜種が登場してしまったのだ。

 

「マハーナーガだーー!」

「ひえぇぇぇぇ!!」

「きゃーーー!!」

「西楚の、貴様の演算で出ていたのはこいつか」

「うむ。第四異聞帯で遭遇した個体に比べれば小振りだ。問題ない、マスター」

 

 こちらは問題ないが、初見の文吉とおよねは腰を抜かして悲鳴を上げた。そりゃそうだ。

 マハーナーガは彼らに狙いを定め、竜種の顎を開いて業火を吐き出した。文吉とおよねは、お互いの手を握り締めて寄り添い、死を覚悟して目を瞑る……が、彼らが焼け死ぬことはない。

 

「空蝉の 唐織衣 何かせむ 綾も錦も 君ありてこそ……嬉しく思います、貴女の真心を。『菊と葵の契り・空蝉の袈裟』!」

 

 家茂の宝具が発動した。

 西陣織の壁が展開され、女神の加護の如き、女神の加護にも劣らない絶対的な防御が2人を守ったのだ。

 

「この先、栗橋の関所を抜ければ江戸です。お行きなさい。早く!」

「重ね重ね、ありがとうごぜえます」

「……本当に好きな方と。心から愛する方と、添い遂げてくださいね」

「はい!」

 

 文吉は抜けた腰に檄を入れておよねの手を引き、江戸を目指して走り出した。およねは文吉の手を握ったまま、家茂や立香を始めとした面々に頭を下げて、二度と故郷へと戻らぬ覚悟を噛み締めたのだ、

 

「家茂君。さっきの言葉、本当に言いたかった人は別にいるんじゃないの?」

「……ええ、僕の自己満足です。ただ、好きな子は本当に幸せになって欲しいというエゴです。例え、そこに僕がいなくとも」

「そんなことないよ」

 

 そんなことはない。きっと、()()の幸せには、家茂が必要なはずだ。

 さて、マハーナーガの討伐に本腰を入れよう。確かに、竜種相手ならばこの過剰戦力が適任だ。更には、魔性を退治した逸話によりそれらに特攻することができるラーマがいる。

 

「フハハハハハハ! 蛇退治といこうではないか! 我が光に灼かれて消え去るがいい! 闇夜の太陽船(メセケテット)!」

 

 そして、雲間からはオジマンディアスの船が顔を出す。オデュッセウスの木馬もいつでも召喚できる。バーサーカー2騎も暴れる気満々である……負ける気がしなかった。

 ところで、何故日本の沼にマハーナーガが棲みついていたのか?

 インド由来の神性が確認され、場所が江戸時代の日本ということから、かつて江戸城の大奥が迷宮と化した際の余波……つまり、カーマの余波だったことが判明した。

 

「別に良いじゃないですか。過剰戦力による一方的な虐殺で解決したんでしょう」

「まあ……確かに、あれは一方的でした」

 

 対マハーナーガは、本当に一方的に殲滅できた。グンヒルドのお陰で。

 何かお気に召さないことがあったのか、開幕と同時に大量の呪いがマハーナーガを襲ったのである。そのお陰で、こちらはただ殴ればいいだけの作業のような戦闘になり、あっと言う間に討伐できたのだった。

 呪い、凄い、怖い。

 

「近々、奥様宛にお中元を贈らせていただきます。水ようかんでよろしいでしょうか?」

「ああ、ありがとう。グンヒルドに訊いておこう」

「此度のレイシフトで、余は確信した……妻に替わる偉大な存在はない! 以上!」

 

 本日のカルデア愛妻家俱楽部の集まりは、これにて幕を閉じたのだった。

 

「そう言えば、家茂君も“徳川”だよね。カーマ、やっぱり彼も……」

「ええ。しっかり堕落させて(愛して)あげましたよ。色白で背の低い、小柄で京訛り……好みがはっきりしていたので、そこを突けば楽でした」

 

 立香には時々、家茂の肩に添えられている白い左手が見える。

 その白い左手の主はきっと、色白で背の低い、小柄で京訛りの、凄く可愛い家茂と同い年の少女だ。

 

 

 

***

 

 

 

【スキル強化】

〇公武合体(契)B

  ↓

  ↓

〇公武合体(契)A

恋などなかった政略結婚。たった4年の結婚生活。子供もおらず、繋ぎとめる物など何もなかった。

せめて次の生では、使命に縛られずに好きに生きて欲しい。恋をした人と、愛した人と、心から幸せになれる者と一緒になって欲しい。

だけども、彼女は「側に葬って欲しい」と言い残してくれた……こんなにも嬉しいことはなかった。




・文吉とおよね(17)
現在の栃木県の集落で暮らす幼馴染の恋人同士。
およねが親によって一回り年上の庄屋に後妻として嫁がされそうになり、故郷を捨てて江戸へと駆け落ちした。
彼らのその後は歴史に残っていない。しかし、江戸で貧しくも子宝に恵まれ、故郷に帰れずとも江戸を終の住処として末永く幸せに暮らしていたのだろう。
享保の改革にある「元文改鋳」と「上米の制」から。ちなみに、徳川吉宗は天文台も設置している。

十四代目の強化クエストでした。
こちらは米花市から帰還してそれなりに時間が経っている頃かと思われます。オデュッセウスも召喚されている。
甘い物を食べたり気が合うサーヴァントたちと集ったり、時々こっそりと茶々の様子を窺ったりと、結構楽しくカルデアライフを満喫している。図書館も好きらしい。生物の図鑑がいっぱいある!生物大好き!
☆3ぐらいのリーズナブルなレベルで、エクストラアタックで順動丸が召喚されたりもする。


【十四代目のカルデアでの人間関係】
〇巌窟王
かつての雇用主とバイト。
未だコーヒーが飲めない十四代目のために、砂糖とミルクをたっぷり入れたカフェオレを出してくれる。

〇ジャンヌ・ダルク・オルタ
リソース調達や微小特異点の解決には「後輩」と呼んで結構積極的に誘ってくれる。
夏が近づくとアシスタントとして駆り出される。猫の手よりは使えるとか。

〇アントニオ・サリエリ
十四代目が若輩生徒属性でもあるので結構相性がいい。
あと甘い物。本日のカルデアのおやつを楽しみにする甘味仲間。

〇ヘシアン・ロボ
勿論人間なので認められていない。ただ、妻を想うその姿勢だけは尊重してもらえている。
ヘシアンとは、(元)ライダー故かそれなりに仲が良い。

〇アンリマユ
「後輩、生前の嫁とのいちゃいちゃ教えて」
「先輩、それはパワハラというのではないでしょうか」
「言うようになったな、この将軍」

〇黒猫プルートー
同期。再会の約束をしていたと、それは覚えている。

〇ぐだぐだ組
信長には知人の親戚の子供のような反応をされる。そして、茶々の憎悪の対象であるピンポイント徳川である。
幕末組は平身低頭。特に、師匠が敬愛する上様であったためか坂本竜馬がすげぇ頭下げてくる(以蔵さんも時に巻き添えになる)。新選組にとっては、上司であった松平容保よりも上の存在。当時は謁見すらもできない相手。
あの、あまり頭下げないでください……今はサーヴァントですから。

〇カルデア愛妻家倶楽部
ファラオの、ファラオによる、ファラオが直々に認めた愛妻家たちの集い。主な活動内容は、妻との想い出という名の惚気語り。
各々にとっては己の妻が至上で最高なのは暗黙の了解なので、自分の妻の方が上~的な言い争いは不思議と起こらない。カルデアで妻と再会できれば名誉会員となる。
ちなみに、表に出さないだけで他にも愛妻家はいるが、ファラオのお眼鏡に叶うか否かである。会員からの推薦か、ファラオ直々のVIP招待でなければ参加できない。

【以下、アウトの事例】
フィン・マックール(とサーバ)→愛妻家ではあるが、晩年のアレコレがファラオ判定アウト
クー・フーリン(とエウェル)→一回家に帰って来なくて大変なことになったのでアウト
オリオン(とアルテミス)→「愛妻家だって! ねえ、ダーリン?」「ウ、ウン……オレ、アイサイカ」
円卓関係→アウト・オブ・アウト
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