犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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第一節~“クリスマス”殺人事件

 クリスマスが今年もやって来る。

 カランカランと涼やかなベルの音と共に、シャンシャンと鈴の音がプレゼントを運んできた。

 

「ブロロロロ~ききぃ~! 停車しまーす」

 

 エンジン音(声)が停止すると同時に、カルデアの食堂にはソリにこんもりと盛られたプレゼントの山が到着した。しかし、ソリを引いているのはトナカイではない。ましてや、人力でもない。

 プレゼントが乗ったソリを引いていたのは、黒猫がすっぽり収まったダンボール製のトラックだったのだ。

 

「メリークリスマス! プレゼントをお届けに参りました!」

「わーい! サンタさんだー!」

 

 壁には松ぼっくりのクリスマス・リースと靴下の飾り。テーブルの上にはミニツリー。厨房からは焼立てのミンスパイの香りが漂い、シュトーレンに化粧をする粉砂糖が舞い散っている。

 クリスマスの空気に染まり始めた食堂にやって来た此度のサンタクロースは、ひらりとダンボールトラックから降りて?出て来て?首のモール飾りを器用に(それでもいつもよりゆっくりと)動かして、集まって来た子供サーヴァントたちにクリスマスプレゼントを配り始めた。

 

「見て見ておかあさん! 心臓柄のもこもこパジャマだよ!」

「ベイブ柄のマグカップだー!」

「良いプレゼントだね。凄いな、ちゃんとサンタしてる……猫なのに」

 

 ジャック・ザ・リッパーには心臓(ハート)柄のもこもこパジャマ。ポール・バニヤンには牛柄の青いマグカップと、プルートーが運んだクリスマスプレゼントは十分に喜んでもらえたようである。

 

「マスター、マシュさん。お疲れ様です」

「家茂君。エプロン……ということは」

「クリスマスのお菓子作りのお手伝いをしています。プルートーがサンタ……サンタクロースですか?」

「家茂さん。はい、今年はプルートーさんがサンタに就任されました。クリプロ(※クリスマス・プロ)の先輩によりますと、とてもしっかりしたサンタのようです」

「歴代のサンタと比べると、ヒトですらないんだけどね」

 

 厨房から顔を出した家茂はエプロン姿だった。手にした籠の中には、ジンジャーマンの姿に型抜きされたクッキーが小分けに包装されている。お一つどうぞと受け取れば、赤と緑のリボンで封がされた袋越しでもスパイスの良い香りがした。

 歴代のサンタの中で最も異色なサンタがきちんと活動できているのは、彼が乗って?入って?いたダンボールトラックのお陰だ。これがあったから、猫の手だけでサンタ活動ができるのである。

 

「こちらのトラック、天才さんが造ってくれました。軽くて丈夫、しかも中に入ると保温効果たっぷりで温かく、乗り心地……もとい、入り心地も良いんですよ。魔力を燃料として動くのでエンジンはとても静か。静かすぎて事故が起きてはいけないので、ボクの口でエンジン音を出しています。たくさんのプレゼントを運べる馬力も勿論のこと、何やら秘密の機能も備わっているそうですよ。ボクは4WDなところが気に入っています!」

「それは本当にダンボールなのかね」

 

 エミヤのツッコミが冴える。原材料がダンボールなのか怪しいところであるが、猫が喜んで入るので多分ダンボールだ。ダ・ヴィンチちゃんの技術に疑いはない。

 厨房でお菓子を作り、クリスマス・ディナーの仕込みをしていたエミヤやブーディカも今年のサンタの活動を見物しに来た。食堂にいるサーヴァントや職員へ一生懸命にプレゼントを届ける黒猫の姿は、確かに幸先が良い。

 今年は平和なクリスマスを迎えられそうだ。

 

「ミンスパイが焼立てだよ。休憩して行くかい?」

「お気持ちありがとうございます。でも、ボクはサンタなので次の配達に行かなければなりません。猫の手と、マスターたちの手しかないので人手も猫の手も不足しているんです」

「では、手伝わせてもらえるだろうか」

「おや?」

 

 ダンボールトラックが引っ張るソリの上から、プルートーの身体よりも大きなプレゼントがひょいと運ばれる。サンタプルートーの左耳がピクリと動くのに呼応して、彼女の獅子耳も同じくピクリと動いた。

 

「アタランテ! 手伝ってくれるの?」

「ああ。サンタは子供たちに夢を運ぶ者だ。実は私も、次のサンタになろうとしていたのだが……先代のサンタは、次に誰を指名するか心に決めていると見受けられたため、諦めていた」

「その人に断られたので、ボクが棚ぼたで施しさんの次のサンタになっちゃいました」

「それは汝の運だ。マスターが認めている以上、汝は今年のサンタだ……子供たちの前で無理にサンタの座を奪い取るのも憚れる。だが、サンタが助力を請うならば共に子供たちにプレゼントを運ぼう」

「ありがとうございます、狩人さん。では、次のお届け先に行きましょう!」

 

 アタランテを仲間に加え、食堂の次は自室で寛ぐサーヴァントたちへプレゼントを届けに行こう。事前のリサーチのお陰で、各々が欲しいプレゼントは把握済みだ。

『折り曲げ禁止』のシールが貼られた薄い箱の宛て先を目にすると、サンタプルートーは瞳孔を細くして左目を大きく見開いた。

 

「こ、この人は! 『NNN』からの最新情報に載っていた、冬の最終兵器(リーサルウェポン)の所有者!」

「何? 『NNN』って!」

「ボクがアクセス権限を持つ人類監視情報網です。こちらにアクセスすることにより、本当に欲しいプレゼントのリサーチという名の人間の本音や生活環境が把握できます。ちなみに、『NNN』は『ねこねこネットワーク』の略称です」

「そのような情報網があったのですか?」

「多分、猫専用だよ」

「次のお届け先は注意しなければなりません。油断していると意識が持っていかれるでしょう」

 

 サンタプルートーが気を引き締めながら、次のお届け先のドアの前に立つ。ここに、サンタになる前から探し求めていた冬の最終兵器(リーサルウェポン)があるというのだ。

 

「ぴんぽーん! お届け物でーす。ハンコかサインお願いしまーす」

「キターー! 待ってた! (わたし)が頼んだプレゼント、鉄棒ぬらぬら先生の新刊! 今回は雅号・ゴッホ先生が寄稿しているんだよねー……はっ!」

 

 鳴らしたインターフォン(口)を聞き付けて部屋から出て来たのは、上下スウェットにヘアバンドで前髪を上げ、眼鏡着用という、どう見ても修羅場ですと言わんばかりの恰好をした刑部姫だった。この部屋、彼女のマイルームである。

 テンション高めに、ボールペンを持ってサンタを出迎えた刑部姫であったが、サンタだけではなく立香やマシュ、アタランテがいることに気付いて正気に戻った。

 

「マママママ、マーちゃん?! えーと……今年も、サンタの手伝い?」

「うん」

「相も変わらず部屋に引き籠っているのか」

『し、しまった~! 新刊が嬉しすぎて修羅場のまま出てしまった!』

「はっ!」

 

 普通に宅急便を受け取る仕様で出たら、まさか知り合いがいた。インターフォンが鳴ったらまずはモニターで配達人の姿を確認しよう。

 焦る刑部姫だったが、その後ろにあるブツをサンタプルートーは見逃さなかった。

 ディスプレイに囲まれた彼女の作業スペース……それこそ正に、全猫憧れの冬の最終兵器(リーサルウェポン)、炬燵ではないか。

 

「あれが、炬燵……猫ホイホイ、猫が抗えない魔力を放つ、全て遠き理想郷……!」

「あれ、よく見たらこの間召喚された猫ちゃん? 猫が、サンタ?」

「炬燵、おコタ……」

「よく分かんないけど。炬燵、入りたいの? (わたし)イヌ科だけど、猫は原稿の味方(癒し)だし。入ってもいいよ」

 

 刑部姫のOK発言に、サンタプルートーの左耳がピンと立った。え、良いんですか?!

 夢にまで見た炬燵、それが目の前にある……だが、今の自分にはサンタとしての使命がある。猫だって、やる時はやる。炬燵の魔力にも抗ってみせよう、だって、サンタなのだから。

 

「受け取りのハンコかサイン、お願いします」

「はーい。ありがとう~!」

「お届け完了しました。では!」

「サンタプルートーさんが、猫さんが炬燵の魔力に打ち勝ちました!」

「黒猫、汝のサンタにかける使命感はそれほどまでなのか!」

 

 炬燵の誘惑に打ち勝ったプルートーは、また次の届け先へとダンボールトラックを走らせた。それもこれも、猫なりの使命感の賜物である。

 

「ぴんぽーん! お届け物でーす。ハンコかサインお願いしまーす」

「ひいぃぃぃーー! 猫が! 猫が!」

「あれ、この部屋は確か……」

「次のお届け先は、武則天さんです」

「あ、猫苦手な方でしたね」

 

 ドアの向こうからふーやーちゃんこと、武則天の悲鳴が聞こえた。猫嫌いの彼女にとって、猫がプレゼントを届けに来たなどちっとも嬉しくないのである。

 

「うっかりしていました。猫嫌いの人には距離を取るのがマナーでしたのに、サンタ故に来ちゃいました」

「ユゥユゥ、代わりに出るのじゃ!」

「はーい、不夜奶奶」

「姐姐と呼べ!」

「はぁい」

 

 代わりに荷物を受け取った楊貴妃のサインをもらってお届け完了。サンタだが猫である故に、万人に歓迎される訳でもないのだ。世の中には、猫嫌いの人もいるっちゃいる。

 

「猫が苦手な方への宅配サービスを開始する必要がありそうですね」

「サンタが全ての者に歓迎される訳もない。難しいな。せめて、子供たちにはどんなサンタでも喜んでもらえればいいのだが」

「人々に幸福を運ぶ聖人(サンタ)であり、愛らしいメカクレという最強の存在でさえも忌避感を抱く者もいるとは……」

「……待って待って、いつからいたバーソロミュー?!」

 

 いつの間にやら、プレゼントを運ぶサンタプルートーの手伝いの中にバーソロミューが混ざっていた。

 

「今年のサンタが黒猫君と聞いてね。猫の手しかないのも不便だろうと、助力に来たんだ」

「ですが、バーソロミューさんは確か、プルートーさんはメカクレではないと判定したのでは?」

「そう、安易に目が隠れているだけではメカクレとは言わない。真のメカクレとは、前髪のカーテンの向こうに宝石の如き瞳が隠されていることをいう。マシュ、君のように。当然、眼帯はメカクレとは言わないし、隻眼も異なる。しかし、黒猫君は顔全体が毛に覆われている」

「まあ、猫ですから。犬なら前髪の長いのもいますけど」

「黒い毛の向こうに隻眼の傷が隠れているが、その向こうには瞳はない。しかし、かつてはどんなに美しい瞳があったのだろうかと思わず想像してしまう。黒猫君は果たしてメカクレなのか、そうではないのか……その謎を解明すべく、我々はアマゾン奥地へと旅立ったのだった」

「旅立たないで、帰って来て」

 

 プルートーはメカクレなのか、そうではないのか。多分、メカクレではない気もするが、サンタプルートーを凝視しながら思案に耽るバーソロミューの姿を見ると、何も言えなかった。

 取りあえず、手伝いの手も増えたのでサンタ活動を続けようと、たくさんのプレゼントを積んだソリを引っ張るダンボールトラックが発車する。このまま、何事もなく楽しいクリスマスが迎えられる……と思いたかったが、異変は突如やってきた。

 

「ん……この廊下、他よりも飾りが少ないな」

「本当ですね。飾り付けの途中でしょうか」

 

 他の廊下と違い、色紙で作られた輪飾りしか垂れ下がっていない。本当ならば、この輪飾りの周りにヒイラギや星や雪だるまが煌びやかに飾られているはずなのに、随分と素朴な飾り付けになっているのだ。

 飾り付けの途中……ではない。この廊下は昨日、サーヴァントたちに手伝ってもらって立香が飾り付けた場所だ。クリスマスの気配が消えている。

 何か胸騒ぎがして周囲を見渡した。するとどうだろう、廊下に飾られているクリスマスキャンドルの火が消え、キャンドルその物もスゥっと空気に溶けるように消失したのだ。

 

「っ! こ、これは」

『立香君、聞こえるかい?』

「ダ・ヴィンチちゃん! 今、クリスマスキャンドルが」

『クリスマスキャンドルだけじゃない。今、カルデア全体で、“クリスマス”に関する物が消失し始めているんだ!』

 

 クリスマスキャンドルが、クリスマスの飾りが、オーナメントが。焼立てのミンスパイも、輝くクリスマスツリーも……そして、綺麗にラッピングされたプレゼントも。

 何もかもが消えて行く。最初からなかったかのように、“クリスマス”という概念が何者かに殺害されるかのように。

 その日、カルデアから“クリスマス”が消えた。




目がないのはメカクレではないが、毛で目が隠れているのはメカクレである。そして、黒猫は右目が毛で覆われていて、サンタは帽子で目が隠れている。
果たして黒猫はメカクレなのか、メカクレではないのか……その謎を解明すべく、我々はアマゾン奥地へと旅……立たない。
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