犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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第二節~サンタ(ヴィレッジ)の亡霊

 カルデアから“クリスマス”が消えた。

 エントランスにそそり立つ巨大なクリスマスツリーが忽然と姿を消した跡地は、閑散とした虚しさが漂っている。

 

「“クリスマス”消失事件の被害報告だよ!」

「ツリーもリースも、ヒイラギの一粒さえも消えちゃった!」

「しかし、一部消失を免れた物もありました。サンタが配るプレゼントは消えましたが、サンタから受け取り、ラッピングを解いて取り出したプレゼント。また、既に手を付けていたクリスマスのお菓子もそのままです」

 

 ネモ・マリーンたちがカルデア内を駆け回り、ネモ・プロフェッサーが報告をまとめる。

 カルデアから“クリスマス”に関する物が消えた。だが、サンタプルートーが届け終えたプレゼントは消えていない。ジャックのパジャマもバニヤンのマグカップも、刑部姫の新刊も消えていない。

 ただ、武則天に届いたプレゼントは、まだ開けていなかったため消失してしまったらしい。つまり、消えたのはクリスマスプレゼントという概念を持った物。ラッピングが解かれて、ただの物になってしまったそれらは“クリスマス”という概念を失ったということになる。

 

「クリスマスに関連する物が消えるとは、一体どういう事態かね?! しかし、私のブッシュ・ド・ノエルが消えなかったのは僥倖だ。やはり、味見は大切だったな」

「俺たちが家茂君からもらったジンジャーマンクッキーも、途中で摘まみ食いしたからか消えていないね」

「クリスマスカラーのラッピングリボンを解いたことにより、“クリスマス”の概念から外れたということでしょう」

「しかし、ボクが用意した未配達のプレゼントも全部消えました。ソリ、むっちゃ軽いです」

 

 今年も前途多難なクリスマスになるのが決まった瞬間である。

 昨年、色々と堰き止めたクリスマスにした犯人(ヴリトラ)が、映画の公開を楽しみにしているかのような様子だった。しかし、今年の犯人は彼女ではないようだ。

 

「クリスマス概念の消失とほぼ同時に、微小特異点の発生が確認されました。いやー、絶対に何か関係ありそうですね」

「十中八九九分九厘、関係あるはずだ。微小特異点の発生と同じくして、サンタパワーの著しい減少を感じる」

 

 モニターを確認するシオンの隣には、初代カルデアのサンタこと、アルトリア・オルタ〔サンタ〕がいる。珍しい組み合わせだ。

 彼女曰く、クリスマスという概念が徐々に徐々に殺害されているかのように、サンタサーヴァントの力の源であり、クリスマスの時期に満ちるはずのサンタパワーが減少していっているとのこと。その特異点が示した地域は、氷に閉ざされた北欧の地……サンタクロースの故郷と呼ばれている地であった。

 

「年代は2005年。場所は、フィンランドのロヴァニエミ近郊だ」

「フィンランド?」

「ロヴァニエミとは確か」

「そう。ここには、サンタクロース村があるんだ。と言っても、観光やボランティア目的で作られた村だ。サンタクロースに手紙を出せば、返事が来るというイベントがあるだろう。その手紙の宛先が、フィンランドのサンタ村なんだよ」

 

 サンタクロースは北極から来ると言われているが、最近では北極圏に近しいフィンランドが故郷というのが通説となっている。ダ・ヴィンチちゃんが示したその場所こそが、世界中の子供たちからの手紙が届くサンタクロース村だ。

 観光地として設立された場所とは言え、クリスマスに根深い場所である。この場所周辺が微小特異点と化してクリスマスの概念が消失しかかっている現状に無関係なはずはない。

 

「立香君、早速だけど微小特異点へレイシフトをお願いしたい」

「了解」

「マスター、マスター。ボクも一緒に連れて行ってください。こういう展開は、サンタが何とかするんでしょう?」

「うん。お願い、プルートー。ツリーもケーキも、プレゼントもないクリスマスは、寂しいからね」

「そうですね。物がないのは寂しいですよ」

「マスターのサポートはマシュと、サンタプルートー」

「マスター、私も連れて行ってくれ。子供たちを泣かせるクリスマス消失事件の犯人……許せん!」

「主の生誕日を穢す罰当たりがいるとは見逃せない。私も同行しよう」

 

 サンタ活動を手伝っていたアタランテとバーソロミューも、そのままレイシフトのメンバーへ選出する。あともう1騎ほど協力を得たいところだ。できれば、接近戦と中距離戦闘が任せられるサーヴァントが良い。

 

「ボクに心当たりがありますので、お願いしてきますね」

「じゃあ、プルートーにお願いしようかな」

「承知しました。では、ちょっと行ってきます。ブロロロロ~」

 

 サンタプルートーはダンボールトラックに乗り込んで、心当たりがあるというサーヴァントに協力を仰ぎに行った。

 後は彼に任せて、立香たちはレイシフトの準備へと入る。何せ、レイシフト予定地はマイナス30度の北極圏だ。極地用の礼装の調整を完璧にしなくてはあっと言う間に凍死してしまう。

 無事だったジンジャーマンクッキーやミンスパイを非常食に、ゴルドルフ新所長の勧めで砂糖とミルクたっぷりのココアを持って、いざサンタ村へ。

 

「ブロロロロ~トラック通りまーす」

Pussy cat, pussy cat, where have you been?(仔猫ちゃん、仔猫ちゃん、どこいってたの?)

 I've been to London to look at the queen.(ロンドンまで女王様を見に。)

 Pussy cat, pussy cat, what did you there?(仔猫ちゃん、仔猫ちゃん、何をしたの?)

 I frightened a little mouse under her chair.(イスの下の仔ネズミを脅かしてやったよ。)

 こんにちは、可愛いキティ」

「こんにちは、童謡さん。でも、ボクは仔猫(キティ)ではありませんよ」

 

 美しく立派な成猫であると、地の文に書かれている。マザー・グースの調べを奏でながらやってきたナーサリー・ライムは、何故か今日に限ってサンタプルートーを「キティ」と呼んでいた。

 

「何もないクリスマスはとても寂しいわ。哀しいわ。クリスマスは、ドキドキワクワクする楽しいものなのに」

()()()()()()()()。マスターも他の方々も、とても楽しみにしていましたのに。マスターが楽しいのなら、クリスマスとは楽しいことなんですよね」

「……キティ、あなたは楽しいかしら?」

「? よく分からないですけど、マスターが楽しいならボクも楽しいと思います」

 

 きょとんと左目を円くして首を傾げたサンタプルートーに、ナーサリー・ライムは少し哀し気に目を瞑った。

 

「ええ、そうね。そうなのよ。きっと大丈夫、あたしの素敵な物語(お友達)……きっとあなたも、楽しいクリスマスを迎えられるわ」

「クリスマスプレゼントを取り戻したらお届けに参りますね」

「楽しみにしているわ。素敵なサンタさん」

 

 雪は白く、吐く息も白く。高い空は厚い天鵞絨(ビロード)の如き雲に覆われて、旅人を導く星は見えなかった。

 フィンランドのロヴァニエミ近郊。本来ならば、世界各国から観光客が訪れ、彼らを歓迎するサンタクロースのスタッフが常駐しているはずのサンタ村へとレイシフトしたカルデアが一行は、現状の姿を目にして唖然とした。

 村が雪に呑まれていたのだ。

 イルミネーションで飾り付けをされていたはずのモミの木は倒壊し、メインの建物であるサンタクロース・オフィスのとんがり屋根は雪面から飛び出た天辺しか顔を出せていない。サンタグッズの売店は姿形も見えず雪の下。電線は切れ、電灯は割れ、人っ子1人どころかトナカイの一頭も姿が見えないのだ。

 

「これは……雪崩でもあったのかな」

『北極圏に近いと言っても、位置的にはロヴァニエミ市内。雪崩が起きるはずはない』

「なら、侵略を受けたということですか。はた迷惑なホワイトクリスマスね」

 

 身を指す凍て風に旗が靡く。此度のレイシフトに選出された最後の1騎こと、サンタプルートーが呼んできたサーヴァントはジャンヌ・オルタだった。

 曰く、「気兼ねしないと言うか、同じクラスの先輩だからと言いますか。先日、ヒトの姿に変化して原稿の手伝いをしたので、頼みやすかったんです」とのこと。

 彼女を連れて来たサンタプルートーは、ダンボールの轍を作りながら雪道を進み、外に出ようとしたが寒くてやめた。

 

「サンタ村なのにサンタいませんね。どこに行ってしまったのでしょうか?」

「まさか、雪の下に閉じ込められているのでは?」

『いや、村内に人間の反応はない。勿論、トナカイの反応もない。()()()()()んだ』

「……いや、違う」

『うん、ちょっと語弊があったね。誰もいないけれど、エネミーの反応はある』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの通信の最中にアタランテが弓に矢をつがえ、雪原に向けて一射を放った。彼女の矢の正面に出現したのは、雪そのものが湧き上がって丸い身体を形成した三段雪だるま。

 敵性のエネミー反応が確認されたのでただの雪だるまではない。雪だるま型のエネミーである。

 

「マスター! 戦闘だ!」

「了解!」

 

 最初の一体はアタランテの矢で頭部を吹っ飛ばされて崩れたが、一体目の出現に連鎖して次々に同タイプのエネミーが湧いて来る。

 クリスマスの時期によく見るスノーマン系統と見受けられるので、「トリプルスノーマン」と呼ぼう。雪玉三連の身体に毛糸の帽子を被り、長い枝が両腕のように二段目の雪玉に刺さっている。シンプルな顔はにこやかな表情に配置されているが、不気味な無表情にも見える……その表情のまま、トリプルスノーマン軍団は雪玉や氷柱を撃って来たのだ。

 

「マスター! 後ろへ!」

 

 ギャラハッドの盾を構えたマシュが前衛に出て雪玉攻撃を防御する。円卓の盾は硬い雪と氷の攻撃を弾き、トリプルスノーマンたちの一斉攻撃が止んだ微かな隙間で、マシュの背後からは二門の砲台が出現した。

 

「麗しいメカクレの乙女が浴びるのは、熱を帯びた歓声だけだ」

 

 紳士的に一礼をするが、砲台の照準は定まっている。バーソロミューによって発射された砲弾はトリプルスノーマンの軍団を吹っ飛ばし、冷たい身体は粉々になって雪に溶けた。

 だが、何体かは砲弾を免れて逃げ出して、スキーのように雪面を滑走しながら氷柱を撃って来る。真新しい雪面なので足場が悪く、こちらは移動が制限される……とは限らない。

 既にこちらが先手を取り、あらゆる障害を飛び越えることができる俊足の狩人が相手を捉えていた。

 

「手応えがあった。弱点は頭部か!」

「なるほどね。核か何かあるのかしら!」

 

 トリプルスノーマンの頭上に飛躍したアタランテの矢が一射、二射と、毛糸の帽子を被った頭を射抜いた。頭部が崩れると身体全体が崩れて雪に戻ってしまったので、そこが弱点で間違いないだろう。

 ジャンヌの旗が両腕の枝を振り回してきたトリプルスノーマンの頭部を砕けば、ナニかにぶつかった手応えと共にトリプルスノーマンが崩れ落ちた。

 粗方数を減らしたら、残りは一気に片付けよう。やはり、雪を溶かすには、人間を鏖殺できるほどの火力が必要だ。

 

「報復の時は来た! これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!」

 

 憤怒の業火が雪の大地に迸る。

 炎の柱はトリプルスノーマンたちを取り囲み、炎の槍が串刺しにする。雪解け水も残さず、身体が全て蒸発してしまうほどの火力に焼かれた雪だるまは、毛糸の燃えカスさえも残さずに消滅した。

 トリプルスノーマンは消滅した。が、雪だるまが荼毘に伏されて立ち上ったのは、水蒸気ではなく巨大なゴースト……立香は覚った。あのトリプルスノーマンを操作していたのは、あのゴーストの仕業であるということを。

 

「炙り出されたということか、文字通り」

「プルートー!」

「承知しました」

 

 バーソロミューが撃った銃弾がゴーストの眉間に被弾した。そして、サンタプルートーがゴーストの正面に飛び出すと……巨大ゴーストさえも見下ろすほどの巨大な黒い毛玉。じゃなくて、黒猫のまま巨大化して猫パンチを振り下ろし、ゴーストをプチっと潰したのだ。

 エネミー反応の消失を確認。戦闘終了である。

 

「プルートーさん! 巨大化ができたのですね」

「サンタになって大きさが自由自在になりました。今ならバスのようにマスターを乗せて運べますよ。あ、でも、寒い日の運行はしません」

「ネタが大渋滞してる!」

 

 各方面から抗議されそうなので、サンタプルートーは元の大きさに戻った。やはり、猫に雪国は堪えるのである。

 

「これは……マスター、エネミーの中にこんな物が」

「雪だるまの落とし物。クリスマスツリーのオーナメントかな」

 

 アタランテの矢に貫かれたそれは、丸くて赤いクリスマスツリーのオーナメントだ。どうやらトリプルスノーマンの核であり、赤や青、黄色などのカラフルなオーナメントがそこらじゅうに転がっていた。

 

「クリスマスの概念に相当する物は消失しているはずですが」

「うーん。とりあえず、集めておこう。何かの役に立つかもしれない」

 

 雑音さえも吸い込んでしまうほどの深い雪。白に覆われた世界に散らばるオーナメントを落として行ったエネミーたちは、一体どうしてカルデアへ襲い掛かって来たのだろうか。

 

『……クイ、……シイ…………シロ』

 

 サンタプルートーの猫パンチに潰された亡霊のか細い呟きは、誰の耳にも届かなかった。




エネミー名:トリプルスノーマン
クラス:アーチャー
ドロップ素材:赤いオーナメント、青いオーナメント、黄色いオーナメント、緑のオーナメントのどれか
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