プレゼント工場の『主電源室』を取り戻し、ストライキを起こしたトントゥたちもクリスマス菓子と彼らが好むハーブティーのティータイムによって落ち着きを取り戻していた。
プレゼント工場を再稼働させることができたら、彼らの本来の賃金であるヨウルトルットゥ――フィンランドの伝統的なクリスマス菓子を支給することに同意してもらい、トントゥたちはプレゼントを製造すべく仕事に戻る。
さて、工場を再稼働させるためには『主電源室』にある炉を熾さなければならない。その炉とは、サンタどころかトナカイもソリも、何もかもが入ることができるほど巨大な暖炉だった。
「これが炉ですか?」
「はい。工場全体に電気とエネルギーを供給するための炉です。しかし、炉のエネルギー源としてサンタ・オーナメントが必要です。工場裏手の栽培地のモミの木に実っているのですが」
「サンタ・オーナメント……って、もしかしてこれのことですか?」
「っ! そ、それです! どこでこれを?」
工場のエネルギー源は、サンタ村で拾ったあのオーナメントだったのだ。
何故、立香たちに襲い掛かって来たエネミーたちがサンタ・オーナメントを内包していたかは分からないが、今はサンタ・オーナメントを炉にくべるのが先決である。
「これだけあれば、凍結していた工場をスタンバイモードにすることができます。製造を進めるには、更にサンタ・オーナメントが必要ですが、栽培地からこれらを収穫・運搬する物資供給担当のサンタたちもいなくなってしまって……」
「それなら、
「うん。みんなに手伝ってもらおう」
カルデアから援軍を呼び、サンタ・オーナメントの収穫と『主電源室』への運搬を手伝ってもらおう。ただでさえ大量のサンタが消えてしまったため人手不足だ。トントゥたちのお菓子の製造だってある。
「トントゥたちは、全員製造とプレゼントの点検業務に移ってもらいます。収穫するサンタ・オーナメントは、丸々艶々、ピカピカしたものが質が良いです。色は何色でもかまいません」
「では臨時工場長、再稼働をお願いします」
「臨時工場長なんて、荷が重いなぁ……私、脱サラする前の最終昇進は係長だったし。では、行きます!」
こうして、プレゼント工場とカルデアによる共同戦線が始まった。
サンタ・オーナメントを炉にくべて山田サンタがリースのようなハンドルを回すと、炉の中に光が灯る。赤、青、黄色、緑のオーナメントの温かい光が炉の中を満たし、炉から煙突へ、煙突から天井を走るモール飾りへ光が伝わり、エネルギーは工場全体と行き渡った。
「これで正面のクリスマスツリーが稼働するはずです。皆さん、是非ともクリスマスツリーの起動を見てください。素晴らしいんですよ……私、初めて目にした時は感動しました」
「クリスマスツリーって、工場の正面にあった巨大なモミの木ですか?」
「はい。ツリーは、工場全体のエネルギー供給アンテナでもあるんです」
山田サンタの勧めで工場の正面入り口を出ると、閉ざされていたシャッターが開け放たれていた。凍りついていた巨大なモミの木には熱が伝わり、まとわりついていたダイヤモンド・ダストが溶け始める。
炉で熾されたエネルギーが巨大モミの木に集まり、裸のモミの木はクリスマスツリーへと変身する……再稼働を始めた工場の中から、飾り付けのスタッフたちが行進しながらやって来た。
聞こえて来る音楽は『Deck the halls』――日本では『ひいらぎかざろう』で知られるクリスマスソングだ。
飾り付けスタッフたちが担ぐレトロな蓄音機から流れる愉快な音楽はクリスマスの足音を告げる。だが、そのスタッフに驚いた。
「っ! おもちゃの兵隊が行進している!」
「何か持っていますよ。オーナメントに、キラキラのモールに、天使の人形もあります!」
「もしかして、彼らがクリスマスツリーの飾り付けを?」
隊長を先頭に規則正しく歩くおもちゃの兵隊たちは、各々煌びやかなクリスマス飾りを運んでいる。おもちゃの兵隊たちだけではなく、『Deck the halls』に合わせて工場の中からたくさんのおもちゃたちが次々とモミの木の下までやって来るのだ。
おもちゃの兵隊たちは、おもちゃの大砲の中に丸いオーナメントを込めてモミの木へ発射した。キラキラのオーナメントがモミの木にひっかかり光が灯る。
ピエロのビックリ箱はバネ仕掛けの身体を伸ばしてモミの木にヒイラギの葉を飾り、ビスク・ドールは木製ブロックを積み上げた階段を上って天使の人形を飾り付けた。
届かない背の高い場所には、ゴム仕掛けの飛行機に乗って手慣れた様子でクリスマス飾りをモミの木へと放り投げる。ゴム仕掛けの飛行機の末端には長いモール飾りが繋がっていて、モミの木の周りを旋回することにより綺麗に巻き付いた。
「凄い。絵本の世界みたいです」
「サンタさんのおもちゃがクリスマスツリーを飾り付ける……子供の頃、こんなアニメを見たことがあるよ。楽しくて、ワクワクして、毎年クリスマスツリーの飾り付けを楽しみにしていたんだ」
「素晴らしい。何て幻想的な光景なんだ」
「これは、夢があるな」
「……」
「魔女さん、魔女さん。ポカンとした口、閉め忘れていますよ」
「っ! べ、別に、見惚れていた訳じゃないからね!」
おもちゃたちがまるで踊るように楽しそうに動き回り、凍りついていたモミの木は煌びやかなクリスマスツリーに変身した。白い景色の中に浮かび上がった幻想的な姿に、立香もマシュも、サーヴァントたちも思わず感動の声しか出て来ない。
最後に、おもちゃの飛行船がおもちゃたちの歓声を浴びながら飛行すると、シンボルとなる巨大な星を投下する。見事にモミの木の天辺に星が着地して、クリスマスの星が輝いた。
星の光が工場中のイルミネーションに伝わり、温かい光が灯る。輝くプレゼント、光のトナカイ、散りばめられた星の光が瞬くように、真っ白で不健康な頬が健康的な紅色に染まるように、プレゼント工場が息を吹き返したのだ。
「それじゃあ、プレゼント工場の再稼働開始だ!」
「承知しましたー!」
いつの間にか空が晴れ、常闇の空には虹色のオーロラが出ていた。
***
「サンタパンチ!」
プレゼント工場の裏手。魔術的な結界によって保護され、サンタパワーに満ちたその場所は、サンタ・オーナメントが実る不思議なモミの木の栽培地である。
より丸々艶々した綺麗なオーナメントが実ったモミの木にサンタカルナの拳が叩き込まれると、白い雪の上に大量のオーナメントが落ちて来た。
「もっと丁寧に収穫できないのか、貴様は」
「此度のサンタパンチは繊細なコントロールに神経を使っている。モミの木を傷付けず、それでいて確実に振動を与えてサンタ・オーナメントを収穫できるようにと、丁寧な力の流れを込めた一撃だ」
「そういう意味ではない」
「収穫したオーナメントは、こちらに入れてくださーい。主電源室にお届けします」
アルジュナがサンタカルナの落としたオーナメントを拾い、サンタプルートーのダンボールトラックに繋がったソリに入れる。カルデアから呼ばれた援軍サーヴァントたちの多くは、オーナメントの収穫に協力をしていた。
「畑からの収穫は慣れていますが、樹木からの収穫には着手したことがありませんでしたね」
「しかし、この奇妙な収穫物はどのような原理で実っているのだろうか?」
「サンタのオッサンの話じゃ、世界中のサンタパワーを栄養にして育つんだとよ。そこら辺はオレらは分かんねぇから、とにかく収穫すっか」
樹木は不慣れと言いつつも、槍を高枝切りバサミに持ち替えて手際よくオーナメントを収穫していく。クー・フーリン、ディルムッド、ヴラド三世らランサーたちが先頭に立ってオーナメントをひたすら収穫し、『主電源室』へと運び、工場は途切れることなく安定してプレゼントを製造し続けていた。
「では、お届けに行きまーす。ブロロロロ~」
「しっかり運んでくれよ、黒猫」
「……次のサンタさんが猫だと聞いた時は一体何をトチ狂ったのかと思ったが、きちんとサンタさんをしているではないか」
『主電源室』へ出発したサンタプルートーを見送ったアルジュナが小さく呟いた。少しだけサンタに未練があるように見える。
「うむ。あの黒猫はお前に似ているが、オレにも似ている。昨年の、未熟であったサンタのオレだ。だが、サンタとなったからには黒猫も乗り越えることができよう。あいつは既にサンタの門を叩いている」
ロードワーク代わりに自分もオーナメントを届けてくると、大量のオーナメントを担いだサンタカルナも走り出した。
サンタプルートーだけではなく、工場内を走行するおもちゃの汽車もたくさんのオーナメントを『主電源室』へと運搬する。このおもちゃたちも、炉が熾すサンタパワーによって自在に動いているらしく、山田サンタよりもずーっと古株だった。
「サンタ・オーナメントお届けでーす」
「炉にぶち込めー!」
「わー!」
「それー!」
アタランテの音頭に合わせ、巨大化したサンタプルートーはジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィと運んで来たオーナメントの山を炉へとぶち込んだ。炎が燃え盛るように光は強くなるが、山田サンタが炉のマニュアル片手にハンドルを締めてエネルギーを調整する。
炉からのエネルギー供給は、料理の強火・弱火のように繊細な作業なのだ。
「どんどんエネルギーが供給されて、どんどんプレゼントが作られています!」
「製造ラインにいるマスターからの業務連絡によると、あと少しで全ラインが稼働率100%に達するらしい」
「本当に、感謝が尽きません。巨大オーブンも直していただいただけではなく、取説が必要なオプションも色々つけてもらっちゃって」
「うむ……あれは競合の産物だが」
直流・交流の殴り合い(修理)バトルのお陰(?)で、お菓子ラインも動き出した。プレゼント製造完了率は順調に上昇している。
「これで、世界中の子供たちにクリスマスプレゼントが届くのだな」
「いや、その……世界中の
「ええ!? 子供たちにプレゼントをお届けするのが、サンタの使命のはずです!」
「私も最初は勘違いしていたんですが、この工場で製造したプレゼントは両親や保護者など身内に
栄養失調で痩せ細った子供にはチョコレートとクッキーを。
裸足で丸めた木の皮を蹴る子供には靴とサッカーボールを。
怒声で罵り合う両親から自身の身を守るように、ベッドで布団と枕を被ってじっと耐える子供には寄り添うテディベアを。
サンタクロースの正体は両親だから、うちには来るはずがない。お金がないから、プレゼントを買えるはずがない。だけど……もしかしたら。もしかしたら、朝起きたらボロボロの靴下の中にプレゼントがあるかもしれない。
夢を見て、朝に希望を抱く子供たちのためにプレゼント工場は稼働しているのだ。
「……子供は庇護し、愛情を注ぐべき存在だ。だが、この世全ての子供たちが愛される世界の実現が困難極めることも事実。一夜の夢でも、クリスマスの朝にプレゼントがあれば子供たちは喜び、明日を生きる希望になる。やはり、サンタの仕事は素晴らしいな」
「勿論! 子供が喜ぶ英雄がサンタなのです。えっへん!」
「実は私、そのために脱サラしてサンタになったんです。クリスマスって、楽しいじゃないですか。世界がキラキラしていて、みんなでご馳走やケーキを食べてプレゼントをもらって、ワクワクして。どうせ仕事をするなら、そんな素敵な一夜を分かち合いたいなと思ったんです。転職には苦労して、色々と大変なことも多いですけど、楽しいですよサンタは」
「え? サンタも楽しいですか?」
「ええ。楽しいですよ」
山田サンタが乏しい髪の毛をかきながらちょっと照れ臭く心中を吐き出した。
アドベントカレンダーが日数を刻む度に、薄いシュトーレンに舌鼓を打つ度に、町が赤と緑のカラーに彩られていく度に、クリスマスに心をときめかせる。嬉しくて楽しくて、ワクワクするのはクリスマスを待つ者たちだけではない。
サンタだって楽しいのだ。
山田サンタのその話を聞いて、サンタプルートーはピンと来ないと言いたげにコテンと頭を傾げたのだった。
一旦切ります!
ここまで前編!