サンタ・オーナメントをガンガン収穫してガンガン炉を熾したお陰で、サンタ直営プレゼント工場製造部の稼働率が100%を達成した。
工場内には、多種多様なプレゼントを製造するために、これまた多種多様なラインが存在する。
スタンダードなメイドインサンタのおもちゃが製造されるおもちゃライン。
おもちゃの中でも、着せ替え人形やぬいぐるみなどの人形製造に特化したドールライン。
服や靴、手袋などの衣類系統を製造する服飾ライン。
トントゥたちに支払われるお菓子の厨房も兼任し、クッキーやチョコレートやクリスマス菓子などを製造するお菓子ライン。
様々な製造ラインがフル稼働し、製造されたそれらはトントゥたちの厳しい検品を経て『包装室』へと送られる。箱に詰められ、綺麗なラッピングをされて立派な”クリスマスプレゼント”として確立されるのだ。
せっせと働くトントゥたちに加え、カルデアのサーヴァントたちも援護して工場は順調に稼働していた……が、一部のサーヴァントたちによって、武力鎮圧が必要となるトラブルも発生した。
ティーチ、メディア及びメルトリリスによる人形愛好家たちが、自分好みの人形を製造しようとドールラインの占拠に乗り出した。
絵本や既存の製品などが外部委託先のアマゾネス・ドットコムから配達された際、アキレウスとアマゾネスCEOが鉢合わせしてアウトレイジになった。
そして現在、お菓子ラインではパラケルススの鎮圧に成功した。
「一時的なカロリー摂取だけでは健康状態の回復に繋がりません。長期的な健康維持のため、栄養失調の子供たちの体重増加のために、食品のカロリーを百倍に膨張させるこちらの薬品を一滴二滴、ポタポタと……」
などと供述しており。
「糖分、脂質のカロリー百倍などかえって不健康です。栄養失調の子供に必要なのは、何日も食事の取れない病人の胃には温かいスープです」
「ご尤もな意見です」
ナイチンゲールサンタが率先して鎮圧に協力してくれたので、カロリー百倍のクッキーがクリスマスプレゼントになることはなかった。が、実は彼女は「子供たちに虫歯菌をばらまく諸悪の根源」としてお菓子ラインを潰しに来たサンタだ。連戦に入ってしまうかもしれない。
「栄養失調の子供たちには、栄養剤……いえ、温かいスープを届けましょう。歯を磨く環境の整っていない家庭にまで虫歯菌をばらまこうとする工場は、必要ありません」
「待ってくださいナイチンゲールさん!」
焼き立てのジンジャーマンクッキーが流れるベルトコンベアへ『
クリスマスとは一夜の夢。寒々とした空に広がる、泡沫の幻想がプレゼントとして形になったもの。子供たちに必要なのは実質堅実なプレゼントではなく、心躍らせることのできる小さな掌に収まる夢……プレゼント工場の存在意義を語れば、ナイチンゲールサンタは
「……と、山田サンタさんが仰っていました」
「私は虫歯菌を撲滅するのであって、子供たちの夢を抹殺する気はありません。お菓子が届けられた子供たちには、私から歯磨きセットとキシリトールを配りましょう」
「そうしていただけると助かります」
『主電源室』が落ち着いたので合流したサンタプルートーが説得してくれた。ほとんどは、山田サンタが言っていたことやパンフレットの記載事項である。
そうこうしている内に軽やかに鐘が鳴った。休憩時間を知らせるチャイムである。このチャイムが鳴るとラインが一旦停止し、トントゥたちがお菓子という賃金を貰いにお菓子ラインに隣接する食堂に集まるのだ。
「マスター、マシュ。君たちも休憩したまえ。トントゥたちが自慢のハーブティーをご馳走してくれるそうだ」
「では、お言葉に甘えましょう」
「エミヤ、それが……えーと、ヨウルトゥ……?」
「ヨウルトルットゥ。プルーンのジャムをパイ生地で包んだ、フィンランドの伝統的なクリスマス菓子だ」
「焼き立てです。召し上がってください」
こちらでも厨房を手伝っていたようだ。家茂が持つバスケットの中には、バターと甘い匂いのする焼き立てのパイ菓子がある。休憩時間に入ったトントゥたちは、エミヤとブーディカが待つテーブルの前に並び、嬉しそうにお菓子を貰ってハーブティーを淹れた。
「面白い形でしょう。折り紙のようで、作っていて楽しかったです」
「本当だ、風車みたいだ」
「違うよ。これはお星さまだよ。ツリーの天辺のお星さま」
「ヨウルトルットゥはお星さま」
中心にプルーンのジャムが包まれたお菓子は、星の形をしていた。
まだ若いトントゥたちが焼き立てサクサクのヨウルトルットゥを嬉しそうに頬張り、立香たちへ温かいハーブティーを差し出した。スッキリとした爽やかな香りがする。
「このヨウルトルットゥ美味しいね!」
「いつもと違うけどこれも美味しい!」
「さっき食べた別のお菓子も美味しかったね!」
「ハーブティーどうぞ。あたしの自信作!」
「ありがとうございます」
「トントゥたち、本当に嬉しそう。あんなに怒っていたのが嘘みたい」
「そりゃ怒りますよ。猫だって、散々写真を撮られて撫でられておやつなし、なんてキレます」
「食事とは日々の喜びである。菓子もちゅーるもニンジンもない労働など、怒り爆発デスロードなのだワン。という訳でさあご主人、マシュ、菓子の他にもあったかミルク粥をおあがりなさい。黒猫にはキャットタン対応の冷め冷め粥だ」
「いただきまーす」
ヨウルトルットゥの他にも色々と作っていたらしく、タマモキャットがミルク粥を振る舞ってくれた。柔らかい味は身体の芯まで温かくなる。
トントゥたちが菓子とハーブティーを楽しんでいると、誰かが小さなおもちゃのピアノとヴァイオリンを取り出して自由に弾き始めた。女性たちがクリスマスソングを歌い始め、パラパラと降る手拍子が演奏を盛り上げる。すると、音楽に引き寄せられたのかそれともお菓子の匂いを嗅ぎつけたのか、アマデウスと彼を追いかけてきたサリエリが食堂に顔を出したのだ。
「面白い音しているね。貸してくれよ、そのピアノ」
「良いよ。楽しい曲を弾いてくれ」
「ダンケ~。サリエリ、君はヴァイオリン弾いてくれよ」
「我はサリエリではない」
アマデウスがいるので殺意が止まらない。灰色の男のみの状態であるサリエリにヴァイオリンを向けても受け取るはずはないが、楽器を貸したトントゥたちはワクワクした眼差しを2人に向けた。
音楽を今か今かと待ち望む無垢な視線。トントゥたちに根負けしたのか、それとも生前の成分が顔を出したのか、ヴァイオリンを受け取ったサリエリは几帳面にチューニングを確認すると、アマデウスの伴奏で曲名を察し弓を引いた。
選曲はベタに『ジングル・ベル』である。
軽快でスタンダードな、されど天才と一流の音楽家が演奏する曲が名曲にならないはずがない。開幕早々、テンションを上げたトントゥたちは踊り・歌い・手拍子の雨を降らせたのだ。
まだ仕事は残っているが、束の間の休息を楽しんで盛大に笑う。二頭身の小さな身体も相まってか、トントゥたちがまるでクリスマスを楽しみにする小さな子供のように見えた。
「12月になってクリスマスソングが聞こえてくると、何だかワクワクするよね」
「音楽がワクワクするんですか? 楽長たちの音楽、面白いです」
「ちょっと違うかな。クリスマスが待ち遠しくてワクワクすると言うか」
「? ご馳走と、プレゼントがあるからですか?」
「それだけじゃなくて……」
ミルク粥を食べ終わったサンタプルートーがコテンと首を傾げた。
「でも、マスターが楽しいなら、クリスマスは楽しいものなんですね」
「……プルートーさん。もしかして、クリスマスを過ごしたことがないのですか?」
「多分ないと思います。まあ、猫ですから。よしんばクリスマスを誰かと過ごしたことがあったとしても、
そうか、さっきから感じていた微かな違和感はこれだったのか。
黒猫プルートーは、クリスマスを経験したことがない。知識としてその風習の説明はある程度インプットされているが、経験の積み重ねによってもたらされる胸の高鳴りや気分の高揚。すなわち、クリスマスはワクワクドキドキする楽しい行事だという認識がないのだ。
これが人だったのなら、楽しいイベントを待ち遠しく思う気持ちは理解できる。しかし、彼は猫だ。猫故に、それも普通の猫ではないからこそ、“待ち遠しい”と感じることがない。
“楽しい”ことは分かる。じゃらし遊びやキャットタワーにワクワクすることだってある。サンタになったからサンタの役目を全うする。その使命感はある。
「クリスマス」=楽しい、という方程式の解は周囲を見ていれば分かるが、何故そうなるかの理屈が分からないのだ。
「でも、分かる気がします。わたしも、カルデアで体験するまで楽しいクリスマスは本の中の出来事だと感じていましたから。勿論、今は違いますよ。先輩やみなさんと過ごしたクリスマスの思い出と、これからまたやって来るクリスマスが待ち遠しいです」
「プルートーもクリスマスを体験すれば分かるよ」
「う~ん……では、教えてください。マスターが感じるワクワクって、どんなものなんですか?」
幼い子供に絵本を読み聞かせるように、サンタプルートーを膝に乗せてクリスマスの思い出の蓋を開く。立香の中で最初のクリスマスは保育園の頃だ。物心ついた頃の最初の記憶は、保育園のクリスマス会から始まったのだ。
「保育園のクリスマス会でサンタさんがやってきたんだ。最初は、他のみんなも園長先生だって言っていたんだけど、その園長先生が広間にいてあのサンタさんは本物だ!って思ったんだ。今考えれば、外部のボランティアの人だったんだろうね。サンタさんからプレゼントを手渡しされて、クリスマスの朝には枕元の靴下の中にプレゼントがあった……サンタクロースは本当にいるんだって、嬉しくなったんだよ」
「だから、マスターはクリスマスにワクワクするようになったんですか?」
「それもあるよ」
イルミネーションを纏う街並みはいつもと違う顔になって、全く知らない場所に来たような気がした。
1年にこの時期にだけ姿を現すクリスマスツリーの飾りつけは、特別なことのようで不思議な優越感があった。
母親はいつもとは違うご馳走を準備して、父親はいつもより早く帰宅して赤いイチゴが乗ったホールケーキを買ってきてくれた。
そして、雪が降る。白い粒が空から落ちてきて、特別なこの日を白く染めて、もっと特別な日にしてくれる。
いつもの日常に小さな非日常が重なって、クリスマスは特別な日になる。ドキドキして、ワクワクして、楽しくて、嬉しくて……立香が、クリスマスが楽しいと感じるのは、幼い頃から楽しい夢の記憶を積み重ねてきたからだ。
そうだ。クリスマスは夢を見る日なんだ。
どんな人間も、幼い子供のように小さな夢を見てそれが叶う日なんだ。
黒猫もきっと体験できるはず。目が開いたばかりの仔猫の視界に数多の色彩が飛び込んでくるように、生まれたばかりの小さなサンタにもクリスマスを楽しんで欲しい。
そのことを告げると、立香の膝の上のサンタプルートーは小さく「ニャア」と鳴いた。
これがプレゼント