犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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第六節~悪魔のジングル・ベル

 アマデウスとサリエリによる『ジングル・ベル』の演奏が終わった後も、何曲かトントゥたちのリクエストに応えている内に休憩時間の終了が迫ってきた。またプレゼントの製造が始まるのである。

 

「ああ、楽しかった!」

「楽しかったな! 一時はどうなることかと思ったけど」

「うんうん。サンタたちが化け物に飲み込まれてどうなるかと思った!」

「化け物? みんな、工場のサンタが消えたのを見ていたの?」

「うん、見たよ。でも……」

「凄く怖くて、目を閉じちゃって。あんまりよく覚えていないの」

 

 トントゥたちはサンタがいなくなった現場を目撃していたのだ。

 山田サンタは、ゴゴゴという音と共にサンタたちの悲鳴が聞こえたと言っていた。トントゥたちにその時の状況を訊いてみると、やはり、ゴゴゴという音がしたというのだ。

 

「大きな音。あれはそう、雪崩の音!」

「雪崩の音と一緒に白いのが工場に入って来たんだ!」

「雪崩、白いの……雪崩が工場の中に侵入してきたのですか?」

「うん、あれは雪崩。雪だった。でもね……普通の雪じゃなかった」

「うん。雪だけど、雪じゃなかった。雪よりも冷たくて、怖くて、心が痛くなるの」

「あれはきっと化け物!」

「雪だけど、雪じゃなかった?」

 

 そういえば、何故山田サンタだけ取り残されたのだろうか?

 立香は山田サンタの話を思い出す。彼は確か、オーブンの修理をしていたと言っていた。オーブンの温度が下がらず、高熱を発し続けていたオーブン室にいたら、サンタたちの悲鳴が聞こえたと言っていた。

 

「もしかして、山田サンタさんだけが無事だったのは、雪が溶けるほど熱いオーブン室にいたからなんじゃ」

「オーブン室が高温だったから、侵入してきた雪が近付けなかったということですか?」

「では問おう。何故、サンタが消えなければならなかったのか」

「あ、伯爵」

「陣中見舞いだ」

「わーい! ちゅーる!」

 

 いつの間に工場にやって来たのだろうか。雪国の真ん中で目立ちそうな黒い外套を纏ったエドモンが、サンタプルートーの好きなおやつを差し入れた。猫はちゅーるには勝てない。サンタプルートーはエドモンの膝の上で、ちゅーるを抱えながら舌鼓を打った。

 

「サンタが消えなければならなかったのか……サンタが、必要だったから? でも、どうしてサンタが?」

「サンタというよりも、サンタパワーが必要だったんじゃないかしら」

「うむ。それならば、サンタパワーの著しい減少にも説明がつくはずだ」

「ケツァル・コアトルさん、アルテラさん」

「ハァイ! マスター、マシュ。そして、新しいサンタ!」

「ふぉっふぉっふぉ、サンタの長老が来たぞ」

 

 微かなサンバのリズムと共に、ケツァル・コアトル〔サンタ〕とアルテラ・ザ・サン〔タ〕という歴代サンタたちも現れる。アルテアはサンタのヒゲを着けた長老モードだ。

 彼女たちの話を現状と照らし合わせるならば、サンタが消えた原因は彼らに満ちるサンタパワーを乱獲することにあったのだろう。だからトントゥたちは被害に遭わなかったのだ。

 

「唯一被害を免れた山田サンタから話を聞いた。主電源室に貯蓄(ストック)されていたサンタ・オーナメントも消えていたそうじゃ。サンタ・オーナメントはサンタパワーを養分にして育つ、高濃度のサンタパワーの結晶じゃ。工場に勤務していたサンタたちと共に盗まれたのじゃろう」

「サンタパワーの減少が原因で、クリスマスの概念が消失したのでしょうか?」

「それはまだ分からないわ。しかし、プレゼント工場を再稼働させて今この空間はサンタパワーが満ちています」

「また、白い化け物がやって来るかもしれない」

「では、サンタが何とかしなければなりませんね」

 

 雪崩のような白い化け物の取り残してしまった山田サンタもいれば、カルデアからやってきたサンタサーヴァントたちもいる。一体どうして、なんのためにサンタパワーを根こそぎ奪っていったのかは不明であるが、クリスマスを消そうとするならばサンタが立ち向かわなければならない。

 ちゅーるを食べ終わったサンタプルートーはエドモンの膝の上から飛び降り、立香に宣言するようにすくっと背を伸ばして二足で立ち上がった。猫背とは何なのか。

 

「マスターやみなさんが楽しいから、ボクもクリスマスは楽しいスタンスでいこうと思います。でもきっと、これから楽しいクリスマスを積み重ねて、これからのワクワクと知っていきます。今だって、伯爵からちゅーるを貰って嬉しかったです。サンタもクリスマスを楽しんでいいですよね。でも、所詮は猫の手なので、みなさんにたくさん手伝ってもらわなければならないですが……サンタなので、楽しいクリスマスをお届けします」

 

 楽しいクリスマスを、みんなが幸福に過ごせる一夜を運びますと、サンタプルートーは声高々に鳴いた。

 

「ウェイトは軽くても頼もしいサンタデース! 今年のクリスマスも盛大に楽しみましょう!」

「もふもふの黒猫サンタよ、我々先人のサンタはお前を見守ろう」

「でも、白い化け物がサンタパワーを集めている理由が分からないよね」

「……クリスマスは喜楽の宴。だが、光あるところには影がある。今の黒猫の()()()を念頭に入れておけ」

「どういう意味?」

()()()()()()()()()()()()()()()ということだ」

「ニャ?」

 

 ちゅーると謎の助言を遺してエドモンは消えてしまった。

 さあ、休憩時間は終わりだ。また工場が動き始める。

 

「サンタクロースの起源は、ミラのニコラオスこと聖ニコラウスと言われています。聖ニコラウスは無実の罪に苦しむ者たちに手を差し伸べる者、荒波を鎮める海運の守護者。彼の者は教会の司祭であった頃、貧しさ故に娘を売らなければならない家の煙突から金貨を投げ入れ、その金貨は暖炉に下げた靴下の中に入ったと言われています。サンタクロースという概念の成立は、17~19世紀とされています」

「割と新顔な聖人だったのかー」

「聖ニコラウスは子供の守護者でもあります。このプレゼント工場がいつ成立したかは特に興味はありませんが……利益度外視の経営理念はどうかと思います」

「今時のサンタは色々ごちゃ混ぜになってるから、そう深く考えない方がいいですよ。プレゼント貰えて「ヤッター、嬉しー。パーティーたーのしー」ぐらいで。お宅はプレゼント、貰ったことないの?」

「……ないとは、言い切れませんが」

 

 プレゼント工場には教会があり、そこには簡素なオルガンが設置されていた。カレンの白い指がそっと鍵盤を押す。この寒さのせいか、少々チューニングが狂っていた。

 彼女が座るオルガン椅子の横には、白い空間ではっきり目立つまっくろくろすけ――もとい、アンリマユが天井を見上げていた。天窓からはオーロラが見えた。

 

「……お2人は召喚前から知己であったのですか?」

「ないよ(ありません)」

 

 他の者たちにもお菓子を配っていた家茂は、随分と馴染んでいる空気を醸し出す2人を前にして首を傾げたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 プレゼントとは、贈り物とは、誰かを喜ばせる物である。幸せを与える物である。

 しかし、贈り物というものは……特に、神が人間に下賜する贈り物は、必ずしも幸福をもたらすものではない。

 身に余る祝福は呪いとなり、賜った美女は殺戮と禍災をもたらすトリガーとなる。

 幸福と不幸は表裏一体。誰かが幸福になれば、誰かが不幸になる。

 光あるところに影はある。楽しいクリスマスを過ごすその陰で、どこかで……否、すぐ隣で。

 

 憎らしい、

 恨めしい、

 羨ましい、

 嫉ましい、

 

 あんな温かいものは知らない、綺麗なものは知らない。

 自分もそこにいたはずなのに。

 幸せになるはずだったのに。

 何故、どうして、()()()()()()()()()()()―――?

 

 幸福は些細な出来事で反転する。

 その反転が、クリスマスの時期だっただけである。

 コルヴァトゥントゥリの山が唸る。地響きのようなその音は、生き物のように襲い掛かって来る雪崩のようだった。

 

『立香君! マシュ! コルヴァトゥントゥリの山中から、巨大な魔力反応が出現した! 今モニターに……ええ?!』

「どうしましたか、ダ・ヴィンチちゃん?」

『と、とにかく、これを見て~!』

 

 通信モニターに映し出されたのは、コルヴァトゥントゥリの森から何者かが這い出て来るかのような蠢きだった。何かが潜んでいる……それが、地響きと共に姿を現した。

 両腕は胴体に突き刺さったクリスマスツリー。身体中に巻き付いているのは、キラキラ光るイルミネーションのコード……ではなく、引き千切られた電線だ。

 脚はないが、トナカイが引くソリのようにスキー板状のパーツが付いていて、それで雪面を滑走するのだろう。あの巨体がソリで滑るように迫って来るのだ。

 姿を現したのは、工場の全てを呑み込んでしまいそうなほど巨大な雪だるま。背後には数えきれないゴーストが纏わり付いている。

 スタンダードな二個の雪玉をドッキングさせたそれは、ニッコリと歪んだ笑顔をしていた。しかし、ゴーストたちが頭部の雪玉がぐるりと180度回転させると、その顔は騙し絵のように憤怒に変わってしまったのである。

 怒りの表情をした巨大な雪だるまとゴーストたちが、プレゼント工場を目指して進軍を開始したのである。

 

「巨大な雪だるま!!」

『しかも、大変なことが分かった! この雪だるまの中から多数のサンタパワーの反応がある。巨大雪だるま―――エネミー名、バッドスノーマンはプレゼント工場から消えたサンタたちが取り込まれている!』

『それだけではありません。サンタ以外の一般人も多数雪の中に……この方々は、サンタ村から消えた観光客のみなさんですね』

「スノーマン系エネミー……中にサンタって、まさか!」

 

 何故、トリプルスノーマンの中にサンタ・オーナメントがあったのか。答えは簡単、トリプルスノーマンはサンタ・オーナメントを核として、サンタパワーをエネルギーとして動いていたのだ。

 それと同じだ。規模が大きいか小さいかだけ。バッドスノーマンはサンタをエネルギーとして、プレゼント工場へ進軍してくるのだ。

 

『しかも、聖杯の反応もあるよ!』

「バッドスノーマンの中ですか?」

『いや違う……ココだ!』

 

 バッドスノーマンの頭部が拡大される。肉眼では把握し切れないのでできる限り拡大してゆっくり近付いていくと、バッドスノーマンの頭には逆さまになった聖杯が突き刺さっている。

 それはまるで、雪だるまにバケツの帽子を被せるかのようだった。

 

「聖杯がーー!?」

「一体何故、こんなことに?」

「ンンンンンンーーーそれは、所謂クリスマスの闇でございます」

「道満?! ま、まさか……」

「違いまする! 拙僧は有識者の方ですぞ」

「有識者、ですか」

 

 立香のマシュが背後を振り返ると、そこにいたのは蘆屋道満である。まさかと訝しむが、この騒動は彼が関わっている訳でないようだ。ましてや、黒幕でもないらしい。

 ただの有識者。ちょっとだけ、この現象に馴染み深いのである。

 

「何らかの原因で、あの聖杯には悪性情報が満ちていたのでしょう。所謂、負の感情……負の感情が満ちた雪は、雪崩としてこの工場内に侵入しサンタクロースというクリスマスの概念を取り込んでしまったため、()()の性質を得てしまったのです。すなわち! 幸福をもたらすサンタパワーは、反転により不幸をもたらすバッドサンタパワーになったのです!」

「反転、反転……つまり、今のボクみたいなものですね。悪魔の化身として書かれた黒猫(ボク)から、幸福を運ぶ福猫の黒猫(ボク)になったように」

「悲しいことに、クリスマスは不幸も満ち溢れております。サービス業従事者、深夜まで終わらない業務、クリスマスがきっかけで破局したカップル……等々。美しいクリスマスの夜景は、誰かその他大勢の、星の数ほどの労働で出来ているのです!」

 

 クリスマスは楽しい思い出ばかりではない。

 ケーキやチキンの売り上げノルマを達成しなければ仕事が終わらず、何時間も寒い屋外で声を張り上げる者。

 悩み抜いて恋人へと素敵なクリスマスプレゼントを贈ったのに、次の日にそれを換金ショップに売り払う恋人を目撃してしまった者。

 クリスマス?なにそれ、その日は平日でしょ。と、特別な日など関係もなく深夜まで残業して夜景の一部になってしまう者。

 クリスマスを一緒に過ごす者ならおらず、1人でケーキを買ってご馳走を用意して、自分から自分へプレゼントを贈っても心がどこか寒いクリぼっちな者。

 プレゼントを手に、ケーキを手に、温かいコートとマフラーを身に着けて両親と両手を繋ぐ子供を目にした。自分の手は、どちらも誰とも繋がれていない。親は仕事だからと、寒い家で1人で過ごす小さな子供。

 クリスマスは特別な日であると過剰に期待すればするほど、絶望に突き落とされた時の落差が激しい。

 クリスマスの悪性情報に染まった雪は既に雪などではない。白い化け物とも言える絶望の塊だ。

 絶望の塊は、クリスマスの存在を消失させる。

 クリスマスなど滅べ!と、一定数は願ってしまった呪詛を完遂させるべく、全てのサンタパワーをバッドサンタパワーに変えてプレゼント工場を蹂躙するのである。

 

「という訳で、あのバッドスノーマンの進軍を許してしまったら、クリスマスが滅びます」

「プレゼント工場とクリスマスを守らないと!」

「しかし、どうやって」

「ここは、サンタが何とかしなければなりませんね。マスター、ボクの宝具を使います!」

 

 幸福なクリスマスを守るのが、サンタの使命である。

 クリスマスを守るべく、サンタプルートーが宝具を発動させたのだ。




誰か「クリスマスに呪いあれーー!!」
聖杯「おう、やったるわ」
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