ひゅるるるる~という気の抜けた音を出しながら飛んで来た黄金の杯が、ポスっと雪に突き刺さった。バッドスノーマンの頭部に刺さっていた聖杯である。
サンタプルートーの宝具『
聖杯回収完了。残ったのは、バッドスノーマンに取り込まれていた大勢の赤い服の男性やら、温かい服装の多種多様な親子連れ。プレゼント工場から連れ去られたサンタたちと、サンタ村の観光客たちである。
「ど、どうなりましたか、静かになりましたが……!」
「サンタたちだ!」
「みんな帰って来た!」
「帰って来たよーー!」
「工場長ーーー!」
「う、う~ん……はっ! サ、サンタ№4113、ここはどこ? 私は誰? 何があった?」
「ここはプレゼント工場で、貴方は工場長ことサンタ№556です。色々ありまして、何から話せばいいのか……」
ひと際ふくよかで立派な白い髭を蓄えた老人がプレゼント工場の責任者のようだ。駆け寄った山田サンタやトントゥたちに囲まれる。彼や他のサンタたちは、雪崩に攫われてバッドスノーマンに取り込まれていた間の記憶が曖昧なようである。
雪の上に倒れる彼らの元へナイチンゲールサンタ(+引っ張られて来た手伝いサーヴァント)が飛び出し、毛布と温かいスープを配り始めた。
「そうだ、私――ワシは勤続42年のサンタじゃ。って、今は何日だ?! クリスマスまでどれぐらいだ! イヴまでにプレゼントの準備を完了させなければ!」
「クリスマスまで時間がありません! 工場は稼働させていますが、正直ギリギリです!」
「安心するが良い。助っ人サンタこと、我らカルデアのサンタサーヴァントがいる!」
「サンタ?」
「ブラックサンタだ!」
「ちょっと違うような気もするが……多分、サンタだ!」
アルトリア・オルタ〔サンタ〕が高々と宣言すると、サンタたちの顔には希望の光が灯る。サンタサーヴァントのみならず、カルデアのサーヴァントたちの支援があればクリスマスにプレゼントを間に合わせることができる。
こうしちゃいられない。毛布とスープでぬくぬく温まっている場合ではない。
「皆の者、早急に持ち場に戻れぇ! 炉を熾せ、星に光を灯せ、ヨウルトルットゥのバターとジャムはケチるなよ! 工場を動かせーー!!」
「やるぞーー!」
「26日まで気を抜くなよーー!」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「待ってろよ子供たち! メリー・クリスマスじゃーー!」
「暑苦しいわねサンタ!」
「元気だな、サンタ……」
工場長サンタの掛け声であっと言う間に元気になったサンタたちは、駆け足で工場内へと戻って行った。サンタたちと比べて、未だボーっとしているサンタ村の観光客たちは、ライダーのみんなが村へと送って行った。
オーロラが見せた幻想の狭間の出来事だと、聖夜の足音によって微睡んだ夢だと思っているようだ。
サンタクロース直営プレゼント工場とカルデアの共同戦線により、プレゼント工場は四六時中フル稼働を続け、大量のクリスマスプレゼントを量産し続けた。その成果が実り、来たる12月24日――クリスマスイヴの日には、見事に準備が整ったのだ。
「配達部のサンタたち、環境適応と光速移動の魔術礼装を忘れるな! 使い魔トナカイとソリのメンテナンスは?」
「
「よし! 運行シフト通りに、各自出発じゃ!」
工場勤務のサンタやトントゥたちの歓声に見送られ、配達を担当するサンタたちはトナカイが引くソリに大量のプレゼントを詰め込み、世界中に旅立った。サンタクロースを必要とする子供たちの元へ、クリスマスの奇跡を届けに行くのである。
「本当に、ソリが空を飛んでいる」
「素敵な光景ですね」
「マスター、マシュさん! 工場長がソリ一台と使い魔トナカイを貸してくれるそうです」
ダンボールトラックではなく、トナカイが引くソリに騎乗したサンタプルートーが現れた。トナカイは使い魔らしいが、琥珀のように輝く立派な角とルビーのように輝く赤い鼻がクリスマスソングを体現している。
「マシュさん、ソリに乗ってみたいと思っていたでしょう」
「! そ、それは……」
「猫でも分かりますよ。ちらちら見ていましたからね。フィンランド一周の時間だけ、乗ってもいいそうです。楽しんじゃいましょう。クリスマスは、楽しいものなんですよね!」
「乗ろう! 行こう、マシュ!」
「先輩……はい!」
立香はマシュの手を引き、サンタプルートーと共にソリに乗り込んだ。トナカイが二、三度蹄を鳴らすと空気を駆け上がり、重いソリはフワリと花弁のような身軽さで空を飛んだ。
冷たい風が火照った頬に触れる。いつか夢見た、サンタクロースのソリに乗っている……立香もマシュも胸の高鳴りが止まらない。ワクワクする、ドキドキする。クリスマスが、やって来る。
「では、サンタらしいひと鳴きをしましょう。メリー・クリスマーース!」
黒猫が鳴いた。罪を告発するのではなく、楽しいクリスマスを運ぶために。
サンタクロースはどこから来るの?
山の向こうのそのまた向こう。フィンランドか、北極か。それとも、手を握ってくれるその人がサンタなのかもしれない。
大好きな人がサンタクロースだったなら、それはどれほど嬉しいことだろうか。
フィンランド一周を終えた黒猫のサンタクロースは、ダンボールトラックにプレゼントを乗せて走り出す。シンシンと降る雪の上に轍を残し、クリスマスプレゼントを届けよう。貴方に幸福を……自分なりの幸福を。福猫である今だからこそ贈ります。
クリスマスは楽しいもの。ドキドキする、ワクワクする。いつもとは違う夜は非日常をもたらす奇跡の一夜。
お届け先はインターフォンなどない。洞窟なのだからドアさえもない。「ぴんぽーん」と鳴いたら、共に在る傭兵が出迎えてくれた。
「お届けものです。ハンコもサインもいらないので、一緒に入りませんか? 今日はクリスマスです。クリスマスって、楽しい日なんですよ。貴方にとっては、とても耳障りで、業腹な日かもしれませんけど」
誰かの誕生日かもしれない。
何かの記念日かもしれない。
ただ騒ぐだけの日かもしれない。
家族みんなで、恋人同士で、1人で過ごす日かもしれない。
起源とは違う日かもしれない。
酷く罰当たりなことをしているかもしれない。
動物たちには関係のない日かもしれない。
それでも―――
「楽しんだもの勝ちってことで満喫しましょう! 人間の催しではなく、ただボクたちが温かい炬燵でゴロゴロする日にしましょう」
黒猫が届けた炬燵はヘシアンが組み立ててくれた。ある意味、一番届けたかった彼へのクリスマスプレゼントを配達し終わったので、もうサンタはお終いとサンタ帽子を脱いで炬燵の周囲をぐるぐるソワソワ歩く。とても巨大な炬燵は彼も入ることができるサイズだ。
クリスマスは楽しい日。例え大っぴらに楽しまずとも、騒がずとも、いつもとはちょっと違う特別を添えてみるのはいかがでしょうか。
洞窟の奥から現れた狼王ロボを前にして、黒猫は「ニャア」と鳴いた。
貴様は炬燵でゴロゴロしたいだけだろうと言いたそうに呆れたロボだったが、彼は拒絶しなかった。
クリスマスツリーはいらない、ケーキもチキンもいらない。寒い夜に暖を取るだけで十分贅沢なのである。
Merry Christmas!
昨年あたりにライダー:黒猫〔サンタ〕のネタが思いついてしまったがために、本家で今年のサンタが登場するよりも先に!とフライングでクリスマスやっちゃいました。イメージとしてはコラボイベント後の与太クリスマスイベントです。
副題が思いついてしまったらもう後には引けないのである。副題はミステリー・探偵作品から取ってみました。
サンタクロースの謎→『マリー・ロジェの謎』エドガー・アラン・ポー
“クリスマス”殺人事件→『クリスマス殺人事件』ニコラス・ブレイク
サンタ
何故か誰もいなくなった→『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティ
踊るおもちゃ→『踊る人形』コナン・ドイル
謎解きはクリスマスディナーのまえで→『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉
悪魔のジングル・ベル→『悪魔の手毬唄』横溝正史
すべてがH(appy)になる→『すべてがFになる』森博嗣
黒猫プルートーのクリスマス→『三毛猫ホームズのクリスマス』赤川次郎
黒猫→運送業→戦艦……!と、色々アウトかつゴリゴリにふざけてネタに振り切りましたが、無事に書ききれてよかったです!
オリジナルのクリスマスイベントでしたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
次には黒猫サンタのマテリアルを載せておきます。