犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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一方その頃のアヴェンジャー

・探偵&オーナー
(霊体化して)浮気の証拠を押さえて仕事が終わったので、逢引き場所の高級ホテルのカフェでコーヒーブレイク中。
ケーキスタンドに乗って出て来るマカロンが美味しいと有名。

・潜入捜査中の探偵助手
戦闘中……午後の授業でエンカウントした睡魔と。
蘭・園子・真純とお昼ご飯を食べて昼休みに思いっ切りバレーボールをしたら、授業中に睡魔に襲われた。サーヴァントなのに。


狼王と少年探偵団04

 ロボット掃除機が吸い込んでいた針は、ホチキスの針を伸ばしたぐらいの短さだった。だが、先端は鋭く尖り、黒い血痕らしき染みが付着している。

 

「針だ! すぐに鑑識に回せ!」

「でも、どうしてロボット掃除機の中に針が? そもそもどうやって被害者を刺したんだい?」

「相馬さんが針に触るような仕掛けをしていたんだよ。針の傷が指先じゃなくて不思議な位置にあったのは、何かを掴もうとした時に刺さったんじゃないかな」

「何かを、掴む……っ、そうか。テニスラケットね!」

 

 佐藤が気づいて証拠品のテニスラケットを手にした。

 VRゲームをするためのセンサーが取り付けてある以外は、ごく普通の、しかし使い込まれたテニスラケットだ。グリップにはしっかりとテープが巻かれている。

 

「ラケットのグリップ。ここに針を仕掛けておいて、被害者が知らずに握れば針が刺さる。小さくて細い針のニコチンに即効性はないわ。チクっとした痛みをそのままにしてゲームをプレイしていれば、そのまま傷口からニコチンが回って被害者は倒れ、ラケットも床に落ちる。その時に仕掛けられた針もグリップから落ちたのね」

「うん。ロボット掃除機はプログラミングの設定をしておけば、決まった時間に決まった場所を掃除してくれるから、犯人が離れた場所にいても勝手に回収してくれるよ。終わったら自分から充電ポートに戻るから、充電ポートを分かり辛い場所に隠しておけば自分から隠れてくれるもんね」

「だけど、この仕掛けで被害者を殺害するには、成功率が低いんじゃないかな? 針の存在に気付かれたら終わりだし、針が床に落ちることも確定できないよ」

 

 立香がコナンに問いかけた。確かに、色々と穴の多い殺害計画ではある。そもそも、ニコチンの量が少なかったら殺害も難しい手法である。

 だけどこの事件、酷く砕けた言い方をすれば、ワンチャン殺せればラッキーな事件だったのだ。

 

「犯人は、タイミングを見て仕掛けただけだったと思うよ。お隣さんが旅行で不在にしていて、家族も遠方に住んでいて訪ねる予定もない。このタイミングで被害者が亡くなっていたら……本来の第一発見者は、蔵田さんになっていただろうね」

 

 立香の視線も、刑事たちの視線も蔵田へと集中する。彼女は。何を言っているか分からないと言いたげな顔をしていた。

 

「もし、この仕掛けで相馬さんが亡くなっていたら、第一発見者のふりをして通報する計画だったんじゃないかな。この家のお金や、最新家電を盗んでから」

「何を言っているの、坊や。私は、今日はたまたまお土産を渡しに来ただけよ」

「うん。相馬さんが生きていたら、そう言ってお土産を置いていくつもりだったんだよね。お仕事がお休みの日なのに相馬さんを訪ねるなんて、凄く仲良しなんだ」

「ええ、そうなのよ。仲良しなの。相馬さんに九州のお土産を買って来るって約束したから……それで」

「でも、蔵田さんこのお土産を東京で買っているよね。それも先週に」

「え……」

「お土産の紙袋の中に、これが入っていたよ」

 

 そう言ってコナンが蔵田に見せたのは、一枚のはがき付きのチラシだった。『東京駅全国お土産感謝祭』と書かれている。

 

「歩美、これ知ってる。東京駅でやっていたキャンペーンの応募はがきだ。旅行が当たるんだよ」

「東京駅周辺の地方アンテナショップで、一定金額以上の買い物をすればもらえる応募はがきね。でも、このキャンペーンは先週までだったはずよ。それに、お土産のお菓子一箱じゃ金額が足りないわね。何箱も同じ物を買ったのかしら」

 

 3,000円以上のお買い上げの際に店員が紙袋に入れてくれる応募はがきをもらうには、蔵田が持参したお菓子を四つ以上購入しなければならない。そんなにたくさんのお土産を、九州へ行く前に買う必要が一体どこにあるのだろうか。

 そう、まるで……相馬邸を訪れる用事を、あらかじめ準備していたかのようだ。

 コナンだけではなく、哀にも不自然な点を指摘された蔵田から冷や汗が落ちる。次は一体どんな言い訳をするのかと出方を窺っていると、彼女は突如、足元にいるコナンと哀を蹴り飛ばした。

 彼らはヘシアンに抱えられて怪我はなかったが、蔵田は立香までをも突き飛ばして逃走を図ったのである。

 

「どけ! 犬っコロ!」

「ロボ!」

 

 蔵田の逃走経路上にはロボがいた。口ではどけと言ってはいるが彼を踏み付けてでも逃亡する気だろう。

 立香が声を張り上げてロボの名を呼ぶ。起き上がって蔵田の前に立ち塞がったロボは一声、吼えた。

 荒野を駆ける狼の如き咆哮は、心臓を鷲掴みされるどころか心臓を一噛みされるかのように人間たちを硬直させる。それは、逃走を図った蔵田も同じだった。

 ロボの咆哮に驚いた蔵田は玄関前で転倒した。先ほどの勢いは一体どこへ行ったのか、ロボの唸り声を聞けば悲鳴を上げてガタガタと震え出したのだ。

 

「ひ、ひぃ……!」

「貴女にこのイケメンは荷が重かったわね。話は、取り調べ室で聞きましょう」

 

 ロボから逃げようと、抜けた腰で後退りをした蔵田は佐藤に確保された。

 ロボが相当な恐怖だったのだろう。佐藤に縋った蔵田は、いとも簡単に「私がやりました」と白状したのである。

 後の取り調べで分ったことだが、蔵田令子という名前は偽名であった。

 彼女は地方都市で介護対象の老人に取り入って遺産を掠め獲ったり、親子以上の年齢の離れた老人と結婚してすぐに死に別れて多額の遺産を手に入れたりと、相当な危険人物だったのである。

 彼女の被害者であった老人家族から訴えを起こされて東京まで逃げて来て、次のターゲットとしたのが相馬氏だったのだ。

 相馬氏は彼女を気に入っていたがそれはヘルパーとしてであり、再婚には踏み切らないと読んだ蔵田は金品と家にある最新家電の窃盗に目標を切り替えた。ワンチャン殺せればラッキーな殺人は成功したが、菊美が突如やって来たために狂いが生じたのである。

 お土産と言って東京で買ったお菓子は、他の介護先の老人たちに取り入るために大量に買い込んだ物だった。

 

「……って、全部新一兄ちゃんが推理してくれたんだよ」

「やはり工藤君だったか」

「うん。新一兄ちゃんの推理通りに言ったら、解決しちゃった」

 

 そう言ってコナンが目暮へ見せたスマートフォンには、彼が語った推理と丸々同じものが書かれたメールがあった。送り主は「工藤新一」……隙を見て工藤新一のスマートフォンからコナンのスマートフォンへと送った、新一の推理である。

 

「コナン君が言っていた、親戚の探偵って……工藤新一なの!?」

「立香さん、新一兄ちゃんを知っているの?」

「平成のシャーロック・ホームズって呼ばれた、高校生探偵だよね。最近、姿を見せないけど」

「新一兄ちゃん、厄介な事件ばかりで忙しいみたい」

「彼は、無事なんだね」

「無事っていうか、元気みたいだよ」

 

 そう言った立香の声は、新一の身に危険が及んでいるのを想定していたかのようだった。

 無事もなにも、工藤新一は彼の目の前にいる。無事かどうかはさておき、身体が縮んで表舞台に出られなくなった以外は確かに元気である。

 藤丸立香は海外にいて、最近の日本の話題に疎いと言っていた。眠りの小五郎の存在も知らなかった。

 そんな彼が、民衆の前から姿を消して久しい工藤新一を知っていた。まさか、工藤新一を捜しているというのか。

 そうなると、先ほどの“若返りの秘薬”という発言が怪しくなってくる。

 内心冷や汗をかきながら誤魔化したが、随分とコナンの現状の的を射た発言だった。

 ゲームや神話の物語で登場するそういったアイテムを連想したとも取れるが、あるいは……若返りの秘薬そのものを知っているからこそ口から出た可能性もある。

 

「探偵の修行、頑張ってね」

「うん」

 

 こうして、放課後に遭遇した事件は幕を閉じたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「名探偵の愛弟子じゃなくて、名探偵(シャーロック・ホームズ)の愛弟子だったのか」

 

 まさか、工藤新一の手がかりがこんなところで得られるとは思ってもいなかった。

 世間から姿を晦ませている工藤新一が、親類の少年から事件の報告を受けてメール越しに解決した。子供の情報だけで殺人事件を解決した新一の頭脳もさることながら、彼の指示を完遂したコナンも侮れない。

「探偵」の元に謎はやって来る。「犯人」は現れる。

 今日の事件は、少年探偵団の彼らへ降りかかったのではなく、コナンを通じた工藤新一へ顕現した事件だったのかもしれない。

 帰り道、色々と考え込みながら歩いていた立香は不意にヘシアンに止められる。何かにぶつかりそうになったかと周囲に視線を移すと……何かがおかしかった。

 

「……ここ、どこ?」

「真っ直ぐ歩いていたはずだぜ。なのに、急にここに出やがった」

 

 いつのまにか知らない場所に迷い込んでいた。閑静な住宅地だったはずなのに、パイプが走る灰色の壁と鈍い音を立てて稼働する室外機に囲まれた、ビルの路地裏のような場所に立香たちは立っていたのだ。

 おかしい。まるで意図的に引き寄せられたようだった。

 ロボが立香の前に出て警戒を強める。

 感じた。隠しもしない殺気を、敵意を。

 立香たちの行く手を塞ぐように、黒い濁った液体がコンクリートの地面から湧き出てきた。それはすぐに人の形を取ると、何人もの真っ黒な人型が現れる。

 スキンヘッドの人間を真っ黒に塗り潰し、両目と口だけを取り付けたような人型は殺意の籠った両目を開いた。

 

『先輩! 敵性反応……エネミーです!』

 

 突如出現した黒い人型のエネミーは、包丁や鉄パイプやらの凶器を手に襲いかかってきた。




敵性反応はなし。
(出現しないとは言っていない)
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