「カッコ良かったんだぜ仮面ヤイバー!」
「初代の能力を受け継いだオリジンフォームが最高でした!」
「歩美、もう一回観たーい! 今度は蘭お姉さんと園子お姉さんも一緒に観ようよ」
「わたしは特撮に興味ないから遠慮しておくわ」
「そんなに面白そうならわたしも観てみようかな。コナン君はどうだった? 仮面ヤイバーの映画、面白かった」
「あ、うん。面白かったよ」
面白い部類には入ったが、子供たちのように無邪気な感想は抱けない。だって、中身は高校生なのだから。
江戸川コナン――またの名を、工藤新一。
黒ずくめの組織の取引現場を目撃したため、襲われて毒薬を飲まされて身体が縮んでしまった高校生探偵だ。
本日は、阿笠博士に連れられて少年探偵団の面々と杯戸町にあるショッピングモールにやってきていた。
お目当てはモール内の映画館で上映されている『劇場版仮面ヤイバー』である。もっと言うと、この映画館でもらえる入場者特典のオリジナルクリアファイルが目当てだった。
映画を楽しんでクリアファイルももらって、次にやってきたのはモールで有名なパンケーキ店。少しの行列に並んでいる最中に出会ったのは、蘭と園子だった。
彼女たちのお目当てもここのパンケーキ。それなら一緒に食べようと子供たちに誘われ、評判通りのパンケーキを堪能してから店を出たところだった。
モールの中心にやって来たところで、ピアノの音が聞こえて来た。
中心部の吹き抜けのホールには、白いタイルで造られたささやかな噴水があり、噴水の近くにはグランドピアノが設置されている。誰でも自由に弾いて楽しめるオープンピアノというものだ。中学生ぐらいの少女たちが興味本位に数個の鍵盤を叩いている。
少女たちがピアノから離れると、次にやって来たのは背の高い男だった。
調律を確認するように数個の鍵盤を叩くと、椅子を自身の高さに調整して腰を下ろし、手袋を外して両手を鍵盤に並べる。一瞬の沈黙の後、軽やかで優しい旋律が奏でられた。
「この曲……知ってる、『きらきら星』だ!」
「正確には、その曲の元になったモーツァルトの『きらきら星変奏曲』ね」
「作られた当初は当時流行していた恋の歌で、日本にはモーツァルトの死後にイギリスの詩人が作った星の歌詞が付けられて入って来たんだ」
「コナン君、よく知っているね」
「この間テレビで観たんだ」
「それにしても、随分と上手に弾くのう」
「それに……見て、蘭! 弾いている人、結構なイケメンじゃない!」
園子が色めき立って蘭に耳打ちをする。
上等なストライプのスーツを着たグレイブロンドの男性は、日本人ではないだろう。長い手足に彫りの深い顔立ち。スクエアの眼鏡の下の双眸は憂いを帯びた赤いハイライトが見える。
微睡むような視線で鍵盤を見つめ、一音一音は神経質なほど丁寧な星の瞬きに聞こえた。
いつの間にか他の通行人たちも足を止めて星の歌に聞き入っている。演奏者は人目も気にせず、一心不乱にピアノに向き合い最後の一音の余韻を残して楽譜を終えた。
星が降るように、拍手が降って来た。
「すごーい! お兄さん、ピアノ上手だね!」
「ピアニストなんですか?」
「次はよ、仮面ヤイバーの歌弾いてくれよ!」
「……仮面、ライダー?」
子供たちがピアノと男性へと駆け寄る。元太のリクエストに少し考え込んだ男性は、よく分らないと言いたげな声を出した。
「仮面ヤイバーだよ。知らねぇの?」
「オイ元太。外国の人だぞ、日本の特撮番組を知っている訳ねぇだろ」
「ごめんなさいね」
「いや。我がピアノに引き寄せられただけのこと」
「お上手ですね」
「……音楽を教えている」
音楽の先生か。
少々言葉がたどたどしいが日本語は通じるようだ。蘭の言葉に、少し思考しながら返答していた。
「折角だ。何かリクエストはあるかな」
「うわぁ! 蘭、折角なんだから弾いてもらおうよ!」
「ええと……それじゃあ、『アメイジング・グレイス』をお願いします」
「アメリカの讃美歌か。良かろう」
男性が再び両手を鍵盤に置く。再びの一瞬の沈黙の後、先ほどの『きらきら星変奏曲』よりも哀愁に満ちた旋律が奏でられる。
再びピアノの演奏が始められると、ホール近くにあるカフェにいた人々も興味深くこちらへと顔を出す。中には、園子のように演奏者の姿を目にして色めく女性もいた。
次は彼女たちからリクエストが来るだろう、コナンがそう感じて、曲が中盤に差し掛かった。
その時だった。
ホールの吹き抜けの、最上階から。大きなモノが盛大な飛沫を立てて、噴水にナニかが落ちて来たのは。
噴水の水がピアノにかかり男性は演奏の手を止める。決して深くはない水面に浮かぶのは、ワンピースを着て首にスカーフを巻いた女性……両目を見開いて青白い顔に生気は宿っていなかった。
「き……きゃあぁぁぁぁ!!」
歩美を皮切りに、ピアノに引き寄せられた観客たちも悲鳴を上げる。
女性の死体が落ちて来たのだ。
ここで、1時間ほど遡る。
ショッピングモールから少し歩いた場所にある自然公園。そこの並木道の合間の森林に、藤丸立香を始めとしたカルデアの面々は
『先輩! レイシフトの座標が大きくずれましたが、大丈夫でしょうか?』
「うん。周囲にワイバーンも海賊もいないよ」
『敵性反応はなしね。現代に近い分、エネミーの気配はないみたい』
「ところでここは?」
「マスター、地図があるわ。『杯戸町緑地公園』ですって」
『座標は米花町にしたはずですが、隣町にまでずれてしまいましたね』
以前も座標が大いにずれたことはあったが、それに比べたら着地点が随分と安全だ。
気持ちの良い木陰の幕がかかる公園の並木道。エネミーも登場しない、立香が慣れ親しんだ現代日本の光景だった。
『え……はい、分かりました。先輩、ミスター・ホームズからの伝言です。「まずは周囲を散策してみたらどうかね」とのこと』
「何で伝言?」
『実は……どうやら、ミスター・ホームズの声がそちらに届かないようです。先ほどからわたしの隣でナビゲートに参加しているんですけど、聞こえますか?』
「いや、聞こえないな」
通信はマシュとシオンのホログラフしか映っておらず、ホームズの声も姿も聞こえず見えなかった。
『目に見える敵性反応は確認されないけれど、何かしらの妨害がされている可能性はあるわね。ホームズの言う通り、周辺を散策してみたらどうかしら? 中心地となる米花町に移動する必要もあるし』
「マスター、近くに人が集まる場があるようだ」
「あら、ショッピングモールがあるじゃない」
今回のレイシフトに同行したのは、忘却補正を持つ「復讐者」が4騎。
ジャンヌ・ダルク・オルタ
アントニオ・サリエリ
この2人は、現代日本に合わせてそれぞれ服装を変えている。ジャンヌは『新宿』で手に入れたワンピースとコート。サリエリは、以前アマデウスを交えた旅行で身に着けたスーツと眼鏡をかけている。
一方、立香も見た目こそ普通のジャケットとパンツという現代の装いだが、いざ戦闘となればカルデアの制服に変化する特殊なダ・ヴィンチちゃんとシオンの合作礼装を身に着けていた。右手の令呪も特殊なシールを貼ることでしっかりと隠せている。
他、ヘシアン・ロボは、この時代では明らかに化け物扱いされて警察に通報されてしまうため、今は霊体化して立香の背後に控えている。
そして、もう1騎。
「ス●バ行こうぜ、●タバ! クッソ甘いフラペチーノ飲もうぜ!」
「フラペチーノ飲むの? その状態で!?」
立香の影の中からアンリマユの声がする。黒い影の姿を持つ自称・最弱英霊も、現代日本では不審者扱い待ったなしのため、妥協と説得の折衷案で立香の影の中に潜んでいる状態になっている。霊基をちょちょっといじったらできたと、ダ・ヴィンチちゃん談である。
黒い影の中から目が見開いている……ぶっちゃけ、怖い。
「ねえマスター、この特異点は現代と変わらないから金銭の心配はないんでしょ」
「うん。カルデア名義のカードを預かっているよ」
「それなら、このショッピングモールに行きましょう」
「ジャンヌもフラペチーノ飲みたいの?」
「違うわよ。見て分からない? 服と、季節! どう見ても合わないでしょう。不審がられるわ」
「それって、自分が新しい服が欲しいだけでは?」
「ち、違うわよ! あくまで特異点に溶け込むためよ!」
特異点の暦の上では5月だが、地球温暖化の影響か夏と言っても差し支えないほど日差しが暑い。この天候と季節では、ジャンヌの着ているコートは確かに不釣り合いだ。
つまり、ショッピングモールでコートに替わるアウターが欲しいとのこと。
ジャンヌの願いを聞き入れ、立香たちは公園を出てショッピングモールへと向かった。
だが、ジャンヌに引っ張られてショップを梯子していたら、サリエリとはぐれた。フラペチーノを与えて店の前で待機させていたら、忽然と姿を消していたのである。
「サリエリ先生?! どこに……」
「ねぇ、何だか様子が変じゃない?」
「中央ホールの噴水に人が落ちて来たってよ!」
「死体が降って来たって」
「……死体?」
「殺人事件の発生数が、1日平均4件。だったかしら」
「ヒャッハー! 早速殺しだぜ!」
「行ってみましょうか、マスター」
「うん。“設定”は守ってね」
「勿論よ」
劇場版仮面ヤイバー
平成ジェネレーション THE ORIGIN