犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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美天島聖剣伝説殺人事件03

「お帰りさない、朝央さん。一体どうしてお帰りに?」

「親父から、彼女を連れて挨拶にこいとメールが来ましたが。どうやら嘘だったようですね」

「父さんがそんなこと言うはずないでしょ。ああでも、のこのこやってきたあんたたちを力ずくで引き離すぐらいはやりそうだけどね」

「この女性たちは?」

「父の後妻の義乃さんと、姉の萌華です。姉の後ろにいるのが、妹の栄華(えいか)です」

 

 騒ぎを聞きつけたのか萌華もやって来た。彼女の背後にいたのは、円竜の末娘である栄華(16)だ。

 派手めな外見の姉とは違い、楚々としたブラウスとロングスカートを身に着けた大人しそうな少女である。こちらを目にすると、小さく頭を下げた。

 

「お兄さん、お帰りなさい」

「ただいま」

「そうだ栄華、話の続き。最近、ニキビが酷いって言っていたじゃない。東京の知人が送ってくれたサンプルなんだけど、使ってみて。この間あげたリップはどう、気に入った?」

「まだ着けてはいないわ。似合うかどうか、分からなくて」

「栄華に似合いそうだから買ったのに。もう」

「ありがとう、お姉さん」

 

 高音で早口な萌華と、ハスキーな小声で喋る栄華とでまるで正反対だ。だが、姉妹の関係は良好なようである。

 先ほどの萌華の発言も一見すればキツそうに見えるが、それが彼女の素だとしたら弟を邪険にしている訳ではない。

 親子の仲は悪いが、姉弟の関係は悪くないようだった。

 

「朝央さん、今日はお泊りに?」

「いえ、親父があの様子じゃ家には泊まれません。昨日から宿を取っていますので、そっちに」

「あの、こちらを渡してはもらえないでしょうか。お義父様はワインがお好きだと聞いたので」

 

 鞠菜が差し出した箱の中身は、手土産として持って来た赤ワイン。あの様子では手に取ってもらえない可能性が高いが、彼女が義父となる人のために選んだ品物だ。

 その意思をくみ取ってくれたのか、義乃は頭を下げてそれを受け取った。

 

「まあ、わざわざありがとうございます。そうだわ。今夜の宴にもいらっしゃいな。毎年祭りの初日の夜は、島中で始まりの宴をしますの。毛利先生もそちらの探偵さんたちも、是非参加してください。このワインも振舞わせてもらいます」

「ありがとうございます」

 

『カルデア探偵局』、『毛利探偵事務所』双方共に、随分と複雑な依頼を請け負ってしまったものだった。

 さて、当主に悪態を吐かれたとは言え、ここは朝央の家でもあるので好き勝手出入りしても構わない。朝央は鞠菜と共に、亡き母の墓参りのため屋敷の庭へと向かった。

 広大な敷地面積を持つ円竜家の庭には、一族代々の墓も建っている。今回の一番の目的は亡き母への結婚の報告だ。

 念のためにと、ヘシアンとエドモンに付き添われて2人は朝央の母へ報告に向かう。そして立香たちは、縁側の軒下で待たせてもらうことにした。偶然にもばったり遭遇してしまった『毛利探偵事務所』の一行と共に。

 

「つまり、円竜さんはあの花井鞠菜さんが伝説にある花鞠の生まれ変わりで、島に禍を運ぶ存在と思い込んでいると」

「そうみたいです。こちらでも一応鞠菜さんの経歴を調べましたが、円竜さんとの接点も美天島との関わりすらも出て来ませんでした。円竜さんが言ったように、陥れるつもりで朝央さんに近付いた可能性はないと思います」

「偶然似たような名前の女性が現れて、猜疑心が膨れ上がってしまったということか」

 

 立香と小五郎がお互いの情報を共有すると、円竜があんなにも騒ぎ立てていた理由に合点がいったと頷いた。

 

「でもさ、別な謎が出て来たね。誰が円竜さんのスマホで朝央さんにメールを送ったんだろう?」

「あの様子じゃ、父親本人は100%メールを送っていないわね。ましてや、結婚を許すなんて絶対に言わないわ」

「……何らかの目的で、彼らを島へと呼び寄せたのか」

 

 サリエリがポツリと呟けば、空間に一瞬の沈黙が走る。が、その沈黙は秒で破られることとなる。

 縁側に座っていたコナンの背後に現れた小さな影が、彼の背中に思いっ切りぶつかって来たからだ。

 

「うわっ?!」

「コナン君! 大丈夫?」

「う、うん」

「ビックリした? ねえねえ、ヒロくんのお客さま?」

「えーと、君は?」

 

 幸いにも縁側から落ちることはなかったが、結構な衝撃があったようでコナンの大振りな眼鏡が外れかけていた。

 彼の背中にぶつかって来たのは、まだ小学校にも入学していなさそうな少女。天真爛漫を全身で表した腕白そうな少女が、コナンの背中でケラケラ笑っていたのである。

 

「こんにちは、百華(ももか)さん。彼女は、萌華さんの娘さんの百華さん(5)です」

「つまり、円竜さんのお孫さんですか」

「こんにちわー! ヒロくんは? ヒロくんが帰って来たって聞いたの。きみ、どこからきたの?」

「え、東京の……」

「とーきょーってどこ? 本土より遠いの? きみ何歳? ねえねえ、もーと遊ぼうよ!」

「えー……」

 

 鳥栖に紹介された少女は、恐らく自分の名前から「もも」と名乗りたいようだが、舌が上手く回らないようで一人称が「もー」と聞こえる。ぐいぐいと迫って質問攻めにする姿は実に活発だ、コナンがたじたじになっている。

 その姿や一人称から、カルデアにいる叛逆の騎士ことモーさん――アーサー王の“息子”と伝説には書かれる、モードレッドを思い起こさせた。

 

「百華さん、ここにいたのね」

「栄華ちゃん、もーこの子と遊びたい」

「駄目ですよ、お客様に迷惑をおかけしたら。お母さんに怒られますよ」

「いいもん。ママはいっつもプンプンしてばっかりだから」

「百華さんが申し訳ございません」

「あ、ボク大丈夫です」

 

 百華を探して、先ほど玄関で見かけた末娘の栄華が姿を現してコナンに深々と頭を下げる。関係性は姪であるはずだが、幼い少女に対する態度としてはどこかよそよそしいように見えた。

 

「百華ちゃん、って呼んでもいい? お姉ちゃんで良かったら、一緒に遊びましょうか?」

「本当? じゃあ、かくれんぼしよう!」

「そんな、ご迷惑をおかけする訳には……」

「迷惑じゃないですよ。コナン君も一緒にかくれんぼする?」

「えーと」

「一緒にやろうよー」

「じゃあ、一緒にかくれんぼしよう」

「やったー!」

「どうもありがとうございます。お父様のお客様ですのに」

「構いませんよ」

「コナン君、可愛いガールフレンドができて良かったね」

「あはは……」

 

 栄華は驚き瞠目する。蘭の言動に毒気を抜かれたようにも見えた。

 一方、百華は蘭とコナンが一緒に遊ぶと言ってくれてよほど嬉しかったようだ。コナンの背中にべったりとくっついてキャッキャと笑い声を上げている。

 立香が茶化すように百華をガールフレンドと言ってみたら、コナンに苦笑いされた。もしかして嫌だったか。他に好きな子でもいるのだろうか……例えば、『少年探偵団』の少女たちとか。

 

「オルタさんたちはこれからどうするの?」

「私たちは、伝説にある聖剣を見に行く予定よ。一般公開は明日からだけど、朝央さんの伝手で一足先に見せてもらうことになったの」

「脅迫状に聖剣のことが書かれているから、一応調べておこうかなって」

 

 半分本当、もう半分は魔術的な意味がないか調べる目的がある。

 墓参りから帰って来た朝央たちと合流し、コナンたちを別れた『カルデア探偵局』は祭りの会場となる聖剣の刺さる岩がある場所へと移動する。

 ここで、美天島の地理を確認しよう。

 島は楕円形に伸びる杉並区ほどの大きさだが、島の半分以上が円竜家の土地だ。屋敷は島の中心から少し北にいった位置にある。

 島の住民は円竜家の土地を借りて住居し、解放されている土地でブドウの栽培をしている。

 連絡船が着き、漁船が出入りする港は南東の方角にある。人の出入りが多いため、商店や観光客用の宿もそこの地域に集中している。宿を取ったのもそこだ。

『美天島聖剣祭り』の会場となる聖剣が安置されている場所も、港から近い場所だった。一般への聖剣のお披露目は明日からだが、祭り自体は今日から始まっており、様々な出店が出店している。

 海産物の加工品や島産のワイン、ブドウジェラート。DX鬼退治刀と名付けられた聖剣を模した玩具の刀など、商魂逞しい。

 出店が並ぶ道の先、『美天島商工会』と書かれたテントの下に伝説の聖剣は刺さっていた。

 岩に刺さっているという話だったが、硬い岩を貫通しているのではなく、地面から突き出る岩と岩の微かな隙間に刀が突き刺さっている状態だった。

 

「これが、美天島の聖剣か」

「ただの古い刀にしか見えないわね」

「でも、本当に抜けないんですよ。私も幼い頃に引き抜こうとしましたけど、全く動かないんです。触ってみますか?」

 

 朝央の提案に立香が力を込めて引き抜こうとするが、刀は動かない。腰を入れて綱引きのように引いてみても、揺れもしなかった。

 次にジャンヌも抜こうとしてみたが、やっぱり動かなかった。

 

「立香、本気を出してもいいかしら」

「ちょっとやめといて!」

 

 筋力:Aを発揮されたら抜ける前に刀がへし折れる恐怖もあるので、()()()()()()力加減でお願いします。

 

「刀は、普段からここに?」

「はい。普段は刀を囲むように祠が建ててあります。祭りが始まった10年前からは、祭りの間だけ祠を取り払っています」

「年代物の割には刀身に錆一つない。手入れをしているようだな」

「商工会が管理しているそうです。昔は刀を管理する家がありましたが、もう島を出られています」

 

 エドモンが顔を近付けると、丸眼鏡をかけた彼の顔が映るほど刀身が磨かれている。刃毀れも錆も見当たらない。柄も鍔も古い物ではあるが、()()()であると証明できる程度の綻びを残して手入れはされていた。

 

『立香君、聖剣のスキャンが完了したよ』

「ダ・ヴィンチちゃん、どうだった?」

『実は……期待を裏切ってしまうようで、申し訳ないんだけど。あの刀が刺さった岩の下に金属の板が埋まっていて、その板と刀が溶接されている。思いっ切り人工物だね!』

 

 聞いてはいけない真実を知った驚きの声を飲み込んだのを、誉めて欲しかった。




これで君も鬼退治の英雄だ!
ボタンを押せば光る!
ボタンを押せば攻撃の音が鳴る!

DX鬼退治刀!
(対象年齢6歳以上、単4乾電池×2は別売りです)
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