ここで、円竜家の人物関係を整理しよう。
【村長兼当主:円竜勇朝(65)】
・美天島香女路村長であり円竜家の当主
・各方面の反対を押し切って『美天島聖剣祭り』を始め、リゾート開発のために好き勝手している
・娘や息子との関係は最悪
・伝説にある花鞠が島に禍を運ぶ疫病神だと信じ込んでおり、花井鞠菜がその生まれ変わりだと島中で吹聴している
【後妻:義乃(38)】
・勇朝の後妻、10年前に再婚した
・ちなみに前妻は12年前に病死している
【長女:萌華(33)】
・円竜家の長女、父とは島の在り方で対立している
【孫娘:百華(5)】
・萌華の娘で勇朝の孫、活発で腕白でお転婆
【婿:麓人(31)】
・萌華の夫で百華の父(まだ会ってはいない)
【長男:朝央(28)】
・円竜家長男、『カルデア探偵局』の依頼人
・花井鞠菜との結婚を考えている
【次女:栄華(16)】
・円竜家の次女、大人しい性格
入り婿である萌華の夫を含めると、この7人が円竜家の人間だ。分家もなく、この血筋だけで長年美天島を治めてきた。
『魔力は一切なし。神秘の気配も一切なし。マジモンのパチモンだね!』
「マジかーまったく関係ないかー」
つまり、魔術的要素は一切なく、鉄板と刃の溶接という人間の技術によって伝説は演出されていたのである。
『ですが、朝央さんの反応を見るに、彼は聖剣が人工物であると知らないようでした』
『島民たちは真実を知っていて神秘を演出しているのか。それとも、一部の人間だけは真実を知っているのか。どちらにしろ、聖剣の神秘を演出していた人間は結構昔からいたようだね。聖剣の下には、人の手が加えられたと思われる空洞があったよ』
「そこに金塊は?」
『砂金すらないね』
「財宝の隠し場所でもないか」
速攻で聖剣の秘密が明らかになってしまい、立香はがっくりと肩を落とした。正直、拍子抜けである。
肩を落とす立香がいる場所は、祭りの会場の近くにある真新しい東屋だ。隣にはロボがいるが慰めてもくれず、退屈そうに座り込んでいる。
影の中にいるアンリマユも反応がなく……ってか、さっきから寝息が聞こえる。人前に出ちゃいけないからといってサボるな。
「マスター。島を上空から偵察したが、不審な点は見当たらない。エネミーも、魔獣も、サーヴァントらしき者の姿もない」
「ただ似ているだけの伝説だったのかな」
サリエリからブドウジェラートを受け取り、2人で並んで一口食べる。美味しい。
サリエリの足元にいる灰色の男――今は鳥の姿となっている彼らによって美天島の隅から隅まで調べたが、聖杯の気配どころか神秘の気配もない。伝説の時代から抜けない聖剣は完全なパチモンだったのだ。
「ところでマスター……否、立香。招かれた宴には参加するのか?」
「アウェーな場所に参加するリスクは高いけど、朝央さんや鞠菜さんは顔を出すって言っていましたから、俺たちも護衛として一緒に行きましょう。脅迫者の正体が島の人間なら、そこから探ることができるってエドモンも言っていましたし」
本来なら、祭りの宴は歓迎される場所だ。島の統治者の跡取りが本土から嫁を連れて帰ってきたのだから。
だが、実際はアウェーどころか針の蓆状態の敵意の場である。村長以外にも鞠菜を疫病神と思い込んでいる人間が、何人も出席しているのだ。
実際に、島に上陸した彼女に向けられる視線の一部が刺々しいものとなっている。
それでも彼女は、少々俯きながらも宴に参加すると言った。結婚を認めてもらうために、何度でも頭を下げに行くのだ。
『カルデア探偵局』の動きは変わらない。2人を守るために同行し、2人に何かあった時には戦うことも厭わない。
日が傾き始めると風が出て来た。だが、これぐらい障害にもならぬと言いたげに、祭り会場の至る所に設置されている提灯に火が灯った。
円竜家の広間で宴が始まる。
***
「百華ちゃーん? どこに行ったのー?」
時間は既に夕方の6時に迫っていた。
そろそろ祭りの宴も始まる。小五郎が彼らを呼びに来たのでかくれんぼを終えようとしたのだが、百華が見つからない。
かくれんぼで隠れるのは庭だけとルールを決めていたが、彼女の小さな靴が縁側の下に隠されていたのを見るに、百華は屋敷の中に隠れてしまったようである。何度も鬼のコナンに発見されたのが余程悔しかったのだろう。意地でも勝つつもりだ。
蘭と二手に分かれて屋敷の中に百華を捜し、コナンが台所方面を捜しに行くと使用人たちが宴の準備でバタバタと忙しそうにしていた。
こんな場所に隠れたらすぐに家の人たちに発見されるはず。ならば、人気のない場所にいるのか……これだけ広い屋敷だ、使っていない部屋の一つや二つあるだろう。
「百華ちゃーん、かくれんぼは終わりだよー。出ておいでー」
「君、もしかして百華と遊んでくれている、毛利探偵と一緒の子?」
「うん、そうだよ。おじさんはもしかして百華ちゃんのお父さん? 実は、かくれんぼをしていたんだけど百華ちゃんが見つからないんだ」
「そうか。遊んでくれてありがとう」
コナンが廊下で出会った男性が、萌華の夫であり百華の父である
麓人も一緒に捜そうとなったその時、聞き覚えのあるバタバタとした足音がドン!と麓人の脚にぶつかった。見つけた。
「パパ! おかえり!」
「百華! どこに行っていたんだ、かくれんぼでいなくなったって……汗びっしょりじゃないか」
「百華ちゃん、どこに隠れていたの?」
「もーの秘密の場所!」
「またあそこに入ったんだな。危険だから駄目って言ったじゃないか!」
「だって、あそこ涼しいもん。でもね、今日ね……」
「ほら、汗を拭いて着替えよう。ママが待っているよ」
「はーい。またね、コナン君」
「うん、またね」
父に連れられてコナンに手を振った百華は、可愛い花柄のTシャツを汗びっしょりに濡らしていた。隠れる前はあんなに汗をかいていなかった。どこか暑い場所に隠れていたのだろうか。
百華も無事に見つかった。蘭や小五郎と合流したコナンも、屋敷の広間で行われる宴へと出席する。
広い畳の部屋にテーブルと椅子を入れて、新鮮な刺身やら寿司やらの島名産の海の幸が並び、ピカピカのグラスと島産のワインが客人を出迎えた。
「美味い! 最高ですな、このワイン!」
「ありがとうございます。さあ毛利先生、もう一杯」
「カルパッチョも美味しいね」
「うん。あ、朝央さんたちだ」
宴の喧騒に紛れるように広間に入って来たのは、鞠菜を連れた朝央だ。人目に付きたくないと言わんばかりに、島の人間を避けている。
彼らの背後には『カルデア探偵局』が付き添っていた。
背の高い男性陣に古い屋敷はサイズが合わないのか、梁から頭がはみ出している。エドモンとサリエリはひょいと頭を下げて広間に入って来たが、ヘシアンはヘルメットを被った頭を梁にぶつけた。
「コナン君、これ美味しいよ。食べてみて!」
「も、百華ちゃん」
「ガールフレンドと仲が良いね。よっ、この色男!」
『もう酔ってやがるな、このおっちゃん』
「はい、どうぞ!」
「ありがとう」
鳥栖によってどんどんワインを注がれたお陰で、小五郎は既に出来上がり始めていた。
百華がコナンの卓にまでやって来て、皿に乗った白身魚のから揚げを分けてくれた。彼女はそのまま自分の席には戻らず、蘭とコナンに挟まれてブドウジュースを飲んでいる。随分と気に入られたようである。
酒も入り、日も暮れて夏の夜がやって来た。宴も酣の状態で、小五郎が起きて解決した事件の話を面白がる円竜の機嫌も良かった。
だが、1人の男性が箱を手に広間にやって来ると、円竜の酔いが一瞬にして醒めたのだ。
「蘭堂、遅刻とはいい身分だな」
「申し訳ございません、役場の仕事が片付かず遅れてしまいました」
「あの人は?」
「島の助役の蘭堂さんです」
コナンがこっそり訊くと、鳥栖が教えてくれた。
島の助役である
彼の登場で円竜の表情が明らかに変化した。ただの村長と助役という関係ではないようである。
「村長、聖剣祭り10周年おめでとうございます。ささやかですがお祝いです」
「どれ……グラスか。お前にしては良い趣味だ」
蘭堂が円竜に差し出した箱の中にはペアのワイングラスが入っていた。
ステムとフット・プレートが金で装飾されており、華奢ではあるが豪華な作りになっている。
「あら、素敵なグラスですね。そうだわ、鞠菜さんからワインをいただいたの。このグラスでいただいたら?」
「あの女からだと」
「良いじゃないですか。ワインに罪はありません。それにこのワイン、とても良い物よ。朝央さんの生まれ年ですわ」
「……なら、飲んでやるとしよう。蘭堂、注げ」
円竜は躊躇したが、義乃に押し切られた。彼女が持って来た鞠菜からのワインに手を伸ばし、蘭堂へグラスに注ぐように指示をする。
蘭堂がワインの封を取り外してコルクを開けて瓶を傾けると、濃紅色の液体が薄いグラスを満たす。
二つのグラス両方にワインを注ぎ、片方は義乃へと差し出そうとしたが、円竜が蘭堂へグラスを差し出した。お前も飲めということだ。
グラスを受け取った蘭堂が一瞬の沈黙の後に、ワインに口を付けた。彼が一口飲んだのを確認するように目にした円竜が、ようやく鞠菜からのワインを飲んだ。
その時だった。
「ぐ……あぁぁ……!」
「あなた?!」
「み、水……」
「村長?」
「ぐ……ぐぉ……」
ワインを飲んだ円竜が呻き声を上げて咳き込んだ。義乃から水の入ったグラスを受け取ってがぶ飲みすれば、人々は村長の異変に気付き始める。
水の入ったグラスを手から落とすと、ワインのグラスと衝突してどちらも割れてしまった。
円竜の息は更に荒くなり、苦悶の表情で胸を押さえると……そのまま、椅子から滑り落ちて倒れた。
「村長!!」
「あなた!?」
円竜が鞠菜の持って来たワインを飲んで苦しみ、倒れたのだ。
死神「魔術も神秘もないけど、仕事はする」