犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

24 / 140
美天島聖剣伝説殺人事件06

 嵐の孤島。吹雪の山荘。陸の孤島。その他、外洋に出航した客船に足止めされた列車など。外部から断絶された状況下で事件が起きることを、Closed circleという。

 探偵小説やミステリードラマの中でよく見る舞台設定だ。

 ある意味、殺人事件の謎解きをするに相応しい舞台が整った、整ってしまった。

 少々都合が良すぎるような気もするが……それもこれも、全てはここが「探偵」と「犯人」の対立から成る(ルール)が敷かれた特異点である故の現象かもしれない。

 日本海側の気候が崩れ、夕方からの強風・豪雨により波浪警報が発令された。その影響は美天島にも表れ、島を出る最終便が欠航となってしまった。明日もこの天候が続くのならば、しばらくは美天島に来ることも、出ることもできなくなってしまう。

 立香たちは、探偵たちは閉じ込められてしまったのだ。犯人によって殺人が行われたこの島に。

 

「悪天候で本土の刑事さんが来られません。なんで、この場は名探偵である毛利さんに指揮を執ってもらいたいのですが」

「この島の警察官は貴方でしょう」

「いやぁ。私、この島に来て30年以上になりますけど、こういった事件を扱ったことがなくて。祭りの日に死人が出るなんて、10年前以来ですし……」

「っ!!」

 

 定年が近いと思われるこの島の駐在がそう呟くと、一瞬にして島民たちの空気が変わった。

 彼らは何も告げないが、その視線は蘭堂に向いている。その様子は、10年前の祭りの日に何かがあったと言っているような反応だった。

 それから、定年どころか古希に近いと思われる診療所の医者が連れて来られた。大きく欠伸をしているところを見るに、熟睡しているのを叩き起こされて引っ張り出されて来たようである。

 

「村長……死んどりますね。また心臓をやりましたか」

「ワインに毒物が混入されていた。村長の心臓は、そんなにも弱っていたのだろうか?」

「お兄さん、警察の人?」

「いや、俺は探偵だ」

「あの、ドラマの? 本土には色々な職業がありますね。去年、仕事で本土に出ていた時に発作を起こして倒れましてね。まあ、ワシは直接診てはいませんし、薬の処方も全部本土の医者がやっておりました。発作自体は軽いもんでしたけど、本人が気弱になっていたせいか、体調はあまりよろしくなかったみたいです」

 

 のんびりと検死をする老医者が見た円竜の遺体は、心臓を掴むように抑えながら亡くなっていた。

 ロビンフッドの説明の通り、スズランの毒は心臓が弱っている標的によく効くのだろう。発作を起こして倒れ、そのことで精神的にも惰弱になっていた円竜にとって致命傷となったのだ。

 一応、駐在を中心に現場の広間を立ち入り禁止にして保全する。診療所の設備では、遺体の解剖どころか怪我人の手術もできないということで、遺体にはシーツをかけて県警本部が到着するまでは現状を保持しておくしかできなかった。

 

「ねえ鳥栖さん」

「どうしたんだい、コナン君?」

「さっき、おまわりさんが10年前のお祭りの日に亡くなった人がいたって言っていたけど、なんでみんなビックリしていたの?」

「私はそのことをよく知りません。10年前、私はまだこの島に来ていなかったので」

「……10年前の今日、蘭堂さんの娘さんが亡くなったのです」

「蘭堂さんの?」

 

 小さく呟いた荒倉の言葉に、立香も思わず口を挟んでしまった。だから島民たちの視線は蘭堂に集中したのか。

 それ以上の情報は聞けず、あまりその話を深掘りもしてもらいたくないらしく、荒倉はそれきり口を閉ざしてしまった。

 

「ワインに毒を仕込んだ形跡はなかった。なら、毒はグラスの方に? だとしたら、グラスを持って来た蘭堂さんにも手段がある」

「しかし、あのワインは花井さんが持って来た物でもある」

「我々の依頼人を疑うか、毛利探偵」

 

 しかし、状況から言って鞠菜は第一容疑者だ。

 割れたグラスから零れたワインにも、もう一つのグラスのワインにも、ボトルの中に残ったワインにも毒の反応が出ている。

 だが、グラスを用意したのも、ワインを開封してグラスに注いだのも蘭堂だ。グラスに毒を塗り、円竜が倒れたどさくさに紛れてボトルのワインに毒を入れた可能性もある。

 鞠菜と蘭堂、容疑者はこの2人だ。

 

「村長を殺したのは、あの女だ」

「やっぱり、島に禍を運ぶ花鞠の生まれ変わりだったのか」

「蘭堂さん。まあ、村長を怨む気も分らないでもないが……」

 

 その場は、天候悪化もあり宴に参加していた者たちを帰宅させた。

 立香が逃がそうとした朝央と鞠菜も、最終便の欠航により島を脱出することはできず残された。現在は宿に戻っていると、ジャンヌから連絡が来ている。

 

「立香さん」

「コナン君、どうしたの?」

「何で鞠菜さんを島から出そうとしたの? 確かに、あの場にいたら彼女の身に危険が及ぶ可能性があったけど、彼女はこの事件の第一容疑者だ。場合によっては、容疑者の隠避に繋がる……って、小五郎おじさんが小さく言っていたよ」

「……俺たちは探偵としてこの島に来たけど、最優先事項は脅迫状の犯人を捜すことじゃない。俺たちは朝央さんと鞠菜さんを守るためにこの島に来たんだ。この島にいることで彼らに危険があるなら、迷わず脱出させることにしていた。それに」

 

 それに……。

 誰かを想ってやったことで非難されることも、殺していないのに殺したと罵倒されることも、冤罪を被せられることも。酷く心がひび割れることだから。

 

「俺たちは、『カルデア』に助けを求めた依頼人を信じるよ。彼女が犯人だという確かな証拠が出るまで、俺たちは朝央さんと鞠菜さんの味方でい続ける。助けてと言って来た人たちの気持ちを踏み躙ることはしたくない」

「名探偵の愛弟子よ。オレたちは今、「探偵(明かす者)」の身分に甘んじてはいるが、元は人理の守護者(守る者)だ。局長(マスター)が守ると、信じると口に出したのなら、我らは名探偵にも牙をむく炎となる」

 

 猫の声が聞こえずとも、花井鞠菜は犯人ではないと立香は断言する。彼らは「探偵」として、依頼人を守る道を選んだのだ。

 風がまた強くなった。恐らく明日もまだ吹き続けるだろう……明日の聖剣のお披露目は延期になる可能性が高そうだ。

 この風の中でも、美天島の聖剣は直立不動のまま岩に突き刺さり、水面下で溶接されたままになっていた。

 

 

 

***

 

 

 

「猫の鳴き声が聞こえない……犯人は、この島にいないということでしょうか?」

「どうだろうね。でも、事件発生後、サリエリの灰色の男が鳥の姿で島を監視に飛んだが隠していたボートなどで島を脱出した者はいなかった。勿論、ロボの監視を抜けて屋敷から出た者もいない。まだ仮定の話だけど、ワインに毒を入れた犯人はまだこの島にいる可能性は高い」

「いや、間違いなく犯人はあの島にいる。脅迫状の文面を思い出すんだ」

 

 中央管制室の床を鳴らす革靴の音が、名探偵の来訪を告げた。

 ホームズの声に従って円竜に来た脅迫状の内容をモニターに映し出す。脅迫状の文面は円竜勇朝を名指ししているが、全体的な内容は円竜の一族全体への恨みを綴っている。

 

「この脅迫状の内容、円竜勇朝氏だけではなく一族全てへ怨恨を示している。『円竜の一族に滅びあれ』という記述が二度も登場しているのだ」

「大切なことだから二度言ったということかな」

「っ、まさか!」

「これは第一の殺人だ」

 

 円竜家を滅ぼすまで、事件は終わらない可能性が高い。

 

「ミス・キリエライト、マスターへ私の推理を伝えてくれ!」

「はい!」

「明白な事実ほど、誤られやすいものはないよ。スズランの毒は……っ!」

 

 次の事件を未然に防ぐために名探偵の推理が現場へと伝えられる、その時だった。ホームズが手にしていたパイプを落とし、膝から崩れ落ちたのだ。

 

「ミスター!?」

「っ、シャーロック・ホームズの霊基数値に異常が!」

「何だって? ホームズ、しっかりするんだ!」

「こ、これは……霊基に、綻びが……モリアーティ!」

「名探偵の推理通りで癪だが、君よりも先にダウンしているよ。霊基自体は君より脆いからネ。尋常じゃないぐらい腰が痛ェ!」

 

 ムニエルの見ているモニター――サーヴァントの霊基数値をモニタリングする画面が、異常事態を知らせていた。それはホームズだけではなく、管制室の隅で倒れていたモリアーティも同じだ。霊基数値が急速に低下し、2騎のサーヴァントが座に還るどころか消滅しかかっている。

 特に、幻霊を取り込んだ複合サーヴァントとして成立しているせいなのか、モリアーティの方が顕著だ。既に腰部分が消えかけており、彼自身には激痛が走っていたのだ。

 何故、どうして、一体何が原因で彼らは倒れたのか?

 

「こ、これは……そうか。すまない、マスター。私たちは、この特異点に介入することはできない。この特異点の聖杯の所有者は、我々の存在証明に関わる者だ」

 

 それ以上、口を開くことは許されなかった。

 特異点からホームズとモリアーティが締め出されたことと、彼らの霊基数値の異常は、すべて聖杯の所有者が原因で起きていたのだ。

 それが“誰”なのかを推理することを許されない。“どうやって”カルデアの「探偵」と「犯人」に介入したのかも不明だ。勿論、“どうして”妨害のように手を出して来たのかも分からない。

 分かっているのは、彼らは戦線離脱を余儀なくされたということだけだ。

 ホームズとモリアーティは医務室へ運び込まれた。しばらくは活動することはできないだろう。

『カルデア探偵局』は、犯人を告発する猫の声だけではなく「探偵」と「犯人」の助言もなしに依頼人を守り、殺人事件を解決しなければならなくなったのだ。

 




Q.ホームズとモリアーティどうした?!
A.黒幕の妨害です。そういうことできちゃうってことで!

Q.警察の対応はそれでいいの?
A.ファンタジー、ご都合主義、この物語はフィクションです、現実とは関係ありません、で乗り切っていただきますようお願いします。何卒、何卒!

Q.依頼人を信じすぎでは?
A.私が理想とする探偵は左翔太郎のため、それが反映されてしまった結果です。ハードボイルドにはなれないんだ、ハーフボイルドなんだ。味玉も半熟派なんですよ。

Q.嵐が来るなんて都合よすぎない?
A.ミステリー(モドキ)を書くなら一回はクローズド・サークルをやってみたかったんや。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。