犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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美天島聖剣伝説殺人事件08

 そもそも、『カルデア探偵局』と朝央と鞠菜の2人は、この『K’s TABLE』に宿を取っていた。

『K’s TABLE』はレストランだけではなくホテルも経営しており、五軒のコテージを朝・夕食付で貸し出しているのだ。その内の二軒が彼らの宿だ。朝央の知人だということで、色々と融通を利かせてくれたのである。

 

「いらっしゃいませ、栄華ちゃん。名探偵の毛利小五郎さんですよね? いつもニュースで拝見しています! 後でサインをお願いしてもよろしいですか?」

「ええ、勿論」

「ありがとうございます! 私、看板娘の祐川(すけかわ)加恋(かれん)です。あっちは、私の父でこの店のコックです」

 

 朝央の後輩である祐川加恋(24)とその父、祐川敬太(けいた)(51)は、ありがたいことに全面的に朝央の味方だった。鞠菜が疫病神だなんて醜聞も信じておらず、むしろ好意的に出迎えてくれたのだ。

 彼ら親子は、元々は島への移住組であり円竜家の威光があまり通じないのもあったからだろう。

 そして、昼食の最中に円竜家内部で父と娘が激しく対立していたということも、事細かに教えてくれた。訊く前に。

 

「朝央さんと花井さんは?」

「2人なら、狼王の守護の元コテージに籠っている。身動きしない方が良いだろう、彼女自身のためにも、島民のためにも」

「やはり、毛利探偵は鞠菜さんを疑っているんですか?」

「そりゃ、彼女の持って来たワインに毒が入っていましたからね」

「えー! 花井さんが容疑者なんですか? 私はてっきり、蘭堂さんか萌華さんが村長を殺したと思っていたんですけど」

「加恋さん、何でそう思ったの?」

「だって、蘭堂さんは茉由(まゆ)ちゃんのことがあったから……」

 

 注文を父に伝えに行った加恋が口を挟んで来た。ちなみに、この二組以外に客はいない。

 加恋の口から出たのは、10年前に亡くなったという蘭堂の娘の名前だ。蘭堂茉由……彼女は、14歳というまだ幼い年齢でこの世を去っていた。

 

「10年前に蘭堂さんの娘さんが亡くなったのは、村長のせいって本当?」

「おい坊主!」

「確かに、間接的には村長が殺したみたいなものかな……あ、このこと、絶対に他の人たちに言わないでくださいね!」

「加恋さん、10年前に何があったんですか?」

「……10年前、当時は役場の住民課長だった蘭堂さんが、診療所の改善を村長に提案したんですよ」

 

 加恋より先に口を開いたのは厨房にいた父の祐川だった。手にしたお盆には、ランチであるヒラメのカルパッチョサラダが四皿乗っている。

 

「島の診療所は簡単な治療しかできなくて、緊急の手術が必要な患者は船で本土の病院に運ぶしかないんです。今もそう。それを何とかして、手術用の器材を揃えて緊急のドクターヘリを運用しようと蘭堂さんが色々頑張ってくれたんですけれども、予算がかかりすぎるって村長に却下されたんですよ」

 

 その頃は、円竜が自ら考案した『美天島聖剣祭り』を実現させようとしている真っ最中。そちらに多額の予算を割いていたため、その他の政策には目もくれなかった。

 観光客を呼ぶなら、何かしらの事故が起きた時のために医療体制は充実させておくべきだ。せめて看護師だけでも、と蘭堂が訴えても円竜は聞く耳を持たず、『美天島聖剣祭り』はゴリ押しの強行で始まったのだ。

 

「でも、田舎の島の始まったばかりのお祭りでしょう。開催当初は、賞金目当てと面白半分の柄の悪い観光客しか島に来なくて、喧嘩とか色々あって……それで、茉由ちゃんが観光客同士の喧嘩に巻き込まれたんです。突き飛ばされて、壁に頭をぶつけて。蘭堂さんが船を出してもらって、急いで本土の病院に運ぼうとしたけど、結局茉由ちゃんは船の上で……」

「そんな」

「蘭堂さんの提案が実現されて島で治療ができていたら、村長が祭りを開催しなければ、あの子は死なずに済んだ……そう考えてもおかしくはない。奥さんに逃げられてから男手一つで育てた可愛い娘が、14歳の若さで突然亡くなったんですよ。私が蘭堂さんと同じ境遇なら、村長を怨みます」

「私だって。茉由ちゃんは唯一の同級生で、親友だったから」

「茉由ちゃんの墓がなきゃ、蘭堂さんはとっくの昔に島を捨てていただろうな」

 

 昨日の宴で蘭堂が遅れてきたのは、役場の仕事が終わらなかったのではない。娘の墓参りをしていたからではないかと、立香は考えた。

 円竜殺害の動機があるのは蘭堂だ。間接的な要因で娘は亡くなり、その復讐のためにグラスに毒を仕込んだのだ。

 そう考えれば辻褄が合うが、どうも穴がありすぎるような気がする。だって、一発で犯人だと分ってしまうではないか。

 

「明らかに怪しい人間ほど犯人じゃないって、推理ドラマでもよく見る展開だよね」

「明らかに怪しいから犯人候補から外してたけど、やっぱり犯人だったーってのも見るけどな。蘭堂には娘の復讐っていう大義がある。それに、村長の後妻と不倫してんだろ」

「そうなんだよ。もう一つ動機があるんだよ」

 

 電話と偽って席を外した立香は、店内にある公衆電話スペースでカルデアとの通信をしながら、アンリマユと言葉を交わしていた。

 実は、蘭堂には10年前に亡くなった娘という動機以外にももう一つあった。彼は、円竜の後妻である義乃と不倫関係にあるのだ。

 ランチの前に加恋が教えてくれた情報だ。島の林間部に停められた車の中で、2人が抱き合っているのを目撃した人が何人もいるらしい。小さい島だ、噂はあっという間に広がってしまう。

 島の人間ならみんな知っているし、村長も実は知っていたと蓮っ葉にお喋りをしていたら祐川に咎められていた。

 

「よくある話だろ。歳の離れた権力者に嫁がされたけど、アッチは動かなくて身体を持て余していたっていうクッソ面白い話」

「生々しい!」

『何て不埒な女なのでしょう! 淫蕩に現を抜かすなんて! 旦那様(ますたぁ)、きっと義乃という女が共犯ですわ。2人で共謀したのです!』

「きよひー……そんな、短絡的な」

『先輩、やはり犯人は蘭堂です。間違いありません』

「マシュ!?」

 

 マシュの声がいつもの1.5倍増しで冷たくなっていた。

 現場で円竜の近くにいたのは蘭堂と義乃だ。清姫の言う通り、この2人が共謀したのなら確実に殺害できる。愛憎入り混じった関係は犯罪にも繋がりやすい。

 ちなみに清姫、立香を愛しすぎるが故に(普段の行いのせいで)管制室へ出禁となっていたが、ホームズとモリアーティが倒れたどさくさに紛れて侵入していた。

 そろそろ追い出されるかもしれない。

 

「そうだ、ホームズとモリアーティは大丈夫?」

『あれから、霊基数値も正常に戻りモリアーティさんの腰も戻りつつあります。しかし、お2人ともしばらくの間は医務室に入院されることとなりました。原因は、特異点を形成した黒幕の妨害とミスター・ホームズは仰っていましたが、妨害がある故に詳しくは語れないようです』

「無事だったんだ。良かった」

 

 衰弱した2人が、ネモ・マリーンたちが運ぶ担架で医務室に担ぎ込まれる映像を思い出す。

 他のサーヴァントたちがざわざわと騒いで彼らを眺めていた光景が、まるで事件現場のようだった。大丈夫、死んでいない。

 ホームズとモリアーティの2人が締め出されただけではなく、妨害によって戦線離脱となったとは……名探偵がしゃしゃり出て(チートを使用して)くるのは許さない。名も姿も知らぬ黒幕に、そう突き付けられた気がした。

 

『もしかして。朝央さんと鞠菜さんを島に呼んだのは、鞠菜さんを犯人に仕立て上げるためでは?』

『そうです! 傍にいる妻ならば、夫のすまほでめっせーじを送れます!』

「だとしたら、上手くできたよな。脅迫状が来た後に、息子の彼女の名前が伝説の女と似ていたなんて。犯人に仕立て上げるには、最も都合のいい存在だったってことだ。権力者に支配された狭いコミュニティの中で溜まりに溜まったストレスを、一方的にぶつけられる存在がその権力者の手で()()されたんだ。こいつは島にとっての“悪”だから、貶しても、罵っても、殴っても、蹴っても、殺人犯として後ろ指さしてもいい存在だって刷り込まれた奴らだ。証拠とか動機とか関係なく、“悪”が殺人犯だって指さすんだよ」

「アンリマユ……」

『花井鞠菜は犯人ではありません。彼女は“嘘”を吐いておりません』

「そうだよ。鞠菜さんは、殺していない」

 

 昨夜、美天島脱出が失敗したその夜、管制室に侵入していた清姫(嘘発見姫)の立ち合いの元で改めて鞠菜に問いかけたのだ。「貴女は、円竜勇朝を殺害しましたか」と。

 問いかけに対する鞠菜の答えは、「いいえ」だった。毅然と、立香たちの目を真っ直ぐ捉えてそう言った。その言葉に、嘘はなかったのだ。

 立香の中で蘭堂と義乃の共謀説が構築され、マシュや清姫との推理に夢中になっていて気付かなかった。席に戻ろうと廊下を歩いていたその時、突如トイレのドアが開いて出て来た栄華と鉢合わせてしまったのだ。

 

「きゃっ!」

「あ、すみません!」

「い、いえ。驚いただけです。失礼しました!」

「……ヤベー、会話を聞かれたかな」

 

 突然のことで栄華も随分と驚いていたようで、そそくさと退散したがトイレのドアを閉め忘れている。

 カルデアとの通信や、アンリマユとの会話は周囲に注意を払わなければ。トイレのドアを閉めながら、そう言い聞かせた。




医神
「霊基の綻びに伴い、腰部が真っ先に消失するという奇怪な症状が見られたが……消失した腰部が戻った。つまらん」

婦長
「エーテルポッドの治療を行います。安静に、大人しく、薬物など使用せずに治療を受け入れるのです!」

アラフィフ
「治療は受けるよ。腰、痛いからネ……しかし、何故こいつと同室!?」

処刑人
「ノウム・カルデアの医務室に個室の余裕はありません」

アラフィフ
「個室までとは贅沢は言わない。せめて、せめてネ! ベッド離して! 衝立じゃなくて端と端にして! ソーシャルディスタンスを!!」

名探偵
「……彼の者が聖杯の所有者ならば、その目的は――」
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