犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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10話まで行ってしまった……。
18話までで終わらせられるようになんとかします。


美天島聖剣伝説殺人事件10

「情報の共有?」

「そう。円竜家側の毛利探偵と、余所者であるカルデア(我ら)とでは、得られる情報に差異が生じるだろう。我々も、此度の事件の早期解決を望んでいる。お互いの情報を共有し、袋小路を脱する者の登場を待つのが最善の手段ではないだろうか。雇い主の立場上、敵対の位置にいるとは言え真実の解明の優劣はない」

「そうよ、お父さん。事件を早く解決したいのはこっちも同じだし」

「しかし……」

「なら、そちらは蘭堂と義乃の不倫関係をご存知でしたか?」

「ええ!? 義乃さんが……っ」

「おじさん、静かに! 隣に聞こえるよ」

 

 エドモンから提供された情報には、確かにコナンたちが知りえていないものがあった。栄華と一緒に行動していたので、島の人間は彼女の義母のスキャンダルを話すことができなかったのだろう。

『カルデア探偵局』側も、萌華が自ら動機があると口にしていたことに驚きを見せていた。そこまで、父娘の関係が殺伐としていたと思ってもいなかったようである。

 探偵たちが詰める部屋の隣、そこで義乃と朝央、栄華、仕事が忙しい萌華の代わりに帰って来た麓人に、荒倉という面子が遺産相続や円竜家の家督についての話し合いを行っている。

 円竜勇朝の遺産。

 金銭のみならず、美天島の半分を占める土地にこの屋敷。先日、取引のあったリゾート開発の権利など、多岐膨大の遺産が遺族に転がり込んで来る。

 その中でも、香女路村長の座というものが選挙も民主主義も関係なく後継者に与えられる。円竜家が村長という慣習が島内では浸透し切っているため、円竜の者以外は村長選挙へ立候補してはいけないという暗黙の了解がまかり通っていたのだ。

 遺産の半分は配偶者の義乃へ、残り半分を子供たちで三等分となる。が、誰がどれを手にするか、空席となった村長の職をどうするか……本来の後継ぎである朝央を招き、舌戦が繰り広げられる。

 

「俺は村長の職を継ぎません。先日言いましたが、俺は鞠菜と一緒に生きていくために島を出て行きます。円竜家の遺産もいらない、勝手にしてください!」

「そんな……村長は、円竜家男子の勤めですよ」

「むしろ、姉さんの方が財産も村長の地位も上手く活用してくれるはずです」

「なら、落ち着くまでは島にいてください。後始末やら葬儀やら、色々立て込んでいますので……貴方が頼りなんですよ、朝央さん」

「……それなら、こちらも条件を出します。父が今までやってきた悪事を全部開示してください。役員報酬の開示に、月一の本土出張の内容、土地の立ち退きの全貌! 荒倉さん、貴方なら知っているはずだ! 今まで島にしてきた仕打ちを全部、謝罪するんだ。勿論、鞠菜の醜聞もだ!」

「それは……」

 

 滅茶苦茶ヒートアップしている。旧家の相続争いなど嫌な予感しかしない。

 そんな中、円竜家の人間でありながら唯一完全に蚊帳の外で放置されている者だけが、遊び相手を得たことではしゃいでいた。

 

「うわー! カッコいいワンちゃん!」

「名前はロボだよ」

「ロボ! カッコいいね~絵本のオオカミみたい。もー、オオカミ好きだよ」

 

 屋敷の玄関で寛ぐロボに百華は目を輝かせた。立香に付き添われながらそっと触ってみるが、ロボは顔を反らしただけで特にアクションを起こさない。

 人間に媚びず、慮ることもない。いっそ清々しいほどの狼王であると、百華に引っ張られて来たコナンはそう思った。

 百華は叔父の客である『カルデア探偵局』を快く迎えてくれただけではなく、鞠菜にも好印象を抱いたようだ。彼女が折り紙で指輪やピアノ、風車、飛行機などを作り出す様子に、素直に感嘆の声を上げていた。

 途中、隣の部屋の話題が生々しいものになる気配を察知して、立香とヘシアンがロボの元へと連れ出して現状に至る。

 

「そうだ! ロボに会わせてくれたお礼に、もーの秘密の場所に連れてってあげる」

「秘密の場所って、地下の冷蔵室じゃないの?」

「もーには秘密の場所がいっぱいあるんだ。こっち」

「俺たちも良いの?」

「うん。でも、そっちのおっきい人は狭いかな」

「……」

 

 百華に連れて来られたのは庭の端にある土蔵だった。大きな閂で厳重に施錠がされているが、百華は手慣れた様子で閂を引き抜いて土蔵の扉を開けたのだ。

 

「えー……勝手に入ってもいいのかな」

「バレなきゃ平気だよ。中には、面白い物がいっぱいあるよ」

「どうする、コナン君?」

「う~んと」

「ほらー! 早く」

 

 百華に急かされてしまい、結局コナンも立香も土蔵にお邪魔する。中は天井が低く、確かにヘシアンには狭い場所だった。彼には外に残って見張ってもらうことにする。

 土蔵にはたくさんの木箱や壺などの骨董品が並んでおり、木製の本棚には年季の入った古書なども収められていた。中でも目についたのは、ガラスのケースに収められていた刀の鞘だ。それだけは、円竜家の家紋入りの台座の上に仰々しく飾られていた。

 

「これって、聖剣の鞘かな?」

「そうだね。聖剣は島に刺さったままだから、鞘は円竜家に遺されたんだよ。とても大事に保管されているんだね」

「コナン君、立香君、見てみてー!」

 

 鞘をまじまじと見つめる立香とコナンに百華が見せたのは、床に広げた長い巻物……彼ら何百年もの血筋と名前が記された円竜家の家系図だった。

 

「ここ、ママとヒロ君と栄華ちゃんの名前があるの。もーとパパの名前も、その内ここに入るんだ」

「……うん、きっと大きくなったら百華ちゃんの名前も入るね」

「うん!」

 

 咄嗟に立香がそう応えたが、家系図を見るに恐らく彼女の名前は記されることはないだろう。

 円竜家の家系図は、後継ぎである長男の家系のみが未来へと繋がっている。勿論、配偶者の名前もない。女系である百華の名前は書かれることはないのだ。

 円竜勇朝の下には、萌華、朝央、栄華の名前がある。円竜の隣には「卓子(すぐこ)」……10年前に亡くなった、栄華の母親の名前だ。

 

「この家系図、何だか不思議だね」

「不思議って、どこが? 男性の家系だけが書かれているけど」

「その男性が少ないよ。女の人はたくさんいるのに」

「本当だ。男性が生まれ難い家系なのかな」

 

 コナンが指摘したのは、朝央たちよりも四代前の名前だ。12人もの子供がいるのに男子は1人だけ、残りのきょうだいは名前から察するに皆女性だろう。

 四代前だけではなく、円竜家の家系図はあからさまに男子が少ない。家督を継いだ者以外に男子の名前があっても上の世代だ。家督を継ぐ前に亡くなったと思われ、後継ぎより下の男子はいない。

 男子一子相続の邪魔になるため、島の外に養子に出されたのだろうか?

 

「この家系図、小五郎おじさんにも見てもらおう。百華ちゃん、写真撮ってもいい?」

「いいよ」

「じゃあ、俺も」

 

 自分が後で見返すために家系図の写真を撮るコナンに釣られ、立香も写真を撮った。何か、事件に関係があるのだろうか?

 その後、百華に振り回されて遊ぶ内にすっかり日も暮れた。雨脚も強くなり風も収まらず、県警がやって来るのは明日になると連絡が来た。

 

「義乃さんと朝央さんの話し合い、随分と時間がかかったね」

「栄華さんと義乃さんは、まだ話が終わっていないみたい」

「蘭さん!」

 

 広間で夕飯をご馳走になっていると、頬を上気させた栄華が駆け込んできた。一刻も早く蘭に伝えたいと言わんばかりに蘭とコナンの間に無理に入り込み、コナンが箸で摘まんでいた海老のお刺身が畳に落ちた。

 

「お義母さんが許してくれたの! 島を出て本土の高校に通っていいって」

「本当! よかったね、栄華さん」

「はい! 私、蘭さんと同じ学校がいいわ。東京の高校で、蘭さんと一緒に高校に通って、後輩になりたいの」

『ったく、何だよ……』

 

 畳に落ちた海老のお刺身を拾いながら、無理に割り込んだ栄華へ内心苦言を漏らす。

 今朝からずっとこうだ。蘭と栄華が友人になってから、栄華が蘭にべったりとくっついている。ランチの最中に蘭がジャンヌと話していた時は凄かった、まるで射殺さんばかりの視線をジャンヌに向けていたのだから。

 コナンに……否、蘭と付き合っている新一にとっては面白くない。例え同性の友人だとしても、何だか面白くない。

 栄華の話を聞くに、朝央は遺産相続を放棄して円竜家当主の座も萌華に譲ると言って来た。島とは一切の縁を切ると言って来たのは義乃も荒倉も困惑したようだが、朝央が押し切ったようである。

 これで萌華が目指す島の改革が進むだろう。百華が学友を得る日もそう遠くないかもしれない。

 この時までは、美天島に良い舵取りが進みつつあった……そう、この時までは。




Not 全て遠き理想郷
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