犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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美天島聖剣伝説殺人事件13

 石川県警の責任者は前田と名乗った。階級は警部補。まだ若い、精悍な顔つきの男であった。

 彼は眠りの小五郎のファンだと言い、探偵が事情聴取の場面に同席するのを許すどころか早期解決のために協力してくれと名探偵を招き入れる。

 警察の主導の元、順番に事情聴取が始まった。

 

『美天島聖剣祭り』実行委員会委員:鳥栖匠海

「昨夜、私たち商工会は夜遅くまで本日から始まる祭りの準備をしていました。オフィスを閉めて自宅にお帰りになる萌華さんとは、言葉を交わしています。昨日も毛利先生へお伝えしましたが、夜の8時半前でした。8時20分ぐらいです。役場から車でこのお屋敷に向かうなら、20分もかからないでしょう。萌華さんが港の方を通って遠回りをしなければ」

「随分と島の道にお詳しいんですね」

「え、あ、はい……私、散歩というか散策というか、山歩きが趣味でして。美天島に移住したのも、この島の自然に魅せられたからです」

 

秘書:荒倉兵輔

「昨夜は、奥様の仕事を手伝ってから7時過ぎにお暇しました。自宅には母がいます。萌華お嬢さんが姿を消したと連絡があったのは……母が観ていたドラマが始まって少し経ってからでしたから、9時10分ぐらいですか。それから、鳥栖さんたちと合流し、麓人さんから連絡を受けてあの崖に……」

「萌華さんとは、会っていないんですね」

「はい。昨日は、朝早くから仕事のために役場にあるオフィスに籠っていましたから」

「荒倉さん、貴方は元々は役場の職員だったそうですね。4年前に、亡くなられたお父様の代わりに村長秘書になったとか」

「ええ、うちは代々円竜家にお仕えする家ですから……」

 

後妻:円竜義乃

「昨日は、主人が亡くなった後の対応に追われていてバタバタしていました。でも、帰って来た萌華さんの姿を見ています」

「それは何時頃ですか?」

「はっきりとした時間は覚えていませんが、確か……8時40分、45分ぐらいだったかしら? 玄関で萌華さんとお会いして、一言二言言葉を交わしただけでした」

「義乃さん、貴女、蘭堂さんと不倫関係にあったそうですね。本当ですか?」

「……正直にお答えします。蘭堂さんとは、その、男女の仲でした」

「不倫の関係にあったと、認めるんですね」

「はい。元々、親類が強引に進めた縁談でしたから。亡くなった主人とは歳も離れていましたし、畏怖と尊敬の念はあっても、愛情はありませんでした。向こうも、妻というより子供たちの母親として受け入れていたようです」

 

萌華の夫:円竜麓人

「昨日は、萌華の代わりに相続等の話し合いのため昼過ぎに屋敷に戻りました。それからは、ずっと百華と一緒に。萌華の帰りが遅くて電話をしてみたら、部屋にスマートフォンが置いてありまして。車もあったし、帰ってきたのかと思って捜しましたら、見つからなくて」

「麓人さん、萌華さんが亡くなって貴方には彼女の遺産が手に入る。先に亡くなった円竜さんから萌華さんに多額の遺産が相続されたそうじゃないですか」

「遺産目当てと言いたいんですか! 僕は、萌ちゃんを殺していない! それに……彼女の遺産は、私がどうこうできる物じゃありませんよ。あれは島のお金です。今朝も義乃さんに言われました。島のために、萌華の遺産を預けてくれないかって」

「預けるんですか?」

「一介の島民の息子が、村長の奥様に逆らえませんよ。でも即答はできませんでした。百華が相続した分だけは、彼女に与えたかったので」

 

美天島助役:蘭堂督郎

「……ええ、そうです。義乃さんとは不倫の関係でした。今年の始めに、酒の勢いではありましたが」

「村長が亡くなった日に、貴方は記念の品と言ってワイングラスを持ってきましたね」

「はい。義乃さんが、村長が新しいグラスを欲しがっていたと言っていたので。ご機嫌取りにはちょうどいいと思いました」

「貴方が義乃さんと共謀し、円竜氏を殺害したのではないですか。グラスに毒を入れて。動機は、亡くなった娘さんの復讐だ」

「……」

「違いますか?」

「私は、村長を殺していません。茉由の死から10年経って、何故今になって? まさか、義乃さんと一緒になりたかったなんて……そのような理由で? だとしたら推理ミスですね。今の私は、娘が好きだと言ってくれたこの島の未来のために動いているだけです」

「……昨夜、萌華さんが亡くなった夜はどちらに?」

「家にいました。1人暮らしですので、アリバイを証明してくれるような人はいません」

 

 容疑者たちが順番に事情聴取を受けている最中、コナンは台所を訪ねていた。そこでは、台所を切り盛りする使用人の女性たちが重そうな箱を台車に乗せているところだった。

 

「こんにちは。何をしているの?」

「あら、毛利探偵とこの坊や。旦那様のワインを処分しているのよ」

「これ全部?」

「そう。見ていると旦那様の死に様を思い出して辛いからって、奥様が。勿体ないわよね」

「でも、他に飲む人もいないし。勿体ないからってくすねたら、亡くなった旦那様が化けて出そうで怖いしね」

「ところで坊や、何か御用?」

「うん。小五郎おじさんが、使用人さんたちに昨日昨夜の様子を訊いてきてくれって」

 

 勿論、嘘である。コナン独自の聞き込みだ。

 小さな探偵の登場に、使用人たちは「お手伝い偉いわね」と感心しながら運んでいたワインを脇に寄せて昨夜の話をしてくれた。

 

「そう言えば、萌華お嬢様を見ていなかったわね。でも、帰って来ていらしたんでしょう」

「何で帰って来たと思ったの?」

「それは、シャッターの音が聞こえたからよ」

「シャッター?」

「車庫のシャッターよ。開け閉めする音が結構五月蝿くてね、台所まで聞こえて来るのよ。8時40分頃だったかしら、シャッターが閉まる音がして萌華お嬢様が帰って来たんだとばかり」

「じゃあ、誰も萌華さんの姿を見てないんだね」

「ええ、そうね」

「あの後、栄華お嬢様とずっとお喋りしていて台所から出なかったから」

「栄華さんと?」

「栄華お嬢様が明日……今朝の朝食を、毛利さんのお嬢さんに作ってあげたいって仰ってね」

「みんなで相談していたのよ、何を作ろうかって。結局、お流れになっちゃったけどね。あんなに楽しそうな栄華お嬢様は初めて見たわ。お友達ができたのが本当に嬉しいのね」

「あの子は本当に、卓子様によく似ておられますわ」

 

 そう言ったのは、最も年配の使用人だった。彼女は栄華の母が幼い頃から円竜家に仕えているらしい。

 

「卓子様も、幼い頃から身体が弱くて外に出られなくて、いつも1人奥座敷で遊んでいた子でした……友達と呼べる人もいなく、兄である旦那様とは15歳も離れていたのでいつも寂しそうで。高校卒業と同時に行方知れずになった時には、誘拐じゃないかと大騒ぎしました。まさか、島の外で亡くなられるなんて……」

「島の外で亡くなったと言えば、寧井田のご当主さんもお亡くなりになったわよね。今年の暮れに」

「そうそう。危篤だって連絡で奥様が本土に行ってしまって、バタバタした年末だったわ。そう言えば……その頃からだったわね、奥様と蘭堂さんの関係が噂され始めたのは」

「縁談を勧めたご当主さんが亡くなられて、奥様も気が緩んじゃったのかしら」

「こら、子供の前で」

「あ、ごめんなさいね、脱線しちゃって。昨日は、萌華お嬢様がいなくなったって騒ぎになるまで、私たちは栄華お嬢様と一緒にいたわ」

 

 昨夜、屋敷に帰って来た萌華を見た者は義乃と百華だけだ。他は誰も彼女の姿を見ていない。

 

『昨夜、萌華さんは義乃さんと玄関で会って、その足で百華ちゃんの部屋に行って屋敷を出た……何かが引っ掛かる』

「……どうして。高校に通って良いと言ったじゃないですか!」

「この声、栄華さん?」

 

 廊下を歩くコナンの耳に、栄華の声が聞こえて来たが……何やら、言い争っている。

 声が聞こえて来た部屋には栄華と義乃と、義乃の後ろに控える荒倉がいた。普段の栄華からは考えられないぐらい声を荒らげ、義乃に食ってかかっていたのを影から観察していると、どうやら島を出て高校に通わせてもらえるという約束を反故にされたようだ。

 

「昨日は朝央さんにも押し切られましたが、旦那様に続いて萌華さんまで亡くなって……朝央さんも島を出ると言っていますし、残る円竜家の血筋は栄華さんだけなのよ。島に残って、支えてちょうだい」

「でも……」

「栄華さん」

「っ!」

「受け入れなさい。これが、あなたの運命なんですよ」

 

 義乃の言葉に栄華は膝から崩れ落ちて畳の上に蹲り、肩を震わせている。

 相も変わらず色気のある微笑を浮かべた義乃は、栄華の肩にそっと触れると荒倉を急かして部屋を出る。コナンは慌てて影に隠れるが、荒倉は義乃の後を追わなかった。彼は部屋の真中で震えている栄華を前にして、どうしていいか分からないと言わんばかりに立ち尽くしていた。

 

「……栄華さん」

「何さ……知っていて助けてくれなかった癖に!」

 

 両目に涙を湛えた栄華がそう言い放って荒倉を睨みつけると、彼女もそのままコナンの存在にも気付かず部屋を出て行ってしまった。

 

「何なんだ、一体?」

「キナ臭い匂いがプンプンするな、オイ」

「うん……え?」

 

 背後から誰かの声が聞こえてきて咄嗟に返事をしてしまったが、振り返っても誰もいない。小憎たらしい少年のような声がしたが、隣に誰かいる訳でもなく、傍にいるのはコナン自身の影だけだ。

 空耳だろうか?

 

「今、誰かいたような……」

「コナン君」

「あ、立香さん」

「こんなところで何をしているの?」

「小五郎おじさんの手伝いで、聞き込みをしているんだ。あ、そうだ。ボク、昨日の情報を色々手に入れたんだ。情報の共有だよね、立香さんにも教えてあげる」

「ありがとう。そうだ、スマホの番号を教えておくよ。何だか、コナン君とはよく顔を合わせるみたいだからね」

 

 そう言って立香は自身のスマートフォンを取り出し、彼らはお互いの電話番号とメールアドレス、メッセージアプリのIDを交換する。

 初めて邂逅してから、コナンと立香は妙に縁がある。米花市に突如現れた探偵局の局長と、彼らに率いられる冤罪被害者と同じ名前を持つ者たち……彼らは本当に、ただの探偵なのか?

 黒の組織のメンバーとまではいかないが、彼らもまた、何かの組織の人間かもしれない。

 

「はい。何かあったら、連絡してきてね」

「うん!」

 

 こうして、コナンのスマートフォンには『藤丸立香』の項目が追加された。




怒涛の証言タイム!
台詞が多いぜ!読んでね!長いけど!
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