犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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美天島聖剣伝説殺人事件14

「それじゃあ、昨夜の萌華さんを見た人は、義乃さんと百華ちゃんだけなんだ」

「うん。他の人は、誰も帰って来た萌華さんを見ていないんだって」

 

 そのことがコナンの中ではしっくり来ていない。だが、2人に目撃されている以上、萌華は一度帰宅しているはずなのだ。

 立香と情報の共有をしながら蘭が百華と一緒に待つ客間へと戻る。そう言えば、部屋を出た栄華は一体どこに行ったのかと頭の片隅で考えていると……彼女は客間にいた。

 客間で、蘭に抱き着いていたのだ。

 

「なっ……!」

「栄華さん。どうしたんですか?」

「栄華さん、高校に通うのを反対されたんだって」

「良いって言っていたのに……義乃さんに、駄目って」

「義乃さんは栄華さんを心配しているのよ。それに、事件で混乱しているだけかもしれないわ」

「栄華ちゃん、泣かないで」

『だからって、抱き着くか普通?!』

 

 抱き着かれている蘭は泣きじゃくる栄華を宥めようと優しく背中を摩るが、同性の友人……それも、昨日友達になったばかりの相手に、ここまでベタベタするものなのだろうか。

 栄華には今まで友人がいなかったから距離感が分からないのかもしれないが、何かが噛み合わない。工藤新一としてはもやもやするのである。

 蘭の言葉で栄華も少し落ち着いたらしい。スンスンと鼻を鳴らしながら、顔を洗って来ると部屋を出ていってしまった。

 

「栄華さん、まるで島に閉じ込められているみたいね」

「閉じ込められている、か……」

「そうだ、百華ちゃん。昨日お母さんが帰って来た時、何か話はした?」

「ううん。もーね、ママと会っていないの」

「え……でも、お母さんが部屋に来たって言っていたよね?」

「昨日ね、もーが眠っていたらママの匂いがしたの。ママの匂いがもーの頭をなでなでしてね。目を開けようとしたんだけど、眠くて開けられなかったの」

「匂いだけ? 実際に会っていないの?」

「うん。ママの匂いは間違えないよ」

 

 萌華の匂いということは、彼女が着けている香水の匂いのことだろう。

 百華が寝ていたら、萌華の香水の匂いがして彼女の頭を撫でた。百華は微睡みの中、匂いで萌華と判断しただけで匂いの主を見た訳ではなかったのだ。

 だとしたら、状況が違って来る。まさか……。

 

「えーと、何だったっけ……「明白な事実ほど、誤られやすいものはない」」

「っ!!」

「それホームズの台詞よね。聞いたことあるわ」

「あ、口に出ていた? えーと、シャーロキアンな後輩が言っていたのを不意に思い出して。確か、『ボスコム渓谷の惨劇』って作品だったっけ」

『明白な真実ほど、誤られやすいものはない……まさか!』

 

 無意識に立香の口から出たホームズの言葉で、コナンの中で何かが閃いた。事件の光景を、円竜が中毒したその日の記憶を辿れば、一つの場面に辿りついた。

 

「百華ちゃん」

「なーに」

「あの時さ……」

「……うん、そうだよ。何で分かったの?」

 

 百華の耳に口を寄せてコソコソと秘密の話をすれば、百華は目を真ん丸にしてコナンを不思議そうに見つめた。

 彼女の肯定によりコナンの中で推理が構築される。解けたのだ、犯人の正体が。

 円竜勇朝と円竜萌華を殺害した犯人と、その方法が。

 

『やっぱり。分かったぞ……あの人は、宴の席で堂々と円竜さんに毒を飲ませたんだ』

 

 真っ黒な闇に紛れた正体不明の犯人は、探偵の推理という光でその身を明かされることとなる。

 

 

 

***

 

 

 

 少し目を離したら、影の中のアンリマユが消えていた。

 慌てて捜しに行ったらコナンと遭遇し、彼が小五郎に頼まれて集めた聞き込みの情報とコナン連絡先を交換することになる。

 ちなみに、アンリマユはひょっこり戻って来ていた。誰にも見られていないと言っていたがどうだろうか。

 帰宅した姿の目撃例があまりにも少ない萌華に、高校進学の約束を反故にされた栄華。そして、昨夜のアリバイのない者たち……肉親の証言しかない荒倉、全くアリバイのない蘭堂。

 円竜の毒殺事件と絡めれば萌華殺しの犯人も蘭堂が怪しいが、動機はあっても証拠がないのだ。

 立香が頭の中で色々考えていると、無意識にホームズが遺した台詞が口から出た。蘭に聞かれてしまったので咄嗟に誤魔化したが、結局その言葉が何を意味するかは分からない。

 

『娘の仇でもある村長を殺害し、その罪を村長の娘に着せればこの島の実質の王となれる』

『そして、美しい未亡人を手にすることもできる。復讐と愛情、憎悪を手放し愛欲をその手に収められるのは彼だけ……』

『あー……蘭堂だな、犯人は』

『犯人は蘭堂です』

 

 何も分からない中で、通信機の向こうでは円卓の騎士たちが好き勝手推理している。最初は萌華犯人説を気にしていたアルトリアも、萌華が殺害された今となっては蘭堂犯人説を支持していた。

 カルデアでランスロットがどんな状況になっているかは……お察しください。

 しばらくした後、萌華の帰宅ルートを調べていたエドモンたちと合流。停車したトヨタ・パブリカの助手席のドアが、バコン!と音を立てて外れたのをサリエリが拾って車体に嵌めていた。何があった。

 

『あの、先輩。推理が行き詰っているところに、申し訳ないんですけど……』

「どうしたの、マシュ?」

『実はわたし、頭の中で引っ掛かることがあるんです。それが何かは分からないんですけど、気になってスッキリしないんです』

「引っ掛かること? いつから?」

『先輩たちの時間軸で、昨日のお昼頃からです。事件とは関係ないかもしれませんが……』

「いや、女の直感は男のそれよりも優れているという。我らでは気づかぬ真実の欠片を、彼女が拾っていたのかもしれない」

『それじゃあ、昨日のお昼からの映像を立香君のスマホに送ろう。その場で気づかなくとも、見返してみればピンと来るかもしれないよ。ちょっと待ってね~』

 

 しばらく待てば、ダ・ヴィンチちゃんから昨日のお昼以降の映像が届いた。

 引っ掛かりが解けないマシュと共に映像を再生するが、『K’s TABLE』のランチが美味しかったとか、そういう想い出しか出て来ない。どこにマシュが引っ掛かる部分があるのかと、エドモンと共に映像を凝視していたが立香は特に何も引っ掛からなかった。

 どこに何があるのかと半ば諦めかけた、その時だった。

 

『っ!! あーー!』

「立香、止めろ! 巻き戻せ!」

「え、うん!」

「……そうか。あの写真を見せてくれ」

「写真……写真って、これ?」

 

 マシュとエドモンが同じ場面で反応した。

 巻き戻した映像を再度確認し、立香のスマートフォンの中から写真を呼び出してそれらも目にすると、エドモンは納得がいったように丸眼鏡をかけ直した。

 

「そうか、そうか! 俺たちは根本から勘違いをしていたのか! この真実、そしてあの言葉……行くぞ、立香! 証拠を捜しに!」

「証拠って、どこに?!」

「車だ!」

『先輩、とんでもない真実が分かりました!』

 

 エドモンとマシュは何かに気付いたようだが、立香にはサッパリ何も分かっていない。証拠を捜しに行くと部屋を出たエドモンを追った。

 

『……皆さん、色々とお考えがあるのは分かります。しかし、証拠もない推理でマスターを混乱させることはおやめください。あと、若干の私情を含んでいらっしゃる方、悪乗りをしている方、我が王もランスロット卿を巻き込むのはお止めください』

 

 サッパリ何も分かっていないが、通信機の向こうで円卓の騎士とアルトリアに説教をしているベディヴィエールの声は聞こえた。

『カルデア探偵局』が屋敷の外に出たのとは反対に、コナンは小五郎を捜して屋敷の奥へと走る。容疑者たちの事情聴取が一通り終了した小五郎は、悔しそうに煙草のフィルターを噛みながら一服しているところだった。

 

「おじさん、事情聴取終わったの。何か分かった?」

「クッソ! 蘭堂の奴、アリバイもないのにとぼけやがって。犯人はあいつだ。円竜さんを殺して、萌華さんを殺したんだよ……娘の復讐のために!」

「おじさん、ちょっと落ち着いて」

「落ち着いていられるか! 娘が死んだ気持ちは分かるが、そのために小さな女の子から母親を奪うなんざ許されねぇ。さっさと締め上げて自白させ……てょわ~」

 

 時計型麻酔銃の照準を小五郎の首の後ろに合わせ、麻酔針を発射する。麻酔針が刺されば、即効性の麻酔は一瞬にして小五郎を眠りの世界へと誘い、意識を途切れさせた。

 傾く身体を座椅子の上に乗せて襖を背にできるように移動させ、表情を俯かせると小五郎の準備は万端だ。

 

「悪いなおっちゃん。早く事件を解決したい気持ちは、みんな同じだ」

 

 さあ、眠りの小五郎の推理ショーの開幕だ。




過去の映像の見直しが推理に繋がるというのは『金田一』で証明されている。
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