「毛利探偵! 犯人が分かったって、本当ですか?!」
お決まりの台詞と共に前田刑事が小五郎の待つ部屋へやって来ると、噂に違わぬ「眠りの小五郎」が彼らを出迎えた。
コナンが集めた警察と蘭と、事件関係者たち。朝央と鞠菜もいるが、2人を見守るように部屋の外でヘシアンとロボが控えている。彼ら以外の『カルデア探偵局』の面々は姿が見えず、百華も使用人たちとお留守番だった。
「ええ、分かりましたよ。円竜勇朝氏と、娘の萌華さんを殺害した犯人の正体がね」
小五郎が背を向ける襖の向こうに隠れたコナンの推理――蝶ネクタイ型変声機によって小五郎の声で紡がれる推理が、始まった。
「最初の事件、円竜勇朝氏の事件からです」
「毒入りのワインによる中毒死ですね。やはり、ワインを持って来た花井さんが……」
「いえ、花井さんではありません」
「では、毒がグラスに……」
「いいえ、違います」
「え、じゃあどうやってワインに毒を入れたんですか?」
「そもそも、事件現場にいた我々は根本的な部分を勘違いしていたのです。あの時、円竜氏が飲んだワインには毒なんて入っていなかったんです」
前田刑事だけではなく、その場にいた人間たちがみな驚いた。
だが納得いかない。あの時、ワインを口にした円竜は苦しみながら呻き声を上げていたではないか。
「でもお父さん。円竜さんはワインを飲んで、苦しそうにしていたのよ」
「そう、円竜氏は花井さんが持って来たワインを飲んで苦しんだ。それは明白な事実だ。だが、円竜氏の反応イコール
「はーい」
いかにも、小五郎の助手をしているという体を装いながら、襖の向こうからコナンが姿を現した。その手には小ぶりのワインボトルが握られている。
「朝央さん、このワインを飲んでみて」
「え、ワインを?」
「うん。今、開けるね」
「コナン君、危ないよ。手伝ってあげる」
蘭に手伝ってもらいながらコルクを抜き、同じく持参したワイングラスに少量のワインを注ぐ。一見、何の変哲のない赤ワインだ。銘柄を見るに、甘いデザートワインのようである。
よく分らない朝央が言われるがまま口を付けると、身体を強張らせて大きく咳き込んだのだ。
「ゲホっ……うぇ……」
「朝央君? ど、どうしたの?」
「な、何だこのワイン。酢じゃないか……不味い!」
「え、でもこれ、新品のワインですよね。中身を入れ替えた形跡はないですよ」
「そう、それは封を開けていない新品のワイン。円竜氏自慢のワインセラー……地下の冷蔵室にあったワインの内の一本ですが、飲めないほどに痛んでしまっているのです。そのワインだけではない、冷蔵室にあったワインが全て飲めなくなっている。なぜなら、冷蔵室の電源が切れて室内が高温になっていたからだ。ワインを保管する際に蒸し暑い場所はご法度。花井さんが持って来たワインも、冷蔵室に保管されていたがためにとても飲めた物じゃなかったのです」
「冷蔵室が高温って、故障ですか?」
「恐らく、その日だけ電源が落とされていたのでしょう。地下室は風通しが悪く、とても蒸しています。冷蔵室もすぐに温度が上がって、冷蔵室の中に隠れていれば汗だくになってしまうほどの暑さになっていました。蘭やコナンとかくれんぼをしていた百華ちゃんが、冷蔵室の中に隠れていた短時間で酷く汗をかいていたのがその証拠です。麓人さん、あの日の百華ちゃんは酷く汗をかいていたのではないでしょうか」
「は、はい。いつものように冷蔵室に出入りをしていた割には、汗も冷えていないし不思議だとは思っていたのですが」
「それに、百華ちゃん言っていたよ。あの日、冷蔵室が凄く暑かったって」
事件のあった日、秘密の場所こと冷蔵室に隠れていた百華は短時間で汗だくになっていた。涼しい場所に隠れたはずなのに、その日は何故か暑かった……あの時、麓人に遮られてしまった百華は、「でもね、今日ね、凄く暑かったんだよ」と言いたかったのだ。
誰にも言っていないはずなのに、それをコナンに言い当てられ目を丸くして驚いていたのである。
「「明白な事実ほど、誤られやすいものはない」……かの、シャーロック・ホームズの言葉です。円竜氏はワインを飲んで苦しんだ、それは明白な
「ま、まさか……」
「そうです。殺害に使用したスズランの毒は水に溶けやすい……ワインの後に飲んだ水に、毒が入っていたのです!」
後は、騒動に紛れてボトルとグラスのワインに毒を入れればいい。
あの場では、円竜が落とした水のグラスがワイングラスに落ちて双方割れてしまい、ワインと毒入りの水が混ざってしまったがために立香が調べた時に零れた
その場にいる人々の視線が、1人に集中する。
毒はワインではなく水に入っていた。
円竜に水が入ったグラスを渡したのも、冷蔵室の管理をしていたのも、鞠菜からワインを受け取ったのも、証拠の隠滅のために痛んだワインを全て処分しようとしていたのも……彼女だ。
「犯人は貴女だ。円竜義乃さん!」
数多の視線に曝された中で、犯人だと突き付けられる。その渦中にいる義乃は、双眸を潤ませながら酷く狼狽えた。
「ど、どうして私が主人を……? 第一、私には萌華さんの事件でアリバイがあります! ずっと屋敷にいた私が、どうやって萌華さんを殺害したというのですか!」
「そ、そうです。奥様はずっと屋敷にいました。萌華さんの遺体を崖に捨てることは不可能です」
「……義乃さん。第二の事件において、貴女は実行犯ではない。この二つの事件、特に萌華さんの殺害は2人の犯人によるものだったのですよ」
「犯人は、2人?!」
「そうです。ここでも、私たちは大きな勘違いをしていまいた。萌華さんは屋敷に帰って来た後に殺されたと思っていましたが、これもまた間違いです。萌華さんは、屋敷に帰って来てはいなかったんですよ!」
「何を馬鹿なことを仰っているんですか。私は、帰って来た萌華さんとお会いしました。百華ちゃんも見ているじゃないですか」
「見ていないんですよ、百華ちゃんは。彼女は、萌華さんと同じ香水を着けた貴女を母親と誤認してしまったのです。そうなると、昨夜、帰宅した萌華さんを見たのは貴女だけなのです義乃さん」
順を追って説明しよう。
昨夜、萌華は鳥栖たちに目撃された時刻に車に乗ってオフィスを出た。だが、屋敷へ直行せず途中で遺体発見現場となった西の崖に立ち寄ったのだ。
恐らく呼び出されたのだ、8時半に西の崖に来てくれと。萌華が待ち合わせ場所に来ると、そこで待っていたのは義乃ではなく彼女の共犯者。
共犯者は萌華を殺害し、遺体を崖下に投げ捨てる。そして、萌華の車を運転して円竜家の屋敷へと向かったのだ。
車を車庫に入れて萌華が帰宅したと誤認させ、義乃へ萌華の荷物を受け渡し屋敷から去ったのである。
「このトリックを使えば、萌華さんが帰宅した前後のアリバイが証明されます。萌華さんの殺害において、義乃さんは共犯者から受け取った萌華さんの荷物を自室に置き、あらかじめ用意しておいた偽の告白文を百華ちゃんの枕元に置いた。そして、もう1人証人を増やすために萌華さんと同じ香水で百華ちゃんを騙したのです。萌華さん殺害の実行犯である犯人の正体。車を運転できて、なおかつ柵を乗り越えて萌華さんの遺体を投げ捨てられる力のある者……」
事件の全容が暴かれつつある中で、義乃が両手で顔を覆った。肩を小刻みに震わせて今にも崩れ落ちそうなほど弱々しく振舞っているが、この場にいる者は誰も気づいていなかった……隠された紅い唇が、美しく弧を描いて笑っていたことに。
「もう1人の犯人は、蘭堂……」
「違う!!」
「っ!」
眠りの小五郎の推理を遮ったのは、息を切らせて駆け込んで来た立香の叫び声だった。彼の隣には探偵、エドモン・ダンテスを始めとした『カルデア探偵局』も控えている。
違うって、何が違う。義乃の不倫相手は、蘭堂のはずではないか。
「違います。義乃さんの
「……そうだよ。お姉さんを殺したのは
変声期の少年のようなハスキーな声がはっきりと聞こえた。
涙で流れたメイクを全て落とし、低い声を隠すための喋り方ももう止めた。もう、偽る必要はない……全部、明かされたのだから。
栄華は自分が萌華を殺害したと名乗り出た。その手には包丁が握られている。留守番させていたはずの百華を捕まえて、手にした包丁を彼女に付き付けながら。
「百華! 栄華ちゃん、何で……?」
「違う!」
「……覚えていますか? 『K’s TABLE』のトイレの前で、俺と鉢合わせしたあの時。よっぽど驚いたんでしょうね、トイレのドアが開けっぱなしでしたよ。あの場で気づけばよかった、
「そうだよ。僕の本当の名前は
楚々とした服装は、身体の曲線を隠すためのもの。最初から趣味じゃなかった。きっちりとボタンを閉めていたブラウスのレーススタンドカラーを解いて首を露わにすれば、膨らみかけた突起が姿を現したのだった。
『う、嘘……!』
つまり、栄華……否、栄我が蘭に抱いていた感情は友情のそれではなく、異性としてものだったのだ。
某ライダー
「道理で拙者の百合センサーが反応しなかった訳でござる」
某アサシン
「え、男の娘……え、疑似百合? え、え、待って。三次元であのクオリティ?」
某Mr.M
「家の風習で女として育てられたって、何か違うんだよな~」
某セイバー
「散々犯人扱いされたが、犯人ではなかった。何を言っているのか分からないかもしれないが、私もよく分らない」