この能力の扱いにも慣れて来た。
必要なものは器と意識。つまりは、ガワと中身だ。
器として用意したのは、世界を紡ぎ出す黒インク。ペンは剣よりも強い、聖剣で世界を変えようとするなど錆びついた時代の感性だ。現代には合わない。
意識は、数多の並行世界から蒐集した犯罪者たちの殺意と罪。これで鬼ができる。
???
創り出した殺人鬼たちの殺傷能力は高いが、如何せん耐久に問題がある。
器に問題はない。器は中身次第で流動的に姿を変える。では、中身を精査しよう。
もっと、もっと殺意に満ちた、罪を重ねた犯人を。
???
一つ、実験をしよう。
人型以外の鬼もできるのか?
折角Closed Circleにしてやったんだ。それぐらいの実験場を提供してもらおう。
おっと、私がやったのは舞台を整えただけ。天候を崩してやっただけ。
殺意も、悪意も、憎悪も、怨嗟も、犯人も、犯人のミスも、凶器も、狂気も、全てはあそこに元々存在していたもの。
人間の悪意を喰った竜種はどんな働きを見せるかな。
働き次第では、これからの登場人物としてレギュラーに加えてやろう。
???の手記より――
事件の途中だがワイバーンだ。
懐かしい声が聞こえてきそうな突拍子もないエネミー反応の正体は、崖の下から這い出て来た竜の形をした黒いナニかである。
カルデア側が捉えた反応はワイバーンに限りなく近い竜種のものであったが、神秘が限りなく薄く、聖剣さえもパチモンであったこの特異点で急に竜種が出現したのは解せない。では、やっぱり黒幕の介入かと考えたところで、出現したエネミーの姿を見れば明らかであった。
黒い液体がうねる、歪な線を持つ竜の形をしたナニカ。粘度の高いそれは、(仮称)全身黒タイツがドロップするどす黒いインクと同じ物だろう。崖から這い出て来た(仮称)黒竜モドキは、骨と微かに糸を引く黒インクだけの両翼を広げて飛び立とうとしたが、少し飛行しただけで島の森に墜落した。
事件現場から一旦警察が撤収していたお陰で目撃者はなく、人目の付かない場所に墜落してくれたのが幸いか。だが、ただ墜落しただけではないようだ。
『先輩! (仮称)全身黒タイツと同類と思われる竜種型のエネミーが出現し、屋敷から南西約500m地点に墜落しました!』
「こんな時に」
「毛利先生、お疲れ様です」
「……んがっ、え、はい」
「驚きました。まさか、栄華さんが男だったなんて。これは誰も気づきませんよ」
「え、栄華さんが……」
推理ショーを終えた小五郎が、鳥栖や警察に囲まれている。
義乃の共犯者を見誤るという多少のミスはあったが、ホームズの残した言葉通りのワインの真実を解き明かした彼は紛れもない名探偵だろう。
こんな状況で、世界観から逸脱しているエネミーの襲来はいただけない。
「……行きましょう、
「ああ」
「立香、先に行っているわよ」
「ジャンヌ、サリエリ先生。後で行く」
雑然とした状況の中で、ジャンヌとサリエリが円竜家の屋敷を抜け出した。
人としてではなくサーヴァントとしての機動力で現場に向かえば、鬱蒼と生い茂る初夏の木々に囲まれた森の真ん中にそれはいた。形はかろうじて竜種――ドラゴンのようなモノを取っているが、今にも崩れ落ちそうなほど脆い躰が地に這い蹲っている。
(仮称)黒竜モドキと名付けられた出来損ないのドラゴンは、黒インクどころかタールのような濁った液体で太い四肢や翼が形成されているが、目に当たる器官だけがゴマを散らしたかのように身体中に浮いている。
裂けた顎には牙は見えず、咆哮なのか呻き声なのか判別の付かない音が漏れているだけだ。ドラゴンブレスを吐き出す気配もない。
だがよく見れば、自殺を成功させた栄我の末路のように喉元が掻き切れている。そこから滴る黒インクが地面に落ちて黒い淀みを生むと……そこから人間の腕が這い出て来たのだ。
「実際に実物を見るのは初めてね。映像で見た以上に気持ちが悪いわ」
「犯罪者の現身……(仮称)全身黒タイツとやらか」
「真顔で全身黒タイツと言わないで。面白いから!」
『……ゲ、……! ……ゲ、……!』
黒竜モドキから滴る黒インクから這い出て来たのは、先日、立香たちを襲撃した(仮称)全身黒タイツだった。
何十体も湧いて出て来たそれらの手には、切れ味の良さそうな出刃包丁やらステンレス包丁やら、柳葉包丁が握られている。妙なところで個体の差別化を図るな。
蒐集された犯罪者の悪意と殺意を黒インクに混ぜ込んで造られた、姿の分からぬ殺人鬼。包丁を取り出した犯人として栄我を写し取ったかのようなエネミーたちは2人……否、2騎に襲い掛かってきた。
「おじ様、黒タイツは任せるわ」
「良かろう」
黒タイツたちが持つ包丁の切っ先はサリエリに向けられる。この状況下では、音楽家兼探偵事務所のオーナーを演じなくとも良い。
眼鏡を外し、偽りの姿を脱ぎ捨てる。“死”の仮面を身に纏い、死神を指揮する十字の
「我が指揮に踊れ、死神――」
慟哭外装を装備したサリエリが包丁を振り回す黒タイツの一体を斬り捨てると、血飛沫の代わりに黒インクが噴き出て凶器もろとも消滅する。
やはり耐久度は据え置きだ。けれども、数は掃いて捨てるほどいるのも前回の襲撃と同じだった。
殺意を隠さず攻撃して来る黒タイツの合間を外殻が駆け、確実に仕留めて黒インクをぶちまける。それでも、各種様々な包丁を手にする黒タイツの数は圧倒的だ。数で押せと言わんばかりに一斉に襲い掛かってくるが、穴あき包丁を持った黒タイツの脳天が撃ち抜かれた。
美天島全域に放っていた灰色の男がマスケット銃を発射する。鳥の姿から本来の、楽団員如き姿へと変化した彼らはサリエリが振るうミゼリコルデの動きに会わせ、黒タイツたちを撃ち殺し、剣で刺し殺す。
アヴェンジャー、サリエリが1騎で黒タイツたちの相手をしている中、ジャンヌは黒竜モドキとの距離を縮めた。
ボタボタと喉元から落ちる黒インクが途切れたのは、もうこれ以上黒タイツを生み出さないということだろう。這い蹲っていた躰を起こし、翼をはばたかせて襲い掛かるという合図だった。
「その姿を殺意の現身にするだなんて。私が誰か知らないの」
黒い旗がたなびく。
勝利を鼓舞する聖女の旗ではない。悪魔の象徴である邪竜の紋章が刻まれた魔女の旗だ。
悪意と憎悪に抱かれて生まれた彼女は、復讐の聖女として望まれた彼女は、かつての百年戦争ではこう呼ばれていた……竜の魔女と。
アヴェンジャー、ジャンヌ・ダルク・オルタが旗を振ると同時に、火刑の業炎が地を走る。
ジャンヌに向かって飛翔した黒竜モドキは、竜の魔女の支配下に置かれると空中に縫い付けたかのように動きを止めた。それを目にした黒タイツたちは、「え、竜さんどうしちゃったんですか?!」と言いたげに目を見開きながら戸惑ったが、その隙に炎に焼かれて消滅した。
「……完全に使役はできないみたい。竜種と言えど、所詮は紛い物ね」
『リ……ゲ、……!』
「もうちょっと素直だったら、ファヴニールⅡ世と名付けて可愛がってあげたのに!」
竜種の属性を持つが、中身自体は人間の犯罪者の悪意だ。竜種の部分はジャンヌに服従しても、人間の部分が殺意を持って爪を振り下ろす。
ファヴニールと同程度の巨体ではあるが、脆い躰のためか非常に鈍足だ。ジャンヌのスキルの影響もあって、彼女の剣で簡単に切り捨てられた。
「こいつら雑魚よ。竜種も見掛け倒しだわ。さっさと片付けましょう……こっちは、色々あって苛ついているのよ!」
「……殺人鬼たちよ。本物の死を聴くがいい。我が死だ!『
「憎悪も、怨念も、この島には溢れ返っている。さあ、存分に吼えなさい!『
一介の犯罪者たちが反英霊として現世に召喚された彼らに勝ち目などない。
包丁を振り回すだけの殺意とは比べ物にならない至高の
「犯罪者の悪意か、殺人鬼の殺意か。金のため、欲のため、愛のために罪を犯した者たちが抱いた
赫々と燃える火刑の中で声を上げる黒竜モドキの首は、時間という流れから脱した黒い炎によって切り落とされた。
「探偵」としての丸眼鏡を外し、外套を炎風にはためかせるアヴェンジャー、巌窟王エドモン・ダンテスによって、とどめが刺されたのだ。
黒竜モドキは断末魔を上げながら炎に焼かれ、黒タイツたちはただの黒インクに戻る。一体、包丁を握ったままの腕が残り、黒い淀みの中でピクリと動いたが、狼王の足に踏まれて消滅した。
「遅いわよ、マスター。戦闘は終わったわ」
「ありがとう。結局、あれは何だったんだ?」
『全身黒タイツの竜種の器Ver.ってところかな。人型ではなく、別の形にできないかと試験運転でもされたのか』
ヘシアン・ロボに乗った立香が現場に到着する頃には全てが片付いていた。
通信機の向こうでダ・ヴィンチちゃんが色々と考え込んでいるが、結局正体は分からない。残されたのは、やはり黒いインクだけだったからだ。
幸いにも森の周囲は先日の裏路地のように人目に付かない場所で、誰も人間は通りかからなかった。目撃者は誰もおらず、犯行は目撃されていなかった如き目晦ましがされていた。
悪意と殺意、殺害方法、そして、犯罪者が手にしていた包丁。それらを写し取った犯罪者の現身……彼らの正体をそう、解釈しただけだ。
まだ、何も解けていない。
SAT(スーパー・アヴェンンジャーズ・タイム)
暴れさせたかったがそんなでもなかった!
悲報!
サリエリ先生の宝具の名前が長すぎてルビが振れない!
マジか!!
(追記)
アドバイスもらえてルビ振れた!ヤッター!ありがとうございます!