犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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美天島聖剣伝説殺人事件18

 後の取り調べで分かったことであるが、義乃が凶行に走ったのには聖剣に原因があった。正確に言えば、聖剣にまつわる美天島の財宝に原因があったのだ。

 彼女は聖剣を管理する寧井田家の出身なのは周知の事実であるが、実はこの寧井田家、とっくの昔に財宝を発見していたのである。

 隠し場所は聖剣の下。人工的に造られた空間に、美天島の財宝こと大量の金塊は隠されていたのだ。総額にして、小国の国家予算並みだったとか。

 それを発見した寧井田家の先祖は聖剣の管理者に名乗り出た。一族で金塊を独占するために。

 表向きは社を建てて神聖な聖剣を奉ったが、実際は聖剣の下から少しずつ少しずつ金塊をネコババして私腹を肥やしていた。

 聖剣を溶接したのも寧井田家だ。他の誰にも金塊を横取りされないようにと蓋をしたのである。

 そうやって、円竜家や島の人間の目を盗んで金塊を食い荒らし、裕福な生活を送ってきた寧井田家だったが、10年前の『美天島聖剣祭り』の開催が転機だった。

 島に外部の人間が増えれば聖剣の秘密に気づかれるかもしれない。そろそろ潮時だ……彼らは祭りに反対し、わざと円竜を怒らせて追放され、悠々と島から逃げ出したのだ。1人の監視を残して。

 

「寧井田家のジジイたちは、円竜に嫁いで奴の監視をしろと言ってきたわ。表向きは差し出された若い女を装っていたけど、本当は島の財宝を見つけないように円竜を監視するのが私の役目だった。本当は嫌だったわよ。あんなジジイの後妻になって、小さな子供の面倒を見なきゃならないなんて……けれど、役目を全うしたら、島に残した金塊を好きにして良いって言われたから。仕方なくよ! 金塊は大分減ったけど、まだ一生遊んで暮らせる分は残っているって……そう、言っていたのに!」

 

 円竜の命令で栄華として育てられている栄我を監視し、その裏で円竜が財宝探しに乗り出さないように監視を続けて10年……彼女の野望が水泡に帰したのは昨年末、義乃に監視を命じた寧井田家の当主が亡くなった時だ。

 

「あのジジイ、死に際に何て言ったと思う? 金塊は全部持ち出して、一銭も残っていないって言ったのよ!! 島を出る時に一族が全部持ち出したって……全部金に換えて、お前にやる金はないって。ふざけるな!! 何のために傲慢なジジイに股開いたと思ってんのよ! 全部全部、嘘だったのよ! 私を島に縛り付けるための! だから、この10年に見合う金を手に入れようとしたのよ、円竜家の財産をね!!」

 

 妻という立場をフル活用して遺産を手にしれようとした義乃がまず行ったのが、酒の勢いを装って蘭堂と関係を持つことだった。娘の事故に関して円竜との因縁を持つ彼を身体で篭絡し、あわよくば焚き付けて殺害の実行犯にしようかと考えたが、蘭堂はそこまで短絡的に動く男ではないと知り計画を変えた。

 蘭堂との関係は続けたまま、別な男を調達したのである。ある意味、蘭堂以上に円竜家への憎悪を滾らせた男……母親代わりとして面倒を見ていた栄我に迫ったのだ。

 

「円竜は、栄我に逃げられるのを恐れて高校にも行かせなかった。高校への進学と、島からの解放をベッドの中で優しく囁いてあげたら、戸惑いつつも承諾したわ。一番邪魔な萌華を殺すためには最高の人材よ」

 

 スケープ・ゴートは蘭堂に。共犯者は栄我に。栄我には脅迫状も作らせた。

 咥え込んだ男たちを使い、祭り当日の宴で円竜を殺害しようと計画を立てて、冷蔵室の電源を落とした。が、ここで一つの色を付けることにした。

 偶然にも、朝央の恋人である鞠菜の名前が脅迫状に書いた花鞠によく似ていたために、勝手に疑心暗鬼になってくれた円竜を更に脅かそうと朝央と鞠菜を島に呼び寄せたのだ。これまた偶然にも、鞠菜が手土産にワインを持って来たので、犯行の小道具のワインをそれに変更したのである。

 

「朝央を怒らせれば、潔癖なあいつなら、円竜の反応で島を捨てると思ったわ。その通りだった。あいつは遺産もいらないって相続を放棄して、女を選んだのよ……上手くいきすぎて面白かったわ。朝央が相続を放棄すれば、邪魔者は萌華だけ」

 

 円竜の遺産は、妻である義乃が半分を相続し、残り半分を子供たちで三等分になる。

 朝央は相続を放棄したので萌華と栄我で半分ずつ。その状態で萌華が亡くなれば、彼女の遺産として麓人と百華で相続することとなる。

 麓人は島の人間だ、円竜家には逆らえないので色々と理由を付けて色仕掛けでも使って遺産を没収できる。更に、まだ幼い百華の後継人にでもなれば、彼女の遺産も食い荒らすことができる……円竜家の財産のほとんどを手中に収めるための、義乃の計画だった。

 誤算だったのが、疑心暗鬼になりすぎた円竜が毛利小五郎を呼んだということ。不審に思った朝央が『カルデア探偵局』に依頼をしたこと。

 そして、口封じをしようと栄我を島で更に飼い殺そうとして、叛逆を受けたことである。

 

「やっぱりね、欲しくなっちゃったのよ……遺産、全部。栄我の遺産も欲しかったの。それに、計画の全容を知っている奴を逃がすなんて、よくよく考えたら馬鹿よね。大人しくしていたら、表向きの島の王としての仕事を与えてやったのに。愛人のまま可愛がってあげたのに」

 

 聖剣伝説とその財宝を発端とした事件は、多くの人間の人生を狂わせた。

 聖剣には神秘の欠片も宿ってはいなかったが、年月を経て堆積した人間の欲望と憎悪が呪いのようなものになり果てていたのかもしれない。

 

 

 

***

 

 

 

 7月4日

 美天島を出航したフェリーは、二組の探偵と多数の観光客を乗せて本土へと向かった。

 ここ数日の悪天が嘘のような晴天の空の下で潮風に吹かれる蘭は、小さくなる島を眺めている。

 

「隣、良い?」

「うん、良いよ」

「さっきの彼との会話、見ちゃったんだけど……貴女も、あんな風に惚気たりするのね。ちょっと意外だったわ」

「そ、そうかな」

 

 蘭の隣で海を眺めるジャンヌは、出航前に目にした蘭と栄我のやり取りを思い出した。

 美天島で起きた連続殺人の犯人たちが警察の船で連行される前に、栄我は蘭に言いたいことがあると少しの時間をもらっていた。伸ばされていた髪を一つにまとめ、ジーンズと白いシャツという誤魔化すことをやめた彼の姿は、やはり年相応の少年だった。

 

「蘭さん、ごめんなさい……色々と。ぼ、僕、一目惚れだったんだ。だから、その……」

「ありがとう。でも、ごめんなさい。わたし、お付き合いしている人がいるの」

「……そうか。そうだよね。ねぇ、その人はどんな人?」

「勝手な奴よ。いつも勝手にいなくなって、連絡もなしにひょっこり戻って来て、やっぱりすぐいなくなって。事件と推理のことしか頭にない、ホームズオタクの大バカ推理之介! でも、わたしがピンチになった時にはいつも助けてくれる、とてもカッコいいわたしの大好きな人なの」

 

 ちょっと照れ臭そうに、それでいてとても綺麗に微笑んだ蘭を目にした栄我は一瞬だけ呆気にとられたが、すぐに彼女に釣られて微笑んだ。哀しそうでいて幸せそうな、この島で初めて見せた心からの笑顔だった。

 

「蘭さん、その人と幸せにね……さようなら」

「待って栄我君。ずっと友達って言ったよね。これからも、友達でいてくれるかな?」

「っ! う、うん……友達で、いてね」

 

 こうして、美天島の事件は終わりを告げたのである。

 

「あれ。どうしたの、コナン君? 顔が真っ赤よ」

「え、あ……」

「もしかして、もーちゃんからの贈り物のせいかしら。案外可愛いところもあるのね」

 

 蘭の隣にいたコナンの顔が真っ赤になっていた原因は、恐らく百華が原因だ。彼女もまた、コナンとはずっと友達だよという約束を交わし、一体どこで覚えたのか別れ際にコナンの頬へキスをしたのである。

 彼女は、まだ母が亡くなったことを知らされていない。いつか知る時が来るだろう……哀しみを乗り越え、憎悪に染まらずに、天真爛漫に育って欲しいものである。

 

「朝央さんは、これからどうするんですか?」

「家督を継がないと言った手前、とても心苦しいですが……島を滅ぼそうと思います」

「えっ?!」

「元はと言えば、島の悲劇は全て円竜家が発端でした。罪滅ぼしという訳ではありませんが、嫌いなものを全部滅ぼしてからみんなの好きなように創り直しますよ。島の王の血筋なら、それぐらい好きにして良いでしょう」

「本当、朝央君って性格悪いね。私も、一緒に滅ぼしても良い?」

「勿論だ。手始めに、遺産を使って診療所の設備を充実させよう。何年かかるかは分からないけれど、いつか栄我が新しい島を見た時、訪れたいと思ってくれる島にしますよ」

 

 朝央と鞠菜だけではなく、島の人々の力で美天島は生まれ変わることになるだろう。

 

『彼はあのように言っていますが、美天島は本当の意味で滅ぶことはないでしょう。彼は()ではない。美天島はブリテン島でもありません』

「よく似ているけれど別なものだ。島も、島に住む人たちも」

『ええ。同じ悲劇は辿りません』

 

 立香に聞こえる声――ブリテン島を治めた王であるアルトリア・ペンドラゴンは、一体どんな表情をしているのだろう。

 神秘から決別し、人間たちの時代がやって来る。

 

「今回の依頼も一件落着。でも、眠りの小五郎の実力は新聞通りだったね」

「……え」

「立香、おまえ……そうか、覚らずか」

「え、え?」

「あのおじさん、寝たフリじゃなくて完全に寝ていたわよ」

「推理の声は、よくできていたが機械を通した音声だった」

「オッサンの後ろで、コナンクンがアフレコしてたぜ」

「……ええ?!」

「名探偵の愛弟子、名探偵の影武者……違う。彼の者は、名探偵の創造主(コナン)か」

 

 影に紛れたアンリマユがずーっとコナンの隣にいて、一部始終を目撃していたのだった。




【本編では書ききれなかった補足と蛇足】

円竜麓人:
萌華とは幼馴染であり、彼女の一番の理解者。昔は彼女を「萌ちゃん」と呼んでいた。
幼い頃はいつも萌華に手を引っ張って振り回された大人しく引っ込み思案の泣き虫だったが、いつかこの島の女王になると言い切った萌華の夢を叶えるべく、一生をかけて彼女を支えることを誓った。多分、義乃は彼を身体で篭絡できなかった。
少しずつだが百華に母が亡くなったことを教え、憎悪の連鎖を引き起こさないことを決める。

荒倉兵輔:
実は栄華が男であると知っていた。
4年前に父親が死に際に真実を教え、そのまま秘書の職を引き継いだ。引き継いだが知っているだけで何もできず、できたことといえば「栄華お嬢さん」から「栄華さん」と呼び方を変えただけ。
あと、人知れず栄我に週刊少年サンデーを届けてみたりもしたが、特に反応はなかった。いかん、マガジン派だったか。(違う、そうじゃない)

鳥栖匠海:
元は民俗学を専攻する大学院生。民俗学的な見地から美天島の財宝が金塊であることを突き止め、金塊を発見すべく移住してきた。
島を練り歩いて調べたが見つからず……もうとっくの昔に使い切っていたなんて、悲しい。(ポロロン)
だけど、この島の自然も気に入ったのでこのまま住み続ける。(加恋に視線を向けながら)

蘭堂督郎:
島の外から連れて来た嫁には逃げられ、不倫関係になった義乃は犯罪目的と、とことん女運がないようである。
利用されるために義乃に迫られて不倫をしていたが、彼女へは愛情より憐れみの感情が勝っていた。あと、村長への嫌がらせの意味もあった。
実は結構意地の悪い性格をしていて、そういう意味では朝央とは相性が良い。きっと彼の良い右腕になってくれるだろう。

円竜勇朝:
実は彼の父親、朝央たちの祖父が家の風習によって女として育てられていた。
先の大戦で長男、次男が相次いで戦死したためお鉢が回ってきて家督を継ぐこととなる。そのこともあり、何とか長男の予備を用意しようとした父親が晩年に次男を授かった。
ちなみに、弟(妹)とは異母兄弟である。

寧井田家:
ある意味諸悪の根源、事件の元凶。
語られた通り、とっくの昔に美天島の財宝を発見していた。聖剣の管理を建前とし、自分たち以外には発見できないように聖剣を溶接して伝説を作り上げる。
10年前に島を出る際に残りの財宝を全て持ち出し、金に換えて都内にマンションやら土地やらを買って高級老人ホームに入った。
ちなみに、義乃は当主の娘ではなく親戚筋の出身。彼女もまた(金に目が眩んだとはいえ)利用された。

次郎号トヨタ・パブリカ:
廃車にはなったが、外観が良いので輪止めをして円竜家の庭に置き百華の遊び場になった。自走しない。
蛇足・オブ・蛇足である。


連続殺人って大変なんですね。
時間がかかるから疾走感みたいなものを出すのが大変です……いや、事件で疾走感出してもな。
次回のエピソードで、オリジナルサーヴァント出します。(やっとか!)
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