犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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ミスター信長コンテスト03

「もう、ダンテスさんが出るなら前もって教えてよ、オルタちゃん!」

「言ったでしょう。サプライズよ」

「ゲストにしておくのには勿体ない!」

「……そんなナヨナヨした白い信長が好みか? 見る目ねぇな、お前」

 

 棘が含まれる粗暴な声は、エドモンの「信長」にはしゃぐ園子へと向けられたものだった。

 瑠璃の楽屋の廊下に大柄な男が現れ、彼の登場により女性スタッフの何人かが再び色めき立って黄色い声を上げる。織田家の家紋が刺繍された赤黒い着物に虎側の袴という派手な服装を見るに、彼も「信長」なのだろう。

 ゲスト信長とは違う、色黒で目付きも悪いが顔は悪くない。むしろ整っている部類だが、品性は感じられない男……ミスター信長候補の1人であり、事前の読者アンケートでは最も支持されていた「信長」。モデルの坂野(さかの)孝一郎(こういちろう)(24)である。

 

「瑠璃ちゃん、彼は?」

「最近、メンズ雑誌でよく顔を出すモデルの子よ。下品とワイルドの区別がついていない振る舞いが目に余るけど、それが俺様系だかオラオラ系とかでどうしてか売れているの」

『なるほど、俺様な信長ね』

 

 延暦寺焼き討ちやそれに伴う虐殺など、「信長」には残虐なイメージが付随されている。「魔王」という呼び名から発想を得て、明智光秀の謀反の原因は信長のパワハラだったという作品も少なくない。

 そんな「信長」の一面を集約させたのが坂野なのだろう。外見イメージでも、戦乱の世を生き抜いた残虐非道な武将にピッタリだった。

 だが、瑠璃の言う通り、品性は感じられない。少女たちに対しても言動が粗暴だ。

 

「この外人と俺、どっちが血生臭い戦国で生き抜けると思う? 俺しかいないだろ。最強の軍事力を手にした戦国の王がこの俺だ。黙って俺に投票()れな!」

「でも、信長の偉業って戦だけじゃなかったような……」

「そうですよ。信長は、徹底的な実力主義と合理性を持ち込んだ、言わば経営者でもあるんです。民間からの略奪を禁止した織田軍のモラルは高かったという話もありますしね。色々な面があるから、みんな信長が好きなんじゃないですか? ね、駒木さん。家族思いな信長が好きって言っていましたよね」

「はい。信長が遠征先の堺や京で、濃姫や子供たちにお土産を買ってきたというエピソードが、私の好きな信長です」

「うわぁ……俳優の秀穂君と、駒木さんだ!」

「鈴木さんのお目当ての……あら、写真の彼氏と似た雰囲気ね」

「そうでしょう~」

 

 坂野の後ろからやって来たのは、歩美たちのお目当てである俳優の三浦秀穂だ。

 彼の趣味かスタイリストの趣味か、黒い軍服のような衣装にレプリカの火縄銃を手にしていた。「信長」にしては童顔気味な顔立ちだが、色白な美少年という風貌は南蛮人が残した記録に合致している。

 三浦に声をかけられたのは、読者投票で選ばれた唯一の一般人エントリー「信長」の駒木(こまき)雄太(ゆうた)(27)である。本業は会社員らしい。

 彼は簡易的な黒い甲冑にレプリカの刀と、ゲームの戦国武将的な装いだ。園子のお目当ての「信長」であるが、顔を見れば納得する。精悍な日本男児という顔立ちは、彼女の恋人である京極真と同じ部類の侍系だ。なるほど、推す訳である。

 読者投票によって本選に出場した「信長」上位3名と、盛り上げ役のゲスト信長が揃った。四者四様まるでタイプが違うが、みんな「信長」だ……ややこしい。

 

「三浦、お前も良かったな~事務所の先輩のおこぼれに預かってよ。ま、俺が勝つけどな。最高の記録を出した日の俺は最高にツイてるんだ。どんな女でも引き込んでやるよ。せいぜいジジババに媚びを売りな」

「感じが悪いわね」

「女の子にちやほやされて調子に乗っているのよ。最高の記録を出したって言ったでしょう。趣味は車とか言っておきながら、暴走族紛いの路上レースをやっているみたいなの。事務所の稼ぎ頭だから、社長も知っていて放置しているみたい。本当、始末が悪いわ」

 

 態度悪くその場を去って行った坂野であるが、彼が読者投票という名のはがきの数が最多であるのは間違いない。普段の読者層とは違う、若い女性たちによって雑誌が買い占められて売り上げが増えたのも間違いない。

 だが、瑠璃が語った素性が真実であるならば、随分と素行の悪い「信長」になりそうだ。

 さて、ここで『ミスター信長コンテスト』のルールを説明しよう。

 コンテスト会場は、ショッピングヒルズ・ベイカ中心部にある開けたイベントエリア。コンテストは握手会形式で行われ、設置されたそれぞれの「信長」のブースを訪れて実際に触れ合うことができるのである。

 会場の入り口で簡単な手荷物検査をした後、スタッフからQRコード付きの投票用紙を受け取り、それを持ってメインステージ前の投票場所で自分の好きな「信長」に投票する。ちなみに、いくらゲスト信長が美形のイケメンでも投票することはできない。

 

『さあ、始まりました! 司馬波出版恒例『ミスター信長コンテスト』! 今年は、今大人気の生島忠寿さんの後継者信長を決めるという、言わば清州会議のようなコンテストです! 本選出場者7名の中から今年のミスター信長が決定します! そういえば雨城さん、好きな信長のエピソードがあるんですよね』

『はい。信長が、豊臣秀吉の妻であるねねを気遣う手紙を送ったというエピソードがお気に入りなんです。信長は、濃姫を始めとした自分の妻や妹のお市、臣下たちの妻たちに気を配っていた優しい一面が垣間見えるんですよね』

『「あのハゲネズミに、お前ほどの女は勿体ない!」という手紙ですね。あだ名のセンスが実に信長らしい。今年は一体、誰が新たな信長に選ばれるのでしょうか?!』

「お母さんは、誰に投票するか決めた?」

「まだ決めかねているわ。信長のイメージとしては駒木さんだけど……でも私は、そもそも信長派じゃなくて元就……」

「え?」

「あ……そ、そうだ蘭、この間言っていた栄我って子のことなんだけど。少年犯罪に実績のある良い弁護士がついたわ、お兄さんたちが尽力したみたい。殺人に対する求刑は免れないけど、本人に反省の意志もあるからそこまで酷くはならないそうよ」

「そっか、良かった」

 

 会場付近に貼られたコンテストの巨大ポスターの前で、蘭と英理は誰をミスター信長にするか決めかねていた。

 園子は早々と駒木に投票したが、ジャンヌを引っ張って全員のブースに並び見目の良い信長たちを堪能している。駒木とエドモンは二周した。

 それぞれの握手待ち行列の客層を見ると、坂野の列は圧倒的に若い女性が多い。彼女たちは坂野に俺様的に「投票()れろ」と言われれば黄色い声を出し、嬉々として彼に投票してまた握手の列に並んでいた。

 一方、隣の駒木の列は老若男女問わずと言ったところ。特に、雑誌のメイン読者層である老年層が多い。先代信長と似た雰囲気の彼に期待しているのだろう、時には園子たちのような若い女性たちもいる。

 そして、少年探偵団たちが並んだ三浦の列は圧倒的に子供たちが多い。しかも、コンテストの開催を知らなかった通常の買い物客(特に親子連れ)までも吸い込んでいる……特撮番組出演者は強い。

 

「秀穂君、その衣装カッコいいね!」

「どうもありがとう」

「その鉄砲で、ヤイバーと一緒に戦えるんじゃねぇの」

「信長になったら、ヤイバーと一緒にジョッカーを倒してくださいね!」

「うん、いつかヤイバーと一緒に戦いたいな。みんな、信長もヤイバーも応援してね!」

「流石、プロね」

「信長の応援に来たのか、ヤイバーの応援に来たのか分かんねーな」

「ちょっと、前見なさい」

「え……っ」

 

 見事に仮面ヤイバーの話しかしない歩美、元太、光彦に苦笑するコナンだったが、前を歩いていた人とぶつかり転倒してしまった。前方不注意である。

 

「いてて……」

「気を付けなさい、江戸川君」

「大丈夫?」

「はい、ごめんなさ……っ」

 

 コナンがぶつかってしまったその人。しゃがみ込んで心配そうに手を差し伸べたその人の姿を目にすると、コナンの表情が強張った。

 声をかけて来たその人……上から下まで真っ黒な装いのその人は、声もそうだが一見すると男か女か分からない中性的な顔立ちをしている。体格も細身だが凹凸がない。全身真っ黒だが、首に巻いている縄のような編み目のマフラーと右目の医療用眼帯だけが白だった。

「黒ずくめの姿」「女のような男」「片方の目が義眼」……まさか、まさか。

 

「ねえ、大丈夫ですか?」

「大丈夫、転んでビックリしたみたい。ぶつかっちゃってごめんなさい。ほら、行くわよ」

「……うん。ごめんなさい」

 

 哀に促されてその場から立ち去るが、まだ心臓がバクバクと鼓動している。

 ぶつかったその人の特徴が、黒の組織の№2ラムの特徴に似通っていた。正体不明のボスの側近。今分かっている情報さえも不確かな、姿の見えぬ敵……その影が見えてしまったのである。

 

「……違うわ。前に言ったでしょう、臭いで分かるのよ。生温い日常で鈍りつつはあるけれど、まだ鼻は利くわ」

「ああ、そうだよな。こんなところに奴らの仲間がいるはずねーよな」

 

 それでも視線は向いてしまう。黒ずくめのその人物を覗き見ると、左目だけの視線が会場入り口を見つめていた。

 何かあるのかと、コナンと哀も彼?彼女?の視線の先を見ると、1人の女性がスタッフと揉めているようだ。

 

「ですから、入場するためには手荷物検査をお願いしていまして……」

「……う、うぅぅ……五月蠅えぇぇぇぇ!!」

「うわぁ?!」

 

 手荷物検査を渋った女が、握り締めていた鞄の中から出刃包丁を取り出して振り回し始めたのだ。スタッフから、付近の一般客から悲鳴が上がる。

 包丁を構えたままコンテスト会場へ突入した女だったが、前方に飛び出てきた存在――牙を見せて唸るロボに怯んで足を滑らせ、転倒してしまった。その隙に一体どこに控えていたのか、ヘシアンが出刃包丁を叩き落とし、見事に取り押さえたのだ。

 

「クッソォ! 放せ! よくも忠寿を切りやがったなクソ出版社がぁ!!」

「あ! 彼女、生島君の熱烈な追っかけです! よく撮影所や出版社の前で出待ちしていました!」

「脅迫状の送り主は、こいつだな」

 

 火の点いていない煙管で吹かす仕草をしながらエドモンが自分のブースから出て来ていた。

 そうか、コンテストに対して脅迫状が送られてきたのか。だから、『カルデア探偵局』がいたのか……何故ゲスト信長になっていたのかは、ちょっと分からないけれど。

 ヘシアンに取り押さえられた女は会場から連行され、編集長の「お騒がせしました」の一言でコンテストは再開したのだった。




史実の信長は蟲柄(隠語)というヤバイ柄の着物を特注したそうですけど、カルデアにいるノッブはそれを持っていたのだろうか……?
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