犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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ミスター信長コンテスト06

 司馬波出版主催、歴史雑誌『歴史旅帖』のイメージモデルである「ミスター信長」を決定するコンテストで、中間発表で最も支持を得ていた「信長」の傷害事件が発生した。

 被害者である「信長」――坂野の目撃証言では、彼は高窓から侵入して来た槍に刺されたという。

 犯人は、同じくコンテストに参加している「信長」……駒木雄太であると、立香だけに聞こえる猫の声がそう告発していた。

 何故、再び猫の声が聞こえて来たのだろうか?

 この事件と先の美天島で起きた連続殺人事件との違いは一体何なのだろうか?

 

「猫の声が聞こえる条件か法則があるのでしょうか?」

「こういう時こそ名探偵の助言が欲しいけれど、昨日の今日で入院中だからね。しばし安静だ」

 

 美天島の事件は立香たちの体感で1週間前の出来事であるが、カルデア側の体感ではつい昨日の事件だ。霊基の損傷によって医務室に担ぎ込まれたホームズとモリアーティは、未だ絶対安静の状態が続いている。

 名探偵の介入を完全シャットアウトされた中で、犯人“だけ”が分かっている。証拠は何も見付かっていない。凶器である槍の一本でも発見されていなければ、駒木が坂野を刺した犯人という証明にはならないのだ。

 

「この事件、駒木とやらは本当に「槍」で坂野を刺したのじゃろうか?」

「信長さん? でも、被害者は槍と証言していましたよ」

「考えてもみよ。刺せるチャンスがあるか分からんのに、意気揚々と槍を構えてコンテストにやって来るか? 戦国ならともかく、銃刀法違反がしっかり敷かれているあの世界で槍なんぞ持って歩いていたら、即不審者認定じゃぞ。衣装の小道具にしても、あの距離に届く槍ならそれなりの長さじゃ。邪魔臭くてイベントには向かん」

「と、言うことは?」

「坂野の行動と部屋の状況を見て、「ワンチャン、イケんじゃね?」と考えた犯行じゃ。イケるかもしれないから、急遽槍を用意してグサーっと勢いに乗ったのじゃ! ワシだって、雨の中ならあの白塗りの弓取りが油断してんじゃね? と思って勢いに乗ったんじゃ!」

「そうか、槍と思わしき凶器はその場しのぎで作られたってことか!」

「さ、流石姉上です……僕も、イケるならグサーっと行きますよ。あの勘違い俺様男!」

「ちょっと、犯人カッツじゃないですか?!」

 

 信勝はずっとカルデアにいたのでアリバイがある。犯人じゃない。

 イベントをやっている商業施設の真中で誰かを殺傷するために、わざわざ槍を用意する者はいないだろう。戦国時代じゃないんだから。

 用意するならせいぜいナイフだ。脅迫犯の女も、用意したのは店で買えるような包丁だった。

 仮に、犯人こと駒木がナイフを持っていたとしよう。そのナイフを刃にして、他に長い棒でも現地調達すれば槍ができる。脚立だって会場の倉庫から拝借した物だ、全てが現地調達で行われた犯行である可能性が高い。

 ぐだぐだしていてもやはり戦国の三英傑が1人、織田信長。この程度の観察眼は持っているのである。

 彼女の推理は、通信機を通して立香にも聞こえていた。が、ちょうど同じタイミングで同じ推理が現場で披露されていたのだ。

 

「坂野さんが自撮りをしていたことも、部屋の構造と姿見の位置も、完全に偶然の産物よ。犯人はこの偶然を利用して、長さのある槍のような凶器を用意して犯行に及んだ。最初から槍を持ち込まなくても、刃物と長い棒状の物があれば槍ができるわ。坂野さんを刺した凶器がまだ見付かっていないのなら、槍を分解してそのパーツをどこかに隠している……あるいは、犯人が所持している可能性が高い」

 

 坂野の行動と現場の状況が生み出した絶好の殺害シチュエーションの推理をしたのは、蘭の母である英理だったのだ。

 

「蘭さん、もしかしてお母さんも探偵なの?」

「いいえ、母は弁護士です」

「弁護士!?」

「はい。色々あって、仕事では旧姓の妃を名乗っていますけど」

「お父さんが名探偵で、お母さんが弁護士って……凄い家族だね、蘭さん」

「そうですか?」

 

 ついでに、彼氏も名探偵。

 流石、名探偵夫人というべきなのか。彼女もまた「明かす者」として見事な推理を披露したのだ。

 信長と英理の推理は同じだ。殺せるチャンスがあったから、急遽槍を用意して坂野を刺した。急遽用意された槍は本物の槍ではなく、通常の刃物に長い棒状の物を組み立てて即興で作られた可能性が高い。

 では、その凶器は一体どこにあるのだろうか?

 犯人が未だ身に着けている可能性もあるとして、目暮の指示で高木と千葉が容疑者たちの所持品を調べると、彼らはそれぞれが長い物を持っていたのだ。

 

「これは、折り畳み傘ですね。雨の予報は出ていましたっけ?」

「癖と言いますか、妻の言い付けと言いますか。ゲリラ豪雨に注意しなさいと妻に言われていて、常に持ち歩くようにしているんです」

「洲道さん。コンテストの主催であり雑誌の編集長である貴方は、坂野さんが次のミスター信長になるのをあまり快く思っていなかったようですね」

「まあ、坂野君は私のイメージとは違ったので、少々戸惑いはありましたけど、最終的に次の「信長」を決めるのは読者の方々ですから。決まってしまえば、私は何も言えませんよ」

 

 洲道が手にした鞄には折り畳み傘が入っていた。伸ばせば70cmほどの長さになる。結構丈夫な作りの物で、少し乱暴に扱っても壊れることはないだろう。だが、折り畳み傘だけでは窓から坂野の立ち位置まで距離が足りなかった。

 

「コンテスト中だったので、持ち物と言えば……この刀しか」

「ん、これ圧切り長谷部ですね! 信長が持っていたっていう名刀の」

「聞いたことがあるな」

「最近、ゲームでも話題の刀ですよ。結構な長さですし、鞘と合わせれば窓から届くのでは?」

「あ……それ、刀身はないんですよ。鞘と柄だけのレプリカなんです」

 

 黒と金の鞘に赤い下緒が結ばれた刀に千葉が目敏く反応したが、鞘から抜くと中には刀身がなく、レプリカ自体も随分と軽量だった。槍のように人を刺すほどの強度はないだろう。

 

「駒木さんの本業は会社員ですか」

「はい。彼はうちでポスター類の印刷を委託している、印刷会社の方です。前々から良いなと思っていまして、コンテストにスカウトしたんですよ」

「信長も好きですし、何度もお声をかけていただいている洲道さんにも悪いなと思いまして。思い切って参加したんです」

「ちなみに、坂野さんと面識は?」

「今日、初めてお会いしました」

 

 最後は三浦だが、彼も駒木と同じくコンテストに出場途中であったため、所持品は小道具の火縄銃しか持っていない。これもレプリカだが、精巧に作られているため見た目だけなら本物とそっくりだ。長さも1m以上ある。

 

「この火縄銃では、窓から姿見の位置まで届きませんね」

「最低でも150cmは必要か……」

「三浦さんは、坂野さんと面識は?」

「俳優業の他にもモデルのお仕事もさせていただいているので、現場で時々顔を合わせていました。けれど、親しいと言って良いのかどうか……どちらかと言うと、坂野さんからの僕の印象はあまり良くないでしょうね」

「何かあったんですか?」

「以前の撮影で一緒になった時、坂野さんが車で送ってやるって言ったのを断ったことがあったんです。それから、何となく突っかかって来るようになりまして。坂野さんの運転が荒いのは有名でしたから、事故に巻き込まれるのも嫌だったので断ったんです」

 

 三者三様に長さのある所持品が発見されたが、どれも槍の柄になりそうな物ではなかった。勿論、坂野を刺した刃に当たる部分も見付かってはいない。

 立香には駒木が犯人だと分かっているが、証拠がなければ告発のしようがないではないか。

 

「犯人は、一体どこに凶器を隠したのか……」

「小五郎ちゃんに相談してみたら?」

「ええ?!」

「こういう時こそ、名探偵の出番でしょ」

「そうよお母さん。お父さんに連絡して……」

「結構よ! どうせ役に立たないんだから」

 

 瑠璃と蘭の提案は語尾強めに拒否されてしまった。そうか、蘭の母親はそういうタイプか……。

 親密な関係になればなるほど、一度張った意地を引っ込めることができずに収拾つかなくなるタイプなのだろう。数多の英霊たちと接してきた立香の人を見る目はいつの間にか肥えていたのである。

 

「立香、魔女と2人この場は任せる」

「エドモンは?」

「証拠がないのならば捜しに行かねばなるまい。窓の外で坂野を刺し、凶器を手に逃走を図った……逃走ルートは血痕が示している。血で穢れた凶器を手に群衆の中に紛れるのは不可能だ。逃走ルート上のどこかに隠した可能性が高い」

 

 槍その物ではなく、槍を構成するパーツを捜し出さなければならない。

 エドモンは「信長」の扮装の状態で丸眼鏡をかけた。探偵スイッチを入れたのだ。「信長」兼「探偵」が謎の解明のために場を外すと、少ししてから再び、現場からいなくなった人物がいた。

 

「ボク、トイレ!」

 

 そう言って、コナンはトイレがある方向とは逆方向に走って行ったのだ。




そう言えば、蘭ちゃんって空手の好敵手に「森蘭丸」って呼ばれていましたね。
この間気付きました。
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