犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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ミスター信長コンテスト07

 英理の推理とコナンの推理は一致していた。

 坂野を刺した凶器は槍その物ではなく、刃物と棒状の柄を組み立てて槍とした物。犯行が行われてから時間も経たぬ内にエドモンが駆けつけたため、裏手に回る際のタイムラグがあったとしても犯人が凶器を処分する時間はそう多くはない。

 探偵エドモン・ダンテスは言った。会議室の窓の外から群衆に紛れるまでの微かなルート上に、凶器を隠した可能性が高いと。その推理も、コナンのものと一致していた。

 

『犯行現場である窓の外の地面に複数の血痕。坂野さんを刺した後に凶器を回収し、それを持って逃げた。逃げた先は、コンテストが行われているイベントエリア!』

 

 会議室の並ぶ裏道に点在する血痕は、距離20mほどでぴたりと姿を見せなくなった。この地点で、凶器の血を拭うなり何かにしまったのだろう。ここから角を曲がれば、すぐに人通りが多くなる。そして、この角を曲がった先には……。

 

「やはり来たか。名探偵の創造主(江戸川コナン)

「っ! エ、エドモンさん? ボク、トイレに……」

「トイレに何をしに来た? 捜しに来たのだろう、坂野を刺した凶器を」

 

 裏道の角を右に曲がるとすぐそこにはトイレがある。コナンが犯人ならば、ひとまずこのトイレの中に凶器を隠す。そう考えて『清掃中』のスタンドが立つ男子トイレの中に侵入すれば、洗面台に寄り掛かるエドモンがいたのだ。

 まるでコナンを待ち構えていたかのような、彼がここに来るのを分かっていたかのような視線が、丸眼鏡越しの双眸に見えた。

 

「猫を被るのは、己を偽るのは辞めたらどうだ。無垢な子供の仮面を脱ぎ去り、その名の如き真実の姿を曝せばいい」

「な、何のことかな~?」

「毛利小五郎を名探偵にしたのはおまえだ」

「っ!」

「名探偵の愛弟子……否! その名の通り、名探偵を生み出したアーサー・コナン・ドイルの如く、おまえは名探偵を創り出した」

 

 バレている。

 一回だけ、エドモンの前で『眠りの小五郎』を披露しただ一回だけで、そのからくりがバレてしまっている。

 コナンの――新一の心臓が激しく鼓動する。

 正体がバレる。敵か味方か分からぬ者たちに、最大の秘密がバレてしまうのか?

 否、まだ江戸川コナン=工藤新一と看破された訳ではない。

 

「おまえはその姿に見合わぬ叡智の持ち主だ。まるで器と魂が噛み合わない……船乗りの若造が、身分()()モンテ・クリスト伯を名乗っているようなものだ。ああ、それでは逆か。それもこれも、この地が成せる異常なのか」

「……逆に質問するよ。貴方たち『捜査解明機関カルデア探偵局』こそ何者なの? 探偵、ではないよね。本当は」

「我らはこの地で「探偵」の役に収まってはいるが、本来の目的へたどり着くための手段でしかない。おまえたちが真実への到達を目的としているならば、我らにとってそれは手段だ……目的は別にある」

 

 やはりそうか。

 確証はなかった。エドモンの思考能力や立香の技術は「探偵」と言っても差し支えないものではあるが、何かがしっくりと来ていなかった。

 真実にたどり着くための「明かす」者ではない。コナンやその同胞たちとは、根本的なナニかが違うと感じたのだ。

 

「目的……何のために、この街に来た?」

「……あるモノを捜している。だが、所有者は分からない。我らの目的は、それを回収することだ。疑っていたのか? カルデアが悪しき郎党だと」

 

 あるモノ……この米花市で、一体何を捜しているというのだろうか。

 だが、この長くとも短い応答でコナンは確信した。『カルデア』は黒の組織とは無関係だ。エドモンの言う“悪しき郎党”の可能性も捨てきれないが、それでも彼らを()とした理由がある。

 藤丸立香だ。

 何故かは分からないが、エドモンを始めとした者たちは皆、藤丸立香の下に着いている。彼らを統率する立香は、犯罪の「は」の字にも当て嵌まらない人間にしか見えないのだ。

 そんな彼の下に着く者たちならば悪しき者ではないだろう。コナンにも、彼の大切な人たちにも危害が加えられる恐れはないはずだ。

 だが、自身の正体を明かせるかと言うとそうでもない。ここはまだ、聡明な子供という仮の姿でいる方がいいだろう。

 

「共同戦線と行こう。俺たちの前では叡智を隠さずとも良い」

「貴方たちを完全に信用した訳ではないけれど、この事件を迅速に解決するためなら協力するよ」

「必要な物は」

「証拠……犯人が坂野さんを刺した凶器。貴方の推理とオレの推理は同じだ。犯行現場から人通りの多い場所までの間で凶器を隠すならこのトイレしかない。トイレで人に見られたくない物を隠すには、場所に限りがある。大抵は清掃用具入れかゴミ箱か。それとも……」

 

 コナンが入ったのは、一番奥の個室だ。便器の蓋の上に上がってタンクの蓋を開ければ、一発で当たりを引いた。タンクの水の中に、ビニール袋に包まれたナイフが入っていたのである。

 チャックタイプのそれの中には、刃渡り10cmほどのアウトドア用のナイフが入っていた。刀身は血で汚れ、持ち手の部分には何かで擦れたような血痕が付着している。

 これが、坂野を刺した直接的な凶器であるのは間違いないようだ。

 

「刃物だけか。これを槍とたらしめた柄はここにはない、か……」

「このトイレの用具入れには、モップやブラシは入っていないね。犯人はどこに隠したんだ?」

「あー! コナン君、いた!」

 

 男子トレイから出たコナンとエドモンの元に、歩美と光彦が駆け寄って来た。

 沖矢と哀に引率された子供たちだけではなく、紙袋を持つサリエリやロボ、ロボのリードを持つヘシアンも一緒にいる。どうやら、話し込んでいたようだ。

 

「あ、ゲスト信長のお兄さんですね! 探偵の!」

「ああ。楽長たちと会っていたのか」

「お腹が空いたから、何か食べに行こうって話をしていたら、サリエリ先生たちと会ったの。コナン君も一緒に行こうよ」

「ごめんね、歩美ちゃん。蘭姉ちゃんたちを待たせているから……」

「コナンが行かないなら、早く行こうぜ。オレ、腹減ってもう動けねぇよ」

 

 空腹を訴える元太は床に座り込んでいた。コンテストの開場を待つ列で、テイクアウトのホットドックを食べていたが、既に消化されてしまったようだ。

 元太の腹が立てる盛大な音を聞いたのか、サリエリが手持ちの鞄の中から何かを取り出した。小さな袋に入れられた、色とりどりの鮮やかな星屑……金平糖の入った袋を取り出すと、それを子供たちに手渡したのだ。

 

「これしかないが」

「くれるのか? サンキュー、おっちゃん!」

「コラ、ありがとうでしょう」

「ボクたちも良いんですか? ありがとうございます」

「ありがとう、サリエリ先生。可愛い~!」

 

 子供の掌に収まるほどの小さな袋は、赤と黒のリボンが結ばれていた。元太だけではなく、光彦や歩美、哀にも渡していたので、結構な数を持ち歩いているようである……さっきのパフェといい、この人は甘党なのだろう。コナンにも渡してくれた。

 子供たちに金平糖を配り終わると、不意に沖矢とサリエリの視線がかち合った。微かに視線が交差された数秒の沈黙の中で、沖矢が先に口を開けた。

 

「良いスカーフですね」

「はあ」

「僕もスカーフを愛用しているんです。どこで購入されたんですか?」

「生憎、これは姪からの贈り物のため、どこで購入した物かは存じえない」

「そうでしたか。失礼しました」

「いや……」

 

 他愛ない世間話として、サリエリの首のスカーフを話題に出したのだろう。沖矢も、今日はスカーフを巻いている……首にある秘密を隠すために。

 そういえば、音楽家のサリエリは耳が良かったはず。視線が微かに沖矢の首に向いているが、まさか変声機の存在に気付いたのだろうか。

 

「見て見て、コナン君。可愛いでしょ!」

「え……っ!」

 

 歩美に呼びかけられて振り向くと、彼女は金平糖の袋を包んでいたリボンを腕に巻いていた。

 無邪気に喜ぶその光景に、コナンの脳裏には一筋の光が走った。事件を解明するための閃きだ。

 それはコナンだけはなくエドモンも同じだった。2人は発見したナイフに付着している血の汚れを確認すると、お互いの脳内で構築した推理に確信を持つように顔を見合わせる。そして、顔を上げて、人がまばらになったコンテスト会場を見渡せば……未だ発見できていない槍の柄の隠し場所にも気付いたのだ。

 

「そうか、ここに隠されていたのか」

()()()()()()()()()()()

「コナン君? どうしたの?」

「どうやら、何かがあったようだ。でも、もう心配はいらないか」

 

 もう、事件は解決した。

 沖矢昴――否、FBI捜査官、赤井秀一は偽りの声で子供たちにそう語りかけたのだった。




~その後、着替えを届けたサリエリ先生と現場残留組~

「マスター、子供たちを連れていた沖矢という男……あの男も機械で声を変えている」
「変声機って流行ってんの? そこら辺で売ってんの?」
「沖矢昴って、工藤新一の家を借りているっていう大学院生!」
「絶対何かあるでしょ、その人!」

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