うち2騎がオリ鯖であり、特異点の黒幕はカウントされていません。
つまり、カルデア側の味方になるオリ鯖が2騎。黒幕であるオリジナルの存在が1騎います。
今回登場したのが、野良鯖の内の1騎(匹)。
愛情をくれたならくれた分だけしっかり返しましょう。
そこまで冷たくないですよ。猫も恩義を感じるし、愛情を持って人間と接するタイプもいます。
まあ、自己流なので分かり辛かったらごめんなさい。そこは愛嬌です。猫ですから。
愛してくれたなら愛します、信じます、共にいます……だけど、裏切られたのなら。何の非もなく無残に殺されたのなら。
片目をペンナイフで抉られて、首を縄で括られて木に吊るされて殺されたら。恨むでしょう、憎むでしょう、悲しむでしょう。
愛していたから、復讐したのでしょう。愛情が憎悪に変わった時、猫ではないナニかへと生ったのでしょう。
歯牙にも爪にもかけない相手に復讐するほど、猫って暇じゃありません。
その「復讐者」がボクなのか。それとも、別な猫なのかは……さあ、よく分かりません。
だって、猫ですから。
***
特異点に召喚された3騎のサーヴァント。
1騎は、巌窟王エドモン・ダンテス。立香と縁を結び、復讐者故に真名を忘却することなく、宛がわれた「探偵」という役に埋没することなく己を保つことができた。
残る2騎は、立香と縁を結んでいない、真名も姿も分からぬ未知の英霊……その内の1騎がカルデアへ接触を図って来た。
人間の姿をしていたが人間ではない。
人間ではないと気付いたが……まさか、ガチの猫とは思っていなかったのである。
「クラス、アヴェンジャー。名前は黒猫プルートーです」
『カルデア探偵局』の来客用机の上に座ってそう名乗ったのは、米花市に召喚された米花のアヴェンジャー。
その姿は名乗った通り、猫である。美しい真っ黒な毛並みを持つ成猫が自らの声で名乗った。喋ったのだ。
同クラスの復讐者たちに囲まれ、カルデアのマスターの前でピンとヒゲを立て、金色の左目でしかと立香を捉えていた。
「プルートー、って。聞いたことがある。冥王星の名前じゃなかったっけ?」
「その名の由来となった、ローマ神話における冥界の神の名だ。ギリシャではハデスと同一視されている」
「そんな大層なモンじゃないですよ。猫ですし。ボクは、「プルートー」と名付けられただけの猫です」
『黒猫プルートー。エドガー・アラン・ポーの小説に登場する猫の名前ですね。挿絵と同じ姿をしています』
「江戸川、乱歩?」
『エドガー・アラン・ポー。江戸川乱歩のペンネームの由来となった、世界で初めて探偵小説を執筆し、探偵小説、および推理小説という概念を創造した作家です。シャーロック・ホームズが世界最高の名探偵なら、ポーが創り出した探偵、オーギュスト・デュパンは世界最古の名探偵です。ポーの作品『黒猫』というホラー小説に登場する猫さんが、米花のアヴェンジャーの正体と思われます』
マシュからの通信で、『黒猫』という小説をスマートフォンで検索する。インターネットが使えるのは本当に便利だ。
インターネットで探し当てたかつて出版された書籍の挿絵には、女性の頭の上に恐ろしい表情をした隻眼の黒猫が描かれていた。潰れているのは右目、真っ黒な猫であるが胸元だけは輪のように白い毛が生えていた。
目の前にいるプルートーの姿はこの挿絵に酷似している。どうやら、彼?彼女?の正体が物語に登場する猫であることは確定だ。
エドガー・アラン・ポー作:『黒猫』
著者が推理小説の創造主ということで誤解されがちだが、『黒猫』という作品は推理小説ではなくホラー小説である。
殺人の罪で絞首刑を控える男――犯人の独白という形式で書かれた、語り手の身に降りかかった、世にも恐ろしい話だ。
語り手は、酒乱によって長年飼っていた黒猫の目を抉り取り、首に縄を括りつけて木に吊るして殺害した。その夜に自宅が火事に見舞われ、木に吊るされていた黒猫の遺体が消えてしまった。
その後、殺害した黒猫にそっくりな猫を飼うことになったが、新しい黒猫が悪魔の化身だと思い込み精神をすり減らす。そして遂には、新しい黒猫を殺害しようと斧を振り下ろすが、誤って妻を殺害してしまうのだ。
語り手は地下室の壁に妻の死体を塗り込める。捜査に来た警察も気付かず、帰ろうとしたその時……壁の向こうから、“声”が聞こえた。悲鳴のような、笑い声のような、猫の声のようなその音によって警察は壁を壊し、妻の死体を発見した。
死体の上には、犯行の日から姿を消した黒猫がいた。
奇しくも、語り手は己が黒猫の首に縄を括って殺害したように、その首に縄がかけられて絞首刑となったのだ。
以上が、『黒猫』の大まかなあらすじである。
この作品を読んだ者はこう思うだろう。殺された黒猫が、地獄から蘇って語り手を破滅させた、と。
殺害された被害者が、犯人に復讐を果たしたのだと。
『なるほど。人間に殺されて、復讐のために蘇った猫……彼、彼女は殺害された被害者であり、被害者自らの手で犯人へと復讐をした。故に、クラスはアヴェンジャーか』
「ボク、性別はないのでお好きに呼んでもいいですよ。若干雄寄りですけど。でも、復讐した実感はないんです。“ボク”と後半に登場した猫が、同一猫であるとははっきり明言されていませんからね。でも、ごっちゃにされちゃっているので、イコールになっているみたいです。見てください、この胸元。本来のボクは、白い毛が一本もない黒猫だったんですよ。ごっちゃにされたから白い毛が出てきちゃったんです。ああ、でも……猫にあるまじき感情は、沸々と出てきますね。ボクを殺害した犯人へ、というよりは、
殺害された被害者が犯人を絞首台へと送り、復讐を果たした。その物語に登場する彼――雄寄りなので、彼と呼ぼう。彼は、「プルートー」という『黒猫』のキャラクターそのものでは非ず。
理不尽に殺された被害者は、犯人へ復讐をしても正当化されるという群衆の概念。ただの猫でも、悪魔の化身でもない。
永遠の「被害者」であり「復讐者」。
「プルートー」の小さな
「犯人に殺された被害者の黒猫が、何で今更になって出て来たの?」
「そうだ。君には色々と聞きたいことがあるんだ」
「あんまり一斉に質問されても答えきれないので、順番でお願いします」
「では、尋ねよう。おまえは俺と同じく、この特異点に召喚された野良サーヴァントだろう。クラススキルにより真名を忘却してはいないが、何故「役」に埋没されず本来の能力を行使できた?」
エドモンでさえ「探偵」の役を宛がわれ、後の探偵事務所となる場所のお膳立てまでされたスタート地点だった。が、彼はマスター不在の状況でも、犯人を告発する復讐者であり続けられた。
それは何故か?
「それは多分、ボクが猫だったからだと思います。人間には、「探偵」や「犯人」の役を演じられるけど、猫は猫しかできませんよ。ボクは人間にも変化できますけど、基本は猫なので」
「そうか。猫故に、適当な役がなく己を失わなかったのか」
「はい。忘却補正もしっかりありますよ。この街に召喚されてから結構経ちますけど、この前に二回目のクリスマスを経験しました。クロとかジジとかの名前をもらっておやつをくれる拠点も、何軒か発掘しちゃっています。この夏は三回目です」
「犯人を教えてくれる猫の声は君が?」
「はい、ボクの宝具です。『
「此度の役割において、「探偵」は伯爵だが」
「恐らく、この世界の“謎”を明かす者はマスターさんじゃなきゃ駄目なんだと思います。与えられた「役」ではなく、もっと、本質的な意味で」
「だからなのね、立香だけに猫の声が聞こえていたのは」
「初めて拝見した瞬間に、全身の毛がビビっときました」
「じゃあ、何で美天島の時は鳴かなかったの?」
「だって皆さん、急に長距離移動するんですもん。追いつけなかったです」
黒猫の瞳孔が一層細くなった。何となく責められている気がする。
「現場にいなければ、犯人が分かる訳ないじゃないですか」
「……え? まさか、いつも現場にいたの?」
「いました!」
杯戸町のショッピングモールの野次馬の中に(人間に変化して)。
偲ぶ会が行われていた紺野邸の塀の上に。
事件が起きた相馬邸の屋根の上に。
気付かれなかっただけで、立香たちが米花市にやって来てから遭遇した事件の殆どに居合わせていたのである。
「つまり、美天島において告発の声が聞こえなかったのは……」
「こいつが美天島にいなかっただけ、というのが真相だったのね」
「マジに考えたのが馬鹿みてぇ」
黒猫が現場にいなければ声は聞こえない。というか、鳴けないので聞こえるはずがない。真相が分かれば随分と簡単なことだった。
何だか一気に緊張の糸が切れてしまったような気がする。脱力してソファーに沈みそうになった。
曰く、
「猫の長距離移動手段はトラックの荷台だけです。行先は運任せですし」
とのこと。