犯人を告発する宝具は黒猫が事件現場に居合わせないと発動できない。安楽椅子探偵はお呼びではなく、探偵を名乗るならばしっかりと自分の脚を使えという、根性論的な探偵誕生宝具である。動機とかは丸投げしているけれど。
猫の声の正体は分かった。では、次の疑問。
当初からカルデアの存在を捉え、立香を「探偵」として権能を行使していた彼が何故今になってカルデアに接触して来たのか?
「ボク自身、よく分っていませんでした。この、セイハイセンソウ?に召喚されるのは初めてだったので」
「っ、そうか。幻霊!」
「そういうものだと思います。理解したのは、召喚されてからですけど。結構無理に召喚したのか、色々いじくられていますし」
『彼のステータスを見てみたけれど……これは、確かに色々別な概念を統合されているね。純粋な『黒猫』のみでは霊基が足りなかったようだ』
英霊に至れなかった存在。それが、幻霊。
その存在は、亜種特異点だった新宿で明らかになった。
黒猫プルートーは、本来ならば英霊にも反英霊にも届かない幻霊だった。虚構の存在であり、被害者で復讐者であるだけの猫はサーヴァントとして召喚されることはなかったのだ。本来ならば。
ダ・ヴィンチちゃんの言う通り、彼には色々と別な概念が統合され英霊に至るまでに霊基を補強されて召喚されたのだ。
「どうやら、伝承としての“黒猫”の概念がボクの中にあるようです。黒猫は不吉とか、魔女の使い魔とか。日本では幸運の象徴と言われていますね。そういうので底上げされています」
『黒猫は魔術的な関わりが深い。神性と魔性の両面を持つ伝承が統合されるとは考えたね』
「あと、シュレーディンガーの猫も入っています。ぶっちゃけ猫繋がりだけだと思います」
「適当!」
「サーヴァントとしての勝手が分からなかったのもありますが……貴方という「マスター」を信じて良いのか、見定める時間が欲しかったのもあります。主に裏切られるのは、やっぱり辛いです。
「……二回も助けてくれて、姿を現してくれた。俺は、君のマスターとして認められたのかな?」
「信頼してもいい人間だというのは分かったつもりです。置いて行かれるのは寂しかったと感じましたし。今度遠出する時は連れて行ってください! 猫ですから戦闘ではお役に立てませんが、鳴くことはできます!」
『ステータス的には、戦闘向きのサーヴァントとは言えませんね。やはり猫さんだからでしょうか』
「ヤバい。最弱の座が猫に脅かされるぜ……!」
「こだわるのね。最弱に」
「犯人」への復讐としての攻撃宝具もあるが、猫であるためか黒猫は戦闘向きのサーヴァントではない。むしろ、「犯人」と「探偵」の対立の
だが、どうして霊基を底上げしてまで、幻霊の彼が召喚されたのだろうか?
聖杯によって召喚された野良、もしくははぐれサーヴァントは、何らか理由があって召喚されたものが殆どだ。
ファヴニールを撃ち落とす
人類の叡智である電気に対しての
魔獣の女王が呪いを受ける前の
この特異点の抑止力として召喚された可能性があるが、当の本人(猫)に問いかけてみても縄の巻かれた首を傾げるだけ。よく分っていないようである。
仕方がない、猫だから。
猫の声は特異点攻略のピースの一つであることは間違いないだろう。しかし、それだけでは全の謎を解決することはできない。
『マシュ・キリエライト、治療中のミスター・ホームズから、特異点攻略の鍵となるワードを手紙で預かっています』
「俺も、モリアーティからの手紙で攻略に必要な
謎の妨害により通信で言葉を交わせなくなったため、モリアーティからの提案で先日から文通を始めた。
ベッドの上で認められた手紙には立香への悪影響を与える文面があったらしく、ホームズの検閲が入り所々が黒塗りになっていた。戦後の教科書か。
そんな黒塗りだらけの手紙の中で塗り潰されなかった一文。探偵を求める特異点の攻略のヒント。
世界を開く
立香とマシュの言葉が重なった。
ホームズからの伝言とモリアーティからの助言は一致していたのだ。
「この世界は一種の密室だ。閉ざされている。事件と犯人は積み重なるが、その後の行く末が存在しない。犯罪多重で発生した事件の犯人たちは探偵によって明かされ、逮捕されたが、どの事件も裁判が行われていない」
「それって、更生できないってこと?」
「ああ。「犯人」はいつまでも「犯人」のままだ」
探偵によって事件は解決され、犯人が警察に逮捕されても全てが終わりではない。犯人に対して裁判が待っている。
だが、犯罪多重現象が起きてから逮捕された犯人たちの裁判は、何一つ開廷していない。
裁判には時間が必要だ。始まるまでに年単位の時間がかかる。しかし、来年度への進行が妨げられている現状では、犯人たちに贖罪の機会が与えられないのだ。
栄我の裁判も、駒木の裁判も。駒木の犯行の原因となった、坂野の裁判も行われない。体感時間で十数年前の事件でも、“この前”の事件のままだ。
それはまるで、読み終わった本の頁が積み重なるが如く。
分厚い本は延々と終わらず、犯人を生産し続けて探偵は謎を解き続ける。終わりのない対立の輪廻だ。
「俺が召喚されたのは、閉ざされた世界への対抗のためだろう。
「ボクはそこまでの能力はありません。なので、別のサーヴァントがその能力を持っているのではないでしょうか? 多分ですけど」
黒猫とは別のサーヴァント。未だ姿の見えぬもう1騎。
残るピースは可能性が高いが、一体どこにいるのだろうか?
「それで、ですね……ボクは、契約をしていただけるのでしょうか? 初めての経験なので、ちょっとドキドキワクワクしています。猫だから幅も取りませんし、かさばりませんよ。探偵局のお仲間に入れてくれませんでしょうか?」
テーブルから下りた黒猫は、立香の足元でそわそわと行ったり来たりしている。けれども、ここに置いて下さいという懇願はロボに向かってしているので、この
「どうします、マスター?」
「勿論。俺たちには、君の声が必要だ」
旅の途中で出会った新たな
「告げる。汝の身は我の下に。我が命運は汝の剣に――聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば――我に従え! ならばその命運、汝が“声”に預けよう!」
魔術師と英霊の魔力パスが繋がるのを感じる。
謎を解き明かし、真実へ到達するための旅路に新たな復讐者を招き入れる。未だに行き先の分からない旅路であるが、彼の声に導かれてここまで歩いて来た。
きっとこれからも声で教えてくれるはずだ。
この物語の真実を。頁を終わらせるエンディングへの場面を。
「サーヴァント、アヴェンジャー。藤丸立香の誓いを受け、貴方を主と認めます。復讐者の声を、どうぞお使いください」
「わっ」
ひらりと、猫に相応しい身軽さで黒猫――プルートーは立香の身体を登り、肩に飛び乗った。
微かに喉をゴロゴロと鳴らす仕草は本当の猫のよう。「犯人」への憎悪を抱く復讐者ではあるが、本質的にはヒトを愛する獣なのだろう。
「よろしくお願いします。三毛猫よりお役に立ちますよ!」
アヴェンジャー、黒猫プルートーの意気込み
「内輪のイベントの際には、黒幕ボスの膝の上で可愛がられる猫役をやってみたいです!」