犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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女子高生探偵オルタちゃんの事件簿04

 立香の言葉で思い出した。

 そうだ、凶器や犯人ばかりに目を向けていて、現場に残った証拠に目を向けていなかったのだ。

 生徒たちは下校時間になってしまったが、教師たちはまだ授業の準備や仕事のために残業をしている。ご苦労様です。

 教師に頼み込んで校内に入れてもらうと、本日の被害教室へ向かったジャンヌだったが……そこには既に、先客がいた。ダンボールで応急処置がされた窓の正面、そこに世良が座り込んでいたのだ。

 

「世良さん。貴女、帰ったんじゃなかったの?」

「帰ろうとしたけれど、下足場で気付いちゃってね。オルタさんもだろう。割れたガラスに何かヒントが残っていないかって考えたんだろう」

 

 世良は処分されかけていた窓ガラスの破片を回収し、古新聞紙を広げた床の上にそれを並べていた。

 何か細工された形跡があるかもしれない。犯人が残した手がかりがあるかもしれない。ジャンヌも加わり、細かいガラスの破片を一枚一枚丁寧に観察し続ける。

 すると、同じことを考えていたのは彼女たちだけではなかったようだ。

 

「世良さん、オルタさん。やっぱりいた!」

「毛利さん」

「と、コナン君も!」

「職員室の先生が、他に2人も来ているって言っていて。2人とも、ご飯食べた? お弁当作ってきたんだけど」

「やった!」

 

 家に小五郎の分の夕飯を置いてきてから、蘭とコナンも学校に戻って来たのである。

 蘭手作りのお弁当の包みを開けば、世良は八重歯を見せながら喜んだ。中にはおにぎりや卵焼きが入っている。

 と、あと1人であるが……少し後に蘭の携帯電話へと着信があり、みんなで学校の教室にいることを聞くと、すぐに運転手付きの車に送迎されて園子もやってきた。

 

「もう! わたしだけ仲間外れはズルいわよ!」

「ごめんごめん。自然に集まっちゃったの」

「で、何をやっているの?」

「割れた窓ガラスを調べているの。ガラスその物に細工がされているんじゃないかと思って」

 

 軍手を嵌めた手でガラスの破片を拾い、新聞紙の上に並べるが特段異常は見られない。強いて言えば、掃除を怠っていたせいか少々薄汚れている。

 JKたちが一枚一枚をじっくり観察しながらガラスの破片を並べていると、ぶかぶかの軍手を嵌めたコナンがガラスの断面を眺めながら、それをジグソーパズルのように組み合わせ始めたのだ。

 

「何してんのよ、ガキンチョ。遊びじゃないのよ」

「ガラスの破片を元の窓ガラスの形に戻せば、何か見えて来るんじゃないかな~と思って。ほら、要らないピースが出てくれば、それが犯人へのヒントになるかもしれないじゃない」

「……っ、そうか! ボクもやる!」

 

 とても子供らしい無邪気な発想だが、窓ガラスジグソーパズルは果てしなく地道な作業だ。そもそも、外側に落ちて木っ端微塵になってしまったガラスもあるため、全部のピースが揃っている訳でもない。

 世良は何か気付いたらしく、コナンと共にガラスを組み立てる作業に入った。園子も、四苦八苦しながらガラスを探し始めた。

 しかし、やはり透明なガラス(若干の汚れあり)でジグソーパズルをするのは困難だ。次のピースは中々見付からないのである。

 

「こう、地味で疲れる作業をしていると、モチベーションが上がらないわね」

「なら、モチベーションを上げていこうぜ。恋バナとかしながらさ!」

「良いわね! それじゃあ、蘭と旦那の近況を……」

「え?」

「と思ったけど、ここはオルタちゃんから!」

「ええ?!」

「ちょーっと気になっていたのよね。オルタちゃんと藤丸さんの関係」

 

 蘭と新一へ恋バナの矛先が向けられてコナンが声を上げた。が、実際に指名されたのはジャンヌだった。

 恋バナ……JKの伝統的文化である。

 あの子と彼氏は最近どうだとか、〇〇部の先輩がカッコいいけど実は隣のクラスの子と付き合っているとか。ファストフード店やカフェや教室で行われる、甘酸っぱくてキュンとしてしまうJKライフの恒常的なイベントだ。

 それが自分に向かってくるとは想定外だった。しかも立香との関係が標的になった。

 

「フランスからの留学生JKと日本人大学生。探偵助手と探偵局の局長。一見すれば、何の接点もなさそうな関係よね。しかも、同じマンションに住んでいて、来日の際には日本を案内してくれるなんて!」

「関係って言われても、その通りとしか言えないわよ。探偵助手と探偵局の局長」

「本当に~?」

「本当! 恋人とか、彼氏彼女とか、そういう甘酸っぱい関係じゃないの。けれど……今、私がこうしているのは、立香がいるから。アイツが力を貸してくれっていうから、来てやったの。日本に来たかったのは本当だけど、最後に引っ張り上げたのは立香よ。責任はとってもらわないと」

 

 本来ならば存在しない聖女の別側面。「オルタナティブ」の名も相応しくない、望まれて作られた贋作の「ジャンヌ・ダルク」。

 最後まで足掻いた。消えたくないと、生きたいと。

 殺意と憎悪の胎の中で「復讐者」の夢想を与えられ、サーヴァントとして座に招かれたが……立香の記憶に「ジャンヌ・ダルク・オルタ」という存在が刻まれたからこそ、彼女は今ここにいる。

 微かにでも存在したものは“なかったこと”にはできない。例え作り話でも、聞いた者の記憶には残ってしまう。想像から創造されたモノを簡単に消失させることは不可能なのだ。

 だから、彼女は立香のためのサーヴァント。

 引っ張り上げた藤丸立香というマスターに勝利をもたらすために、彼女はここにいる。それは男女の仲の一言片付けられるものではない。ましてや、恋バナで語りきれるものではないのだ。

 

「立香さんのことを大切に思っているのは、本当なんだね」

「え……」

「見れば分かるよ。オルタさん、いつも立香さんのそばにいるもの。恋人とかじゃなくても良いよね、あんな関係」

 

 それは、マスターとサーヴァントという関係性であるが故だ。だが、蘭にはそう見えていたらしい……大切な人への視線。眼差し。そばにいるだけで分かる2人の間の空気。

 こう書けばどこか気恥ずかしいが、立香とジャンヌの間には、普通のマスターとサーヴァント以上のナニかがあるのは確かだった。

 潜入捜査の一環として帝丹高校へ編入してきてから交流のある彼女――毛利蘭は、不思議な少女であった。

 お人好しで善良で、だけど連絡のない恋人への不満も憤怒も隠すことはない。人間としての美徳を持った者。ジャンヌが最も嫌悪していた人間のはずなのに……彼女と「友達」になれて喜ばしいと感じる自分は、あのマスターに毒されているのだ。絶対に。

 

「ねえ、ジャンヌちゃんって呼んでも良い?」

「オルタが良い。私、貴女に「オルタ」って呼ばれるの、好きなの」

「本当? ありがとう。オルタちゃん!」

 

 ジャンヌと蘭の距離が縮まった中、苦笑いをしながら黙々と証拠品を調べているコナンがナニかを見付けた。同時に、ジャンヌも彼と同じモノを見付けたのだ。

 

「このガラスの欠片、何か変じゃない?」

「これって……っ! もしかして」

 

 2人の手にあったのは、一見すれば何の変哲のないガラスの欠片。小綺麗なそれが、犯人が残した証拠だったのだ。

 

 

 

***

 

 

 

 あと一回。あと、一回だけ。何度もそう思いながら、結局四回も“犯行”に手を染めてしまった。

 昨日は駄目だった。だから、もう一回だけ。これで最後にするから……ポルターガイストはこれで最後だから。

 そう自分に言い聞かせながら階段を上り、凶器の入った紙袋をギュっと握り締める。鍵を開けて誰にも目撃されないように犯行現場に向かえば、そこでは昨日訪ねて来た彼女たちが待ち構えていた。

 事件を調べていた探偵たち。少女たちは犯人を前にして、真っ直ぐに指差したのだ。

 

「待っていたわよ、犯人君。いえ……写真部の真野貴葵!」

 

 大きな紙袋を手に屋上へやって来た真野は、ジャンヌを始めとしたJK探偵団たちから犯人と告発された。

 帝丹高校で発生している、ポルターガイストの如き窓ガラス連続破壊事件。本日、五度目の犯行が犯人である真野の手で行われようとしていたのだ。




つまり、だいたいマスターのせい。
誰が犯人を名指しするかを4人の中で話し合い、証拠を発見したジャンヌに白羽の矢が立った模様。


・美作蓮(16)
帝丹高校1年生。美術部所属。巨大な水墨画制作のため、三階の空き教室で連日作業をしていた。
「美術」と「蓮」

・隅本杏子(15)
帝丹高校1年生。図書委員会。図書資料の管理バーコード貼り付けのため、当番じゃなくても三階の図書室にいた。
「本」と「杏」

・真野貴葵(15)
帝丹高校1年生。写真部。三階にある部室とその隣の暗室替わりの教室でフィルム写真の現像をしてた。犯人?
「写真」と「葵」
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