「ぼ、僕が、犯人、って……証拠! 証拠はあるんですか?」
「証拠はキミが今、持っているんじゃないかな。窓ガラスを割った凶器である、
世良に指摘され、目に見えて動揺した真野は持っていた紙袋を落としてしまった。中からは「ガチャン」と音がする。
蘭が拾って中を覗けば、世良が言った通り、釣り糸で何枚も束ねられた大きめのガラスの破片が入っていたのだ。
「あったよ、ガラスと釣り糸!」
「それが凶器さ。三階の窓ガラスが割れた時、誰かが地上から何かを投げて割ったのかと思ったけれど、違ったんだ。凶器はこの
必要な物は、屋上の合鍵を除けば三つだけ。
・数枚のガラスの破片
・メートル単位の長い釣り糸
・脚立(元々屋上の入り口横に置いてある)
まず、ガラスの欠片を釣り糸で束ねる。この時、ガラスは同じ形・大きさに統一し、束ねた時に大きな塊になるようにする。釣り糸が引っかかる切れ目などを入れておくとなお良い。
釣り糸は屋上のフェンスの天辺から三階の窓に届く、数mほどの長さが必要だ。ガラスを束ねてから伸ばしておく。
脚立に乗って標的の教室の真上のフェンスに釣り糸をしっかりと結べば、後はその状態でガラスの塊を宙に放り投げればいい。
「ガラスの塊は振り子の原理で確実に窓に命中する。相当な長さの釣り糸を用意していたみたいだし、結構な威力になったはずだ。ガラスの塊は衝撃で割れて窓ガラスの破片と混ざってしまったから、凶器が発見されなかったんだよ」
だけど、よくよく調べてみれば破片の山の中には二種類のガラスが混ざっていた。コナンとジャンヌが発見したのは、掃除を怠っていたはずの薄汚れた窓ガラスと比べて、汚れのない綺麗なガラスの破片だったのだ。
オマケに、根気よく窓ガラスジグソーパズルを組み立てていくと、綺麗なガラスの破片は余ったピースになってしまったのである。
「キミはガラス工芸が趣味と言っていたね、ガラスの加工は得意なはず。そして、犯行現場であるこの屋上への入り口の階段は写真部の部室のすぐ隣。三階にいればどの教室が無人かも分かる。ガラスが割れた後は、釣り糸を回収するだけだ」
釣り糸を回収して屋上から脱出したら、何食わぬ顔で事件現場に顔を出して割れたガラスを確認するだけ。それを四回。本日、未着手の犯行を含めれば五回も窓ガラスを割ろうとしていたのだ。
「でも……結局、犯行動機は分からなかった」
「何でこんなことしたのよ? やっぱり、事件のスクープ写真が欲しかったの?」
「ち、違います。僕は……」
「数美先輩でしょ」
「っ!」
「数美先輩が動機だったのよ」
「ええ?!」
ジャンヌにそう言われると、真野は顔を真っ赤に染めて更に俯いてしまった。反応を見ると、その通りのようである。
数美が動機で、五回も窓ガラスを割った・割ろうとしたと言うのか。
「不躾ですけど、写真部の暗室を覗かせてもらいました。貴方が現像していたというフィルム写真、写っていたのは数美先輩だったわ。それに、部室に飾ってあった手作りのガラスの額縁、数美先輩の物だけが明らかに力作よ。貴方にとって、塚本数美は特別な存在。そうですね」
狡いかもしれないが、昼休みにこっそり霊体化して部室に忍び込んだのだ。これぐらいは、持てるスキルの活用範囲内だ。
現像を終えて乾かされていた真野の写真の被写体は、全て数美だったのだ。
それも、ただの写真ではない。制服姿で、ジャージ姿で、窓ガラスの割れる音を耳にした彼女が事件現場へと駆ける写真だったのだ。
「窓ガラスが割れた教室へと駆け付けた、戦乙女のように凛々しくも鋭利な視線をしたその構図……アレが撮りたかった、見たかった。
「……そうです。最初は、春の大会でした」
ステンドグラスのように色ガラスを張り合わせた、華美でも品の良いガラスの額縁。それに飾られている一枚の写真が事の発端だった。
卒業アルバムの写真撮影のため先輩に連れられて空手部の試合を観に行った真野は、レンズ越しに捉えた数美の眼差しに惹かれてしまった。日本刀が放つ光のように眩く鋭く、心臓に突き刺す殺気を孕んだその視線……ジャンヌの言葉の通りだ。殺気立った数美に魅せられてしまったのだ。
だが、数美は主将を蘭に譲り、受験のために大会に出ることはなくなってしまった。あの視線を見ることができない、でも、もう一度見たい。撮りたい。
悶々と苦悩する真野だったが、また見ることができてしまった。先月、図書室に虫が侵入した時に、数美が颯爽と駆け付けたのだ。
「塚本先輩が図書室の虫を追い払った時、試合中と同じ目をしていました。もしかしたらと思って、窓ガラスを割る事件を起こしてみたら、やっぱり塚本先輩はあの目で駆け付けた……撮って、撮って、でももっと撮りたくなってしまって」
「昨日はちょっとしたトラブルで彼女は現場には駆け付けなかった。だから、もう一度窓ガラスを割ろうとして、この屋上にやって来たのね」
「そっか。オルタちゃんが、屋上で待ち構えていればやって来るって言っていたの、そういうことだったんだ!」
「悪いことだとは思っていました。でも、止められなくて……もっと、先輩を見たいって」
「故意に窓ガラスを割るのは犯罪よ。下手をすれば怪我人だって出ていたかもしれないの! 君が数美先輩を想う気持ちは本物かもしれないけど、犯罪に手を染めて欲しいものを手に入れても、君が苦しむだけよ!」
「……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。僕、自首します。先生たちに話して、警察にも」
蘭の言葉で、真野は完全に泣き出してしまった。
いくら惹かれても、心を囚われても、やってはいけないことの境界線がある。真野はその境界線を飛び越えてしまい、後には戻れなくなってしまったのだ。
その後、真野は素直に自首をした。警察に届けることはしない結論となったが、器物破損の罪に当たるのは間違いない。停学と夏休みの補講増加の処分が下されることとなった。
ちなみに、何故窓ガラスを割るという犯行を思いついたのか?
真野は、現在進行形で世間を騒がせている大渡間町商店街の事件をニュースで見て思い付いてしまったと言った。あちらの事件は、商店街の再開発に伴う不動産会社が行った嫌がらせであったと分かるのは、また後のことである。
「Case Closed.これにて解決だ」
「JK探偵団に、解けない謎はないってね!」
「園子は特になにもしてないでしょ」
「推理クイーンも調子が悪い時があるのよ。今回は、あのふにゃ~って眠気が来なかったのよね」
大団円とは言えない結末になってしまったが、これでポルターガイストは二度と起こらない。
図らずとも犯行の動機になってしまった数美は、真野の想いを知ることもないだろう。彼は彼女への想いを告げないと、職員室へと向かう道中で漏らしていた。
眩しく真っ直ぐで純粋で、だからこそ前が見えなくなって境界を飛び越えてしまう。曖昧で不安定、大人ではないし子供でもない。
混沌たる立ち位置に存在する高校生たちが道を誤るのは、嘆き哀しむ事態ではあるが……その不安定さは、不完全だからこそ、どこか愛おしくなるのかもしれない。
「帰りに何か食べて行こうよ」
「じゃあ、久しぶりにラーメン小倉に行きましょう」
「オルタちゃんは初めてだよね。『マジで死ぬほどヤバい』って看板のお店なんだけど」
「見たことあるけど……え、本当にヤバいの? 死ぬの?」
「それは、食べてからのお楽しみ。さ、行こう!」
ここは積み重なる
読み終わっては重なり、また書かれて読まれて重なり、終わりは見えない。見えないのならば……この愛おしさと共に、享楽に更けるのも悪くはない。
今を全力で楽しむのが、高校生というものだ。
オルタちゃんの潜入捜査……否、女子高生生活は、まだまだ続く。
閻魔大王ラーメン美味しかったってさ!