犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。


カルデアVS怪盗キッド01

 曇天の空に一閃の雷霆が走る。

 古の館に落ちる自然の怒りによって木々は轟々と騒めき、妖し気な夜を彩った。

 

「さあ、魔法の玉よ……答えなさい」

 

 真円を描く水晶の玉が浮かぶのは、四隅が金のコブラによって装飾された台座。それは磁力や浮力などの科学的なトリックで宙に浮いているのではない、その玉は魔力を纏っていたのだ。

 魔法の玉は魔女の問いかけに答える。彼女が求める絵を、求める未来を、彼女が語る人物の末路を。

 玉に映ったのは、宇宙に浮かぶ惑星のような丸い光であった。だがそれはすぐに消え去り、丸い光の中から浮き出て来たのは翼を広げた盾のような赤い紋章……人間に通う血潮の如き赤、紅いその紋章は血が滴るようにドロリと溶け、白き舞台衣装を穢した。

 闇夜に映える真っ白なシルクハットが紅く染まる光景。それは、彼の白き罪人の死を予言していたのだ。

 

「こ、これは……!?」

 

 

 

***

 

 

 

 それは、終業式の前日だった。相談したいことがあると、園子によってジャンヌとサリエリが毛利探偵事務所の一階にある喫茶店に呼び出されたのは。

 

「コンサートの依頼か」

「はい。来週の金曜日に、『ベルツリープラネタリウム』って言う施設のオープン記念イベントが行われるんです。けど、当初お招きするアメリカのピアニストの方が、向こうで事故って来日できなくなってしまいまして。そこで、サリエリさんのことをうちの母に教えたら、気に入ってしまったみたいで。正式なお願いは後で母からいきますが、コンサートの代打を引き受けてくださいませんでしょうか?」

 

 テーブルの真中にある『ベルツリープラネタリウム』のパンフレット。『喫茶ポアロ』名物の半熟ケーキを食べ終わったサリエリは、それを手に取った。

 東京の新名所である『ベルツリータワー』の近辺に新しく、鈴木財閥の私設プラネタリウムがオープンする。そのためのオープニングセレモニーがちょっと困ったことになっているのは、先ほど園子が語った通りだ。

『ベルツリープラネタリウム』。パンフレットの内容によると、プラネタリウムの機能だけではなく、星の演出と共にコンサートや演劇を演出したり、時には施設の天井を全開にして自然の星空を眺めることもできる都内の癒しの場所となるらしい。

 

「当日のコンサートは、そんなに硬い物じゃなくて、ゲストの方をお招きしてちょっとしたパーティーみたいなものです。パーティーでは、旬のフルーツをたくさん使ったスイーツを出す予定なんですよ! オルタちゃんから聞きました。サリエリさんは甘い物に目がないって」

「スイーツ……」

「揺らいでいるわね」

「それに、当日はキッド様もいらっしゃいますし!」

「キッド様?」

「あれ、もしかして新聞、見ていない?」

 

 蘭の言葉で思い出した。そうだ、本日の朝刊全紙にデカデカと挑戦状が載っていたではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見開き全部を使用したタイトルは、紳士的かつ大胆に、挑発的に。何度目か分からない白き怪盗への挑戦状は、次の金曜日の『ベルツリープラネタリウム』での決闘の誘いであった。

 

「『21世紀最大の奇跡、最も新しきビッグジュエル『星の涼風(ホープ・ブリーズ)』を手中に収めたくば、『ベルツリープラネタリウム』のオープニングセレモニーに来られたし。星の輝きに魅せられ、手を伸ばし新時代の風の制裁を受けるがよい。鈴木次郎吉』……これって、毎回やっているの?」

「原点回帰のようです。最近は、ネットやテレビでの挑発もありましたが、最初の対決では新聞で叩き付けていました」

 

 怪盗1412号、通称・怪盗キッド。

 約18年前にパリで初めてその姿を現したと同時に、世界を又にかけて貴重な美術品や宝飾類を盗み去って行く怪盗……つまり、泥棒である。

 その手口は、神出鬼没、変幻自在、豪華絢爛。警察、警備を手玉に取り、犯行現場をマジックショーの舞台と錯覚してしまうほどに鮮やかに華やかに“魔術”を行使する。怪盗にして天才的な奇術師。闇夜に映える真っ白な姿は、さながら舞台衣装だ。

 世界各国に激しく敵視している者たちがいる反面、狂乱と幻想の偶像として信望する根強いファンも存在している。彼らには月下の奇術師を異名として親しまれていたが、復活してからはこの名も広まっているようである。

 平成のアルセーヌ・ルパン―――

 

「現代のシャーロック・ホームズに、アルセーヌ・ルパン。そういえば、小学校の頃、図書室で『ルパンVSホームズ』っていう小説を呼んだことがあったな。その頃は、ホームズと敵対しているのはルパンだと思っていたけれど、実際は作者も違うんだよね」

『ホームズシリーズの作者はコナン・ドイル。ルパンシリーズの作者はフランスの作家、モーリス・ルブランです。ルブランはミスター・ホームズをモデルに、ルパンと敵対する探偵を創作しました』

『おっと、ここはフランス出身のオレに説明させてくれ! ルパンを追う探偵の名は、エルロック・ショルメ。シャーロック・ホームズのアナグラムの通り、当時大人気だったホームズに肖った登場人物だ。だけど、他国ではまんま『ルパンVSホームズ』と訳されることが多い。そっちの方がネームバリューがあるからな』

 

 こういうのを、「パスティーシュ」と言う。自国の代表作ということで、通信越しのムニエルが饒舌に説明してくれた。

 つまりは模倣作。ドイル亡き後も、全世界のファンたちによって「ぼくが考えた最強のホームズ」と言わんばかりの小説が発表されることもある。それもこれも、「シャーロック・ホームズ」が名探偵として有名すぎるからだ。カルデアに召喚されているホームズの霊基にも、ルパンと敵対したパスティーシュが混ざっている可能性もある。

 人々の記憶の中では、ルパンVSホームズという図式が色濃い中で、この米花市では平成のアルセーヌ・ルパンと敵対するのはまだホームズへ至らない者だ。彼は、小学1年生にしてキッドキラーと呼ばれているらしい。

 鈴木次郎吉が怪盗キッドへ挑戦状を叩き付け、対決が終了すれば紙面を賑わせるのは怪盗キッドを撃退したという少年――江戸川コナンなのだ。

 

「怪盗キッドによる被害総額は、先日の発表では387億2500万円。世界各国を賑わせ、約8年間の空白の期間を経て再び世に姿を現した。現在は日本を主に活動しており、ビッグジュエルと呼ばれる大粒の宝石に狙いを定めている。鈴木財閥相談役、鈴木次郎吉は個人的な執着により、自らの財によって集めた宝石を餌に打倒・怪盗キッドを掲げている……と」

「対決の時はいつも賑わっていますよ。予告状が出た現場は、いつもファンでいっぱいです。ただの派手な泥棒かと思いきや、悪者に奪われた宝物を元の持ち主に返すために盗んだり、宝物の所有者の犯罪を暴いたりと、義賊の一面もあるようです。最近は、盗んでもお目当ての宝石ではないからと言って、盗んだ後に返しています。何が目的なんでしょうね~?」

 

 テーブルの上に広げた新聞の上でプルートーが顔を洗った。雨が降るかな。

 彼が召喚されてからも、怪盗キッドの予告状は何度か送られてきたらしい。しかし、どの宝石も懐に収めずご丁寧に返却している。宝石以外の獲物を予告した場合は、持ち主の罪が表沙汰になることが殆どだった。

 

「今まで盗まれた物は、インド最大のサファイア、ブルー・バースデー。ヨーロッパ最大のトパーズ、クリスタル・マザー。世界最大のエメラルド、グリーンドリーム。クレオパトラの化粧箱。マリー・アントワネットの魔除け石のキャッツアイ、ゴールデン・アイなど……」

「それって、触媒じゃね?」

「あーー! 黒猫を名乗る怪盗がいました。パクりです! 元祖はボクです!」

 

 怪盗キッドだけではなく、世界中に怪盗が存在しているようだ。まあ、探偵がそこら中にいるのならそれに敵対する犯人もそこら中にいる。その中に名の通った者がいても不思議ではない。

 しかし、怪盗を名乗る彼らは一介の犯人とは違い、時には人々の味方になるダーク・ヒーローのような立ち位置にいるようだ。

 

「怪盗キッドが狙っているっていう宝石って、一体何なんだろう?」

『……怪盗キッドと名乗る盗人風情が、何を企んでいる』

「目当てのビッグジュエルを探しているんじゃ?」

『たわけ。世界最大、国家の秘宝、偉人の愛した宝。雑種にとっての財宝に見向きもせず、それだけを狙い盗る奴の餌が、()()()宝石である訳がなかろう』

()()()宝石ではない……」

 

 カルデアとの通信で現れたギルガメッシュの言葉で考え込む。アーチャーではなく、キャスターの方だ。

 確かに、盗まれて返却されたビッグジュエルはどれも世界的な宝だ。いくら目当ての宝石ではなくても、思わず懐に入れてしまいそうになる蠱惑的な輝きに一切魅了されていない……つまり、怪盗キッドが求める宝石は、それら以上の価値があるということだ。

 

『雑種の餌として用意された宝石とはどのような物だ』

「世界最大のグランディディエライト、『星の涼風(ホープ・ブリーズ)』」

 

 それは、古の時代よりもたらされた最も新しい財宝である。




数あるビッグジュエルの中の一つを月にかざすと、宝石の中にある命の石パンドラという、不老不死に至るための秘宝が見付かるらしいんスよ。
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