犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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カルデアVS怪盗キッド05

「出たな、怪盗キッド!」

「キャーー! キッド様キターー!!」

「喜んでいる場合じゃないでしょ、園子!」

 

 警察や探偵に取り囲まれたど真ん中に姿を現した怪盗キッド。

 羽交い絞めにしていたヘシアンの両腕には、偽立香が着ていた新品のシャツを着たバルーンのマネキンがある。先ほどの煙の中で入れ替わっていたようだ。潰されてバチンと破裂する。

 しかし、立香に変装して会場に潜り込んだは良いが、彼は『星の涼風(ホープ・ブリーズ)』に近付いてはいない。一体どうやって風船群を割り、全ての風船の中に偽物の宝石を入れたのか?

 その答えは既に出ていた。随分と手の込んだことをしたのだと感心もしてしまった。

 

「小学生の理科の実験と同じだよ。風船にオレンジとかレモンとか、柑橘類の果汁を振りかけて一斉に風船を割ったんだ」

「あの風船にはマジックの仕込みがされていた。透明に見せかけた風船と、宝石のプリントがされた風船が()()に膨らんでいたんだ。さっき割れたのは外側の風船のみ。柑橘類の香りを誤魔化すために、園子ちゃんのママを装ってオレンジやレモンを中心としたメニューを用意させたんだろう」

「そして、エアコンの風に乗せ、柑橘類の果汁を風船に振りまいていた。柑橘類に含まれるリモネンは、風船を始めとしたゴム製品を溶かす作用がある。時間とリモネンの分量を計算し、カードを合図に突如破裂したように見せかけた。現場を混乱させ、その隙に未だ天に座する『星の涼風(ホープ・ブリーズ)』を手中に収めるために」

 

 落ちて来たカメラは、他の風船の外側が割れた際に落ちて来たダミーだ。恐らく、本物の『星の涼風(ホープ・ブリーズ)』に仕込まれたカメラも、二重構造風船の内側に仕込まれていたため、まだ風船の中にあるはず。

 コナンと世良、そしてエドモンがマジックの種を明かすと、キッドは口元に微小を浮かべながらパチパチと賞賛の拍手を送った。少々嫌味臭い。

 

「ご名答。どうにも、風除けの加護を授けてくれる女神に嫌われているようでしてね」

 

 冗談交じりにそう言ったキッドの手にはトランプ銃。中森警部の怒声を尻目に天へと銃口を向けて引き金を引くと、先ほどと同じく、センサーに触れたトランプが強風装置を発動させたのだ。

 

「こ、この……キッ、ドぉぉぉ!」

「これにて失礼しますよ、中森警部!」

 

 吹き荒れる強風が中森警部の行く手を阻み、キッドは体勢を低くして彼の横をすり抜ける。向かうは宝石の元……ではなく、風除けの加護を持つ者の元だった。

 

「おめーカッコ付けているけど、結局は強風装置の攻略法が思い付かなかっただけじゃねーか!」

「だからこうして、先に停止スイッチを盗みに来たんだよ」

「この……っ、え?」

 

 コナンの腹部に装着されている停止スイッチにキッドの手が伸びるが、コナンの身体が背後に転倒した。まるで誰かに足首を掴まれて引っ張られたかのようにバランスを崩したため、キッドの手が空振った。

 誰かが背後にいようが影の中にいようが関係ない。この好機にと、時計型麻酔銃を構えてキッドに針を発射したが、風で麻酔針が流されて軌道がずれ、キッドのモノクルに当たって弾かれてしまったのだ。

 

「予定変更だ。屋根を開いてくれ!」

 

 キッドが通信機越しに誰かへそう指示をすると、ロックされているはずの屋根が開き始めた。

 最初のカードの射出といい、キッドの協力者までもがこの会場に潜入していたのである。

 

「馬鹿な、強固なロックをかけていたはずじゃ!」

「ええ。今回のマジックの仕込みで、最も手を焼きましたよ」

 

 今度は手首からワイヤーを射出して開き始めた屋根に引っ掛けると、キッドは天へと上って行く。風船は浮力に逆らえずに、開いた屋根の隙間から夜空を目指してふわふわと逃げ出した。

 その中で、明らかに速度が遅い風船があった。物量が重いので他よりも浮力を発揮できないその風船が、本物の『星の涼風(ホープ・ブリーズ)』が入っている風船だ。

 その風船を掴んで割ってしまえば、怪盗の手にビッグジュエルが収まったのである。

 

「予告通り、『星の涼風(ホープ・ブリーズ)』は頂きましたよ!」

 

 星の輝きに劣ることもない古の輝きを月の光にかざすと、内部の気泡や不純物によってもたらされた小さな星雲が現れる。違う、これもまたキッドが求めている宝石ではない。

 後は、いつものお約束通りハンググライダーを開いてそのままトンズラ……したように見せて、ダミーの人形をハンググライダーで飛ばし、本物のキッドは『ベルツリープラネタリウム』の周辺に集まっていた野次馬に紛れて逃げる。

 そろそろこの手もマンネリになって中森警部に通用しなくなってきたので、念には念を入れて、一足先に脱出した仲間に複数のダミーを飛ばしてもらう。

 

「白馬がイギリスに行っているってのに、また別な探偵が増えやがったなー……何なんだよ、カルデアとかいう奴ら」

 

 タイミングが良かったので、あの藤丸立香という青年に変装した。風船攻略のために用意した柑橘類が彼のそばにいた猫や犬を追い払ったのが偶然にも良い方向に動いたし、コナンとも親しそうだったからだ。

 しかし、まさかあそこまで殺気立って囲まれるとは思わなかった。羽交い絞めにしてきたヘルメットの大男からよく逃げ出せたものだ……()()()()()()手を緩めた隙に、キッドは逃げ出したのだ。

 

「―――グルルルルル」

「……え?」

 

 キッドのコスプレをした群衆に紛れ、まんまと人気のない場所まで逃げ果せた彼――快斗の背後から、更なる殺気が迫っていた。

 聞こえたのは獣の唸り声。そういえば、次郎吉の愛犬であるルパンの姿は見たが、あのロボとかいう大きな犬はどこに行ったのかと、フと頭の隅を過って振り向けば……そこには、全長3mを超える化け物のような大きさの犬?狼?がいたのだ。

 

「ワォォォン!!」

「ななななな、何だコイツ! 化け物!?」

 

 凡そ人間界に存在しているとは思えない化け物サイズの敵の登場は、流石の怪盗キッドでも相手にできない。

 雄叫びを上げて快斗に襲い掛かってくる暫定狼から逃げ出すが、相手とは機動力が違う。あっと言う間に追い付かれて牙の餌食になりかけたその時、快斗と狼の間に紅い炎の壁が出現したのだ。

 快斗が仕込んだ奇術ではない。この炎は見覚えがある……あれは、紅子が描いた魔法陣から出現したものと同じ魔術だ。

 まさか、とは思ったが、魔女を自称する彼女に助けられたことは一度ではない。内心で「サンキュー」と感謝を述べて逃亡したが、狼は易々と炎の壁を飛び越えてやっぱり襲って来た。

 

「ええぇぇぇぇ?!!」

「ワォォォン!!」

 

 

 

***

 

 

 

 ザラりとした感触が頬を撫でた。まるで紙やすりのようにザラザラするそれは、どうしてか湿っている。生温かい。

 何度も何度も、立香の頬を撫でて撫でて……痛い。

 

「い、痛い……温い……みかん臭い……っ」

「お目覚めですか、マスター」

 

 立香が目を覚ますと、目の前にプルートーがいた。どうやら彼に頬を舐められていたようである。猫の舌はザラザラしている……そりゃ痛いはずだ。

 あれ、いつの間に眠ってしまったのだろうか?

 確か、オレンジジュースがかかってしまったシャツを着替えるために、仮眠室のシャワーを使わせてもらうはずだった。だが、立香のシャツは濡れたまま。オレンジ臭い。

 立香は仮眠室のベッドで眠っていたようである。そうだ、仮眠室に入ったら急に眠く……。

 

「怪盗キッドがマスターに変装して会場に潜り込んでいました」

「ええ?!」

「マスターが帰って来たのに、魔力パスが遠いままでしたからね。復讐者たちは(みんな)気付きました。大変怒っていましたよ。特に伯爵が」

「俺に変装したキッドは大丈夫?」

「あの場では、人目がありすぎるため何もできません。なので、()()()逃がして狼王に復讐者たち(みんな)の憎悪を任せました。でも、殺しはしません。「殺すな」とマスターに釘を刺されていますし、ここで「犯人」になってしまってはお終いですから」

 

 マスターに釘を刺されているから我慢できたけど、「殺すな」と言われてなかったら我慢できなかった。

 復讐者たちの憎悪と憤怒を寸でのところで押し留めたのは、立香の言葉とこの特異点の異常性だった。ここで殺人やら暴行やらの「犯罪」に手を染めれば、「犯人」となり探偵たちの絶対的な敵となってしまう。それだけは避けなくてはと、彼らは枯れることなく湧き出て来る憎悪を押し留めたのだろう。

「探偵」の立ち位置にいる自分たちが「犯人」となってしまったら、特異点の修復は叶わないから。

 エドモンが付き添うと言ってきた時、断らずに一緒に来てもらえばよかった。

 アンリマユをコナンにつけてしまったばかりに、1人で行動してしまったがために、こうやって眠らされて入れ替わられてしまったのだ……反省しなければ。

 自分の軽はずみな行動で、警察まで混乱させてしまった。

 

『……パイ、……セン……先輩!』

「っ、マシュ?」

『良かった、繋がった! さっきから通信が妨害されていて、こちらから立香君たちの状況が確認できなかったんだ。ビックリしたよ、急に魔術的な反応が大きくなったからね』

『こちらではほんの数十秒の阻害でしたが、先輩たちの体感時間ではもっと経っているはずです。何かありましたか?』

「うん……お説教は、帰ってから受けます」

 

 尻尾が左右にぶんぶん揺れるプルートーに案内されて展示スペースに帰ると、中森警部を始めとした警察官たちがバタバタと動き回っていた。自分に変装したキッドが『星の涼風(ホープ・ブリーズ)』を盗んで逃げたらしい。

 とても申し訳なくなってしまう。

 

「立香!」

「無事か?」

「うん。眠っていただけみたい」

「何で単独で行動したのよ!」

「ごめん、ジャンヌ。帰ったらお説教でも何でも聞くよ……ところで、ロボは?」

 

 ロボの姿を探して辺りを見回すと、息を切らした警察官が、キッドの靴を咥えた犬がやって来たと中森警部に報告しに駆け込んできた。

 巨大な犬サイズのロボが靴……ではなく、脚を一本咥えてやって来た。履いているのはキッドの物と同じ白い革靴とパンツだ。

 一瞬、蘭や園子の悲鳴が上がるが、本物の脚ではない。へし折れたマネキンの脚である。決死の攻防戦があったのは、想像に容易い。

 更に、マネキンの脚にはスカーフが一枚巻かれていた。その中には盗まれたはずの『星の涼風(ホープ・ブリーズ)』と、一枚のカードが入っていたのだ。

 

「『お目当ての宝石ではなかったので、お返しします。怪盗キッド』……ま、まさかこの犬が?!」

 

 結果的には怪盗キッドから宝石を取り戻した。一体どうやって取返し、キッドはどうなってしまったかは、復讐者たちが譲歩した憎悪の彼方である。

 そして、明日の朝刊の一面が『お手柄!ロボ君!』になりそうだったのを、本人(人?)の意向で必死に辞退したため、やっぱりキッドキラーが一面を飾ったのだった。




ここが米花市で、復讐者が「探偵」で、マスターが釘を刺していて命拾いしたな!
信頼して「殺すな」と言ったマスターの言葉を厳守するのが、狼王なりの信頼への応えである。


Q.主人公って毒耐性があるのでは?
A.毒は毒、キッドが使った睡眠ガスは薬という分類のため、薬は効くと線引きして判断しました。薬が毒になるのは、使う馬鹿のせいだ。

Q.何故マネキンの脚が?
A.ルパンの脚に手錠がかかった時の逃亡方法的なアレです。種も仕掛けもあるけど仕組みは分からない。

Q.通信妨害は紅子様の赤魔術?
A.ロボへの妨害だけではなく、カルデアの通信にも妨害作用が働いたようです。

Q.コナンは哀ちゃんに、快斗は紅子様にもうちょっと労りというか感謝を直接伝えた方が良いのでは?
A.まったくその通りです。

ちなみに、命辛々逃走した快斗はボロボロになりながら警察の検問を突破し、明け方に帰宅。
朝になると『ベルツリープラネタリウム』に行こうと言う青子に叩き起こされたそうです。
ぐだ男は四方八方から怒られた。
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