犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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実は、事件現場になったショッピングモールって3年前まで巨大観覧車があったそうなんですよ。
円卓の騎士云々な犯行声明が届いて爆発されたから解体したそうです。


杯戸町ショッピングモール死体転落事件05

「エドモン! 本当に解決しちゃったんだ」

「なあに、立香の手柄だ」

「俺の?」

「おまえが、あの女が犯人だと告げた。俺はおまえの言葉を信じて、朝村葉子だけを一挙一動観察していればいい。犯人ならば世界の理に逆らえず自然と綻びを見せるはずだ」

 

 エドモンは一仕事終えたといわんばかりに丸眼鏡を外し、随分と凶悪な微笑みを向けた。眼鏡をいじる仕草は随分と様になっていた。

 

「で、なんでアンタはここ(特異点)にいるの?」

「説明のためにも移動するか」

「……マスター、長居は無用のようだ」

「君!」

 

 サリエリには聞こえてきた、どっしりとはしているが軽やかな音が。事件の早期解決の歓喜に満ちた目暮の足音がこちらに近付いていた。

 

「君のお陰で事件が解決できた。礼を言う。エドモン・ダンテス君だったかな」

「これはこれは。捜査一課のジュール・メグレと名高い警部殿から頭を下げていただけるとは、オレの探偵稼業も幸先良いな」

「ねえねえ」

 

 目暮よりも低い位置からエドモンを呼びかける声が聞こえた。

 犯人を証明する証拠を見つけたときと同じ、子供特有の良く通る甲高い声の持ち主である少年がこちらを見上げていた。

 

「お兄さんも探偵なの?」

「そういうおまえも探偵なのだろう。江戸川コナン……名探偵の生みの親たちと同じ名前を持つおまえも」

「どうもありがとう。ボク、お兄さんと同じ名前を聞いたことがあるんだ」

「おまえがそれを言うか。物語の登場人物や偉人から名前を賜るなど、珍しいことではあるまい」

「エドモン、そろそろ行こう。じゃあね、シャーロキアンのコナン君」

 

 立香がエドモンとコナンの間にはいって会話が中断され、多国籍な一行はその場から立ち去った。歩美をはじめとした子供たちがサリエリへ手を振ると、彼はジャンヌに促されながら手を振り返した。

 

「探偵エドモン・ダンテス、ねぇ……なかなかの実力じゃない。それに、イケメン!」

「もう、園子ったら。京極さんはどうしたの?」

「あれはあれ、それはそれ。近くにイケメンがいたら拝みたいじゃないの。蘭も気をつけなさいよ、小五郎おじさまの商売敵がまた増えちゃったんだから」

「……ん、どうした。新一?」

 

 蘭と園子の目を盗み、阿笠がこっそりとコナンを真名で呼びかける。何やら深く思考を巡らせているようだ。

 

「今の一行の名前がさ、気になって」

「ジャンヌはジャンヌ・ダルク。言わずと知れたオルレアンの乙女と呼ばれた聖女ね。サリエリは、モーツァルト殺害の塗れ衣を着せられた音楽家のアントニオ・サリエリかしら。さっきの人にも言われたけど、偉人の名前を付けるなんてよくあることよ。「ジャンヌ」は女の子の名前として人気だし、「サリエリ」もイタリアではそんなに珍しい姓でもないわ」

「ああ、だけど1人だけ架空の人物の名前がいた……エドモン・ダンテス。モンテ・クリスト伯、日本では『巌窟王』で知られる人物の若い頃の名前だ」

 

 塗れ衣を着せられて監獄へと放り込まれ、愛も富も名声も奪われた冤罪被害者。それと同時に、脱獄の後に犯人たちへの復讐を慣行した「復讐者」の名前だ。自身では直接手を下さず、間接的に標的を破滅させた伯爵と同じ名前を持つ探偵。

 それがどうも引っかかったのだ。

 

「ま、考えすぎならいいんだけどな」

「それを言うなら、「藤丸立香」はどうなのよ。「リツカ」なんて偉人、いたかしら。それとも、私と同じで捩っただけかしら」

「だから、その話はいいって」

 

 江戸川コナン

 姓は江戸川乱歩から。名はコナン・ドイルから。

 灰原哀

 灰は女性探偵、コーデリア・グレイから。哀は同じく女探偵、V・I・ウォーショースキーから。

 前者は実在の推理小説家、後者は架空の人物。彼らから名前を頂戴して偽名で生活している彼らにとって、彼らの名前が”本名”と分かったら……一体、どんな反応をするだろうか。

 

 

 

***

 

 

 

 探偵エドモンの活躍により、開始早々に遭遇したチュートリアル的な事件は幕を閉じた。

 ショッピングモールを出たカルデア一行がエドモンに連れられてやって来たのは、本来の目的地であり米花市の中心街である米花町。繁華街から外れた住宅地にあるマンションのワンフロアだった。

 大半は住居だが、中央部分にはオフィスとして利用される大きめの部屋がある。ここが、巌窟王エドモン・ダンテスが召喚された場所だ。

 

『つまり、ダンテスさんはカウンター召喚された野良サーヴァントだったんですね』

「ああ。しかし、召喚された瞬間から俺には何者かによって「探偵」の役に押し込められ、「探偵」を名乗り「探偵」として事件を解決しろと、この場を与えられた」

 

 立香とエドモンの間にマシュのホログラムが出現する。なお、やはりホームズと通信が取れない状況だ。しかも彼だけではなく、モリアーティも米花市から締め出されているとのこと。

 立香と言葉を交わせない現状に蹲りながら悲しみ、蹲った衝撃で腰をやった痛みにと、二重の意味で泣いていらっしゃいます。マシュがそう報告してくれた。

 

『セイレムの時と同じですね。聖杯の所有者の強制力でしょうか?』

「それでも、己の真名を忘却しなかった理由は恐らく……立香、おまえとの縁だ」

「俺?」

「そうだ。おまえらカルデアの者たちがこの特異点へやって来たことで、俺とおまえが微かに繋がったのだろう。俺は探偵の役に甘んじてはいるが、復讐者エドモン・ダンテスでもある。だが、俺以外に召喚された奴が今頃どうなっているかは分からん」

「いるの? アンタ以外の野良サーヴァントが」

『情報によりますと、そちらの特異点に現存している英霊・神霊は7柱です。カルデアからの4騎とダンテスさんで5騎』

「つまり、あと2騎が召喚されているのか」

 

 だが、彼らはエドモンのようにカルデア側への接触を図っていない。

 だとしたら、残りの2騎は真名を忘却して押し込められた「役」のままこの都市で生活しているのだろう。つまりは、今まで立香と縁を結ばなかったサーヴァントの可能性が高い。

 もし、彼らがこちらに味方してくれればありがたいが、顔も真名も分からない野良サーヴァントをこの広い米花市で探すには無理がある。戦力には見込めないと念頭に置いた方がいい。

 とりあえず、エドモンとは現地契約が確定である。

 さて、腰を落ち着ける場所を得たところで、本題に入ろう。

 カルデアの目的はこの特異点の修復だ。修復のためには、一体全体どうしたらよいのだろうか?

 そして、特異点を創り出した聖杯の持ち主は誰なのか?

 

『まず、サーヴァントの召喚に関してだが、カルデアからの援軍は期待しない方がいい。この特異点は魔術の気配が薄すぎる。あるにはあるが、存在があまりにも希薄だ』

『神秘の秘匿はできているけれど、絶対数が少ないと言えるかしら。そのマンションからは霊脈の気配がするけれど、精々カルデアからの物資を転送するぐらいね。その世界ではこの霊脈で精一杯よ。新しいサーヴァントの召喚も望めないわ』

『マシュ・キリエライト、光栄ながらミスター・ホームズの発言を代弁させていただきます。曰く、この特異点は犯罪に手を染めた者を摘発するのに特化した進化をしていると。指紋の採取やDNA鑑定などの科学捜査が発達し、神秘の殆どは科学で説明ができる“トリック”として暴かれているそうです』

『魔術師の研鑽が「科学」の一言で片付けられるのは少々業腹ね』

「この世界は探偵を求めている。「探偵」と「犯人」の対立構造がこの世界の根本にはある。「探偵」は「犯人」を暴き、「犯人」は「探偵」に暴かれるのだ」

 

 犯罪多重現象により、日々犯罪は増え続け「犯人」が量産され続けている。「犯人」を悪とするならば、対立する「善」の位置には探偵がいる。

 増え続ける「犯人」に引導を渡すため、善悪のバランスを保つために「探偵」が求められる。

 米花市……否、この特異点の日本全土においては、探偵が世界を回している。

 この場合の「探偵」は私立探偵だけではない。警察官でも一般人でも、犯罪を明かす者ならば「探偵」の概念が付属されるのだ。

 

「それなのに、何で世界一の名探偵が弾かれているんだろう」

「ホームズが相手になると、黒幕もすぐに見つけちゃうからブロックしているんじゃないの? 黒幕までたどり着かず、それでいて殺人事件も解決できる程度の探偵が欲しいのよ」

『なるほど、一理ある。と頷いておられます』

「では、その程度の探偵として俺たちも動くとしよう。このマンションも舞台装置だ。ここが、我々の拠点になる」

 

 オフィスルームに置かれたデスクの上には『米花税務署』と書かれた封筒が乗っている。中に入っていたのはこの建物で自営を許可する書類一式、職種の欄には「探偵事務所」と書かれている。

 

「探偵事務所……え、ここで開業するの!?」

『探偵事務所ですか! 謎めいた依頼人から持ち込まれた事件を追って、探偵たちが真実にたどり着く……推理小説の導入としては、非常にスタンダードです!』

「この世界では、実力のある探偵は仕事に困らん。事件があちらからやってくる。この世界の(ルール)に従ったらどうだろうか、マスター」

 

「探偵」は「犯人」を暴き、「犯人」は「探偵」に暴かれる。

 探偵として活動を続けていれば、彼らが求める黒幕(犯人)へと至る道は見えてくるだろう。そうと決まったら、開業準備だ。

 

『時間の経過を見るに、そちらの1週間がこちらの1日相当だね。物資の転送や名探偵の代弁ぐらいしかできないが、精一杯バックアップするよ! そうだ、探偵七つ道具でも作っちゃおうか!』

『マスターには必ずサーヴァントの護衛をつけろ! いくらエネミーの反応がなくとも、殺人に手を染める悪性を持った人間がうようよいる都市だからな。殺人犯に遭遇して殺されたなぞ洒落にならん! こんなところでマスターを失っては困る!』

 

 うきうきしながら七つ道具の構想を練るダ・ヴィンチちゃんだが、ゴルドルフ所長は都市の悪性に嘆き口酸っぱく立香の身の安全の確保を求めた。つまりは犯人と対峙する立香の身を心配していた。

 まだまだ謎が多い。

 黒幕は誰か。犯罪多重の目的は何か。何故そこまで「探偵」にこだわるのか。

 そして、立香にしか聞こえなかった猫の鳴き声は何なのか?

 

「そうと決まれば、この舞台(特異点)のための配役を決める。探偵は俺だ。楽長、貴殿には事務所のオーナーをやってもらおう」

「承知した」

「オレは?」

「ロボも今回は犬として活動してもらうけど、ごめんね。ヘシアンも色々試してみよう」

「……(フン)」

「ねぇ、オレは?」

「魔女、おまえは……助手だ」

「助手ね! 探偵役がアンタなのは癪に障るけど、まあどうしてもと言うなら頼れる探偵の助手になってあげようじゃないの!」

「無視するな! オレ先輩だぞ!」

「アンリマユは、そのまま俺の影で隣にいて」

「いいのか~最弱の英雄にそんな重責背負わせて。ま、しょうがねえか~」

 

 サリエリは役を従順に受け入れ、ロボは勝手にしろと言わんばかりに鼻を鳴らし、ヘシアンはサムズアップで了承を伝えた。ジャンヌとアンリマユは何故かとても乗り気だ。ノリノリだ。嬉しそうだ。

 あらかた役割が決まったが、まだ立香のポジションが宙に浮いたままになっている。ジャンヌと同じく探偵の助手か、バイトか。さすがにエドモンと一緒にダブルの相棒探偵は荷が重い。

 

「立香、おまえはこの特異点修復においてのマスターだ。つまり、この探偵事務所の責任者はおまえだ」

「え!? 俺が? 責任者は探偵かオーナーじゃあ」

『みなさんをまとめるのが、マスターである先輩の役割ですよ。そちらのメンバーだけではありません、こちらで待つ私を含めたみなさんのマスターは先輩です。探偵事務所の名前も決定しました! やりましょう、先輩!』

 

 役者は揃った、舞台の幕は上がった。

 さあ綴れ、謎めく頁を。さあ語れ、真実へ至る推理を。

 探偵たちよ、走り続けるがいい。

 

「……分かった。それじゃあ、『捜査解明機関カルデア探偵局』始動だ!」

 

 物語を描く黒のインクが切れる……その時まで。

 




『アリス探偵局』世代です。
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