犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

64 / 140
Who are you?01

 頭のどこかでは分かっていた。覚っていた。認めていた。

 けれども、恐れていた。それを口に出してしまったら、己を取り巻く世界の全てが壊れてしまうから。

 気が付いたら、「清水慶」を構成するモノが周囲を取り巻いていた。「僕」を構成する上で大切な「設定」だった。

 

 帝丹高校1年A組清水慶

 

 帝丹高校に入学し、通学のため米花市にある祖父母の家で暮らしている。旅行好きの祖父母はいつも家を空けているから、実質1人で家を預かっている。だから、家に1人だけでも何ら不思議ではない。

 そうだ、祖父母は旅行に出かけているだけだ。住人がいないだけ。あの古びた屋敷には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 否定したら僕は「清水慶」じゃなくなる。現状がおかしいと認めてしまったら、僕は「僕」ではなくなってしまう。

「僕」は「清水慶」ではないと、否定することは許されない。脇役が物語を壊すことはできない。

 

 それじゃあ、「僕」は一体誰なのだろうか?

 周囲の人たちとは違う思考を持て余した怪物なのだろうか。

 自分は他とは違うというこの意識は、ただの思い上がりなのだろうか。

 役名:清水慶を演じている中身は、一体、どうして、何で、何も思い出せないのだろうか。

 

 僕は、

 俺は、

 私は、

 一体、何者だ……?

 

 

 

***

 

 

 

「役」を宛がう特異点の強制力により、召喚されたサーヴァントは真名を忘却して与えられた「役」に徹することとなる。エドモンやプルートーが真名を忘却しなかったのは、クラススキルによる「忘却補正」のお陰だ。

 ならば、召喚されたサーヴァントが「復讐者」以外のクラスであった場合はどうなるのか?

 真名を忘却し、己が何者か分からないまま解放されることもなく「役」を演じ続ける。

 そう、彼のように……「清水慶」に配役された、彼のように。

 

「微かな引っかかりだったけど……まさか本当に、アンタがサーヴァントだったなんて」

「オルタ先輩……いいえ、ジャンヌ・ダルク・オルタさん。どうもありがとうございます。ずっと不安だったんです。僕は、周囲とはどこか()()と感じていたので。思春期故に自分を特別扱いしたい願望だと言い聞かせていましたが、違和感は募るばかりの日々でした。僕を見付けてくださって、本当にありがとうございます」

「な、何よ、畏まっちゃって! そう馬鹿丁寧に返さないでよ」

「す、すいません」

 

 元々、敏い少年だとは思っていた。だが、今の彼は外見年齢に見合わぬ思慮深さを供えているようにも見える。

「清水慶」の役を与えられていたサーヴァント。恐らく、彼がこの特異点攻略のための能力を有しているのだろう。

 ホームズとモリアーティが示した「世界を開く能力」……閉ざされた世界を開いて前に進めるための能力であるが、真名を忘却している現状において彼はサーヴァントとしての能力を行使することができなくなっている。

 

『う~ん……ステータスもしっかり隠蔽されているね。かろうじて分かるのは、彼の霊基がライダーのものということだけだ。仮称として、米花のライダーと呼ばせてもらうよ』

「はい。よろしくお願いします」

「それじゃあ、米花のライダー……いや、慶君。君が知っている米花市の現状を教えてくれないかな」

「……「僕」の意識がはっきりとしたのは、帝丹高校の入学式の最中でした。召喚されたという記憶も朧気で、気付いたら既に「清水慶」として高校に通っていました。つい4か月前の出来事……の、はずなんですが、今思えば何度も何度も、4月になれば帝丹高校に入学をしている気がします」

「アヴェンジャーの「忘却補正」がないから、積み重なる時間を異常だと思わなかったんだね」

「はい。自身がサーヴァントであると自覚してやっと、微かな違和感を抱きました」

 

 特異点の強制力に囚われ、宛がわれた役に押し込められ、真名を忘却しサーヴァントとしての能力を封じられた状態でこの世界を運営するための脇役になっていた。

 推理小説の舞台は、探偵だけでは幕を上げられない。犯人に被害者、目撃者、その他の脇役など、多くの登場人物を擁して頁は構成される。その歯車の一つとして、工藤新一(名探偵)が通う高校の生徒の1人として、特異点を回していたのだ。

 それが、マスター適性を持った立香と出会い、狂いが生じ始めた。「清水慶」の役に押し込まれたままであるが、自身が人間ではなく「サーヴァント」であるという自意識の確立は、強制力に微かなヒビを入れたようである。

 

「やっぱり、自分の真名は思い出せない?」

「はい……真名どころか、自分の過去も何もかも思い出せないのです」

「甘味が好きだと言っていたのは「役」の設定か?」

「甘い物に目がないのは本当です。自宅の棚には、羊羹や豆大福が常備されています!」

「ワッフルを食べているときも思ったけど、小豆系好きだよね!」

「はい!」

「罪の臭いがしないので、反英雄系ではないと思いますよ。猫の意見ですけど」

「混沌仲間じゃねぇのか~」

 

 甘党だけではどこの誰か分らない。

 見た目はアジア人……否、日本人だろうか?

 立香よりも幼い少年の姿をした英雄。もしくは、英雄の幼少期の姿なのか?

 そこまで日本史に詳しい訳ではないが、彼の真名に心当たりはない。忘却から脱するには、少々時間がかかりそうだ。

 

「お役に立てず、申し訳ありません」

「謙遜するな、米花のライダー。真名を忘却したサーヴァントという存在がいたことにより、一つ、証明されたことがある……黒幕は、()()()()()()犯罪多重現状を続けたいようだ」

「犯罪と犯人を積み重ね続けて、一体何が目的なんだ……?」

「そちらの探偵は、未だ口を開けずにいるのか?」

『治療経過は順調ですが、再び黒幕からの妨害がないとは言えません。ミスター・ホームズもモリアーティさんも、口を開くことができないようです』

「そもそも、あいつらの存在証明に介入できる存在って何者なの?」

「……まさか、とは思うけど、さ。ホームズもモリアーティも、物語の登場人物として世界に知れ渡っている。コナン・ドイルに創造された探偵と、その宿敵。もし、彼らを止めることができる人物がいたとしたら……」

 

 それは、彼の者にとっては神ともいえるべき存在。

 かつて修復した亜種特異点では、その能力によって黒幕を打破した存在。

 物語を創り上げ、世界最高の探偵を世に送り出した作者……シャーロック・ホームズの生みの親であり、名探偵の創造主である作家、アーサー・コナン・ドイル。

 名探偵を無効化することができるのは、作者(コナン)なのではないか?

 あくまで立香の憶測にすぎない。しかし、情報のない現状では、それしか思い付かないのだ。

 

「駄目だ、分からない!」

「落ち着け、マスター。この地に召喚されたサーヴァント全てを発見できたのは僥倖だ。魔女よ、帝丹高校は許可を取ればアルバイトは可能、だったな」

「ええ、そうよ。夏休みでも教師の承諾を得ないといけないから、少々手続きが面倒ですけど」

「ならば米花のライダー。少々面倒な手続きを踏ませることとなるが、申請を出してくるが良い。おまえは帝丹高校の生徒兼、『カルデア探偵局』のアルバイトとして身を置いてもらおう」

「っ! 良いんですか?」

「勿論だよ。真名が分からないから仮契約ということになるけど、君の能力を貸して欲しいんだ」

 

 局長がこう言っているのだから、反対する理由がない。プルートーによって「犯人」判定が「否」と出たのだから、彼は「探偵(こちら)」側だ。

 

「よろしく、米花のライダー」

「……名も分らない半端者ではありますが、マスターのために精一杯尽くします。「僕」の身は、貴方に預けます。よろしくお願いします!」

 

 ひとまずは「清水慶」のまま。米花のライダーとして立香と契約をした彼が真名を取り戻した時……きっとその時が、転換点だ。犯罪多重現状を打破し、積み重ねられた頁から脱出するための、反撃の合図だ。




【米花のライダー】
真名:■■■■
性別:男性
身長:156cm
体重:52kg
出典:???
地域:???
属性:???

 クラス「騎兵」のサーヴァント。溢れ出る品の良さが眩しい後輩系甘党男子。
 特異点と化した米花市に召喚されたが、特異点と黒幕の強制力により帝丹高校1年生の「清水慶」役に囚われて学校生活を送っていた。そのため真名を忘却しており、便宜上は「米花のライダー」と呼ばれる。
 素直で勤勉。自分のやるべきことや役割を弁えた聡明なる後輩。その聡明さは、自身の役割、自身が組み込まれているシステムを深く理解してそれに徹することに長けている。
 また、自身が悪者になっても誰かを庇う温厚さも持っている。

 真名は未だ忘却の彼方にあり、宝具も使用できなくなっている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。