『カルデア』
歴史用語としては、メソポタミア南東部に建国されたバビロン第11王朝を指す言葉である。
古代世界において、カルデアは天文学及び占星術を発達させ、先述したバビロニアの司祭階級を「カルデア人」と呼ぶようになった。
転じて、『カルデア』とは星の巡りを司る。天文学や占星術は、古来より未来を視る能力として政治の場でも重宝されていた。かの陰陽師、安倍晴明も星の巡りで吉兆を占ったという。
工藤邸の書斎にある数多の資料。世界的な知名度を誇る推理作家、工藤優作が集めた様々な資料の中から『カルデア』の言葉を探しても、このような説明しか見付からない。
星を視るということは、未来を視るということ。未来を視るということは、進むべき道の先に何が待ち受けているかを知るということ……。
進む先に壁が待ち受けているのなら、何とかしてそれを乗り越えようと知恵を出すだろう。壁如きに歩みを止められたくないのだから。
「探していたものは見付かったのか?」
「ううん。『カルデア』という組織やそれらに関係ありそうな人物の情報は、全く見付からない」
「かの工藤優作氏の集めた書物にも姿を現さない、か」
勝手知ったる他人の家。居候させてもらって何か月か、すっかり慣れた様子でコーヒーを淹れた沖矢昴――否、沖矢昴の変装を解いた赤井秀一は、コナンにコーヒーを手渡した。
エドモン・ダンテスの言っていた『捜査解明機関カルデア探偵局』が捜しているモノの正体を探るため、まずは『カルデア』の情報を得ようと、父である優作が集めた様々な事件のファイルを探っていた。が、収穫が全くない。
出て来るのは、小説のネタにと集めた歴史書の中の文言だけだ。
彼らが「探偵」として活動するのは、目的を達成するための手段でしかないと言っていた。
真実への到達を手段として辿り着く目的とは、一体なんなのだろうか?
「奴らは何を捜しているっていうんだ……それが、この街にあるというのか?」
「カルデア……天文台を意味する言葉か。天文学……まさかとは思うが」
「赤井さん、何か知っているの?」
「あくまで噂程度、
「調査機関?」
「彼らは世界各地に散り、地質学を始めとした様々な観点から地球を調査し、時には隕石の回収も行うという。まあ、キャメルが酒の席で語っていた都市伝説のような話だ。そんなものが本当に存在していたら、我々の耳に届くはずだからな」
「イギリス……立香さんは確か、イギリスの大学に通っているって。でも、そんな眉唾物の話が本当な訳がないよね」
「どうだろうか」
「え?」
「先日出会った、サリエリとかいう男……私の首の変声機に気付いていたように見えた。音楽家と言っていたが、鋭利で繊細な聴覚を持っているようだ。もし、彼らがその調査機関の人間だとしたら、世界各国からかき集められた特異な人材ということになる」
藤丸立香は高校生の頃に参加した海外ボランティアで、同じく参加していたイギリスの大学機関の関係者にスカウトを受けて現在の大学に入学していたと語っていた。
そもそも、彼が参加していた海外ボランティアとは、一体何なのだろうか?
もしかして、赤井の言うような人材を世界各国から集めるためのものなのだろうか?
まさか、まさかだが……赤井から都市伝説を聞いたコナンの中には、憶測にすぎない一つの仮説が出来上がっていた。
「まさか、とは思うけど……隕石の種類によっては、放射性物質を含んでいる物もあるよね。彼ら『カルデア』が都市伝説の正体だとしたら」
「この街に、地球外から飛来した危機が眠っているということか」
否定はできない。
かつて持ち込まれたヴェスパニア鉱石のように、小さな石ころが国家同士の争いを生む原因になることだってある。
『カルデア探偵局』が捜しているモノは、非常に危険な存在の可能性が高い。それこそ、世界を壊してしまうほどの。
コナンと赤井の間に沈黙が走る。今回ばかりは外れて欲しい推理だ。
大切な
***
乾燥した空気が喉に刺さった。
シーツが開けた箇所からひんやりとした空気が入って来て身震いする……ベッドから出たくない、だけど、出なければならない。
「マスター!」
「おはよう、ジャンヌ。今日も寒いね」
「何を言っているの!
「え? 今、冬だよ。間違いなく、
充電器に差していたスマートフォンのカレンダーを開けば、今日は1月24日と表示されている。昨日は1月23日だ、昨日まで夏だったはずはない。
外ではコートを着た人々が白い息を吐きながら行き交い、ニュースでは乾燥注意報が出され、北国では積雪被害が出ている。冬真っ盛りだ。
「時間が狂いましたね。時々あるんですよ、季節が一気に進むことが」
「季節が一気に進む、って……え、え? まさか……」
「そのまさかです。マスター、貴方は今、犯罪多重現象に巻き込まれました」
犯罪多重現象。いくつもの犯罪・事件がたった1年の間に連続して発生し、時には明らかに時代が異なる犯罪が隣り合いもする。
ポケベルが使用された事件の次の日に、クラウドファンディングの事件が起きる。
パソコン通信で電話線が塞がった次の日に、SNSを発端とした事件が起きる。
日付自体は隣り合っている。だが、年代は不明だ。米花市を中心としたこの日本では、時は進むが年は進まない。
アンテナが伸びる携帯電話が証拠品として押収された事件でも、「ああ、この間の事件ね」の一言で片付けられてしまう。
それが、今起きた。
メタ的な発言をすると、サザエさん時空に巻き込まれたのだ。前回までは夏だったのに、冬のエピソードをやるために冬になったのだ。
「ボクたちは覚えていますけど、やはりマスターもおかしいと思わないんですね。急に寒くなってボクはビックリしています。サーヴァントなので、冬毛にもなりませんし」
「私も、まだ買っていなかった帝丹高校の冬服がクローゼットにあったわ。随分と手回しが良いのね……夏休みも冬休みも終わっているじゃない! 私の夏が!!」
「待って。本当に待って……え、嘘だろ。昨日まで夏だった? そんな、そんなはずは……」
「では、マスター……私たち『捜査解明機関カルデア探偵局』は、12月にどんな事件を解決しましたか?」
「先月に解決した事件……あれ」
「思い出せないでしょう。当然よね、私たちはこの特異点でクリスマスを迎えていないもの」
寝て起きたら、夏から冬になっていた。なのに違和感がない……否、
しかし、思い出せない。夏を経て秋を通り過ぎ、冬となった『カルデア探偵局』の先月の依頼内容が全く思い出せないのだ。
当然だ。時間がスキップしたために、立香は8月の始めから1月の今までにかけての時間を米花市で過ごしていないからだ。
パジャマのまま寝室を飛び出して探偵局のオフィスに飛び込むと、テーブルの上には大量の新聞紙が積み重なり、テレビではニュースが流れっ放しになっている。この場にいるサーヴァントは皆アヴェンジャーだ。彼らも今日の異変を異変と捉えていた。
「マシュ! ダ・ヴィンチちゃん!」
『先輩! 緊急事態でしょうか?』
「昨日は、こっちの時間で昨日は何月何日だった?」
『昨日は1月23日です。天気は曇り、最高気温は5度でした』
「カルデアの観測も欺くか。正気は『
「で、でも、俺の記憶が消えた可能性も……」
「では訊こう。マスター……揚げ物に使用するバッター液のレシピは?」
「卵一個に対して、小麦粉大さじ4、水大さじ2、塩と胡椒を少々」
「ゴボウの処理の仕方は?」
「一度丸めたアルミホイルで皮を剥いて、切ったら水にさらして灰汁を抜く」
「大葉の細切りは」
「丸めて切る!」
「……」
「……分かる、分かるぞ! エミヤから教えてもらった台所の知識は、しっかり覚えている!」
どうやら記憶の問題ではない。確かに日々は積み重なっている。今まで『カルデア探偵局』が解決した事件もきちんと報道されていた。
『うっそだろ!?
「魔術……怪盗キッドの時の魔術の反応は? まさか、また妨害をしてきたとかは」
『それはないだろう。確かに、あの時は通信も妨害されて反応が強くなったが、それっきりだ。ロード・エルメロイ曰く「実力は学生に毛が生えた程度」、怪盗キッドの協力者に魔術使いがいるという結論で様子見になったんだから』
『Ⅱ世をつけろ。逆説的に言えば、ここまで影響を及ぼせる魔術の使い手が
認識阻害はされている。この世界全てにかかっている。
清水は言っていた。何度も何度も、4月になれば彼と同級生たちが帝丹高校に入学していたと……ループとは違う、積み重なり続けて先には進まない。進学しないし卒業しない、成長しない。
失われた
「……」
「先輩?」
「解決しないと、この世界の謎を。世界を開かないと……!」
世界は求める。「犯人」を、「探偵」を。
求め続けて積み重なり、先の見えない追いかけっこは、閉じられた世界で廻り続ける。
一体誰なんだ?
米花の地に潜んでいる聖杯の所有者は。
ぶっちゃけ夏イベやっている暇はない(メタ)
並行世界のカルデア、並行世界の名もなきマスター……どこかには、『カルデア』が都市伝説として噂されている並行世界があるかもしれない。
そこも一緒に蒐集しちゃったらしい。
サーヴァント真名’s ヒント!
【米花のライダー】
・和鯖
・ミステリーや推理小説には関係がない
・15歳ぐらいの少年の姿
・甘党