犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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蹄は子守唄を歌わない01

『犯罪多重現象』

 特異点と化した東京都米花市を中心に、日本全土において一定期間に犯罪と犯人が多重・多量に発生する現象をこう呼んでいる。

 何年も前に発生した事件のはずなのに、人々には「ああ、この間の事件」という、まるで1年も経っていないかのように記憶に刻まれている。年……というよりも、年度が明けることがないのだろう。

 学生が主人公の長寿アニメのように延々と物語が進むが、進学しないし卒業しない。でも、赤ちゃんは生まれたりする。成長するかは微妙。

 所謂『サザエさん時空』と解釈すれば大体合っている。だが、米花市は件の長寿アニメほど優しい世界ではない。

 犯人がいれば被害者がいる。被害者――傷付く者と死者の数は増えるばかりである。

 それもこれも、数多の並行世界から犯罪を蒐集したためだ。

 同じ日付でも起きている犯罪は違う。十個の並行世界があったなら、十個の犯罪とそれに伴う犯人がいる。当然、時代が違えばまた違う犯罪が起きている。

 それを全て一つにして一か所に集めてしまったもんだから、おかしなことになっている。

 犯罪が多重して、数多の犯人が生産される。

 蒐集された犯人の殺意に悪意に憎悪にと、その他諸々の負の感情と「犯人」という概念を黒いインクを媒体にレッツ☆混ぜ混ぜして創り出す……レシピは合っているはずだ。

 

 多分。

 

 地平線の望める荒野のど真ん中に、どす黒い液体が湧き出てくる。黒い液体――黒いインクはヒトの形を取り、切れ味の悪そうな出刃包丁を握り締めると、白い歯を剥き出しにした口元と三白眼が黒の中に開いた。

 カルデア内のシミュレータールームに、(仮称)全身黒タイツが爆誕した……というより、再現された。

 全身黒タイツは、器に込められた「犯人」が起こした犯罪を再現するため、殺意の対象を刺殺せんと鈍い動きで出刃包丁を構えた。が、出刃包丁では勝てなかった。逆に投擲された朱槍によって胸を穿たれ、現状に困惑する暇もなく二撃目の槍で首を刈り取られた。

 あっという間に粘度のある液体に戻ってしまった。出刃包丁も消えるのは正直、謎である。

 

『……と、こちらが回収した黒インクを素材に(仮称)全身黒タイツを再現してみたシミュレーション動画です。劣化版としか言えない仕上がりになりましたね』

「動きも鈍いし、肉体のインクが波打っているし、出刃包丁が刃毀れしている」

『創り方は合っていると思いますが……何と言いますか。一味足りないと言うか、凝固剤を入れ忘れたかのような』

『宝具でもない一突きで消滅。あまりにも手応えがねぇ。込められた殺意に器が振り回されているように見えたな』

『ルーンの一つでも与えてやればそれなりにはなるだろう。だが、マスターが回収した器の残骸にはルーンの気配どころか魔術の残滓も感じられん。このような人型が殺人を犯せるとは思えぬ』

 

 シオンに米花市に出現するエネミーこと(仮称)全身黒タイツの再現VTRを見せてもらったが、どうにも再現度が低い。立香たちが実際に敵対した全身黒タイツの耐久度は低かったが、再現版はそれよりも劣っている。クオリティが低い。

 実際に戦闘をしてみたケルト師弟こと、ランサーの方のクー・フーリンとスカサハからの感想を聞いても、何かしっくりと来なかった。全身黒タイツから何かヒントが得られるかと思ったが、こちらも前途多難である。

『犯罪多重現象』に巻き込まれ、季節が夏から冬になってしまった。なのに、アヴェンジャー以外にはその実感がない。

 立香もそうだが、急ぎ連絡を取った清水も同じだった。つい先日、『カルデア探偵局』のバイト君になったはずなのに、記憶の中では夏からずっとバイトをしていることになっていた。

 勿論、米花市の住民も同じだ。ジャンヌが蘭や園子に対して何気なく探りを入れてみたら、彼女たちも全く違和感を抱いていなかったのだ。

 

カルデア(こちら)でも、日付の齟齬を起こしている者はいたけれど、「忘却補正」を持つ彼らほどはっきり現状を理解してはいなかった。勿論、ホームズもだ。名探偵を出し抜くとは、侮れないよ』

「現状を打破するためには、世界を開く能力が必要……だけど、慶君の真名はまだ取り戻せていない」

「申し訳ありません。お役に立てなくて」

 

 役名:清水慶こと、米花のライダー。

 彼の正体を知る者がいないかと、カルデアに召喚されているサーヴァントたちに聞き込みをしてみたが芳しい結果は出なかった。どうやら彼の正体の隠匿にも認識阻害が及んでいるため、万が一生前に縁がある者がいても分からないようだ。

 

「そもそも、世界を開くって、具体的にどんな能力なの? 探偵みたいに、密室の謎を解くということかしら」

『密室は密室でも、崩落したトンネルからの救助に近いかもしれません。犯罪多重現象を起こしている特異点、『犯罪多重奇頁 米花』がトンネルで、米花市を中心とした日本中の人たちが崩落に巻き込まれて閉じ込められた被害者たちとしましょう』

 

 現状はダ・ヴィンチちゃんとシオン、ホームズによる考察でしかないが、恐らく『犯罪多重奇頁 米花』はこうして発生した。

 まず、とある並行世界に存在する米花市が基盤となる。そこを起点にして、様々な平行世界から「犯罪」と「犯人」を蒐集する。蒐集されたそれらは、テクスチャを貼るように基盤の米花市へと積み重ねられる。

 一定の時間軸に数多のテクスチャを積み重ねて基盤の米花市を塗り潰し、それが溢れて立香の世界へと侵食してきた。本来は存在しない土地と異常なる犯罪発生数、犯人と被害者の数、サザエさん時空如き時間の流れが積み重なり、特異点と化した。

 これが現状。では、解決策は?

 

『宝具をぶっ放したり、力任せに無理矢理現状をどうにかしようとすれば、積み重なったテクスチャそのものに疵が付き、その疵が蒐集元に伝わる可能性が高いです。そうなれば、数多の並行世界に被害が出ます。崩落して密室状態になったトンネルを無理に開いて、更なる崩壊が進み被害が拡大するようなもの……最悪、閉じ込められた被害者たちも世界の崩壊に巻き込まれてしまいます』

『黒幕の手腕なのか、聖杯のリソースのお陰なのか。現状は、絶妙な均衡で世界が成り立っている状況だね』

「崩落したトンネルを崩さないように、穴を開けて中の人たちを救出する……特異点の現状を維持したまま、世界を開かなければならない」

 

 そういうことになる。繊細かつ慎重な匠の技の如きその能力を得た英霊が清水なのだが、現状は高校生のバイト君だ。立香の結論を聞いて少々委縮してしまった……自覚がない現状では、あまりにも大役すぎる役割なのだ。

 

『先んじて編成をアヴェンジャークラスに限定したのが幸いでしたね。「忘却補正」がなければ、このままループに呑まれていた可能性が高いです』

「ループでも何でも、忘れることだけはねーからな、オレたち……いて」

 

 アンリマユが頭からロボに噛み付かれた。本気ではない、甘噛みだ。でも痛い。

 どうやら、茶化すような物言いが癇に障ったらしい。そもそも、彼らは忘れないのではなく、()()()()()()と言った方が正しいのかもしれない。

 忘れたくても忘れられない。呪いのように蝕み続ける……だが、今回はそれのお陰で立香は特異点に呑まれなかった。マシュの言う通り、彼らに指摘されなければ異常性に気付かずにただ延々と探偵家業をやっていた可能性が高い。

 取りあえず、ヘシアンと一緒にアンリマユに噛み付いたロボを取り外した。

 

『おや、サリエリがいないね。今日は演奏会かな』

「サリエリ先生は、毛利探偵に誘われて競馬に行っているよ」

『競馬……ですか? 競馬とは、あの競馬ですよね? 赤い色鉛筆を持った人々が競馬新聞を片手に叫び、祈り、ハズレ馬券を吹雪かせる』

「そう、その競馬。随分偏った印象だね、マシュ」

「ポアロ……毛利探偵事務所の下にあるカフェで鉢合わせて、どうしてか誘われたと言っていたわ」

「向こうから接触を図って来たのなら、利用でもしようか。楽長に調査を依頼した。「毛利小五郎は名探偵と成り得る器かどうか」を」

 

 名探偵、毛利小五郎。別名:眠りの小五郎

 その正体は、コナンによって名探偵に仕立て上げられた傀儡に過ぎないのだが、眠っていない彼も「探偵」としてそれなりの実績がある。矢面に立たされる傀儡ではなく、ただの木偶の坊でもない。

 現状においての名探偵(明智小五郎)である毛利小五郎は、本当に名探偵か否か……サリエリはそれを探るために誘いに乗ったのだ。

 

「工藤新一の後釜に収まるかのように現れた名探偵、眠りの小五郎。でも、その正体はコナン君、か……」

「……あの、さっきから違和感が」

「誰か足りない。1騎、欠けている」

 

 そういえば、姿を見ていない。いつもなら、テーブルの下かロボの背後からひょこっと姿を現すはずなのだが。

 

「……あれ、プルートーは?」




サーヴァント真名’s ヒント!
【米花のライダー】
・和鯖
・ミステリーや推理小説には関係がない
・15歳ぐらいの少年の姿
・甘党
・役名:清水慶 NEW!
・初登場回 NEW!
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