犯罪多重奇頁 米花   作:ゴマ助@中村 繚

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今更ですが「はんざいたじゅうきよう べいか」と読みます。


死者の食卓01

『捜査解明機関カルデア探偵局』開設から早くも1か月が経った。

 米花町に探偵局を構え、本腰を入れて特異点を調べたがやはりここは時間の流れがおかしい。

 一例をご覧いただこう。

 今年、『探偵左文字シリーズ』の生みの親である推理小説家の新名任太朗が亡くなった。未完の新作を残して。

 この新作『1/2の頂点』を完成させたのが、作者の娘である新名香保里女史である。

 彼女は父の『探偵左文字』を受け継いで作家デビューを果たし、父を凌ぐ文才と魅力的な登場人物の掛け合いを武器に新作を発表し続けて……現在、親子合作前後編を除けば、二作前後編ずつで四冊の単行本が刊行されている。

 いや待ておかしい。

 新名任太朗は今年亡くなった。今年はまだ半分しか経っていない。なのに、何でそんなハイペースに新作が刊行され続けているのだ。

 新名香保里女史がどれだけ速筆で才能に溢れた人物だとしても、半年の間に何冊も発表してベストセラーになって映画・ドラマ化するには物理的に不可能だ。

 カルデアへの報告を聞いた作家サーヴァントたちが「ふざけるなぁ!!」とキレ散らかしていた。

『大怪獣ゴメラシリーズ』が終わる終わる詐欺をして劇場版を連発し、アイドル沖野ヨーコは今年の新作だけでアルバムを発表し、怪盗キッドなる泥棒は月一で予告状を出している。

 ほら、おかしい。しかし、それを“おかしい”と感じる者は部外者(カルデア)を除きこの世界には皆無なのだ。

 おかしな時間軸で積み重ねられる犯罪たち。空前絶後の犯罪発生数と摘発数。大の殺人事件なり小のひったくりなり、様々な犯罪の坩堝と化している米花市の朝……局長(マスター)である立香も、新しい朝を迎えた。

 

「……」

『……今だ、マスター!』

 

 通信機から聞こえたエミヤ(バトラー)の声で立香は素早くコンロからフライパンを下ろし、敷いた濡れ布巾の上に乗せた。ジュウと音と共に熱を逃がし、フライパンの中でとろとろの半熟になった卵をゴムベラで半月型に形成する。

 時間との勝負だ。もたもたしていると焦げてしまい、折角の半熟も綺麗な三日月色も台無しになってしまう。

 フライパンの柄をトントンと叩きながら形を整え終わると、真っ白な皿へと投下……ぽふんと効果音が出そうなほど柔らかい三日月が、食欲をそそる蠱惑的なバターの香りを醸し出している。

 焦げ目もなく中は絶妙な半熟が保たれたプレーンオムレツが完成した。

 

「おお~!」

『よし、今日は良い出来栄えだな』

『上手にできたね~』

 

 米花町の朝、立香はキッチンに立ってオムレツを作っていた。講師は、エミヤとブーディカを始めとしたキッチン組の方々である。

 霊脈の関係でカルデアに在住している他のサーヴァントは呼べないため、料理を始めとした身の回りの家事は自分でやるしかない。一応交代制で回してはいるが、食事が不要なサーヴァントたちとは違い、食べねば餓えてしまう自分が積極的に立つようにしている。

 これでも毎日のレッスンのお陰で着実に腕前を上げているのだ。

 ピカピカのオムレツにトマトサラダ、トースト、カリカリベーコン。スープはインスタントで勘弁。立香の分と、希望した者の分の朝食を大きなトレイに乗せて探偵局のオフィスルームへと運んだ。

 

「おはようロボ、ヘシアン。ベーコン食べる?」

 

 オフィスのキッチンにある隣の部屋はロボの縄張りだ。厚めに切ったカリカリベーコンを皿に乗せて差し出すと、ロボは一口で平らげて「まあまあ」と言いたげに鼻を鳴らす。

 今の彼は、カルデアで事前にいじった霊基の影響で小さくなり大型犬サイズになっている。それでも十分に大きい、体重も優に70kgはあるだろう。

 犬の真似事をしているが、狼王の彼は変わらず人間に心を開かない。立香に少しの信頼を見せてくれるだけだ。

 一方、ヘシアンはロボから下りた(当たり前だ)。

 頭をどうしようかという話になった時、ジャンヌがフルフェイスの黒いヘルメットを乗せたら気に入ったらしく、常にそれを乗せてライダースーツに着替えていた。初見は怪しいが、このスタイルでひったくりを起こす犯人より無害なので堂々としている。堂々としていれば怪しまれない。

 犬に擬態する狼と顔を見せない傭兵を加えた『カルデア探偵局』。開局してから1か月の間にちらほら依頼が舞い込んでは来たが……どう捉えても、聖杯の所有者にたどり着けるような事件ではなかった。

 

「朝ごはんできたよー」

「アンタ、初日に言ったわよね。この世界では探偵は仕事に困らないって」

「え、揉めてる?」

「ああ、事実だ」

「そうですか……では、この1か月間の仕事内容を確認してみましょう。ペットの猫探し。ペットのインコ探し。ペットのミドリガメ探し。ペットのアルマジロ探し。ペットの(以下略)……何でペット探ししかしていないのよ! もっと、こう! そうよ、犯人の手がかりを得るために潜入捜査をしたり、依頼人を守って銃撃戦をしたり、夫の死の真相を暴いてくださいって言う、そんな探偵らしい仕事が全然来ないじゃない!」

「楽長が他の仕事を持って来ただろう」

「浮気調査と素行調査でしょ!」

 

 立香と朝食のトレイを持ってくれたヘシアンがオフィスへ入ると、エドモンとジャンヌが朝っぱらから揉めていた。

 一方、サリエリはスマートフォン片手にイヤホンをして現代の音楽を聴き、アンリマユは反対側のソファーに寝転がって週刊少年サンデーを読んでいる。後者の光景が非常にシュールである。

 そう、我らが『カルデア探偵局』に来た依頼の殆どがペット探しだった。

 しかも探偵業とは別に、どこから噂が流れたのか音楽家としてのサリエリに演奏の依頼が来ることもあった。その依頼先でオーナーは夫の浮気調査や息子の彼女の素行調査などの仕事を取って来てくれたこともあったので、調査物も何件かは解決している。

 ジャンヌが言うような……彼女が期待していたであろう、映画やドラマで活躍する「探偵」のような仕事は皆無だった。

 

「この世界は、()()のある探偵は仕事に困らん。俺たちの世間からの評価はまだこの程度ということだ」

 

 エドモンは煙草を咥えながらコーヒーを淹れていた。眠気を吹き飛ばす芳香がオフィスルームに広がる。

 実力のない探偵には謎は舞い込まない。『カルデア探偵局』はまだ「探偵」としてのスタートラインにも立っていない。

 地道に信頼を勝ち取らなければならないのはウルクの特異点の時と同じだ。猫を探してアルマジロを探して、女性の尾行をして着々と探偵としてのレベルを上げて行かなければならない。

 

「だが、この探偵局は転換点までやって来た。ペット探しと浮気調査以外の依頼が来たぞ」

「本当!?」

「ネットからだ。親族の死の真相を明らかにしてもらいたいと」

 

 エドモンは紫煙を弄んでいた煙草を灰皿に押し付けて、デスクの上の丸眼鏡をかける。どうやらあの丸眼鏡が探偵スイッチのようだ。

 約束の時間は本日の午前11時。依頼人は的場(まとば)淑子(としこ)(59)。ほっそりとしたどこにでもいそうな普通の女性だった。

 

「お待ちしておりました的場様! 安心安全迅速丁寧! みなさんの100年先までの未来を保障するためにスリッとまるっと謎を解決!『捜査解明機関カルデア探偵局』へようこそ!」

「は、はあ」

 

 立香がマシュと一緒に夜寝ないで昼寝して考えた探偵局のフレーズを聞くと、みなさん大体こんな反応をする。回れ右して帰られたこともあった。

 負けない。局長としてこの出迎えはやり遂げる。

 

「本日伺いましたのは、私の弟の死の真相を解明していただきたいのです。弟は、先月の始めに群馬県の自宅で亡くなっているのを発見されました」

 

 エドモンが依頼人にコーヒーを振舞ってから本題に入った。

 淑子が差し出した写真に写っているのは、先月亡くなった彼女の弟である那須野(なすの)尊史(たかふみ)(57)だ。著名な彫刻家で、彼が手掛けた作品は国内外で高く評価され高額で取引されている。

 その訃報は新聞でも報道されていたが、同じ頃に発生した東京サミット会場の爆発や無人探査機の話題で押し潰されてしまい、薄い記事しか載っていない。でも確か、事故と報道されていた。

 

「弟は頭を強く打って亡くなっていました。転倒してテーブルの角にぶつけたことによる事故と、打ちどころが悪かったと警察は判断したのですが……おかしいんですよ、現場が。これを見てください! 弟が亡くなった当初の現場の写真です」

 

 そう言って、淑子は封筒から何枚もの写真を取り出してテーブルいっぱいに広げた。

 写っていたのは那須野が亡くなった現場であるダイニング。大きな一枚板のテーブルは自然の木目模様が温かい風情を醸し出す逸品であるが、写真では木目がよく見えない。

 1人では持て余す大きさのテーブルの上には端から端まで大量の皿が並べられ、その皿の上には豪華な料理が並べられていたのである。

 多数の来客をもてなすことのできるほどの料理であるが、現場にいたのはただ1人の死者だ……奇妙な食卓を前にして、彼は亡くなっていたのだ。

 




色々なトリックやエピソードをパク……蒐集して書いています。
元ネタが分った場合はお口ミッフィーでお願いします。(・×・)
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